
はじめに
親がどこの銀行を使っているか、知っていますか?
生命保険に入っているのか。実家の名義は誰なのか。大切な書類はどこにしまってあるのか。
そう聞かれると、「そういえば、よく知らない」と思う人も多いのではないでしょうか。
私もそうでした。
親が元気に暮らしている間は、知らなくても困りません。わざわざ財産のことを聞くのも気が引けます。
「お金のことを聞いたら、財産を気にしていると思われないだろうか」
そんな思いもあって、つい後回しにしてしまいます。
けれど、親の終活について考えるようになり、遠方にある実家のことと向き合う中で、私はあることに気づきました。
親の財産を知りたいのではなく、何も知らないまま「そのとき」を迎えるのが不安なのだと。
終活における財産整理は、親の預貯金がいくらあるのかを調べることだけではありません。
預貯金や保険、不動産、ローン、そしてスマートフォンの中にあるデジタル資産まで、「何がどこにあるのか」を少しずつ整理しておくこと。そして何より、親がこれからどう暮らしたいのかを家族で話すきっかけでもあります。
とはいえ、いきなり親に「財産はいくらあるの?」とは聞きにくいものです。
では、何から始めればよいのでしょうか。
この記事では、終活の財産整理で確認しておきたいもの、具体的な進め方、親への話の切り出し方を、50代の子世代の視点からわかりやすく紹介します。
すべてを一度に整理する必要はありません。
まずは、親に「最近どう?」と聞くところからでもいい。
この記事が、親の財産を調べるためではなく、これからのことを親子で話してみるきっかけになればうれしいです。
終活で財産整理が大切な理由

「財産整理」と聞くと、「相続税がかかる人の話」「お金持ちだけが考えること」と思う人もいるかもしれません。
しかし実際は、財産の多い少ないに関係なく、誰にとっても「財産整理」は大切な終活のひとつです。親が元気なうちに少しずつ整理を始めておくことで、いざというときに家族が困る場面を減らせます。
私自身も、親の終活を考え始めたとき、「実家には何があって、何がないのか」をほとんど知らないことに気づきました。通帳や保険、不動産だけでなく、ネット銀行やスマートフォンの契約など、把握していないものが意外と多いものです。
財産整理は、お金の話をすることではありません。家族が安心して暮らし続けるための準備です。
ここでは、財産整理がなぜ必要なのか、そして「生前整理」とは何が違うのかをわかりやすく解説します。
財産整理は相続のためだけではない
財産整理は、相続のためだけに行うものではありません。親が元気なうちに家族で情報を共有し、将来の困りごとを減らすための準備です。
「財産整理」と聞くと、相続税や遺産分割を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、財産整理をすることで相続が始まる前から役立つことがあります。
例えば、親が入院したとき、どこの銀行を利用しているのかわからず、必要な手続きが進められないことがあります。また、保険証券や年金関係の書類、不動産の権利証の保管場所がわからず、家族が慌てて探すケースも少なくありません。
さらに近年は、ネット銀行や証券口座、キャッシュレス決済、サブスクリプションサービスなど、「目に見えない財産」が増えています。本人しか把握していないままでは、家族が存在に気づけないこともあります。
法務省では遺言制度を案内し、国税庁では相続税に関する情報を公開していますが、こうした制度が必要になる前段階として、「家族が財産を把握しておくこと」も大切な備えといえるでしょう。
私も終活について調べ始めた頃「実家にはそれほど財産はないから大丈夫」と思っていました。ところが考えてみると、親が使う銀行はなんとなく知っていても「他にいくつ銀行口座があるのか」「何の保険に加入しているのか」といった細かいことは知りませんでした。自分自身を振り返ってみても、家族と共有していない銀行口座がある事を考えると、自分に何かあっても自分以外の人は何もできないことを実感します。
そのとき気づいたのは、問題なのは財産の額ではなく、家族が何も知らない状態であることでした。
だからこそ「財産はいくらあるの?」と聞くのではなく、「もしものときに困らないよう、一緒に整理しておこうか」という伝え方のほうが、親も受け入れやすいと感じています。
財産整理は、家族の信頼関係を築きながら進める終活の一歩です。相続対策だけでなく、親も子も安心して暮らすための準備として考えてみてはいかがでしょうか。
関連記事:終活は何から始めるべきか迷ったら、まずは全体像を知ることから始めましょう。詳しくは「終活は何から始める?」の記事で紹介しています。
生前整理との違いを知っておこう
財産整理と生前整理は似ているようで、目的が異なります。生前整理は「暮らし全体を整えること」、財産整理は「お金や権利などの資産を整理すること」が中心です。
どちらも終活の一部ですが、それぞれ役割を理解しておくと、何から取り組めばよいかが見えやすくなります。
生前整理では、衣類や家具、思い出の品など身の回りの物を見直し、暮らしやすい環境を整えていきます。一方で財産整理では、預貯金や保険、不動産、有価証券、借入金などの資産・負債を把握し、家族と共有しやすい状態にしていきます。
最近では、ネット銀行やネット証券、スマートフォンの決済アプリ、ポイント、デジタルサービスの契約なども財産整理の対象です。形のない資産ほど、家族には見つけにくいものだからです。
私は以前、「生前整理の記事」を書くために調べていたとき、「片付けができれば終活も進む」と考えていました。しかし調べるほどに、物が片付いていても、お金や契約関係が整理されていなければ、残された家族は困ってしまうことに気づきました。
反対に、財産だけ整理できていても、家の中に大量の物が残っていれば、その片付けに大きな負担がかかります。
つまり、生前整理と財産整理はどちらか一方ではなく、車の両輪のように進めていくことが理想です。
この記事では、このあと財産整理の進め方を中心に紹介していきます。身の回りの物の整理について詳しく知りたい方は、「終活の生前整理」の記事もあわせてご覧ください。両方を知ることで、親の終活をより安心してサポートできるようになるはずです。
まず整理したい財産一覧

終活で財産整理を始めるとき、まず必要なのは「何を持っているか」を把握することです。
財産というと、預貯金や不動産を思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、保険や証券、ローン、さらにはネット銀行やサブスクなど、家族からは見えにくいものもあります。
国税庁の相続税申告書でも、土地・家屋、有価証券、現金・預貯金などは分けて記載する様式(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/r08.htm?utm_source=chatgpt.com 第11表の付表1~4参照)になっています。
しかしだからといって、最初から金額を正確に調べる必要はありません。
まずは「何があるのか」を知ること。それが終活における財産整理の第一歩です。
預貯金・証券・保険
預貯金・証券・保険は、財産整理で最初に確認しておきたいものです。大切なのは残高を細かく調べることより、どの金融機関や保険会社と取引があるのかをわかるようにしておくことです。
たとえば、銀行口座が複数あっても、家族が知っているのは生活費に使っている一つだけ、ということもあります。昔の勤務先の給与振込口座や、長く使っていない証券口座が残っているかもしれません。
まず確認したいのは、次のようなものです。
- 銀行・信用金庫などの預貯金口座
- 株式・投資信託などの証券口座
- 生命保険・医療保険などの契約
- 貸金庫の利用
- ネット銀行・ネット証券の口座
国税庁でも、相続財産を確認する際には、現金・預貯金、有価証券、土地・家屋などをそれぞれ確認する仕組みになっています。また、一定の死亡保険金なども相続税の対象になる場合があります。
ただし、子どもが親の財産を勝手に調べたり、通帳や暗証番号を管理したりすることとは別の話です。まずは親自身が「どこに何があるか」を整理し、必要なときに家族が存在を確認できる状態を目指すのがよいでしょう。
私自身、親の終活を考えるようになって「実家に財産があるかどうか」以前に、どこの銀行を利用しているのかさえ詳しく知らないことに気づきました。
親が元気でいると、知らなくても困りません。けれど、「今は困っていない」と「これからも困らない」は同じではないのだと思います。
いきなり残高まで聞く必要はありません。
「使っている銀行や保険会社だけでも、どこかに書いておくと安心だね」
そんな会話から始めることが、財産整理の一歩になります。
不動産
土地や家などの不動産は、終活の財産整理で早めに全体像を確認しておきたい財産です。預貯金のように簡単に分けられないからこそ「どんな不動産があるのか」「将来どうしたいのか」を親が元気なうちに話しておくことが大切になります。
実家の土地と建物だけなら把握しやすいでしょう。しかし、親から「山を持っている」「昔、祖父から畑を相続した」と聞いたことはないでしょうか。
本人にとっては当たり前でも、子どもは詳しい場所や名義を知らないことがあります。
確認しておきたいのは、たとえば次のような不動産です。
- 現在住んでいる土地・建物
- 空き家や別荘
- 駐車場や賃貸物件
- 田畑や山林
- 共有名義になっている不動産
私自身、遠方にある実家のことを考えるようになってから「家は建物だけの問題ではない」と感じるようになりました。
親が暮らしている間は「実家」ですが、その先には、誰が管理するのか、残すのか、手放すのかという問題もあります。遠くに住んでいる子どもにとっては、維持や管理も現実的な課題です。
だからこそ、財産整理では不動産の価値を調べるだけでなく、親がその家をどうしたいと思っているのかを聞いておくことも大切だと私は考えています。
すぐに結論を出す必要はありません。「この家、将来どうしたいと思っている?」と話せるうちに聞いておく。それも立派な終活です。
実家を将来どうするかという問題については、今後「実家じまい」で詳しく紹介する予定です。
年金・負債・ローン
財産整理では、プラスの財産だけでなく、借入金やローンなども確認しておく必要があります。また、年金については「財産」とひとまとめにするより、受給状況や必要な手続きに関わる情報として整理しておくと安心です。
相続では、預貯金や不動産などの権利だけでなく、原則として借金などの義務も引き継ぐことがあります。そのため、「財産がどれだけあるか」だけを見ていては、全体像をつかめません。
確認しておきたいのは、次のような項目です。
- 住宅ローン
- カードローンなどの借入金
- クレジットカードの利用
- 個人間の貸し借り
- 年金の受給状況や年金関係書類
日本年金機構によると、年金を受給している人が亡くなった場合、亡くなった月分までの未払いの年金を、一定の要件を満たす遺族が「未支給年金」として受け取れる場合があります。
「借金なんてないだろう」「年金のことは本人がわかっているだろう」と思っていても、いざというときに家族が何も知らなければ、確認するところから始めなければなりません。
とはいえ、親にいきなり「借金はない?」と聞くのは難しいものです。
「住宅ローンはもう終わった?」「年金の書類ってどこに置いている?」など、暮らしの話の延長で聞けることから始めるのがよいでしょう。
財産整理とは、親の懐事情を探ることではありません。家族が知らないままになっているものを、少しずつ見えるようにしていく作業なのではないでしょうか。
デジタル資産・サブスク・ポイント
今の終活では、スマートフォンやインターネットの中にある「見えない財産」も整理しておく必要があります。ネット銀行やネット証券、コード決済、サブスクなどは、家族が存在そのものに気づけない可能性があるからです。
これは、従来の財産整理では見落とされやすい部分です。
国民生活センターも「デジタル終活」の必要性を呼びかけています。実際に、故人のスマートフォンを開けずネット銀行の契約先がわからない、コード決済の相続手続きに時間がかかる、サブスクを解約したくてもIDやパスワードがわからない、といった相談が寄せられています。
たとえば、次のようなものがないか確認してみましょう。
- ネット銀行・ネット証券
- スマートフォンのコード決済
- 電子マネー
- 各種ポイント
- 暗号資産
- 動画や音楽などのサブスク
- オンラインストレージ
- 有料アプリやネットサービス
ここで注意したいのは、パスワードを一覧にして誰でも見られる場所に置けばよいわけではないことです。まずは、どんなサービスを利用しているのか、必要な情報をどのような方法で家族に伝えるのかを考えることが大切です。
私たち子世代も、スマートフォンの中にどれだけの契約や資産があるか、すべて説明できるでしょうか。
そう考えると、デジタル終活は親だけの問題ではありません。
親に「スマホの中も整理しておいて」と言う前に、まず自分のスマートフォンを見直してみる。使っていないサブスクを解約したり、利用しているサービスを整理したりするところから始めると、親にも話を切り出しやすくなるかもしれません。
財産整理は、通帳や権利証を並べるだけの作業ではなくなっています。目に見える財産と、スマートフォンの中にある見えない財産。その両方を把握して初めて、今の時代の財産整理になるのです。
デジタル資産やスマートフォン内の情報をどう整理するかについては、生前整理について書いた関連記事内の「デジタル遺品とは」で詳しく紹介していますので、そちらも読んでみてください。
子どもから親へ財産整理を切り出すコツ

親の財産整理が必要だとわかっていても「お金のことを聞くなんて、財産を狙っていると思われないだろうか」と、ためらう人は多いのではないでしょうか。
私も、親の終活を考えるようになってから、話しておいたほうがよいことがあるとわかっていても、何をどう聞けばよいのか迷います。
親子だから何でも話せるとは限りません。むしろ親子だからこそ、聞きにくいこともありますよね。
大切なのは、最初からすべてを聞き出そうとしないことです。財産整理の話は、「いくら持っているの?」ではなく、「これからも安心して暮らすために、今のうちにできることを一緒に考えよう」というところから始められます。
お金ではなく安心の話をする
親に財産整理を切り出すときは、財産の金額ではなく「もしものときに家族が困らないため」という安心の話から始めるのがおすすめです。いきなり預金額や相続の話をすると、親が警戒したり、「まだそんな話は早い」と感じたりすることがあるからです。
たとえば、
「通帳はいくらあるの?」
ではなく、
「もし急に入院したら、必要なものがどこにあるかわかるようにしておくと安心だね」
と話してみる。
あるいは、
「保険はいくら入っているの?」
ではなく、
「何かあったとき、連絡する保険会社だけでもわかると助かるな」
と伝える。
同じ財産整理の話でも、受け取る印象はずいぶん違います。
私自身も実家について考えるようになり「何かあったとき、私は実家のことをどこまでわかっているのだろう」と不安を感じました。
親が元気な今は、知らなくても生活できます。けれど、いざというときに「何も知らない」という事実に初めて気づくのでは遅いこともあります。
親の財産を知りたいというよりも、知らないままそのときを迎えるのが怖いと私は思いました。皆さんはいかがでしょうか。
財産整理は「親のお金を聞き出すこと」ではありません。親が困ったときに動けるように、必要な情報を少しずつ共有しておくことです。
最初から預金額まで聞く必要はありません。
「大事な書類はどこにある?」
「困ったときは誰に連絡すればいい?」
そんな小さな質問からでも、親子の終活は始められます。
話しやすいタイミング
財産整理の話は「終活の話をしよう」と改まって切り出すより、日常の出来事をきっかけにするほうが自然です。親が元気で、気持ちに余裕があるときに少しずつ話すことが、長く続けるコツといえるのではないでしょうか。
たとえば、こんな場面がきっかけになります。
- テレビで相続や終活の話題を見たとき
- 知人や親戚の入院・相続の話が出たとき
- 保険や銀行から書類が届いたとき
- 実家の片付けをしているとき
- 自分自身の終活について話すとき
特に大事なことは、親だけの問題にしないことだと私は思います。
「お母さんも整理して」ではなく、「私も自分のことを整理しておかないとね」と話す。子どもから一方的に終活を勧めるのではなく、自分も同じように考えていると伝えると、会話の雰囲気も変わります。
終活という言葉には、どうしても「死ぬ準備」というイメージがあります。元気な親から「縁起でもない」と言われることもあるでしょう。
そんなときは、無理に話を進めなくてもよいと思います。
ただ、一度の会話ですべてを決めるのではなく、今日は保険の話、別の日には実家の話、と何度も話すうちに、親の考えが少しずつ見えてくるでしょう。
終活は、一度の「家族会議」で完成させるものではありません。普段の会話の中に少しずつ混ぜていく。そのくらいの距離感のほうが、親子にとって続けやすいのかもしれません。それは遠方に住んでいても、電話やテレビ電話などで少しずつ進めることができます。直接会って会話することにはかなわないかもしれませんが、全くしないよりはよいでしょう。
何から話せばよいのか迷う場合は、エンディングノートを会話のきっかけにする方法もあります。親に書いてもらうためだけではなく、親子で「こんなことも考えておくんだね」と話すきっかけになるからです。
エンディングノートに関する記事も参考にしてみてください。
兄弟姉妹との役割分担
親の財産整理は、一人の子どもだけで抱え込まず、兄弟姉妹がいればみんなで「誰が何を知っているか」を共有することが大切です。ただし、すべてを平等に分担することにこだわる必要はありません。
親の近くに住んでいる人と、遠方に住んでいる人では、できることが違います。
たとえば、近くに住むきょうだいは親と一緒に書類を確認し、遠方に住むきょうだいは情報を一覧にまとめる。得意な人がデジタル関係を担当し、別の人が不動産について調べるという分け方もあります。
大切なのは、負担をまったく同じにすることではなく、一人だけがすべての情報と責任を抱えない状態をつくることです。
私自身、遠方の実家について考える中で「同じ環境で育ったから、自分と同じように考えているはず」とは限らないと感じています。
実家を残したい人もいれば、管理の負担を心配する人もいる。親の気持ちを優先したい人もいれば、将来の現実的な問題を先に考える人もいるでしょう。
誰かが間違っているわけではなく、見えている景色が違うのだと思います。
だからこそ、財産整理を始める段階で「誰が何をするか」だけでなく、「親はどうしたいと思っているのか」「自分たちは何を心配しているのか」を共有しておくことが大切です。
その際、親の財産をきょうだいの誰か一人だけが管理していると、後になって「聞いていない」「知らなかった」という不信感につながることもあります。
必要な情報は、親の意向やプライバシーにも配慮しながら、共有できる範囲を話し合っておくと安心です。
兄弟姉妹との話し合いも、最初から結論を出す必要はありません。
まずは、
「親のことで、今後気になっていることはある?」
と聞いてみる。
それだけでも、家族が同じテーブルにつくきっかけになります。
財産整理は、お金を分けるための準備だけではありません。親がこれからどう暮らしたいのかを知り、その思いを家族でどう支えていくかを考える時間でもあります。
話しにくいからこそ、一度に答えを出そうとしないこと。
小さな会話を重ねることが、親の終活に向き合う最初の一歩になるのではないでしょうか。
財産整理をスムーズに進める5つのステップ

終活の財産整理は、最初からすべてを完璧に整理しようとすると、親にとっても子どもにとっても大きな負担になります。
まずは「何があるのか」を把握し、必要な情報を少しずつまとめていく。それだけでも、立派な一歩です。
ここでは、親子で財産整理を進めるときの流れを5つのステップで紹介します。
STEP1 財産を書き出す
財産整理の最初のステップは、親がどのような財産や負債を持っているのか、大まかに書き出すことです。最初から正確な金額まで調べる必要はありません。
「どこの銀行を使っているか」「不動産は何があるか」「加入している保険はあるか」など、まずは存在を把握するところから始めます。
前の章で紹介した預貯金や証券、不動産、保険、ローン、デジタル資産などを参考に、一つずつ確認していくと整理しやすいでしょう。
この段階で大切なのは、財産の金額を確定することより、全体像を見えるようにすることです。たとえば銀行口座なら、「○○銀行に口座あり」と書くだけでもかまいません。後から必要に応じて情報を追加できます。
私も終活について考え始めたとき、「全部調べなければ」と思うと、それだけで気が重くなりました。
けれど、「まずはわかるものだけ書いてみる」と考えると、ずいぶんハードルが下がります。
終活は、一日で終わらせるものではありません。空欄があっても、あとから書き足せばいい。最初の財産整理は、完成させることより始めることのほうが大切なのだと思います。
STEP2 重要書類を集める
財産の全体像が見えてきたら、次は通帳や保険証券、不動産関係などの重要書類を確認し、保管場所をわかるようにしておきます。
すべての書類を一か所に集める必要はありません。「何が、どこにあるのか」が本人や必要なときの家族にわかる状態を目指します。
たとえば、
- 通帳や金融機関から届く書類
- 保険証券や契約内容がわかるもの
- 不動産に関する書類
- 年金関係の書類
- 借入金やローンに関する書類
などがあります。
親にとっては「いつもの場所」でも、子どもにとっては知らない場所かもしれません。
実家を離れて暮らしていると、なおさらです。親がどの引き出しに何をしまっているのか、普段の生活では知る機会がありません。
だからこそ、「大切な書類はここにある」とわかるだけでも、もしものときの負担は変わります。
ただし、通帳や印鑑、本人確認書類などを一か所にまとめる場合は、防犯面にも注意が必要です。「全部を一か所に集める」ことより、「保管場所がわかる仕組みをつくる」ことを意識するとよいでしょう。
STEP3 デジタル資産も確認する
紙の書類だけでなく、スマートフォンやパソコンの中にある資産や契約も確認しておきましょう。財産整理では、ネット上にしか情報がないものを見落とさないことが重要です。
国民生活センターは、故人のスマートフォンを開けずネット銀行の契約先がわからない、サブスクを解約したくてもIDやパスワードがわからない、といった相談事例を紹介しています。
ネット銀行やネット証券、コード決済、有料サービスなどは、通帳や請求書が届かない場合もあります。そのため、家族が存在そのものに気づけない可能性があるのです。まずは、利用しているサービス名を一覧にするだけでもかまいません。
一方で、IDやパスワードなどの重要情報を誰でも見られる状態にしておくのは危険です。国民生活センターも、第三者に知られないよう適切に管理しながら、万一の際に家族が必要な情報へたどり着けるよう備えることを呼びかけています。
私たち子世代も、自分のスマートフォンが突然開けなくなったら、家族は何が入っているかわかるでしょうか。
そう考えると、デジタル終活は親だけに求めるものではありません。まず自分のスマートフォンの中を見直してみると、親にも「私も整理しているんだけどね」と自然に話しやすくなります。
STEP4 エンディングノートを書く
財産の情報をまとめる方法のひとつが、エンディングノートを活用することです。財産だけでなく、親自身の希望や家族への思いも一緒に残せるのが大きな特徴です。
銀行口座や保険、不動産などの情報を整理しても、それだけでは「親がどうしたいのか」まではわかりません。
「実家をできれば残したい」
「子どもたちには無理をしてほしくない」
「大切にしているものを、この人に受け取ってほしい」
そんな思いは、数字だけの財産一覧には表れないものです。
エンディングノートには、法的な効力がある遺言書とは異なり、一般に決められた書き方はありません。だからこそ、親が今考えていることを自分の言葉で残しやすいという良さがあります。
法務省もエンディングノートを公開しており、財産や連絡先だけでなく、これからやりたいことや大切な人への思いなどを書き込める内容になっています。
ただ、最初からすべてのページを埋めようとすると、途中で嫌になってしまうかもしれません。
私自身は、まず100円ショップで終活ノートを買いました。書けるページを一つだけ選び、項目を埋めていったのです。まずはそれくらいで十分です。
エンディングノートの選び方や、どう向き合ったかという私自身の経験については、「終活のエンディングノート」の記事で詳しく紹介しています。
STEP5 必要に応じて専門家へ相談する
財産整理を進める中で、自分たちだけでは判断が難しい問題が出てきたら、専門家に相談することも選択肢のひとつです。すべての人が専門家に相談する必要はありませんが、財産の内容や家族関係によっては、早めの相談が安心につながることがあります。
たとえば、
- 不動産の名義や登記が複雑
- 借入金や負債がある
- 相続人同士で意見が分かれそう
- 遺言書を作成したい
- 相続税がかかるか判断できない
といった場合です。
相談内容によって適した専門家は異なります。相続税など税金については税理士、登記については司法書士、相続トラブルや法的な判断については弁護士など、それぞれ専門分野があります。
また、エンディングノートと遺言書は同じものではありません。法的な効力を持つ遺言を残したい場合は、定められた方式を守る必要があります。法務省では、自筆証書遺言書を法務局で保管する制度も設けています。
「こんなことで相談していいのかな」と迷うこともあるでしょう。しかし、問題が起きてから解決するより、問題になる前に「わからないことを確認する」という使い方もできます。
財産整理は、親子だけですべてを背負う必要はありません。自分たちで整理できるところは自分たちで進め、判断が難しいところは専門家の力を借りる。その線引きをすることも、家族が安心して終活を進めるための大切な準備です。
財産整理は、すべてを一度に終わらせなくてもかまいません。
書き出す。保管場所を確認する。スマートフォンの中も見直す。思いを残す。そして、必要なら誰かに相談する。
できるところから一つずつ進めていけば、漠然としていた不安は少しずつ「わかっている安心」に変わっていくのではないでしょうか。
終活の財産整理でよくある質問

終活の財産整理について、「いつから始めればいい?」「親が嫌がったらどうする?」と迷う人も多いでしょう。
ここでは、親の財産整理を考え始めた50代の子世代が抱きやすい疑問に答えます。
財産整理は何歳から始める?
財産整理を始める年齢に決まりはありません。「まだ元気だから早い」と思えるときこそ、少しずつ始めやすい時期です。
終活というと、70代や80代になってから始めるものと思われがちです。しかし、財産整理には「何を持っているか」を確認するだけでなく、これから財産をどう管理し、どうしたいのかを本人が考える時間も必要になります。
だからこそ、「○歳になったら」ではなく、気になったときが始めどきです。
親の終活をきっかけに、自分の財産整理も一緒に始める方法もあります。
私自身、親の終活について考えるようになってから、「これは親だけの問題ではない」と感じるようになりました。自分の銀行口座やスマートフォンの中身を家族がどこまで知っているかと考えると、私も決して人のことは言えません。
親に「整理しておいて」と言うより、「私も始めてみようと思っている」と話す。そのほうが、親子で終活について考えるきっかけをつくりやすいのではないでしょうか。
親がお金の話を嫌がる場合は?
親がお金の話を嫌がる場合は、無理に財産の金額を聞き出す必要はありません。まずは「何かあったときに困らないための情報」から話してみるのがおすすめです。
親にとって、自分の財産はとてもプライベートなものです。たとえ子どもであっても、「なぜ知りたいの?」と警戒することはあるでしょう。
そんなときは、預金額ではなく、
「大切な書類はどこにある?」
「もし入院したら、連絡してほしい人はいる?」
「使っている銀行だけでも、どこかに書いてあると安心だね」
といった話から始める方法があります。
それでも嫌がるなら、一度引くことも大切です。
終活は、子どもが親にやらせるものではありません。一度で話が進まなくても、日常の中で少しずつ話せる機会はあります。
「聞き出す」のではなく、「話せる関係をつくる」。遠回りに見えても、それが親子で財産整理を進める近道になることもあります。
財産目録は作った方がいい?
財産目録は必ず作らなければならないものではありませんが、財産や負債の全体像を把握するために役立ちます。最初から正式な書類を作ろうとせず、一覧表やノートから始めてもかまいません。
国税庁も、相続税の申告準備では遺産と債務を確認し、目録や一覧表を作っておくことを案内しています。
ただし、終活として作る財産目録は、相続税申告のための正式な書類と同じように作る必要はありません。
たとえば、
「○○銀行に口座あり」
「生命保険に加入」
「実家の土地・建物あり」
「住宅ローンは完済」
といった情報を書き出すだけでも、全体像が見えやすくなります。
財産は時間とともに変わるため、一度作って終わりではありません。年に一度など、無理のないタイミングで見直せる形にしておくと使いやすいでしょう。
大切なのは、立派な財産目録を完成させることではなく、本人以外の何もわからない状態を少しずつ減らしていくことです。
認知症になる前に何を確認すべき?
認知症が心配な場合は、本人の判断能力が十分なうちに、財産の全体像や重要書類の保管場所、今後の希望について話しておくことが大切です。
特に、財産管理や契約に関する希望は、早めに本人の意思を確認しておく意味があります。
法務省によると、認知症などによって判断能力が不十分になると、不動産や預貯金の管理、介護サービスや施設入所の契約などを自分で行うことが難しくなる場合があります。そのような人を支援する仕組みの一つが成年後見制度です。
ただし、認知症と診断されたからといって、一律にすべての契約や財産管理ができなくなるわけではありません。必要な対応は本人の判断能力や状況によって異なります。
元気なうちに確認しておきたいのは、たとえば次のようなことです。
- どのような財産や負債があるか
- 大切な書類をどこに保管しているか
- 利用している金融機関や保険会社
- 実家や不動産を将来どうしたいか
- 誰に何を伝えておきたいか
ここで大切なのは、親の意思を置き去りにして、子どもが先回りして決めてしまわないことです。
私たち子世代は、「今のうちに決めておかなければ」と焦ってしまうことがあります。けれど、終活の主役はあくまで親自身です。
だからこそ、まだ話せるうちに聞いておく。
「どうしたい?」
その一言から始めるだけでも、親の思いを知るきっかけになります。
終活の財産整理は、将来の相続手続きを楽にするためだけのものではありません。親が自分の意思を伝えられるうちに、その思いを家族が聞いておく時間でもあるのです。
認知症への備えや遺言など、法的な準備が必要な場合は、状況に応じて専門家へ相談することも選択肢になります。
まとめ|財産整理は「財産を調べること」ではなく、家族が安心して暮らすための準備

終活の財産整理は、親の預貯金がいくらあるのかを調べることだけではありません。
預貯金や保険、不動産、負債、デジタル資産などを整理する本当の目的は、親が自分らしく暮らし続けるため、そして家族がいざというときに困らないための準備です。
親の財産について話すのは、簡単なことではありません。
「お金のことを聞くなんて失礼ではないか」
「財産を気にしていると思われたくない」
そんな気持ちから、話を先延ばしにしてしまうこともあるでしょう。
私も、親の終活を考えるようになって初めて、自分が実家のことを思っていた以上に知らないと気づきました。
けれど、すべてを一度に知る必要はないのだと思います。
どこの銀行を使っているのか。大切な書類はどこにあるのか。実家をこれからどうしたいのか。
そんなことを、親が元気なうちに少しずつ話せれば、それだけでも未来の安心につながります。
終活の財産整理は、「死んだあとの準備」だけではありません。
これからどう暮らしたいのかを、家族で考えるための時間でもあります。
今日からできる最初の一歩
財産整理を始めるために、今日から財産目録を作る必要はありません。最初の一歩は、親との何気ない会話で十分です。
もし親と離れて暮らしているなら、電話をしてみる。
そして、
「最近、何か困っていることある?」
と聞いてみる。
通帳の場所も、保険の内容も、最初から聞かなくてかまいません。
もしかすると、「別に何もないよ」と言われるかもしれません。それでも、声を聞き、今の暮らしを知ることはできます。
その会話の中から、「そういえば保険の書類がわからなくて」「この家もいつまで住めるかな」といった話が出てくることもあるでしょう。
私は、終活について考えれば考えるほど、終活は何かを片付けることだけではないと感じるようになりました。
親が何を持っているのかを知ることより先に、親が今、何を考えているのかを知る。
そこから始めても遅くありません。
今日、親に電話をする。
「最近どう?」と聞いてみる。
その何気ない会話が、いつか「あのとき話しておいてよかった」と思える時間になるかもしれません。
終活は、怖いものではなく、大切な人と向き合う時間なのかもしれません。
何から始めればよいか迷ったときは、まず終活の全体像を知ることから始めてみませんか。
関連記事「終活は何から始める?」では、50代の子世代が親の終活を考え始めたときの最初の一歩を紹介しています。よかったらこちらもご覧ください。














