
「相続税はお金持ちだけの話」と思っていませんか。
実は、相続税がかからない家庭は多い一方で「親の財産が分からない」「実家をどうするか決められない」といった理由で、相続のときに困るケースは少なくありません。
大切なのは、税金の知識を増やすことだけではなく、親が元気なうちに財産や実家について家族で話し合っておくことです。
この記事では、相続税の基礎控除や知っておきたい制度をわかりやすく解説するとともに、50代の子世代が親に確認しておきたい6つのポイントや、自然に話を切り出すコツをご紹介します。
「うちは相続税がかからないから大丈夫」と思っている方にこそ、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。
親と話せる「今」が、将来の家族の安心につながる第一歩になるかもしれません。
※尚、本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の税務判断は税理士などの専門家へご相談ください。
第1章 終活で相続税を気にするべき理由

「終活」と聞くと、エンディングノートや生前整理を思い浮かべる方は多いでしょう。しかし、親の終活を考え始めた50代の子世代にとって、避けて通れないテーマの一つが相続税です。
とはいえ、「うちは財産が多くないから関係ない」「相続税はお金持ちだけの話」と思っている方も少なくありません。
実際には、その考えが間違いとは言い切れません。相続税がかかる家庭は限られています。しかし、相続税がかからないからといって、終活や相続の準備が不要になるわけではないのです。
まずは、「相続税がかかるのはどのような場合なのか」を知ることから始めましょう。
相続税がかかる家庭は実は限られている
相続税がかかる家庭は、それほど多くありません。
その理由は、相続税には「基礎控除(きそこうじょ)」という制度があるからです。
基礎控除とは、簡単にいうと「この金額までは相続税がかかりません」という非課税枠のことです。
相続した財産の合計額が基礎控除以下であれば、原則として相続税は発生しません。
国税庁では、基礎控除額を次のように定めています。
3,000万円+600万円 × 法定相続人の数
ここでいう法定相続人とは、法律で相続人になると定められている人のことです。例えば、配偶者と子ども2人であれば、法定相続人は3人になります。
つまり、家族構成によって相続税がかかる基準額は変わるのです。
基礎控除の計算例
例えば、親が亡くなり、相続人が配偶者と子ども2人の合計3人だった場合を考えてみましょう。
基礎控除は、
3,000万円+600万円×3人=4,800万円
となります。
相続財産の合計額が4,800万円以下であれば、原則として相続税はかかりません。
家族構成ごとの基礎控除額を表にまとめると、次のようになります。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
※基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。
この表を見ると、「思っていたより控除額が高い」と感じる方もいるのではないでしょうか。
実際、国税庁の公表資料でも、相続税の課税対象となるのは亡くなった方全体の一部であり、多くの家庭では基礎控除の範囲内に収まっています。
そのため、「相続税がかかるかもしれない」と必要以上に不安になる必要はありません。
しかし、ここで一つ気を付けたいことがあります。
「相続税がかからない」と「相続で困らない」は、まったく別の話です。
たとえ税金が発生しなくても、預貯金や不動産の場所が分からなかったり、親の考えを家族が共有できていなかったりすると、相続手続きは思った以上に大変になることがあります。
つまり、終活で相続税を知る目的は、「税金を計算すること」だけではありません。
親の財産や思いを家族で共有するきっかけにすることこそ、50代の子世代にとって大切な第一歩なのです。
終活で相続税を知っておく意味
ここまで読んで、「うちは基礎控除の範囲内だから、相続税は気にしなくてもいいのかな」と感じた方もいるかもしれません。
確かに、相続税が発生しない家庭は少なくありません。しかし終活で相続税を知っておく本当の意味は、「税金を減らすこと」ではなく、「親の財産や思いを家族で共有するきっかけをつくること」にあります。
実際に相続が始まると、確認しなければならないことは数多くあります。
- 預貯金はどこの銀行にあるのか
- 不動産はどのくらいあるのか
- 保険には加入しているのか
- 遺言書はあるのか
- 親は実家をどうしたいと思っているのか
こうした情報を家族が何も知らないまま相続を迎えると、税金の問題以前に、手続きや話し合いで戸惑ってしまうことがあります。
だからこそ、相続税を「自分には関係ない」と終わらせるのではなく、「親と話し合うきっかけ」として考えてみてはいかがでしょうか。
私は、その大切さを身をもって知る出来事がありました。
▶体験談① 相続税よりも「知らないこと」が不安だった
もともと私は「相続税なんて、自分たちには関係ない」と思っていました。
きょうだい仲は悪くありませんし、それぞれ生活に困っているわけでもありません。「相続でもめるのは、一部の家庭だけだろう」と、どこか他人事だったのです。
そんな私が相続について真剣に考え始めたきっかけは、実家の活用について家族で話したことでした。
「使っていない土地に賃貸住宅を建てたらどうだろう」
そんな案が出たことがあったのです。子どもである私の世代が巣立った今、広い家を持て余していました。実家をそのままにしておくのはもったいないのではないかという話が兄弟の間で持ち上がりました。ただ、その話し合いをする中で父と母は今の暮らしを大切にしたいと考えていたことを知りました。また、ご近所との関係や、賃貸経営の維持管理まで考えると、簡単に決められる話ではないと分かったのです。
結局、この話は実現しませんでした。
しかし、この出来事をきっかけに、「実家にはどれくらいの価値があるのだろう」「親は将来、この家をどうしたいと思っているのだろう」と考えるようになりました。
その後相続について調べ始めた結果、私はあることに気付いたのです。
親の財産について、ほとんど何も知らなかった、と。
預貯金はどこにあるのか。
保険には加入しているのか。
実家を誰に引き継いでほしいと思っているのか。
どれも、一度も聞いたことがありませんでした。
「相続税がかかるかどうか」よりも、「何も知らないまま相続の日を迎えること」のほうが、大変な事態になるのではないかと感じたのです。
さらに印象に残っているのは、すでに亡くなっている実家の片付けをしたときのことです。
祖父母と両親が新婚だった頃の写真や、子どもが生まれ、家族が増えていく様子を写したアルバムが出てきました。
写真を見ながら、「今の私があるのは、この家で暮らしてきた家族の積み重ねがあったからなんだ」と、しみじみ感じました。
子どもの頃は、「実家はきょうだいで平等に分ければいい」と、漠然と思っていました。
でも、大人になった今は、当時の考えがとても単純だったことに気付きます。
家は、お金のようにきれいに分けられるものではありません。
親や祖父母が長い年月をかけて守ってきた暮らしや思い出まで、子どもの人数だけで割り切れるものでもありません。
もちろん、実家を残すことだけが正解ではないでしょう。
売却することが家族にとって最善の選択になる場合もあります。
大切なのは、「どう残すか」「どう受け継ぐか」を、親が元気なうちに家族で話し合っておくことだと、私は考えるようになりました。
相続税について調べ始めたことがきっかけで、最後にたどり着いた答えは、税金の知識ではありませんでした。
親の思いを知ることこそ、終活の第一歩。
それが、私がこのブログを書き続けている理由でもあります。
この章のまとめ
相続税には基礎控除があるため、多くの家庭では相続税が発生しない可能性があります。
しかし、それは「終活をしなくてもよい」という意味ではありません。
終活で相続税について知ることは、税金対策のためだけではなく、親の財産や実家、そして親自身の思いについて家族で話し合うきっかけになります。
私自身も、「相続税は関係ない」と思っていた一人でした。
だからこそ、何も知らないまま相続を迎える不安や、親が元気なうちに話しておけばよかったという後悔を、読者の皆さんにはできるだけ感じてほしくありません。
次の章では、実際に親へどんなことを確認しておくと安心なのかを、6つのポイントに分けて具体的にご紹介します。
「何から話せばいいのかわからない」という方は、ぜひ次の章も読み進めてみてください。
第2章 親に確認したい6つのこと

相続税について調べ始めると、「結局、親に何を聞けばいいの?」と迷う方は少なくありません。
実は、終活で大切なのは財産の金額を知ることではなく、親の考えや状況を家族で共有しておくことです。
ここでは、50代の子世代が親と話し合っておきたい6つのポイントをご紹介します。
① 財産はどこにある?
まず確認したいのは、親がどのような財産を持っているのかです。
「いくらあるのか」を細かく聞く必要はありません。大切なのは、どのような財産があり、どこにあるのかを家族が把握しておくことです。
例えば、次のようなものが該当します。
- 預貯金(銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行など)
- 不動産(自宅・土地・賃貸物件など)
- 生命保険・医療保険
- 株式・投資信託・NISAなどの金融資産
- デジタル資産(ネット銀行・ネット証券・暗号資産など)
近年は、スマートフォンやパソコンだけで管理している資産も増えています。
家族が存在を知らなければ、相続手続きの際に見つけられない可能性もあります。
また、「親は全部分かっているから大丈夫」と思っていても、認知機能の低下や急な入院によって、必要な情報を確認できなくなることもあります。
だからこそ、親が元気なうちに、「どんな財産があるの?」「大切な書類はどこに保管しているの?」と、少しずつ話を聞いておくことが安心につながります。
この段階では、資産額を一覧にする必要はありません。
まずは「どんな財産があるのか」を家族で共有することが、終活の第一歩です。
関連記事
財産を整理する手順やチェックリストについては、「終活の財産整理は何から始める?」の記事で詳しくご紹介しています。
② 遺言書やエンディングノートはある?
次に確認したいのは、遺言書やエンディングノートを準備しているかということです。
この2つは似ているようで役割が異なります。
遺言書は、法律上の効力を持つ文書です。
一方、エンディングノートは法的効力はありませんが、自分の思いや希望を家族へ伝えるためのノートです。
例えば、
- 延命治療についての希望
- お墓や供養について
- 大切な人へのメッセージ
- 銀行口座や契約情報
- SNSやスマートフォンの扱い
などを書き残せます。
「遺言書を書いたから大丈夫」と思っていても、家族が保管場所を知らなければ、必要なときに見つけられないこともあります。
反対に、エンディングノートがあれば、親の考えや希望を知る大きな手がかりになります。
そのため、
- 作成しているか
- 保管場所はどこか
- 家族の誰が知っているのか
まで確認しておくと安心です。
「まだ書いていない」という場合でも、無理に勧める必要はありません。
「最近、終活について調べていてね」「こんなノートがあるみたいだよ」と話題にするだけでも、親が興味を持つきっかけになることがあります。
関連記事
遺言書とエンディングノートの違いや書き方については、「遺言書」と「エンディングノート」の記事で詳しく解説しています。
③ 生前贈与について考えている?
生前贈与についても、親の考えを聞いておくと安心です。
とはいえ、「節税したほうがいいよ」と勧めることが目的ではありません。
大切なのは、親がどのように財産を引き継ぎたいと考えているかを知ることです。
近年は、生前贈与に関する制度も変わっています。
2024年からは、相続財産に持ち戻して計算する対象期間(生前贈与加算)が段階的に延長され、最終的には亡くなる前7年以内の一定の贈与が対象となります。
そのため、「昔はこうだったから」という情報だけで判断すると、思わぬ誤解につながることがあります。
ただし、生前贈与は家族構成や財産の内容によって最適な方法が異なります。
制度は今後も見直される可能性があるため、具体的な対策を考える場合は、税理士などの専門家へ相談することが大切です。
親へ聞くときも、
「節税のために何か考えている?」
ではなく、
「将来のことで何か考えていることはある?」
と尋ねるほうが、親も気持ちを話しやすいかもしれません。
終活は、制度を知ること以上に、家族がお互いの考えを知る時間でもあるのです。
④ 実家はこれからどうする予定?
親が住んでいる実家についても、一度は話し合っておきたいテーマです。
「まだ元気だから」「そのときになって考えればいい」と思いがちですが、実家は相続財産の中でも特に判断が難しいものの一つです。
例えば、次のようなことを聞いてみるとよいでしょう。
- この家にはこれからも住み続けたいと思っている?
- 将来、誰かが住む予定はある?
- 売却することも考えている?
- 同居について考えたことはある?
これらは、正解を決めるための質問ではありません。
親がどのような暮らしを望んでいるのかを知ることが目的です。
また、実家の相続では「小規模宅地等の特例」という制度が利用できる場合があります。
これは、一定の条件を満たすと、自宅などの土地の評価額を最大80%減額できる制度です。相続税の負担が大きく軽減される可能性があります。
ただし、この特例は「誰が相続するか」「相続後も住み続けるか」などの条件によって適用できるかどうかが変わります。
そのため、「制度があるから安心」と考えるのではなく、親が実家をどうしたいと考えているのかを、元気なうちに聞いておくことが大切です。
私自身も、実家の活用について家族で話したことが、相続や終活を考え始めるきっかけになりました。
制度よりも先に、「家族で話すこと」の大切さを実感した出来事でした。
⑤ 誰に相談したいと思っている?
終活や相続は、家族だけで解決しようとすると難しい場面があります。
だからこそ、親が「何かあったら誰に相談したい」と考えているかを知っておくことも大切です。
例えば、
- 税理士
- 司法書士
- 弁護士
- 地域包括支援センター
- 自治体の無料相談窓口
- 信頼している家族や親族
など、人によって相談先はさまざまです。
「困ったら専門家に相談すればいい」と思っていても、親自身がどこへ相談すればよいのか分からないことも少なくありません。
最近では、多くの自治体が相続や終活に関する無料相談会を開催しています。
「何かあったら、この窓口へ相談できるよ」
そんな一言を伝えておくだけでも、親の安心につながるでしょう。
⑥ 家族に伝えておきたいことはある?
終活で確認したいのは、財産だけではありません。
むしろ、親が「家族へ伝えておきたいこと」の中には、お金以上に大切な思いが含まれていることがあります。
例えば、
- 将来の医療や介護についての希望
- お墓や供養についての考え
- 大切にしてほしい思い出の品
- 親族や友人への伝言
などです。
こうした希望を事前に知っているだけでも、家族は迷いが少なくなります。
また、相続税の制度では配偶者の税額軽減という制度があります。
一定の条件を満たせば、配偶者が相続する財産については、大きく税負担が軽減される仕組みです。
一方で、配偶者が亡くなった後に子どもへ財産が引き継がれる「二次相続」では、相続税の負担が大きくなるケースもあります。
だからこそ、「今回は相続税がかからなかったから大丈夫」と安心するのではなく、家族全体で将来を見据えて話し合っておくことが大切です。
そして、終活で忘れてほしくないのが、「ありがとう」を伝えること。
相続税の制度は専門家に相談できます。
けれど、「ありがとう」「助かったよ」「これからもよろしくね」という言葉は、家族にしか伝えられません。
終活とは、財産を整理することだけではなく、大切な人へ思いを届ける時間でもあると感じています。
この章のまとめ
親に確認したいことは、「財産はいくらあるの?」ということではありません。
どんな財産があるのか、どんな暮らしを望んでいるのか、誰に何を伝えたいと思っているのか。
そうした思いを知ることが、相続で困らないための第一歩になります。
一度ですべてを聞こうとする必要はありません。
帰省したときや、一緒に食事をしたときなど、自然な会話の中で一つずつ話題にしてみてはいかがでしょうか。
終活は、「もしもの日に備える準備」であると同時に、「今だからこそ家族で話せる時間」をつくることでもあります。
次の章では、相続税対策よりも先に取り組みたい**「親の財産と実家の見える化」**について、具体的な方法をご紹介します。
第3章 相続税対策より大切な「親の財産と実家の見える化」

相続税について調べ始めると、「節税対策をしなければ」と考える方もいるかもしれません。
しかし、50代の子世代が親の終活を考えるうえで、本当に優先したいのは相続税対策よりも「財産と実家の見える化」です。
どれだけ制度を知っていても、親がどんな財産を持ち、どのような思いで実家を守ってきたのかが分からなければ、家族は判断に迷ってしまいます。
この章では、「見える化」がなぜ大切なのかを考えていきましょう。
財産が分からないことが一番困る
相続で困る原因は、相続税がかかることだけではありません。
実際には「親がどんな財産を持っているのか分からない」ことが、大きな負担になるケースも少なくありません。
例えば、
- 銀行口座がいくつあるのか分からない
- ネット銀行やネット証券を利用していたことを知らなかった
- 生命保険の契約書が見つからない
- 不動産の権利関係が分からない
このような状態では、相続税が発生しなくても手続きに時間がかかり、家族の負担は大きくなります。
だからといって、親に「財産を全部見せてほしい」と言う必要はありません。
まずは、
「どんな財産があるの?」
「大切な書類はどこにあるの?」
というように、家族が困らないための確認から始めることが大切です。
終活は、財産の金額を把握することではなく、「どこに何があるか」を家族で共有することから始まります。
実家の扱いも家族で話しておく
終活では、財産だけでなく実家をどうするかも大切なテーマです。
実家は、資産であると同時に、家族の思い出が詰まった場所でもあります。
だからこそ、「親が元気なうちに話しておけばよかった」と後悔する人も少なくありません。
例えば、
- このまま住み続けたいのか
- 将来は売却も考えているのか
- 誰かが住み継ぐ予定はあるのか
こうしたことは、親の考えを聞かなければ分かりません。
また、相続税には小規模宅地等の特例という制度があります。
一定の条件を満たせば、自宅などの土地の評価額を最大80%減額できる制度ですが、適用されるかどうかは、相続後の住まい方や家族構成などによって変わります。
つまり、「制度を知っている」だけでは十分ではありません。
親が実家をどう残したいと考えているのかを家族で共有しておくことが、制度を生かす第一歩になるのです。
終活は節税ではなく「見える化」
終活というと、「相続税対策」や「節税」をイメージする方もいるかもしれません。
もちろん、制度を知っておくことは大切です。
しかし、私が終活について学び、実際に家族と向き合う中で感じたのは、節税よりも「見える化」のほうがはるかに重要だということでした。
見える化とは、
- 財産を一覧にすること
- 保険や不動産を整理すること
- 実家について家族で話し合うこと
- 親の思いを知ること
こうした一つ一つを家族で共有することです。
見える化ができていれば、相続税が発生したとしても、慌てずに専門家へ相談できます。
反対に、何も分からないままでは、制度を知っていても適切な判断はできません。
だから私は、終活とは「節税のための準備」ではなく、「家族が安心して未来を迎えるための準備」だと考えています。
▶体験談 「財産」ではなく「家族の歴史」が見えてきた
私が相続について調べ始めた頃、最初に気になっていたのは相続税でした。
「うちは相続税なんて関係ない」
そう思っていたからこそ、「どのくらい財産があるのだろう」という視点で調べ始めたのです。
ところが、調べれば調べるほど気になったのは、お金ではありませんでした。
「親は実家をどうしたいと思っているのだろう」
「私たちきょうだいは、その思いを何も聞いていない」
そんなことに気付いたのです。
以前、家族で「使っていない部分に賃貸住宅を建てたらどうだろう」という話になったことがありました。
けれど、話し合いをする中で父と母は今の暮らしを大切にしたいと考えていることが分かったのです。
さらにご近所とのつながりや、賃貸経営には管理の負担もあることに気づきました。
最終的に賃貸物件を建てる話は実現しませんでしたが、私はその出来事があったからこそ「実家は資産としてだけでは語れない」と感じるようになりました。
さらに遺品整理では、祖父母と両親が新婚だった頃の写真や、家族が増えていく様子を写したアルバムが出てきました。
写真を見ながら、「今の私があるのは、この家で暮らしてきた家族の時間があったからなんだ」と、自然に思えたのです。
子どもの頃は、「実家は兄弟で分ければいい」と考えていました。
でも今は違います。
家は、お金のようにきれいに分けられるものではありません。
売ることが正しい場合もあれば、残すことが家族の幸せにつながる場合もあります。
だからこそ大切なのは、「どう分けるか」を急いで決めることではなく、「親はどう残したいと思っているのか」を家族で共有しておくことだと感じています。
この章のまとめ
相続税対策は、必要になったときに専門家へ相談できます。
しかし、親の思いや財産の状況は、親が元気なうちにしか聞けません。
終活で本当に大切なのは、節税のテクニックではなく、家族が安心して話し合える環境をつくることです。
財産や実家を「見える化」することで、相続税の不安だけでなく、将来の家族の迷いも少なくできます。
次の章では、親に相続税の話を切り出すときに、相手を不安にさせず自然に話し始めるコツをご紹介します。
第4章 親に相続税の話を切り出すコツ

「相続税のことを親に話したいけれど、どう切り出せばいいのか分からない」
この章まで読んでくださった方の中には、そう感じている方も多いのではないでしょうか。
終活の話題は、お金や老後、亡くなった後のことにも触れるため、親も子も話し始めるには勇気がいります。
しかし、話し方を少し工夫するだけで、親の受け止め方は大きく変わります。
ここでは、私自身が学んだことや終活について調べる中で感じたことを踏まえ、親が前向きに話しやすくなる3つのコツをご紹介します。
「税金が心配」ではなく「安心してほしい」と伝える
親に終活や相続税の話をするときは、「税金が心配だから」ではなく、「これからも安心して暮らしてほしいから」と伝えることが大切です。
「相続税は大丈夫?」
「財産はいくらあるの?」
と聞かれると、親は「財産を知りたいのかな」「お金の話をされているのかな」と身構えてしまうことがあります。
一方で、
「もしものときに私たちが困らないように、一緒に整理しておきたいね」
「今すぐではなくても、お父さんやお母さんの考えを聞いておきたいな」
そんな伝え方なら、「自分のためではなく、家族のために考えてくれているんだ」と受け止めてもらいやすくなります。
終活は、お金の話をすることではありません。
家族が安心して暮らし続けるための準備です。
その気持ちが伝われば、相続税の話も自然に始めやすくなるでしょう。
帰省や家族が集まるタイミングを活かす
終活の話は、改まった場を用意するよりも、家族が自然に集まるタイミングを活かすほうが話しやすいことがあります。
例えば、
- お盆やお正月の帰省
- 親の誕生日
- 法事や親族の集まり
- 実家の片付けを一緒にした日
などは、家族の将来について話すきっかけが生まれやすい場面です。
反対に、「今日は相続税の話をするから時間を取って」と切り出してしまうと、親も緊張してしまいます。
最近では、「終活」という言葉も以前より身近になりました。
テレビや新聞で終活特集を見たときや、知人の体験談を聞いたときなど、日常会話の延長として話題にすると、親も受け入れやすいでしょう。
一度ですべてを決める必要はありません。
「この前テレビで終活の特集を見たんだけど、お父さんたちはどう考えている?」
そんな何気ない一言が、家族で話し合う第一歩になることもあります。
兄弟姉妹とも情報を共有する
親と話ができたら、その内容は兄弟姉妹とも共有しておくことをおすすめします。
相続が始まってから初めて情報を伝えると、
「そんな話は聞いていない」
「どうして一人だけ知っていたの?」
と、不信感につながることがあります。
もちろん、親が「まだ誰にも話さないでほしい」と希望している内容は尊重する必要があります。
しかし、親が共有を望んでいる内容であれば、できるだけ早い段階で兄弟姉妹も交えて話し合っておくほうが安心です。
例えば、
- 実家をどうしたいと思っているか
- 遺言書を書いているか
- エンディングノートを作成しているか
- 相続税について相談したいことはあるか
など、基本的な情報だけでも共有しておくと、将来の話し合いがスムーズになります。
私自身、相続について調べ始めるまでは、「兄弟の仲が良ければ大丈夫」と思っていました。
でも、本当に大切なのは仲の良し悪しではなく、家族全員が同じ情報を持っていることなのだと感じています。
終活は、一人で進めるものではありません。
親も子も、兄弟姉妹も、お互いに安心できる関係をつくるための時間なのです。

この章のまとめ
相続税の話は、お金の話ではなく「家族の安心について話す時間」と考えると、親へ切り出しやすくなります。
話し始めるタイミングは、お盆やお正月など家族が集まる日常の延長で十分です。
そして、親から聞いた内容は、必要に応じて兄弟姉妹とも共有しておくことで、将来の誤解や行き違いを減らすことにつながります。
終活は、一度の話し合いで終わるものではありません。
少しずつ会話を重ねながら、家族みんなで未来への準備を進めていくことが何より大切です。
関連記事
「親と終活の話をすると嫌がられそう…」と感じている方は『終活は何から始める?』もあわせてご覧ください。話題の切り出し方や、親が前向きになりやすい声かけの工夫を詳しく紹介しています。
第5章 よくある質問(FAQ)

| よくある質問一覧 |
|---|
| 相続税がかからなければ終活は不要? |
| 基礎控除はどう計算する? |
| 生前贈与の加算期間が延びたって本当? |
| 小規模宅地等の特例とは? |
| 配偶者は相続税がかからない? |
| 相続税がかからなくても専門家へ相談した方がいい? |
| 相続税の申告期限はいつですか? |
| 親が財産の話を嫌がるときはどうすればいい? |
相続税がかからなければ終活は不要?
いいえ、相続税がかからなくても終活は必要です。
終活は相続税対策だけではありません。
親の財産や実家のこと、医療や介護の希望、家族への思いを共有することも終活の大切な目的です。
実際には、相続税が発生しない家庭でも、
- 財産の場所が分からない
- 遺言書が見つからない
- 家族で話し合いができていなかった
などの理由で困るケースは少なくありません。
相続税がかかるかどうかではなく、「家族が安心して将来を迎えられるか」という視点で終活を考えることが大切です。
基礎控除はどう計算する?
相続税の基礎控除は、次の式で計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、
- 相続人1人:3,600万円
- 相続人2人:4,200万円
- 相続人3人:4,800万円
- 相続人4人:5,400万円
となります。
相続財産の合計がこの金額以下であれば、原則として相続税はかかりません。
なお、法定相続人の人数によって基礎控除額は変わるため、家族構成を確認したうえで計算しましょう。
生前贈与の加算期間が延びたって本当?
はい。本当です。
2024年から制度が改正され、生前贈与加算の対象期間は段階的に延長されています。
これまでは亡くなる前3年以内の一定の贈与が対象でしたが、最終的には7年以内まで拡大されます。
そのため、「昔聞いた制度」と現在の制度が異なる場合があります。
生前贈与は家族構成や財産の内容によって最適な方法が変わるため、具体的な対策を考える場合は税理士などの専門家へ相談すると安心です。
小規模宅地等の特例とは?
小規模宅地等の特例とは、一定の条件を満たすことで、自宅などの土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
この制度を利用できれば、相続税の負担を大きく軽減できる可能性があります。
ただし、
- 誰が相続するのか
- 相続後も住み続けるのか
- 土地の利用状況
などによって適用条件が変わります。
そのため、「利用できるはず」と自己判断するのではなく、親が実家をどうしたいと考えているのかを早めに家族で話し合い、必要に応じて専門家へ相談することが大切です。
配偶者は相続税がかからない?
配偶者には「配偶者の税額軽減」という制度があります。
一定の条件を満たすと、
- 法定相続分まで
- または1億6,000万円まで
のいずれか多い金額までは、相続税がかからない仕組みです。
ただし、「今回は相続税がかからなかったから安心」とは限りません。
配偶者が亡くなった後、子どもへ財産が引き継がれる二次相続では、相続税が発生するケースもあります。
そのため、家族全体の将来を見据えて考えることが大切です。
相続税がかからなくても専門家へ相談した方がいい?
相続税がかからなくても、相談したほうが安心できるケースがあります。
例えば、
- 実家をどう相続するか迷っている
- 生前贈与を考えている
- 家族構成が複雑
- 遺言書を作成したい
このような場合は、税理士や司法書士などの専門家へ相談することで、将来の不安を減らせます。
最近では自治体や法テラスなどで無料相談を実施している地域もあります。
「まだ先のことだから」と思わず、気になることがあれば早めに相談先を知っておくと安心です。
相続税の申告期限はいつですか?
相続税の申告と納税は、相続の開始(亡くなったことを知った日)の翌日から10か月以内に行う必要があります。
例えば、4月10日に親が亡くなった場合、申告・納税の期限は翌年の2月10日です。
期限を過ぎると、延滞税や加算税が発生する場合があるため注意しましょう。
ただし、すべての人が申告するわけではありません。
相続財産が基礎控除額以下で、特例の適用などが不要な場合は、相続税の申告が不要になるケースもあります。
一方で、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減などを利用するためには、相続税がゼロになる場合でも申告が必要になることがあります。
「うちは相続税がかからないと思うから大丈夫」と自己判断せず、判断に迷う場合は税理士へ相談すると安心です。
親が財産の話を嫌がるときはどうすればいい?
無理に聞き出そうとせず、「親の安心のため」という気持ちを伝えることから始めましょう。
親世代の中には、「財産の話は縁起が悪い」「まだ元気なのに」と感じる方も少なくありません。
そのようなときは、
「相続税が心配だから」
ではなく、
「もしものときに私たちが困らないように、一緒に整理できたら安心だね」
というように、家族みんなが安心して暮らすための話として切り出すと、受け入れてもらいやすくなります。
また、一度ですべてを聞こうとする必要はありません。
例えば、
- 「大切な書類はどこに保管しているの?」
- 「エンディングノートって知ってる?」
- 「実家にはこれからも住みたいと思ってる?」
など、日常会話の延長で一つずつ話題にしていくほうが、親も身構えずに話せることがあります。
私自身も、相続について学ぶ前は「親が話してくれるだろう」と思っていました。
しかし、終活について調べるうちに、「聞かなければ分からないこと」がたくさんあると気付きました。
だからこそ、正解を求めるのではなく、「親の思いを知りたい」という気持ちで向き合うことが、終活の第一歩だと思っています。
この章のまとめ
相続税について調べ始めると、「うちは関係あるのだろうか」「何を準備すればいいのだろう」と不安になる方もいるでしょう。
しかし、本記事でお伝えしてきたように、大切なのは制度を暗記することではありません。
親の財産や実家について話し合い、お互いの思いを共有することが、終活の第一歩です。
分からないことがあれば、一人で抱え込まず、家族や専門家の力を借りながら少しずつ準備を進めていきましょう。
第6章 まとめ|相続税より大切なのは「親と話せる今」を大切にすること

「終活」と聞くと、相続税や財産分けなど、お金のことを思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、この記事でお伝えしたかったのは、相続税そのものではなく、「親と話せる今」という時間の大切さです。
相続税は、基礎控除や各種特例によって、多くの家庭では必ずしも発生するものではありません。
だからといって、「うちは相続税がかからないから終活はまだ必要ない」と考えてしまうのは少しもったいないことです。
本当に大切なのは、
- 親がどんな財産を持っているのか
- 実家をこれからどうしたいと思っているのか
- 家族へ伝えたい思いはあるのか
こうしたことを、親が元気なうちに少しずつ話し合っておくことです。
私自身も以前は、「うちは相続税とは無縁だから関係ない」と思っていました。
けれど、実家について考え、相続について調べたとき、相続で本当に困るのは税金よりも「知らないこと」だということでした。
親の思いを知らない。
実家をどうしたいのか聞いていない。
どこに何があるのか分からない。
その状態のまま相続を迎えることが、家族にとって一番大きな不安につながるのだと感じています。
終活は、人生の終わりを考えるためのものではありません。
これから先も家族が安心して暮らしていくために、お互いの思いを共有する時間です。
「何から話せばいいか分からない。」
そんなときは、大きな話をする必要はありません。
帰省したときに、
「最近、終活ってよく聞くけれど、お父さんたちはどう考えてる?」
そんな一言から始めてみてはいかがでしょうか。
たった一度の会話が、将来の家族を支える大切な一歩になるかもしれません。
今日からできる3つのこと
この記事を読んだら、ぜひ次の3つのことから始めてみてください。
☑ 親と終活について話すタイミングを考えてみる
☑ 実家や財産について「一つだけ」質問してみる
☑ 兄弟姉妹とも、親の将来について話す機会をつくる
完璧な準備を目指す必要はありません。
少しずつ会話を重ねていくことが、家族みんなの安心につながります。
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