
「認知症って、こんなに身近なことなんだ」
そう感じたのは、高校時代の同級生から、お母さまが認知症になり、介護をしていると聞いたときでした。
何度かお会いしたことのある、とても元気でしっかりしたお母さまです。
それだけに、私は驚きました。
お父さまも、介護をしている友人も、最初はなかなか現実を受け入れられなかったそうです。今はきょうだいで順番に介護をしていると聞きました。
「認知症になる前に、何かできることがあったのだろうか」
そんなことを考えたのを覚えています。
友人の話をきっかけに、認知症はもう他人事ではないと感じるようになりました。
とはいえ、自分の親に何が起こるかは、まだ誰にもわかりません。
だからこそ、親が元気なうちに聞いておきたいことがあります。
それは、財産や相続のことだけではありません。
「これからどこで暮らしたい?」
「どんなふうに過ごしたい?」
「困ったときは誰に頼りたい?」
そんな、親自身の気持ちです。
この記事では、50代の子が認知症になる前に親と確認しておきたい8つのことを紹介します。
終活を「もしものための準備」だけにせず、親のこれからを知る時間にしてみませんか。
なお、制度や手続き、医療・介護、財産管理については家庭の状況によって異なります。具体的な判断は、専門家や自治体などの公的な相談窓口への確認をおすすめします。
第1章 親の終活で認知症を考えておくことが大切な理由

親はまだ元気。
普通に電話で話せるし、自分のことは自分でできている。
だから「終活なんて、まだ早い」と思っている人も多いのではないでしょうか。
私も、親の終活について考え始めたころは、認知症や相続のことを、どこか遠い話として捉えていました。
けれど、親が年齢を重ねていくと、「もし判断することが難しくなったら?」という視点が少しずつ現実味を帯びてきます。
終活というと、遺言や財産整理を思い浮かべがちですが、親の終活で認知症を考える場合、本当に大切なのは財産だけではないのです。
親が自分で決められるうちに、どんなふうに暮らしたいのかを知っておくこと。
そのために、今できることがあります。
認知症になると「本人の意思確認」が難しくなることがある
親の終活で認知症を考える大きな理由の一つは、本人の意思を確認することが難しくなる場合があるからです。
たとえば、これからの暮らしについて、
「できれば今の家で暮らしたい」
「介護が必要になったら、こうしてほしい」
「お金のことは、この人に相談してほしい」
といった希望があったとしても、それを家族が知らなければ、いざというときに本人の望みを推測しながら判断することになります。
認知症になったら、本人の意思をすべて確認できなくなる――という意味ではありません。
厚生労働省は、認知症の人が本人の意思に基づいた日常生活・社会生活を送れるよう、周囲の人が本人の意思をできる限り確認しながら支えるための考え方を、意思決定支援ガイドラインとして示しています。 (厚生労働省)
だからこそ、終活を「判断できなくなったときのための準備」とだけ考えるのではなく、
本人が自分のことを話せるうちに、その人の考えを知っておくための時間
と考えることが大切です。今のうちに聞いておけば、後になって家族が推測に頼らずに済むことが増えます。
親の財産や不動産を家族が自由に管理できるわけではない
認知症への備えを考えるとき、財産のことも避けて通れません。
親が元気なうちは、
「通帳はここにあるよ」
「家のことは、何かあったらあなたに任せる」
と話していたとしても、実際に本人の判断能力が低下した場合、家族だからという理由だけで、親の財産を自由に管理したり、契約したりできるわけではありません。
銀行の預金、不動産、保険など、財産に関わる手続きには、それぞれ決められたルールがあります。
たとえば、親名義の不動産をどうするか、預貯金をどう管理するかといった問題が出てきたとき、家族だけの判断では進められない場合があります。
こうしたときに関係してくるのが、成年後見制度や任意後見、家族信託などの制度です。
ただし、これらは「認知症になったら家族信託をすればいい」といった単純な話ではありません。
親の状況や財産、家族関係によって必要な準備は変わります。制度ごとの違いや選び方については、後ほど詳しくお伝えします。
ここで覚えておきたいのは、
「親の財産をどうするか」は、親が元気なうちから考えておくテーマの一つ
ということです。
「認知症=すぐに何もできなくなる」ではない
ここは、親の終活を考えるうえで、ぜひ知っておきたいことです。
認知症になったら、ある日突然、すべての判断ができなくなるわけではありません。
認知症の状態や進み方には個人差があります。また、認知機能が低下していても、本人ができることや、自分の意思を表現できる場面はあります。
認知症と診断されたかどうかだけで、「できる・できない」を白黒で分けるものではありません。
さらに、認知症と認知機能が正常な状態の間には、MCI(軽度認知障害)と呼ばれる段階があります。
内閣府「令和7年版高齢社会白書」では、2022年時点の65歳以上について、認知症の人は443.2万人(有病率12.3%)、MCI(軽度認知障害)の高齢者数は558.5万人(有病率15.5%)と推計されています。MCIは、認知機能の低下がみられるものの、必ずしも日常生活に大きな支障がある状態とは限りません。 (内閣府ホームページ)
ここで数字を見て、
「やっぱり認知症は怖い」
と思う必要はありません。
むしろこの数字から考えてほしいのは、
認知症になるか、ならないかだけで親の将来を考えなくてもいい
ということです。
今は元気な親。
少し変化が出てきた親。
認知機能に不安がある親。
それぞれの段階で、本人の意思を確認しながらできることがあります。
厚生労働省の認知症施策の中でも、軽度認知障害への対応、意思決定支援、認知症初期集中支援チームなど、段階に応じた支援が位置づけられています。 (厚生労働省)
この記事で大切にしたいのも、まさにこの視点です。
「認知症になったらどうする?」だけではなく、「今、親に何を聞いておけるだろう?」と考えること。
認知症になる前だからこそ確認できることがある
認知症への備えで一番大切なのは、制度を急いで選ぶことではありません。
親自身の考えを知っておくことです。
たとえば、
「これからも今の家に住みたい?」
「介護が必要になったら、どんな場所がいい?」
「病院に行くときは誰に頼りたい?」
「大切にしているものは何?」
「逆に、これだけは嫌だということはある?」
こうしたことは、財産一覧表には書かれていません。
けれど、親の判断が難しくなったとき、家族にとって大きな手がかりになります。
親の終活について考える中で気づいたのですが、家族が動いてくれているから大丈夫だと思ってしまうと、本人が何を望んでいるのかを自分自身が深く考えないまま時間が過ぎてしまうことがあります。
終活は、誰か一人が手続きを進めれば終わるものではありません。
親が元気なうちに、親の言葉を聞いておく。
そして、その言葉を家族が共有しておく。
それが、認知症への備えの最初の一歩になります。
この章のまとめ
親の終活で認知症を考えるのは、「認知症になったら大変だから、今すぐ財産管理の対策をしよう」という意味ではありません。
大切なのは、
- 認知症になっても本人の意思を尊重すること
- 財産や不動産は家族だから自由に管理できるとは限らないこと
- 認知症を「できる・できない」の二択で考えないこと
- 親が元気なうちに、親自身の希望を聞いておくこと
です。
終活という言葉には、どうしても「死」や「相続」といった重たいイメージがあります。
でも、親の終活を考えることは、親の人生を整理することだけではありません。
親がこれから、どんなふうに暮らしたいのかを知ること。
そこから始めてもいいのです。
次は、実際に親が元気なうちに何を確認しておけばいいのか、8つに分けて見ていきます。
「全部やらなきゃ」と構えなくて大丈夫です。まずは、親について知っていることと、知らないことを整理するところから始めましょう。
第2章 親の認知症に備えて、50代の子が確認しておきたい8つのこと

親の認知症に備えるなら、まず確認したいのは「手続き」よりも、親が今どんな暮らしを望んでいるかです。
認知症になる前なら、親自身の言葉で聞けることがあります。ここでは、50代の子が確認しておきたい8つのことを紹介します。
全部を一度に聞く必要はありません。
「これなら聞けそう」と思うところから、一つずつ始めてみましょう。
1.親はどこで暮らしたいのか
最初に確認したいのは、親がこれからどこで暮らしたいのかです。
認知症への備えというと財産管理を考えがちですが、実際に生活を支えるのは「どこで、誰と、どんなふうに暮らすか」という部分でもあります。
たとえば、
- 今の家にできるだけ住み続けたい
- 介護が必要になっても自宅で暮らしたい
- 夫婦で暮らせる間は今の家にいたい
- 状況によっては施設も考えている
など、親の希望は家庭によって違います。
「もし一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」
こんな聞き方なら、終活の話を切り出すより自然かもしれません。
大切なのは、子どもが先に答えを決めることではなく、親の希望を知っておくことです。
実家をどうするかについては、不動産のことも含めて後の項目で考えていきます。
2.医療・介護をどう考えているのか
次に確認したいのが、病気や介護が必要になったとき、親がどんな医療・介護を望んでいるかです。
元気なうちは「そのときになったら考える」で済みますが、いざというときに本人の希望を家族が知らないと、判断に迷う場面が出てきます。
たとえば、
「できるだけ自宅で過ごしたい?」
「介護が必要になったら、家族にどこまで頼りたい?」
「入院したとき、誰に連絡してほしい?」
こんな会話から始められます。
ここで大切なのは、親の希望が一度決まったら変わらないものではないということです。
今の希望を聞き、必要に応じて後から話し直す。
それだけでも、家族にとって大きな手がかりになります。
医療や介護について何を聞けばいいのかは、関連記事「親の終活・医療」「親の終活・介護」でも詳しく整理していくと、さらに考えやすくなります。
3.銀行・保険・年金などのお金をどう管理しているのか
認知症への備えでは、親のお金が「どこにあり、どう管理されているのか」を元気なうちに確認しておくことが重要です。
親が認知判断能力を失った場合、家族だからという理由だけで、本人名義の預金を自由に引き出したり管理したりできるわけではありません。
全国銀行協会も、預金の引き出しには原則として本人の意思確認が必要であると案内しています。一方で、生活費や入院・介護費用などのために資金が必要な場合は、まず取引銀行への相談を呼びかけています。
ここで確認したいのは、親の資産額を細かく聞き出すことだけではありません。
「銀行はどこを使っている?」
「保険の書類はどこにある?」
「年金はどの口座に入っている?」
など、必要な情報がどこにあるのかを知っておくことから始めても十分です。
「口座凍結」は死亡時と認知症時で意味が違う
「認知症になると銀行口座が凍結される」と聞くことがありますが、死亡時の預金口座の取り扱いと、本人の認知判断能力が低下した場合の金融取引は、同じ話ではありません。
認知判断能力が低下すると、本人の意思確認が難しくなり、家族が自由に預金を扱えるわけではなくなることがあります。
だからこそ、「そのとき何とかする」のではなく、元気なうちに銀行との取引方法を確認しておくことが大切です。
銀行には、本人が元気なうちに利用できる代理人制度がある場合も
銀行によっては、本人が元気なうちに代理人を指定する仕組みや、代理人による取引を可能にするサービスなどがあります。
ただし、名称や利用条件、本人の判断能力が低下した後の取り扱いは金融機関によって異なります。全国銀行協会も、各銀行に一律の対応を求めるものではなく、個別の状況によって対応が異なるとしています。
そのため、「代理人カードを作れば安心」と一括りに考えるのは危険です。
利用している銀行に、
「親が元気なうちにできる代理人の手続きはありますか?」
と確認してみるのが確実です。
具体的な取扱いは金融機関ごとに違う
親のお金については、銀行・保険会社・年金など、それぞれの窓口に確認することが基本です。
特に銀行については、本人の意思確認ができない場合でも、生活費や医療・介護費用などについて相談できる場合があります。
「親の口座をどうすればいい?」と家族だけで悩むのではなく、まず取引先の銀行に聞いてみる。
これが、認知症になる前にできる現実的な備えの一つです。
4.不動産・実家をどうしたいのか
親の認知症に備えるなら、実家や土地を今後どうしたいのかも、元気なうちに聞いておきたいことの一つです。
不動産は、売る・貸す・住み続ける・子どもが使うなど、選択肢があります。しかし、本人の判断能力が低下すると、不動産の売却や管理などで手続きが難しくなる場合があります。
だからといって、今すぐ「実家をどうするか決めよう」と迫る必要はありません。
「この家、これからも住み続けたい?」
「もし住めなくなったら、どうしたい?」
まずは、親の考えを聞いてみるだけでもいいのです。
私自身も、実家について考えるようになってから、「家をどうするか」は家そのものだけの問題ではないと感じるようになりました。
思い出や家族の歴史も含めて、親がどう考えているのかを知ることが、最初の一歩です。
実家の処分や売却、空き家などについては、こちらの記事「実家をどうする?」でも詳しく扱っています。
5.誰に頼りたいのか
親が困ったとき、誰に頼りたいと思っているのかを確認しておくことも大切です。
「子どもだから、当然自分がやる」と決めてしまうと、親の希望とずれてしまうことがあります。
頼る相手は、必ずしも「お金を管理する人」と同じではありません。
たとえば、
- 入院したときに連絡してほしい人
- 病院の説明を一緒に聞いてほしい人
- 介護について相談したい人
- 日常的に様子を見てほしい人
- お金のことを相談したい人
それぞれ違う場合があります。
特に入院時の「身元保証」と「医療行為への同意」は分けて考える必要があります。厚生労働省は、医療機関が求める身元保証・身元引受には、緊急連絡や入院費、退院支援など複数の役割があるとしています。また、成年後見人等には医療行為への同意権限がないとされています。
つまり、「何かあったら子どもが全部やる」と考えるだけでは足りません。
親が誰を頼りたいのか、そして家族に何を頼みたいのか。
ここを聞いておくことが、後の家族の迷いを減らします。
6.きょうだいとどう役割分担するのか
親の終活では、きょうだいの間で役割を一人に集中させないことも重要です。
親と一番近くに住んでいる人が病院や介護を担当し、遠方のきょうだいがお金や手続きを担当するなど、役割は家庭によって変わります。
たとえば、
「病院の連絡は誰が受ける?」
「書類の整理は誰がする?」
「親との話し合いには誰が参加する?」
といったことを、元気なうちに話しておくと、いざというときに「誰がやるの?」となりにくくなります。
ただし、ここでも最初から完璧な分担表を作る必要はありません。
まずは親の情報を一人だけが抱え込まないこと。
きょうだいで共有しておくだけでも、親の認知症に備える大切な土台になります。
7.何を家族に残したいのか
親の終活で確認したいのは、財産だけではなく、親が家族に残したいものや伝えたいことです。
「何を相続したい?」と聞くと、どうしてもお金や不動産の話になりがちです。
でも、親が残したいものは、それだけとは限りません。
昔の写真。
家族に伝えておきたい話。
大切にしてきた品物。
子どもや孫に伝えたい言葉。
「この写真、誰が写っているの?」
「この時計、大切にしているのはなぜ?」
そんな何気ない会話から、親の人生を知ることがあります。
ここは、この先の章で扱うエンディングノートにもつながります。
財産情報だけを整理するのではなく、「親が何を大切にしてきた人なのか」を知っておくことも、親の終活の大切な一部です。
8.親の日常に起きているリスクを確認する
最後に確認したいのが、運転、お金のトラブル、薬の管理など、親の日常生活で気になることがないかです。
判断能力の変化は、財産管理だけでなく、日常生活のさまざまな場面で気づくことがあります。
たとえば、
「最近、電話で変な契約をしていない?」
「薬、ちゃんと飲めてる?」
「車の運転は大丈夫?」
といった会話です。
これは「認知症かどうか」を家族が判断するためのチェックではありません。
高齢者をめぐる消費者トラブルは実際に起きており、国民生活センターも高齢者の消費者被害や悪質商法について、見守る側への情報提供を続けています。
国民生活センターは2025年9月、テレビショッピングに関する消費者トラブルの相談事例として、認知症の母親が次々と健康食品を注文してしまうという家族からの相談を公表しています。困ったときは、まず販売した事業者に相談すること、それでも解決しない場合は消費生活センターや消費者ホットライン188に相談できます。
「最近ちょっと気になるな」と感じたときに、いきなり親を問い詰める必要はありません。
まずは普段の会話の中で、何が起きているのかを知る。
それでも心配な変化が続く場合は、医療機関や地域包括支援センターなどへの相談につなげていくとよいでしょう。詳しいことは第9章をご覧ください。
この章のまとめ
親の認知症に備えるとき、最初から制度を選んだり、財産をすべて整理したりする必要はありません。
まず確認したいのは、この8つです。
- 親はどこで暮らしたいのか
- 医療・介護をどう考えているのか
- 銀行・保険・年金などのお金をどう管理しているのか
- 不動産・実家をどうしたいのか
- 誰に頼りたいのか
- きょうだいとどう役割分担するのか
- 何を家族に残したいのか
- 親の日常に起きているリスクはないか
8つ並べると、「こんなにあるの?」と感じるかもしれません。
でも、一度に全部聞く必要はありません。
たとえば次に親と電話をしたとき、
「これからも、この家に住みたい?」
と一つだけ聞いてみる。
それでも、親の終活は動き始めます。
大切なのは、子どもが親の人生を先回りして決めることではありません。
親が元気なうちに、親の言葉を聞いておくこと。
その積み重ねが、認知症になったときにも、その人らしい暮らしを考えるための手がかりになります。
第3章 「認知症になったらどうする?」より先に、親の気持ちを聞こう

親の終活を始めるとき、いきなり「認知症になったらどうする?」と聞く必要はありません。
むしろ最初は、もっと普通の会話から始めるほうが、親も話しやすくなります。
「終活」という言葉を出しただけで、
「まだそんな年齢じゃない」
「縁起でもない」
と、親が身構えてしまうこともあります。
だからこそ、最初の目的は「終活をさせること」ではありません。
親がこれからどんなふうに暮らしたいのかを、少しずつ知ること。
そのための会話から始めてみましょう。
「終活しよう」と言わなくてもいい
親の終活は、最初から「終活」という言葉を使わなくても大丈夫です。
親にとっては、終活という言葉が「死」や「老い」を強く意識させることがあります。まずは、これからの暮らしについて話すだけでも十分です。
たとえば、こんな違いがあります。
NG
「そろそろ終活したほうがいいんじゃない?」
OK
「この家、これからもずっと住みたい?」
NG
「認知症になったら困るから、財産のこと教えて」
OK
「もし何かあったとき、銀行とか保険のことはどこを見たら分かる?」
NG
「介護になったら施設に入る?」
OK
「もし介護が必要になったら、どんな暮らしがいい?」
言葉を少し変えるだけで、「準備しなければ」という話から「親はどうしたい?」という話に変わります。
私が大切だと感じるのは、親を説得することではなく、親の答えを聞くことです。
まずは一つ質問して、親の話を聞いてみる。
それだけでも、親の終活の第一歩になります。
親に切り出すなら、こんな言葉から
親に話を切り出すなら、「もしもの話」ではなく「これからの話」から始めると自然です。
終活について話すことが目的になると、親子ともに緊張します。日常の延長で聞ける質問にすると、会話が始まりやすくなります。
たとえば、こんなきっかけがあります。
実家の話から
「この家、ずっと残したい?」
「庭の手入れ、大変になってきたらどうしたい?」
「もし今の家に住めなくなったら、どうするのがいいと思う?」
病院や健康の話から
「もし入院したら、誰に連絡してほしい?」
「介護が必要になったら、自宅と施設ならどっちがいい?」
身近な人の話から
「○○さん、施設に入ったんだって。お母さんならどうしたい?」
「最近、終活の話を聞くことが増えたけど、お母さんはどう考えてる?」
自分のことを話してから
親にいきなり質問するのが難しければ、自分の話から始める方法もあります。
「私もそろそろ自分のことを考えないといけないなと思って。お母さんは何か考えてる?」
この形なら、親を問い詰める会話になりません。
「聞き出す」のではなく、「一緒に考える」。
このくらいの気持ちで始めると、会話のハードルは下がります。
親が「まだ早い」と言ったらどうする?
親が「まだ早い」と言ったら、その日はそこで終わって大丈夫です。
親が終活を拒否したからといって、準備ができないわけではありません。一度に全部話す必要もありません。
たとえば、
「そうだよね。まだ元気だもんね」
と受け止めて、
「じゃあ、今日はこの話はやめよう」
と引いてもいいのです。
その代わり、別の日に違う話題から始める方法があります。
たとえば、実家の片付けをしているときに、
「これ、どうする?」
と聞く。
昔の写真を見ながら、
「この写真、誰が持っておく?」
と話す。
病院や介護のニュースを見たときに、
「お母さんなら、どうしたい?」
と聞いてみる。
終活は、一度の話し合いですべて決めるものではありません。
親の気持ちを聞く機会を、少しずつ増やしていくことが大切です。
親が怒ったときは、一度引く
親が怒ったときは、説得を続けず、いったん引くことも大切です。
「まだ死ぬつもりはない」
「私を年寄り扱いしないで」
そんな反応が返ってくると、私たちも焦ってしまいます。
でも、そこで正論を重ねても、親の気持ちが開くとは限りません。
NG
「でも、認知症になってからじゃ遅いよ」
「今やっておかないと、あとで私たちが困るんだから」
OK
「ごめんね。ちょっと早かったね」
「今日はこの話はやめようか」
いったん引くことは、諦めることではありません。
親に「この話をすると子どもに責められる」と思わせないことも、その後の会話につながります。
もし今、親に終活の話をしたいけれど切り出せずにいるなら、難しい質問を一つ用意する必要はありません。
次に電話をしたとき、
「これからも、この家に住みたい?」
と聞いてみる。
それだけでも十分です。
私自身、親の終活について考え始めたころ、きょうだいが家族信託のために専門家を探して動いてくれていた時期がありました。
けれど当時の私は、家族信託や相続、終活について、そこまで必要性を感じていませんでした。
「きょうだいが動いてくれているなら、それでいい」と考えていたのです。
後から振り返ると、誰かが手続きを進めてくれることと、自分自身が親のこれからを考えることは別なのだと気づきました。
制度を知ることも大切です。
でも、その前に「親はどうしたいのか」を知らなければ、家族にとって何が必要なのかも見えてきません。
だから私は、親に何かを決めてもらおうとするより、まず話を聞くことから始めるのがいいと考えています。
ここで紹介した以外の切り出し方や、実際の会話例をもっと知りたい場合は、関連記事「親の終活の切り出し方|50代が親を傷つけずに話すコツ」もあわせてご覧ください。
この章のまとめ
親の認知症に備えるからといって、最初から「認知症になったらどうする?」と聞く必要はありません。
まずは、
「これからどこで暮らしたい?」
「介護が必要になったらどうしたい?」
「困ったときは誰に頼りたい?」
そんなこれからの暮らしについての会話から始めます。
親が「まだ早い」と言ったら、一度引いてもいい。
怒ったら、その日は終わりにしてもいい。
終活は、親を説得して進めるものではありません。
親の気持ちを知るために、話をする。
次に親と話す機会があったら、実家の話でも、健康の話でも構いません。
「お母さんは、これからどうしたい?」
と、ひとこと聞いてみる。
その小さな会話が、万一認知症になったとしても安心できる備えになります。
第4章 親の「認知症対策」で一番大切なのは、財産だけではない

親の認知症に備えるとき、財産をどう管理するかは大切なことです。
でも、それだけではありません。
私がこの記事で一番大事にしてほしいと思うのは、「もし自分で決めることが難しくなったとき、何を大切にしてほしいか」を親から聞いておくことです。
認知症になったら財産をどうするか。
その前に、
「この人は、どんな暮らしを大切にしてきたんだろう?」
「これだけは、できるだけ守ってあげたいな」
と思えることを知っておく。
それも、親の認知症への大切な備えです。
親が大切にしている暮らし
まず聞いておきたいのは、親が「自分らしい」と感じる暮らしはどんなものなのかということです。
住んでいる場所、毎日の習慣、好きな食べ物、近所との付き合い。
本人にとっては当たり前すぎて、子どもが知らないこともあります。
たとえば、
「朝は必ず自分でお茶を入れる」
「近所の友達と週に一度おしゃべりする」
「庭の花を育てるのが楽しみ」
「毎年、夫婦で同じ場所へ出かける」
そんな小さな習慣が、その人にとっての大切な暮らしだったりします。
もし将来、誰かの手を借りながら生活することになったとしても、「何を大切にしたい人なのか」を知っていれば、その人らしさを守るヒントになります。
だから、
「お母さんにとって、今の暮らしで一番大事なものって何?」
と聞いてみる。
答えがすぐに出なくても、それでいいのです。
親が最後まで続けたいこと
次に聞いておきたいのは、年齢を重ねても続けたいと思っていることです。
「できなくなったら困ること」ではなく、「できるだけ続けたいこと」と考えると、親も答えやすくなります。
たとえば、
- 畑を続けたい
- 犬や猫と暮らしたい
- 毎朝散歩したい
- 趣味を続けたい
- 友達に会いたい
- 孫の成長を見守りたい
- 住み慣れた地域で暮らしたい
どれも、財産の一覧には出てきません。
けれど、親の人生を考えるうえでは、とても大切な情報です。
「認知症になったら何ができなくなるか」ではなく、
「できるだけ何を続けてほしいか」
という視点で考えてみる。
そうすると、終活の見え方が少し変わってきます。
親が「これは嫌だ」と思っていること
そして、私は「やりたいこと」と同じくらい、「これは嫌だ」という気持ちも聞いておきたいと思っています。
本人にとって大切なことは、「こうしたい」だけではありません。
「これは避けたい」という希望も、その人らしい暮らしを考える手がかりになります。
たとえば、
「延命治療についてはどう考えている?」
「施設に入るなら、相部屋は嫌?個室がいい?」
「お風呂を人に介助してもらうことは抵抗がある?」
「ペットと離れて暮らすのは嫌?」
「知らない人に身の回りの世話をしてもらうのは抵抗がある?」
「家族に迷惑をかけていると感じるのは嫌?」
こんな話です。
もちろん、これらは一度決めたら変えてはいけないものではありません。
そのときの体調や生活環境によって、考えが変わることもあります。
だからこそ、「一度聞いたから終わり」ではなく、何気ない会話の中で少しずつ聞いていく。
親の「嫌だ」を知っておくことは、親の望まない暮らしを避けるための手がかりになります。
親が頼りたい人
親が困ったとき、誰に頼りたいと思っているのかも聞いておきたいことの一つです。
「子どもなら誰でもいい」とは限りません。
たとえば、
「病院に行くときは、この子についてきてほしい」
「お金のことは、この子に相談したい」
「毎日のことは近所の○○さんに頼りたい」
というように、頼りたい相手が違うこともあります。
家族からすると「長男が全部やればいい」「近くに住んでいる子が担当すればいい」と考えがちです。
でも、親自身はどう考えているのでしょう。
「困ったとき、誰に一番相談したい?」
この質問をしてみるだけでも、家族が知らなかった親の気持ちが見えてくることがあります。
親の言葉を残しておく意味
ここまで聞いてきたことは、できれば親の言葉のまま残しておくことをおすすめします。
理由はシンプルです。
子どもが「たぶん、母はこう思っている」と想像するのと、親本人が「こうしたい」と話した言葉を残しておくのでは、意味が違うからです。
たとえば、
「できるだけ、この家で暮らしたい」
「犬とは最後まで一緒にいたい」
「人に迷惑をかけるのは嫌だけど、家族には頼りたい」
「畑だけは続けたい」
そんな一言です。
きれいな文章にする必要はありません。
日付と一緒に、聞いた言葉をそのままメモしておくだけでもいい。
私は、こうしたものを「わが家の親の言葉」として残しておくのもいいと思っています。
たとえば、こんな表です。
| これからも続けたいこと | |
|---|---|
| これは嫌なこと | |
| 住み続けたい場所 | |
| 困ったときに頼りたい人 | |
| 家族に伝えておきたいこと |
これは、財産目録でも、法律上の書類でもありません。
親の気持ちを家族が忘れないための、わが家だけの記録です。
エンディングノートを書くときにも、この「親の言葉」があれば、単に項目を埋めるだけではなく、親自身の思いを残せます。
そして、もし将来、家族が何かを決めなければならない場面が来たとき、
「お母さんなら、どうしたいだろう?」
と考えるための手がかりにもなります。
終活で残したいのは、通帳の場所や保険の情報だけではありません。
その人が、何を大切にして生きてきたのか。
それも、家族に残せる大切な情報です。
だから私は、認知症への備えを考えるときこそ、財産の話だけで終わらせたくありません。
「もし自分で決められなくなったら、何を大切にしてほしい?」
この問いの答えを、親自身の言葉で聞いておく。
それが、この記事で伝えたい「親の終活」の一つの形です。
この章のまとめ
親の認知症への備えは、財産管理だけではありません。
親が、
- どんな暮らしを大切にしているのか
- 最後まで何を続けたいのか
- 何を嫌だと感じるのか
- 困ったとき誰に頼りたいのか
- 家族に何を伝えておきたいのか
を知っておくことも大切です。
そして、その答えを「親の言葉」として残しておく。
終活は、親の代わりに人生を決めることではありません。
親が大切にしてきたものを知り、それを家族が覚えておくこと。
それもまた、認知症になる前にできる、大切な備えなのだと思います。
もし今日、親と話す機会があるなら、
「これからも、ずっと続けたいことってある?」
そんな一言から始めてみませんか。
第5章 親が認知症になる前に、エンディングノートに残しておきたいこと

エンディングノートは、親が認知症になる前に、本人の希望や大切な情報を残しておくための方法の一つです。
ただし、最初から一冊を完璧に埋める必要はありません。
第4章で紹介した「親の言葉」も含めて、親が話してくれたことを少しずつ書き残していきましょう。
最初から全部書かなくていい
エンディングノートは、最初から全部の項目を埋めようとしなくて大丈夫です。
市販のエンディングノートには、医療・介護、財産、連絡先、葬儀など、たくさんの項目があります。
全部を見ると、
「こんなに書かないといけないの?」
と、かえって手が止まってしまいます。
私なら、まず一つだけ選びます。
たとえば、
「もし入院したら、誰に連絡してほしい?」
これだけでもいい。
あるいは、
「もし介護が必要になったら、どこで暮らしたい?」
でも構いません。
親が話してくれたら、その日に全部整理しようとせず、まずメモしておく。
エンディングノートは、一度完成させて終わるものではなく、親の暮らしや気持ちの変化に合わせて書き足していくものと考えると続けやすくなります。
まず「医療・介護の希望」から
何から書けばいいか迷ったら、医療や介護についての希望から始めるのも一つの方法です。
認知症になる前なら、本人の希望を聞きながら記録できます。
たとえば、
- 入院したときに連絡してほしい人
- どんな介護を受けたいか
- 自宅での生活をどこまで続けたいか
- 施設についてどう考えているか
- できるだけ続けたい生活習慣
- 大切にしたいこと、避けたいこと
などです。
ここで重要なのは、書いた内容が「将来の正解」になるわけではないということです。
体調や家族の状況が変われば、親の希望も変わります。
だから、
「今の時点では、こう考えている」
という記録で十分です。
医療や介護については、この先の状況によって専門的な判断が必要になることもあります。エンディングノートに希望を書いたからといって、すべての場面でその通りになるとは限りません。
それでも、家族が親の希望を知るための大切な手がかりになります。
次に「大切なもの・連絡先・財産の場所」
医療・介護の希望とあわせて、家族が必要な情報にたどり着けるようにしておくことも大切です。
たとえば、
- 家族や親しい人の連絡先
- かかりつけ医
- 加入している保険
- 年金に関する情報
- 銀行の取引先
- 不動産に関する書類
- 大切な書類の保管場所
- 大切にしている品物
などです。
ここでも、金額や暗証番号をエンディングノートにすべて書くという意味ではありません。
むしろ、
「保険の書類は、この引き出し」
「不動産の書類は、このファイル」
「銀行は○○銀行を使っている」
というように、必要な情報がどこにあるのかを家族が探せる状態にしておくことが重要です。
特に通帳や印鑑、重要書類などは、保管方法そのものが防犯上の問題になる場合もあります。
「全部ノートに書いておけば安心」と考えるのではなく、何をどこまで記録するかは家族の状況に合わせて決めましょう。
「親の言葉」を書き留める欄をつくる
ここは、一般的なエンディングノートに、自分で欄を足してほしいところです。
第4章で紹介したように、親の終活で残しておきたいのは財産情報だけではありません。
親が大切にしている暮らしや、続けたいこと、「これは嫌だ」という気持ちも残しておきたい情報です。
市販のエンディングノートにその項目がなければ、自分でページを追加して構いません。
たとえば、こんな欄です。
| これからも続けたいこと | |
|---|---|
| これは嫌だと思っていること | |
| 住み続けたい場所 | |
| 困ったときに頼りたい人 | |
| 家族に伝えておきたいこと |
ここには、子どもが要約した文章ではなく、できるだけ親本人の言葉を残しておきます。
「できれば畑は続けたい」
「知らない土地には行きたくない」
「犬と離れるのは嫌」
そんな短い一言でも十分です。
将来、家族が何かを決める場面で、
「お母さんなら、どうしたいだろう?」
と考えるための手がかりになります。
そして何より、これは財産一覧には残らない、その人自身の気持ちの記録です。
この「わが家の親の言葉」は、エンディングノートを単なる情報整理のノートにしないための、わが家だけのページになります。
エンディングノートと遺言書は別物
エンディングノートと遺言書は、役割が違います。
エンディングノートは、医療・介護の希望や連絡先、大切なもの、家族へのメッセージなど、さまざまな情報を整理して残すために使えます。
一方、遺言書は、法律上の方式に従って作成することで、主に財産の承継などについて法的な効力を持たせるためのものです。
そのため、
「エンディングノートに財産の希望を書いたから、遺言書はいらない」
とは考えないほうが安全です。
相続について具体的な希望がある場合は、遺言書が必要か、どの方式が適切かを専門家に相談する方法があります。
なお、2026年には遺言制度の改正法が成立・公布され、新たに電子データ等で作成し、法務局で保管する「保管証書遺言」が創設されました。もっとも、この新しい方式は2026年9月現在まだ施行されておらず、システム改修を要する部分は、公布の日から3年を超えない範囲で政令が定める日に施行される予定です。
現在も、自筆証書遺言を法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」は利用できます。
遺言書は書き方や方式によって効力に関わるため、詳しい仕組みや法改正については、今後「遺言書の書き方・種類・保管方法」で別途詳しく解説する予定です。
この章のまとめ
エンディングノートは、最初から全部を書き終える必要はありません。
まずは、
- 医療・介護の希望
- 大切なものや連絡先
- 財産や重要書類の場所
- 親が大切にしていること
- 親が「これは嫌だ」と思っていること
- 家族に伝えておきたいこと
から、一つずつ残していきます。
特に、この記事でおすすめしたいのが、「親の言葉」を残すページです。
市販のエンディングノートに書く場所がなければ、自分でページを足せばいい。
「これからも畑を続けたい」
「できれば今の家で暮らしたい」
「ペットとは離れたくない」
そんな一言が、将来の家族にとって大切な手がかりになります。
終活で残すのは、財産の情報だけではありません。
親がどんな人生を大切にしてきたのか。その気持ちも、家族に残せるものです。
まずは今日、親に一つ聞いてみる。
そして、その言葉を一行だけ書き留めておく。
それだけでも、認知症になる前の終活は始まります。
第6章 認知症になる前に知っておきたい成年後見制度・家族信託

親の認知症に備えて財産管理を考えるとき、成年後見制度や任意後見制度、家族信託などの仕組みがあります。
ただし、制度は「知っているから安心」というものではありません。親の判断能力や財産、家族関係、何をしたいのかによって、必要な仕組みは変わります。
まずは、それぞれがどんな制度なのかを知るところから始めましょう。
成年後見制度とは(現行制度)
現在の成年後見制度は、認知症などによって判断能力が不十分になった人を、法律面や財産管理などの面から支援する制度です。
現在は、法定後見制度と任意後見制度の大きく2つがあります。法定後見には「後見・保佐・補助」の3つの類型があります。
法定後見制度では、本人の判断能力の程度に応じて家庭裁判所が成年後見人・保佐人・補助人を選びます。
たとえば、本人に代わって契約などの法律行為を行ったり、制度に応じた範囲で本人がした法律行為を取り消したりすることができます。
「認知症になったら、家族が代わりに銀行や不動産の手続きをすればいい」と思いがちですが、家族だからというだけで本人の財産を自由に管理できるわけではありません。
だからこそ、親が元気なうちから制度の存在を知っておく意味があります。
ただし、成年後見制度にはできることと、できないことがあります。
そこを知らずに「成年後見人になれば何でもできる」と考えないことが大切です。
2026年の法改正で、成年後見制度はどう変わるのか
2026年には、成年後見制度を大きく見直す法律が成立・公布されました。ただし、2026年9月現在、成年後見制度の見直しはまだ施行されていません。
2026年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。
この改正では、現在の「後見」と「保佐」の制度を廃止し、「補助」の制度に一元化することなどが盛り込まれています。本人にとって必要な範囲で制度を利用できる仕組みを目指す改正です。
ここは、記事を読む時点での制度を間違えないためにも、時系列で整理しておきましょう。
| 時期 | 状態 |
|---|---|
| 現在(〜2026年6月) | 現行の成年後見制度「後見・保佐・補助」 |
| 2026年6月 | 改正法が成立・公布 |
| 改正後(施行後) | 「後見・保佐」を廃止し、「補助」に一元化する制度へ |
| 施行時期 | 公布から2年6か月を超えない範囲で、これから政令で定められる |
成年後見制度の見直しに関する改正は、2026年6月24日の公布から2年6か月を超えない範囲で、政令で定める日に施行されます。つまり、2026年9月現在は、まだ現行制度が続いています。
「成年後見制度が変わるから、今は何もしなくていい」と考える必要もありません。
また、改正されても変わらないことがあります。
任意後見契約や家族信託など、本人の意思・判断能力が前提となる手続きには、できる時期があります。認知機能に不安が出てからでは選択肢が限られる場合があるため、早めに専門家へ相談することが大切です。
2026年の改正については今後、施行日や具体的な運用が決まるため、制度を利用するときは最新の法務省情報を確認する必要があります。
任意後見制度とは
任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来支援してほしい人や、任せたい事務をあらかじめ契約で決めておく制度です。
法定後見とは違い、「誰に任せるか」「どんなことを任せるか」を本人自身が決められる点が特徴です。契約は公正証書で行います。
たとえば、
「将来、自分で銀行の手続きが難しくなったら娘に任せたい」
「できるだけ自宅で暮らせるように支援してほしい」
といった希望を、契約の中で定めておくことができます。
そして本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、任意後見人が契約に定めた事務を行う仕組みです。
つまり、任意後見は「認知症になってから考える制度」というより、元気なうちに将来に備えて契約しておく制度です。
家族信託とは
家族信託は、家族などに財産の管理や運用を託す「民事信託」の一つとして利用されている仕組みです。
親が財産を持ったまま、管理する役割を家族に託すなど、契約内容を家庭の目的に合わせて設計することができます。
たとえば、親が所有する不動産について、
「今は親が使う」
「将来、管理が難しくなったら子どもが管理する」
といった形を検討するケースがあります。
信託協会も、家族信託(民事信託)は、信託銀行等の業者以外の方が受託者として設定される仕組みのため、信託協会の相談窓口では対応しておらず、家族信託に詳しい弁護士や司法書士などへの相談を案内しています。
ただし、家族信託は「認知症対策なら、とりあえずやっておけばいい」という制度ではありません。
信託する財産、受託者、受益者、契約内容などを具体的に設計する必要があるため、家庭によって適切な形が異なります。
それぞれ何が違う?
成年後見、任意後見、家族信託は、目的と仕組みが違います。
| 制度 | 大まかな特徴 | 考えるタイミング |
|---|---|---|
| 法定後見 | 判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が後見人等を選ぶ | 判断能力が低下した後も利用可能 |
| 任意後見 | 元気なうちに、将来の支援者や内容を契約で決めておく | 本人に十分な判断能力があるうち |
| 家族信託 | 家族などに財産の管理・処分などを託す仕組み | 契約内容を検討できる段階 |
法定後見は「判断能力が低下した後の支援」、任意後見は「元気なうちに将来の支援を決めておくこと」が大きな違いです。家族信託は、財産をどのように管理・承継したいのかという目的から検討します。
だから、
「家族信託がいい」
「成年後見は避けたほうがいい」
と一律に決めることはできません。
親の希望と家庭の事情を整理したうえで、必要な制度を考えることが大切です。
制度でカバーできないこともある
制度を整えても、親の生活に関するすべてを家族や専門家が代わりに決められるわけではありません。
特に、医療行為への同意や入院時の身元保証などは、成年後見制度だけですべて解決できるものではありません。
たとえば、
「入院するとき、誰に連絡してほしい?」
「誰に病院へ付き添ってほしい?」
「どんな医療を望んでいる?」
といったことは、制度とは別に親本人の希望を聞いておく必要があります。
成年後見人についても、医療行為そのものへの同意権限が当然に与えられるわけではありません。
だからこそ、第2章で紹介した「誰に頼りたいのか」、第4章の「親が何を大切にしているのか」がここでもつながってきます。
制度を整えることと、親の気持ちを知っておくことは、別々の備えです。
どちらか一方だけで十分なのではありません。
どの制度を選ぶべきか、家庭によって違います
どの制度が自分の親に合っているのかは、家庭によって違います。
親の判断能力、財産の内容、不動産の有無、家族関係、誰に何を任せたいのかによって、検討する制度は変わります。
たとえば、
「自宅をできるだけ残したい」
「賃貸物件を持っている」
「子どもに財産管理を任せたい」
「将来の生活について、特定の人に支援を頼みたい」
など、目的によって考え方が変わります。
ここで大切なのは、制度の名前を覚えて終わらないことです。
まず親に、
「もし自分で管理するのが難しくなったら、誰に何を頼みたい?」
と聞いてみる。
その答えを整理してから、必要なら司法書士、弁護士、行政書士、公証人など、内容に応じた専門家へ相談する。
この順番なら、「制度ありき」の終活になりにくくなります。
親の終活について、誰に何を相談すればいいのか迷ったときは、関連記事「親の終活は誰に相談する?」も参考にしてください。
この章のまとめ
認知症になる前の財産管理には、成年後見制度、任意後見制度、家族信託などの選択肢があります。
ただし、どの制度が一番いいかは家庭によって違います。
そして2026年には成年後見制度の大きな改正が成立しましたが、2026年9月現在はまだ施行されていません。
当面は現行制度が続くため、「制度が変わるから今は考えなくていい」とも、「今すぐ制度を決めなければ」とも考える必要はありません。
まずは、
親は誰に、何を頼みたいのか。
そこを聞いてみる。
そのうえで、必要になったときに専門家へ相談する。
終活で大切なのは、制度を選ぶことそのものではありません。
親が大切にしている暮らしを守るために、どんな備えが必要なのかを一緒に考えることです。
第7章 遠方に住む50代の子が親の認知症に備える方法

親と離れて暮らしていると、「何かあっても、すぐには行けない」という不安があります。
でも、遠方に住んでいても、親の認知症に備えてできることはあります。
大切なのは、帰省したときだけ親のことを考えるのではなく、普段から情報をつないでおくことです。
帰省したときに確認する3つ
遠方に住んでいるなら、帰省したときは「親の暮らし」「大切な情報」「これからの希望」の3つを確認する機会にしましょう。
電話だけでは分からないことも、実家で一緒に過ごすと見えてきます。
①親の暮らしを見る
まずは、親が普段どんな生活をしているのかを見てみます。
たとえば、
- 食事はきちんと取れているか
- 家の中に困っていることはないか
- 車をどのように使っているか
- 薬の管理はどうしているか
- 郵便物や書類がたまっていないか
などです。
「大丈夫?」と聞くだけではなく、一緒に買い物をしたり、病院へ付き添ったりすることで分かることもあります。
②重要な情報がどこにあるか確認する
次に、銀行、保険、年金、不動産などの重要な情報が、どこに保管されているかを確認します。
すべての内容をその場で整理する必要はありません。
「保険の書類はどこ?」
「大事な書類はどこにまとめてある?」
と聞いておくだけでも、いざというときの手がかりになります。
③親の「これから」を聞く
そして、帰省したときだからこそ聞いておきたいのが、親のこれからの希望です。
「この家には、いつまで住みたい?」
「もし一人で暮らせなくなったら、どうしたい?」
「困ったときは誰に頼りたい?」
電話では話しにくいことも、同じ場所でお茶を飲みながらなら話せることがあります。
遠距離の親の終活では、帰省を「情報収集の日」にするのではなく、親と一緒に過ごしながら、少しずつ知っていく時間にすることが大切です。
電話で聞いておきたいこと
帰省できない期間も、電話で確認できることはあります。
特に、親の暮らしの変化や希望に関することは、普段の会話の中で聞いておくと安心です。
たとえば、
「最近、病院どう?」
「薬はちゃんと飲めてる?」
「車の運転、今も変わらずしてる?」
「近所の○○さんとは会ってる?」
「この前言ってた庭の手入れ、どうしてる?」
といった聞き方です。
ここで大切なのは、「認知症のチェックをする」という気持ちで電話しないこと。
親の生活に関心を持って話を聞く。
その会話の中で、「最近ちょっと困っていることがある」と親が話してくれることがあります。
また、第2章で紹介したように、
「もし入院したら、誰に連絡してほしい?」
「これからも、この家に住みたい?」
「困ったときは誰に頼りたい?」
といった質問も、電話で確認できます。
一度ですべて聞こうとせず、普段の会話に一つずつ混ぜていく。
それなら、親にとっても「終活の聞き取りをされている」という感覚になりにくいでしょう。
きょうだいとの情報共有
親と離れて暮らしている場合、きょうだいとの情報共有が特に重要になります。
近くに住むきょうだいだけが親の状況を知っていて、遠方のきょうだいには何も伝わっていないという状態は避けたいところです。
たとえば、家族のLINEグループなどで、
- 最近の親の様子
- 病院や介護に関すること
- 親が話していた希望
- 重要な書類の場所
- 今後確認したいこと
などを共有しておきます。
ここで大切なのは、一人のきょうだいに情報や判断を集中させないことです。
私自身、家族の終活について考える中で、「誰かが動いてくれているから大丈夫」と思っていた時期がありました。
ところが、実際には、動いている人と、状況を十分に理解できていない人の間に差ができていました。
遠くにいると、その差はさらに大きくなります。
専門家を探していることを後から知ったり、家族の中で話が進んでいるのに、自分には詳しいことが伝わっていなかったり。
そんな経験から私が感じたのは、「誰かがやってくれている」だけではなく、「家族みんなが今どうなっているのかを知っている」ことも大切だということです。
もちろん、すべての家庭が同じ方法で情報共有する必要はありません。
それぞれの家族に合った方法で、「親について知っていること」をつないでおく。
遠方に住む子にとって、これはできる大切な備えの一つです。
緊急時の連絡先をまとめる
遠方に住んでいるなら、「何かあったとき、誰に連絡すればいいのか」を家族で共有しておくことが重要です。
親本人だけでなく、近所の人やきょうだい、かかりつけ医など、状況に応じた連絡先を整理しておきます。
たとえば、次のような順番で「誰が誰に連絡するのか」を決めておく方法があります。
- 親
- 近くに住むきょうだい
- 遠方に住む子
- かかりつけ医・介護関係者など
もちろん、実際の連絡先や順番は家庭によって違います。
大切なのは、「親が倒れたら誰が最初に動く?」ということを、何も起きていないときに一度考えておくことです。
スマートフォンだけに保存せず、家族で共有できる場所に緊急連絡先をまとめておくとよいでしょう。
遠方にいるからこそ、「現地で動いてくれる人」が誰なのかを知っておくことが安心につながります。
地域包括支援センターを知っておく
親の認知症や介護が心配になったときは、親が住んでいる地域の地域包括支援センターが相談先の一つになります。
地域包括支援センターは、高齢者の介護や生活、健康、権利擁護などについて相談できる地域の窓口です。
厚生労働省も、地域包括支援センターを高齢者の総合相談や権利擁護などを担う、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として位置づけています。
ここで覚えておきたいのは、親が困ってから探すのではなく、元気なうちに場所を調べておくことです。
親の住所地を確認して、
「うちの親を担当する地域包括支援センターはどこだろう?」
と一度調べておく。
これなら、遠方に住んでいてもできます。
地域包括支援センターは、介護が必要になったときだけの窓口ではありません。
「最近、親の様子が少し気になる」
「介護について、どこに相談すればいいか分からない」
という段階でも相談先になります。
ただし、具体的な支援内容や担当窓口は地域によって異なります。厚生労働省の案内から、親の住所地を担当する窓口を確認しておくと安心です。
この章のまとめ
親と離れて暮らしているからといって、親の認知症への備えができないわけではありません。
帰省したときには、
- 親の普段の暮らしを見る
- 大切な情報の保管場所を確認する
- 親の「これから」を聞く
電話では、
- 最近困っていることはないか
- 病院や薬のこと
- 暮らしの変化
- これからの希望
などを、普段の会話の中で聞いてみる。
そして、きょうだいと情報を共有し、緊急時の連絡先をまとめ、親の住所地にある地域包括支援センターも調べておく。
全部を一度にする必要はありません。
「次に帰省したら一つ聞いてみる」
「今度の電話で一つ確認してみる」
それだけでも十分です。
親と離れているからこそ、できることがあります。
距離を埋めるのは、帰省の回数だけではありません。
親のことを知ろうとする小さな会話を、続けていくこと。
それも、親の認知症に備える大切な方法です。
第8章 きょうだいで親の終活を進めるときに決めておきたいこと

親の終活を考えるとき、意外と難しいのが「きょうだいでどう分担するか」です。
親のことは、きょうだい全員に関係があります。でも、住んでいる場所や仕事、親との関係はそれぞれ違います。
「近くに住んでいるから、私がやる」
「長男だから任せよう」
「詳しい妹にお願いしておけば大丈夫」
そんなふうに自然に役割が決まっていくこともあります。
けれど、何も決めないまま一人に任せていると、その人だけに負担が集中したり、ほかのきょうだいが親の状況を知らないままになったりします。
認知症への備えという意味でも、親のことを誰が、どこまで担うのかを、元気なうちに話しておくことには意味があります。
誰が親と話す?
親との話し合いは、きょうだいの中で「一番親が話しやすい人」が中心になるのも一つの方法です。
親の終活は、いきなりきょうだい全員で話し合えばうまくいくとは限りません。親にとっては、子どもから一斉に聞かれることで「何か悪いことでも起きたの?」と身構えてしまうこともあります。
たとえば、
「これからもこの家に住みたい?」
「病院や介護のことで、こうしてほしいということはある?」
「困ったとき、誰に頼りたい?」
こうした話は、親が普段から話しやすい子どもが聞くほうが、本音が出やすい場合があります。
ただし、話を聞く人と、最終的にすべてを背負う人は別です。
一人が親の気持ちを聞き、内容をきょうだいで共有するという形でもいいのです。
誰が親と話すかを決めることは、誰か一人に親の問題を押しつけることではありません。
「この話は誰から聞くと、親が話しやすいだろう?」
そんな視点から考えてみると、役割を決めやすくなります。
誰が財産情報を整理する?
財産に関する情報は、きょうだいの誰か一人だけが把握する状態にしないことが大切です。
銀行口座や保険、不動産、年金など、親のお金に関する情報は、認知症への備えとしても重要になります。
ただし、ここでいう「整理」は、子どもが親のお金を管理するという意味ではありません。
たとえば、
- どの銀行を利用しているか
- 保険に加入しているか
- 不動産を所有しているか
- 大切な書類をどこに保管しているか
など、必要になったときに確認できる場所を知っておくことです。
「お母さんのお金のことは、全部お姉ちゃんに任せている」
という状態より、
「財産に関する情報はここにまとめてある。必要になったら、きょうだいで確認できる」
という状態のほうが、後々の行き違いを減らせます。
特に、親の認知機能が低下したあとに、一人の子どもだけがお金の出し入れをする状況になると、ほかのきょうだいから見て分からない部分が生まれます。
「何かあったときに確認できるよう、情報を共有しておく」ことが、きょうだい間の安心にもつながります。
誰が病院・介護の窓口になる?
病院や介護に関する連絡は、近くに住んでいるきょうだいが担当するなど、生活環境に合わせて決めると現実的です。
親の通院に付き添う、介護サービスの連絡を受ける、ケアマネジャーなどとやり取りする――。こうした役割は、遠方に住む子どもには難しい場合があります。
一方で、近くに住むきょうだいだけがすべてを担うと、負担が大きくなります。
そこで、
近くのきょうだい=病院や介護の対応
遠方のきょうだい=書類整理や情報共有、必要なときの帰省
というように、できることを分ける方法があります。
たとえば、病院への付き添いは近くに住む妹、保険や書類の整理は兄、親との定期的な電話は私、と決めることもできます。
大切なのは、「平等に同じことをする」ことではありません。
それぞれの生活の中で、無理なく担える役割を決めること。
親の状態が変わってから慌てて決めるのではなく、まだ元気なうちに「誰なら何ができる?」と話しておくと、いざというときの負担が偏りにくくなります。
情報を一人だけが抱えない
認知症への備えでは、親に関する情報を一人だけが抱え込まないことが特に重要です。
親の希望や健康状態、財産に関する情報を一人だけが知っていると、その人が対応できないときに、ほかのきょうだいが何も分からなくなります。
さらに、お金の管理について「聞いていた話と違う」「何に使ったのか分からない」といった疑念が生まれると、きょうだいの関係まで悪くなることがあります。
もちろん、誰かが親のお金を管理しているからといって、不正があるという話ではありません。
だからこそ、最初から「一人だけが知っている状態をつくらない」ことが大切です。
たとえば、
- 親の希望
- 重要な連絡先
- 医療・介護に関する情報
- 保険や不動産などの所在
- きょうだいで決めた役割
などを、きょうだいで確認できる形にしておきます。
「動いている人」と「その内容を十分に知らない人」がいる状態は、きょうだいの中で自然に生まれやすいものです。
最初は小さな差でも、親に何か起きたときには一気に表に出ます。
だからこそ、親の終活では「誰がやるか」だけでなく、「その情報を誰が知っているか」まで考えておくことが大切です。
きょうだい全員が同じ量の作業をする必要はありません。
でも、親のことを一人だけの問題にしない。
それだけでも、これから先のきょうだいの関係は変わってきます。
きょうだいでの役割分担や、親の財産をめぐって揉めないための具体的な話し合い方については、関連記事「親の終活で兄弟がもめないために」もあわせてご覧ください。
この章のまとめ
親の終活をきょうだいで進めるときは、最初から完璧な役割分担を決める必要はありません。
まずは、
- 親と話す人
- 財産情報を整理する人
- 病院・介護の窓口になる人
- 情報を共有する方法
この4つを考えてみましょう。
そして、もう一つ大切なのが、一人だけに情報も負担も集中させないことです。
親が元気な今なら、「もし何かあったらどうする?」ではなく、
「私たち、親のことをどう分担していこうか」
と、もっと気軽に話せます。
終活は、親の人生を子どもが管理するためのものではありません。
親の希望を知り、その希望をきょうだいで支えていくための準備でもあります。
まずはきょうだいの誰か一人に、
「お父さん、お母さんのこと、これからどうしていこうか?」
と話してみるところから始めてみませんか。
第9章 親がすでに認知症かもしれないと感じたら

ここまで読んで、「うちの親は、もう認知症かもしれない」と感じた人もいるかもしれません。
物忘れが増えた。
同じ話を何度もするようになった。
以前できていたことに時間がかかるようになった。
そんな変化に気づくと、「もっと早く終活を始めておけばよかった」と焦ってしまいます。
でも、「認知症かもしれない」と感じた時点で、すべてが遅くなったわけではありません。
大切なのは、家族だけで認知症かどうかを判断することではなく、気になる変化をそのままにせず、医療や介護の専門家につなげることです。
「年齢のせい」と決めつけない
親の物忘れや変化が気になったら、「もう年だから」と決めつけず、一度相談することが大切です。
物忘れなどの変化には、認知症以外の原因が関係していることもあります。だからこそ、家族だけで判断するのではなく、医療機関などで確認することに意味があります。
たとえば、
「最近、同じことを何度も聞くようになった」
「薬を飲んだかどうか分からなくなることが増えた」
「以前よりお金の管理が難しそうに見える」
といった変化があったとしても、それだけで認知症とは判断できません。
「認知症になった」と決めつけて親に接すると、親自身が傷つくこともあります。
まずは「最近どう?」「何か困っていることはない?」と、普段の会話から様子を見ていく。
気づきを、診断に変えるのは医療機関です。家族の役割は、気づきを相談につなげることです。
軽度認知障害(MCI)という段階がある
「認知症か、そうでないか」の二択で考える必要はありません。認知症と健常な状態の中間にあたる、MCI(軽度認知障害)という段階があります。
厚生労働省は、MCIを「認知症そのものではないが、健常な状態でもない」と説明しています。日常生活に大きな支障がない場合もあり、その後、認知症に進む人もいれば、健常な状態に戻る人もいます。
ここは、この章でぜひ覚えておいてほしいところです。
MCIだからといって、「もう親に何も聞けない」ということではありません。
厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでも、認知症の軽度の段階から、本人や家族、関係者で話し合い、これから起こりうることについてあらかじめ考えておくことが重要だとされています。
たとえば、
「これからも今の家で暮らしたい?」
「もし介護が必要になったら、どんな暮らしがいい?」
「病院や介護のことで、家族にしてほしいことはある?」
こうした話を、親が話せるうちに聞いておく。
第1章でお伝えした「認知症になる前だからこそ確認できること」は、MCIなどの段階でも、本人の意思を確認しながら考えていける場面があります。
もちろん、MCIと診断されたからといって、すべての人が同じ状態になるわけではありません。
だからこそ、診断名だけを見て「もう何もできない」と考えず、その時点で親本人が何を理解し、何を望んでいるのかを大切にすることが重要です。
気になる変化があれば医療機関へ
認知症かどうかが気になるときは、医療機関に相談することが最初の一歩です。
厚生労働省も、認知症が疑われる症状に気づいたときの相談先として、医療機関や地域包括支援センターなどを案内しています。早い段階で気づき、適切な治療につながることで、薬によって認知症の進行を遅らせられる場合もあります。
受診先は、まずかかりつけ医に相談する方法があります。
必要に応じて、認知症疾患医療センターなど、認知症の専門的な診療や相談に対応する医療機関につながることもあります。認知症疾患医療センターには、鑑別診断や専門医療相談、関係機関との連携などの役割があります。
ここで大切なのは、親を「病院に連れていく」という発想だけにしないことです。
「最近、物忘れが増えたから認知症の検査を受けて」
と言われたら、親も身構えます。
「最近ちょっと気になることがあるから、一緒に先生に聞いてみない?」
そんな伝え方なら、受診へのハードルを下げられる場合があります。
そして、受診前には、家族が気になった変化を簡単にメモしておくと、医師に伝えやすくなります。
診断を急ぐのではなく、気づいた変化を専門家につなぐ。
それが、親の認知症に備えるための現実的な一歩です。
地域包括支援センターに相談する
「病院に行くほどなのか分からない」「介護のことも含めて相談したい」というときは、地域包括支援センターが相談先になります。
地域包括支援センターは、高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるよう、保健・医療・介護などについて相談できる窓口です。認知症についても、必要に応じて認知症疾患医療センターや認知症初期集中支援チームなどと連携して対応します。
認知症初期集中支援チームは、医療・介護の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人、その家族を訪問し、必要な医療や介護の導入・調整、家族への支援などを行う仕組みです。
「まだ認知症と決まったわけではないのに、相談していいの?」
そんな遠慮はいりません。
「親の物忘れが気になっている」
「本人は病院に行きたがらない」
「これから介護が必要になるのか知りたい」
この段階から相談していいのです。
親が住んでいる地域の地域包括支援センターは、自治体のホームページなどから確認できます。
親に何か大きな変化が起きてから探すのではなく、元気なうちに「ここが相談先なんだ」と知っておくとよいでしょう。
いざというとき、相談先を知っていれば、家族の焦りは少し変わります。
すでに判断能力が低下している場合は専門家へ
親の判断能力がすでに大きく低下していると感じる場合は、家族だけで財産管理や重要な契約を進めようとせず、医療・介護の専門職や法律・福祉の専門家に相談することが大切です。
認知症が進んだ場合でも、本人の意思を尊重することが重要です。
厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでは、認知症の人には意思があることを前提に、その人の認知能力に応じて情報を分かりやすく伝え、本人の意思や選好を尊重しながら支援する考え方が示されています。
つまり、
「認知症だから、本人に聞いても仕方がない」ではありません。
本人が理解できるように伝え、時間をかけて話を聞く。
必要に応じて家族や医療・介護などの関係者がチームになって支える。
それが、認知症になった後の意思決定支援です。
一方で、財産管理や契約など、法律上の判断が関係する問題は別に考える必要があります。
「家族だけで何とかしよう」と抱え込まず、状況に応じて成年後見制度などの制度について専門家に相談することも選択肢になります。
第6章では、成年後見制度や任意後見、家族信託について整理しました。
もし今、「うちの場合は何を選べばいいの?」と感じているなら、制度を先に決めるのではなく、まず親の現在の状態と困っていることを整理し、専門家につなぐところから始めれば十分です。詳しくは、関連記事「親の終活は誰に相談する?」もあわせてご覧ください。
この章のまとめ
親が「認知症かもしれない」と感じたからといって、もう遅いわけではありません。
まず覚えておきたいのは、この4つです。
- 年齢のせいと決めつけず、気になる変化は専門家につなぐ
- MCIは認知症そのものではなく、健常な状態との中間にあたる段階
- 気になるときは医療機関や地域包括支援センターに相談する
- 判断能力が低下している場合も、本人の意思を尊重しながら専門家と支える
そして、この記事の前半でお伝えしたことも、すべて無駄になるわけではありません。
親がまだ話せるなら、今からでも聞けることがあります。
「これから、どこで暮らしたい?」
「どんなふうに過ごしたい?」
「困ったとき、誰に頼りたい?」
認知症への備えというと、財産管理や制度のことばかり考えてしまいます。
でも、その前にあるのは、親がどんなふうに生きていきたいのかを知ることです。
「もう遅いかも」と思っている今だからこそ、親に一つだけ聞いてみませんか。
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
その一言が、親の終活の次の一歩になるかもしれません。
第10章 今日からできる「親の終活・認知症対策」3ステップ

ここまで読んで、「親の終活、何か始めたほうがいいのは分かった。でも、何から?」と感じている人もいるでしょう。
大丈夫です。
最初からエンディングノートを全部埋めたり、財産をすべて整理したりする必要はありません。
今日できることを、一つずつ。
親の認知症に備えるために、私がまず始めたいのは、この3つです。
- 親に「これからどう暮らしたい?」と聞く
- 重要な情報を一つだけ整理する
- きょうだいに共有する
終活は、たくさんのことを一気に片づける作業ではありません。
親のこれからを知り、必要な情報を少しずつ残し、家族で共有していく。
その積み重ねで十分です。
STEP1 親に「これからどう暮らしたい?」と聞く
最初の一歩は、親の希望を聞くことです。
財産のことでも、相続のことでもありません。
まずは、「これからどんなふうに暮らしたい?」と聞いてみます。
たとえば、
「これからも今の家に住みたい?」
「できるだけ自分のことは自分でしたい?」
「もし介護が必要になったら、どんな暮らしがいい?」
「困ったときは、誰に頼りたい?」
こんな質問なら、終活という言葉を使わなくても話せます。
この記事で繰り返しお伝えしてきたように、親の認知症に備えることは、財産を守ることだけではありません。
親が大切にしている暮らしや、「これは嫌だ」と思っていることを知っておくことも大切です。
もし認知機能が低下したとしても、親が元気なうちに聞いた言葉は、家族が親の希望を考えるうえで大切な手がかりになります。
だからこそ、難しい質問を準備するより、普段の会話の中で一つ聞いてみる。
それで十分です。
親への切り出し方に迷ったら、関連記事「親の終活の切り出し方|50代が親を傷つけずに話すコツ」も参考にしてください。
STEP2 重要な情報を一つだけ整理する
次にするのは、重要な情報を一つだけ整理することです。
ここで大切なのは、「一つだけ」ということ。
終活を始めようとすると、
「銀行口座も整理しないと」
「保険も確認しないと」
「不動産も調べないと」
「エンディングノートも書いてもらわないと」
と、やることがどんどん増えていきます。
でも、最初から全部やろうとすると、かえって何も進みません。
たとえば今日は、
「通帳はどこに保管している?」
これだけでもいいのです。
親に聞いて、保管場所が分かったら、その情報を家族が確認できるようにしておく。
それだけで一つ前進です。
次の機会に保険、その次に不動産――と、必要に応じて少しずつ増やしていけばいい。
「全部整理できていないから意味がない」ではありません。
一つ分かるだけでも、いざというときに家族が困ることを一つ減らせます。
私自身、親のことを考えるとき、「これも、あれも」と一度に考えると、かえって動きにくくなります。
だからこそ、親の終活も「今日は一つだけ」と区切って考える。
そのくらいのペースが、長く続けるにはちょうどいいのです。
STEP3 きょうだいに共有する
最後は、整理した情報をきょうだいに共有することです。
親の終活は、一人だけで抱え込まないことが大切です。
たとえば、
「今日、お母さんに聞いたら、通帳はこの場所にあるそうだよ」
「お父さんは、できるだけ今の家で暮らしたいと言っていたよ」
そんな簡単な共有で構いません。
きょうだい全員が同じ役割を担う必要はありません。
近くに住んでいる人が親とのやり取りを担当し、遠くに住んでいる人が情報を整理する。
それぞれの生活に合わせて、できることを分ければいいのです。
ただ、一人だけが親の希望や重要な情報を知っている状態は避けたいところです。
特に認知症への備えでは、親のお金や契約に関する情報が一人に集中すると、後になって「聞いていた話と違う」という行き違いにつながることがあります。
だから、何か一つ整理したら、きょうだいにも伝える。
「やったこと」だけでなく、「分かったこと」も共有する。
それが、家族で親を支えるための土台になります。
きょうだいでの具体的な役割分担や、揉めないための話し合い方については、関連記事「終活 きょうだい もめない」で詳しく紹介しています。
この章のまとめ
親の認知症に備えるために、今日からできることは、難しいことではありません。
STEP1 親に「これからどう暮らしたい?」と聞く
STEP2 重要な情報を一つだけ整理する
STEP3 きょうだいに共有する
この3つだけです。
エンディングノートを全部書いてもらう必要もありません。
財産をすべて洗い出す必要もありません。
まずは、親の言葉を一つ聞く。
重要な情報を一つ知る。
それを家族に一つ伝える。
その繰り返しでいいのです。
終活という言葉を聞くと、「もしもの準備」という少し重たい印象を持つ人もいるでしょう。
でも、ここまで親のことを考えてきた私は、終活はそれだけではないと感じています。
親がこれからどう生きたいのかを知る時間でもある。
だから、今日できることを一つだけ選んでみませんか。
私なら、まず親にこう聞きます。
「これから、どんなふうに過ごしたい?」
そこから始まる終活があってもいいのです。
FAQ 親の終活と認知症についてよくある質問

ここまで読んでも、「実際にうちの場合はどうしたらいい?」と迷うことはあるでしょう。
ここでは、親の認知症への備えについて、よくある疑問をまとめます。
Q1.親が認知症になったら、子どもが銀行口座を管理できますか?
親が認知症になったからといって、子どもが自由に親の銀行口座を管理できるわけではありません。
銀行取引では、本人の認知判断能力や代理権の有無などが関係します。全国銀行協会も、認知判断能力が低下した本人の取引について、状況に応じて成年後見制度などの利用を促すことが一般的としています。
たとえば、親の入院費や施設費を支払うために、子どもが親の口座からお金を引き出したいと思っても、「親子だから」という理由だけで自由にできるとは限りません。
一方、本人に判断能力があるうちに、金融機関の代理人制度などを利用できる場合もあります。具体的な取り扱いは金融機関によって異なるため、元気なうちに取引先の銀行へ確認しておくと安心です。全国銀行協会も、各銀行によって対応が異なることを明記しています。
だからこそ、認知症になる前の親に、
「もし私たちが必要になったとき、銀行のことはどうしてほしい?」
と聞いておくことには意味があります。
Q2.認知症になってから家族信託はできますか?
家族信託は、親本人の意思・判断能力が必要になるため、認知症になってから必ず利用できるとはいえません。
家族信託は、親が財産を託すことについて本人の意思を示し、契約を結ぶことが前提になります。すでに判断能力が低下している場合は、契約できるかどうかを個別に判断する必要があります。
たとえば、「実家を将来どうするか決めておきたい」と考えていても、親が契約内容を理解して意思表示することが難しい状態になっていれば、家族だけの判断で家族信託を始めることはできません。
そのため、家族信託を検討しているなら、「認知症になってから考える」のではなく、親が元気な段階で専門家に相談することが大切です。
なお、家族信託を利用すべきかどうかは、財産の内容や家族構成、親の希望によって変わります。
「家族信託をすること」自体を目的にせず、まず親が何を望んでいるのかを整理するところから始めるとよいでしょう。
Q3.親が終活を嫌がったらどうすればいいですか?
無理に「終活をしよう」と説得する必要はありません。
親が終活を嫌がる理由は、「死を考えたくない」「子どもに迷惑をかけたくない」「まだ自分には必要ない」など、人によって違います。
そんなときに、
「認知症になったら困るから」
「今のうちに全部決めておかないと」
と不安を並べても、親が心を閉ざしてしまえば話は進みません。
「手続きを進めること」と「親が何を望んでいるかを知ること」は、別のことです。誰かが動いてくれているからといって、親の気持ちを聞く機会が自然に生まれるとは限りません。
だから、最初は終活という言葉を使わなくてもいい。
「これからもこの家に住みたい?」
「もし動けなくなったら、誰に頼りたい?」
そんな一つの質問から始める方法があります。
親が「まだ早い」と言ったら、一度引いても大丈夫です。
終活は、一度の話し合いで全部決めるものではありません。
Q4.エンディングノートを書けば認知症対策になりますか?
エンディングノートは認知症への備えに役立ちますが、それだけで十分ではありません。
エンディングノートには、医療や介護の希望、連絡先、財産に関する情報などを整理して残せるというメリットがあります。
特に、「自分で決めることが難しくなったら、こうしてほしい」という親の希望を家族が知る手がかりになります。
ただし、エンディングノートそのものに、遺言書のような法的効力があるわけではありません。
また、ノートを書いて終わりではなく、内容が変わったら更新することも必要です。
最初から一冊を完成させる必要はありません。
「医療について一つ」
「連絡先について一つ」
「大切な書類の場所について一つ」
というように、少しずつ残していく方法でも十分です。
Q5.認知症になる前に遺言書は必要ですか?
すべての家庭に遺言書が必要というわけではありませんが、親の財産をめぐる相続について希望がある場合は、検討する意味があります。
エンディングノートと遺言書は役割が違います。
エンディングノートは、家族へのメッセージや医療・介護の希望、財産情報などを整理するためのもの。
一方、遺言書は、相続について法的な効力を持たせるための重要な手段です。
たとえば、
「特定の子にこの財産を残したい」
「自宅を誰に引き継ぎたい」
など、相続について明確な希望がある場合には、遺言書を検討する場面があります。
ただし、遺言書が必要かどうか、どの方式が適しているかは、家族構成や財産の状況によって変わります。
「認知症対策だから、とりあえず遺言書」ではありません。
親の希望と家族の状況を整理したうえで、必要なら専門家に相談するという順番で考えれば大丈夫です。
Q6.親が遠方に住んでいる場合はどうすればいいですか?
遠方に住んでいても、親の認知症への備えはできます。
毎回帰省してすべてを確認する必要はありません。
電話で、
「最近、病院どう?」
「薬はちゃんと飲めてる?」
「これからも今の家で暮らしたい?」
といった会話を続けるだけでも、親の変化や希望を知るきっかけになります。
また、帰省したときに「重要な書類はどこにある?」と一つだけ確認しておく方法もあります。
さらに、親の住んでいる地域の地域包括支援センターを知っておくと、介護や認知症について相談したいときの窓口になります。
遠くに住んでいるから何もできないのではありません。
離れているからこそ、「情報をつなげておく」ことが親の認知症への備えになります。
Q7.きょうだいの一人だけが親のお金を管理してもいいですか?
一人だけが管理すること自体を一律に否定するものではありませんが、情報まで一人に集中させないことが大切です。
親の近くに住んでいるきょうだいが、日常的な支払いなどを担当するケースもあります。
問題になるのは、「誰が管理しているか」だけではなく、ほかのきょうだいが何も知らない状態になることです。
たとえば、
「親の通帳はどこにあるのか」
「何の支払いをしているのか」
「親がどんな希望を話しているのか」
これらを一人だけが把握していると、あとになって「聞いていた話と違う」という行き違いが生まれやすくなります。
特に認知症への備えでは、親のお金を扱う場面が増える可能性があるため、記録を残し、必要な情報をきょうだいで共有しておくことが、後の誤解や疑念を防ぐ助けになります。
具体的な役割分担や、きょうだいで揉めないための話し合い方は、第8章、および関連記事「終活 きょうだい もめない」でも詳しく紹介しています。
Q8.成年後見制度の法改正を待ったほうがいいですか?
2026年に成年後見制度の見直しに関する法律が成立しましたが、2026年9月現在、改正部分はまだ施行されていません。
2026年6月に成立・公布された「民法等の一部を改正する法律」では、成年後見制度について、現在の「後見」「保佐」を廃止し、「補助」の制度に一元化するなどの見直しが盛り込まれました。
ただし、成年後見制度の見直しに関する改正の施行日は、2026年6月24日の公布から2年6か月を超えない範囲内で政令により定める日とされています。つまり、現時点では改正前の制度が続いています。
そのため、「法改正があるから、今は何もしない」と考える必要はありません。
一方で、「すぐ成年後見制度を利用するべき」と一律に決められるものでもありません。
たとえば、今の親の判断能力、財産の状況、すでに困っていること、本人の希望などによって、必要な対応は変わります。
大切なのは、法改正を待つことと、親の終活を止めることを同じにしないこと。
親の希望を聞く、重要な情報を整理する、きょうだいで共有する。
こうした準備は、制度が変わっても無駄にはなりません。
成年後見制度については、法務省の最新情報を確認しながら、必要になった段階で専門家に相談するのが安心です。法務省も、現在の成年後見制度について法定後見と任意後見の仕組みを案内しています。
この章のまとめ
親の認知症への備えについて調べていると、銀行、家族信託、成年後見、遺言書など、知らない言葉が次々に出てきます。
でも、最初からすべてを理解する必要はありません。
大切なのは、制度を選ぶ前に、親の希望を知ること。
そして、必要な情報を少しずつ整理して、家族で共有することです。
もし今、何から始めようか迷っているなら、制度や書類ではなく、会話から始めてみませんか。
「これからも、この家に住みたい?」
「どんなふうに暮らしていきたい?」
「困ったときは、誰に頼りたい?」
そんな何気ない一言が、親の終活の入口になります。
終活は、親の人生を子どもが管理するためのものではありません。
親が大切にしているものを知り、その思いをこれからにつなぐための時間。
そう考えると、終活の始め方も少し変わってきます。
まずは今日、親に一つだけ聞いてみる。
それで十分です。
まとめ 「認知症になったらどうする?」ではなく「これからどう暮らしたい?」から

親の終活と認知症について、ここまでいろいろなことを考えてきました。
認知症になる前に確認しておきたいこと。
医療や介護の希望。
お金や実家のこと。
エンディングノートや遺言書、成年後見制度、家族信託。
遠くに住んでいる場合の備えや、きょうだいとの役割分担。
こうして並べると、「親の認知症に備えるって、やることがたくさんあるんだ」と感じるかもしれません。
でも、この記事で私が一番伝えたかったのは、制度や書類のことではありません。
親が自分で決めることが難しくなったとき、家族が「この人なら、きっとこう望むだろう」と考えられるようにしておくこと。
そのために、まず知っておきたいのが親自身の言葉です。
親は、どんな暮らしを大切にし、これから何を続けたいと思っているのでしょう。反対に「これは嫌だ」と感じていることや、困ったときに頼りたい相手はいるのでしょうか。
たとえば、
「できるだけ今の家で暮らしたい」
「介護が必要になっても、できれば自宅にいたい」
「ペットと離れるのは嫌」
「最後まで自分で畑を続けたい」
「入院したときは、家族にこうしてほしい」
親にとっては、どれも特別な終活の話ではないかもしれません。
けれど、家族にとっては、いざというときの大切な手がかりになります。
そして、その言葉は書類には書ききれないものでもあります。
だから私は、親の認知症への備えを考えるとき、「何を準備するか」だけでなく、「親のことをどれだけ知っているか」も大切にしたいと考えています。
認知症になったら、すべてが終わるわけではありません。
認知症になった後も、本人の意思を尊重しながら、その人らしい暮らしを支えていくことはできます。
だからこそ、まだ親と話ができる今なら、聞いておきたいことがあります。
終活は、親の人生を子どもが整理するためのものではありません。
親がこれからどう生きたいのかを知り、その思いを家族で受け止めるための時間です。
難しい準備を始める前に、まず一つ。
親の隣に座ったとき、何気なく聞いてみる。
「これからも、どんなふうに暮らしたい?」
その答えがすぐに返ってこなくても大丈夫です。
「そんなこと、考えたことないわ」と言われてもいい。
今日聞けなかったら、また別の日に話せばいい。
大切なのは、完璧な終活を始めることではなく、親のこれからに関心を向けることです。
この記事を読み終えた今、たくさんのことを一度に始めなくても構いません。
エンディングノートも、財産整理も、制度の確認も、必要になったときに一つずつ考えればいい。
今日の読後行動は、一つだけです。
親に、一つ質問してみる。
それだけでいいのです。
Q&A 最後に、親に一つだけ聞くとしたら?

ここまで読んでくださったあなたに、最後に一つだけ問いかけます。
親に、今ひとつだけ聞くとしたら、何を聞きますか?
財産のことですか。
介護のことですか。
それとも、病院での希望でしょうか。
もちろん、どれも大切です。
でも、私なら最初にこう聞きます。
「これからも、どんなふうに暮らしたい?」
そこから、
「これからも続けたいことは?」
「逆に、これは嫌だということは?」
「困ったときは、誰に頼りたい?」
と、親の言葉を少しずつ聞いていく。
もしかすると、私たち子どもが「親のために準備しなくては」と思っていたことと、親が望んでいることは違うかもしれません。
だからこそ、先に聞く。
親の答えを知ってから、必要な準備を考える。
それなら、終活は「親のために子どもがすること」ではなく、親子でこれからを考える時間になります。
もし今日、電話をする予定があるなら。
もし次に親に会う予定があるなら。
特別な話し合いの時間をつくらなくてもいいのです。
お茶を飲みながらでも、食事をしながらでもいい。
「そういえば、お母さん。これからも、どんなふうに暮らしたい?」
まずは、この一言から。
認知症になったらどうするかを考えることも大切です。
でも、その前に知っておきたいのは、今、親がどんなふうに生きていきたいと思っているのか。
親が元気なうちだからこそ聞ける言葉があります。
その言葉を聞くことから、親の終活を始めてみませんか。













