
「親の介護」と聞くと、まだ先のことだと思っていませんか?
親は元気。
だから、終活や介護について話すのは、まだ早い気もする。
でも、ある日突然、
「親の介護が必要になったら、私はどうすればいい?」
と考えることになるかもしれません。
介護が始まると、介護サービスだけでなく、医療、住まい、お金、仕事、きょうだいとの分担など、考えることが一気に増えていきます。
だからこそ、親が元気な今だからこそ、できる準備があります。
それは、財産を全部整理したり、終活ノートを書いてもらったりすることだけではありません。
まずは、
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
と親に聞いてみること。
私自身、親から「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」と聞いたことをきっかけに、親のこれからについて考えるようになりました。
この記事では、親の終活と介護について、50代の子世代が今から知っておきたいことを、介護・医療・仕事・お金・きょうだい・遠距離介護・実家・相続まで、順番に整理しています。
すべてを一度に準備する必要はありません。
読み終えたときに、
「まず、親に一つ聞いてみようかな」
そう思ってもらえたらと思っています。
第1章 親の介護が気になったら、終活も考え始めるタイミング

「親はまだ元気だから、介護や終活を考えるのは早い」
そう思っている方も多いのではないでしょうか。
私自身も、親に介護が必要になったわけではありません。けれど最近、親のこれからについて考えることが増えました。
きっかけの一つは、親が以前、
「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」
と話していたことです。
住み慣れた家で、できるだけ長く暮らしたい。
その言葉を聞いたとき、私は「そうだよね」と納得していました。
でも、改めて今の実家を思い浮かべてみると、少し気になることがあります。
家の中には段差があり、2階への移動もあります。
今は普通に生活できていても、もし足腰が弱くなったら、この家で暮らし続けることは簡単ではないかもしれません。
「最期までこの家で」という親の希望をかなえるためには、介護が必要になってから考えるのでは遅いこともあるのではないか。
そんなふうに、私は考えるようになりました。
親が元気でも介護は突然始まる
親が今、元気に暮らしているからといって、介護の準備がまだ必要ないとは限りません。
転倒や病気をきっかけに、それまで普通にできていたことが難しくなることもあります。介護が必要になる時期を正確に予測することは、誰にもできません。
だからこそ、介護が始まってから慌てて準備するのではなく、親が元気なうちに「これからの暮らし」を考えておく意味があります。
私がそれを実感したのは、夫の実家のことでした。
10年ほど前、夫の祖母が90代前半だった頃、家をリフォームしました。
そのときは、家族もそれほど「将来の介護」を強く意識していたわけではありません。
少なくとも私自身は、家の段差をなくすことが、10年後にこれほど大きな意味を持つとは考えていませんでした。
ところが10年がたった今、夫の祖母はほぼ寝たきりの状態になっています。
そこであのときのリフォームが生きていきました。
家の中の段差が少なく、介護する家族も移動しやすい。
夜に家族が介護するときも、余計な段差を気にせず動ける。
介護サービスを利用するときも、スタッフの方に家の中を移動してもらいやすい。
10年前には「そこまで必要なのかな」と思っていたことが、今になって家族の負担を減らしてくれています。
この経験から私が感じたのは、介護の準備とは、介護が始まってから介護用品をそろえることだけではないということでした。
親がどこで暮らしたいのか。
その場所で暮らし続けるためには、何が必要なのか。
家族には何ができて、何を外部のサービスに頼るのか。
そうしたことを、元気なうちから少しずつ考えておく。
それも、親の終活の一部なのだと思います。
「まだ大丈夫」と思っている間にできること
「今は元気なのだから、まだ介護のことまで考えなくてもいい」
そう思うのは、決しておかしなことではありません。
でも、何も起きていない今だからこそ、できる準備もあります。
たとえば、親が今の家で暮らし続けたいと思っているなら、
「もし足腰が弱くなったら、この家でどうやって生活する?」
と、一緒に考えてみる。
いきなりリフォームを決める必要はありません。
段差、階段、トイレ、浴室、寝室の場所などを一緒に見ながら、
「ここは将来ちょっと大変かもしれないね」
と話すだけでも、気づくことがあります。
夫の実家のリフォームも、当時はここまで切実な問題だとは思っていませんでした。
それでも、そのときに家を整えていたからこそ、現在の介護を少し楽にできています。
もちろん、すべての家庭でリフォームが必要という意味ではありません。
家の状況も、親の体の状態も、経済的な事情もそれぞれ違います。
大切なのは、「介護が必要になったら何とかする」ではなく、「親が望む暮らしを続けるには何が必要か」を元気なうちから考えておくことなのだと思います。
そして、家のことだけではありません。
「介護が必要になったら、誰に頼りたい?」
「今の家に住み続けたい?」
「もし一人で暮らすことが難しくなったら、どうしたい?」
こうした問いを、少しずつ聞いておくこともできます。
一度ですべての答えを出す必要はありません。
親の気持ちは変わるかもしれないし、家族の状況も変わります。
だからこそ、元気な今に一度話しておくことに意味があります。
親の終活は死後の準備だけではない
「終活」という言葉から、何を思い浮かべますか?
相続、遺言、葬儀、お墓、エンディングノート。
多くの人が、亡くなった後に必要になる準備を思い浮かべるかもしれません。
でも、親の終活は、亡くなった後のことだけを考えるものではありません。
「これからどこで暮らしたいのか」
「介護が必要になったら、どうしてほしいのか」
「どんな医療を受けたいのか」
「誰に支えてほしいのか」
こうしたことも、親がこれからの人生を自分らしく過ごすために考えておきたいことです。
特に介護について考えるときには、親の「暮らし方」と切り離して考えることができません。
たとえば、親が「最期まで自宅で過ごしたい」と思っているなら、その希望をかなえるために、住環境を整える必要があるかもしれません。
介護サービスを利用する必要があるかもしれません。
家族だけでは難しい場合には、外部の力を借りることも必要になるでしょう。
つまり、
親がどう生きたいか
を考えることから、
どんな介護が必要になるのか
が見えてくることがあります。
私は、ここに「親の終活」と「介護」を一緒に考える意味があるのだと思っています。
終活を「死への準備」と考えると、親に話を切り出すのは少し重く感じます。
でも、
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
という話なら、少し違って聞こえるのではないでしょうか。
まずは親の「これから」を知る
では、親の終活や介護について、最初に何を話せばいいのでしょうか。
私は、「もし介護が必要になったらどうする?」といきなり聞くより、「これからどう暮らしたい?」から始める方が話しやすいと思います。
たとえば、こんな質問です。
「今の家には、これからも住みたい?」
「できるだけ自分のことは自分でしたい?」
「もし一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」
「介護が必要になったら、誰に頼りたい?」
答えを聞いたら、すぐに解決策を探す必要はありません。
「そう思っているんだね」と、まず知る。
それだけでも十分です。
親が「最期まで自宅で暮らしたい」と言っているなら、そこで初めて、
「じゃあ、そのためには何が必要なんだろう?」
と一緒に考えることができます。
私の場合も、親の「自分の家で最期まで過ごしたい」という言葉をきっかけに、今の実家の環境を改めて考えるようになりました。
まだ介護が必要になったわけではありません。
だからこそ、今のうちに考えられることがあるのではないかと思っています。
「前もって準備する」というのは、未来を正確に予測することではないのだと、夫の実家の一件からも感じています。
将来何が起こるかは分かりません。
でも、親が大切にしていることを知っておけば、何かが起きたときに「親はどうしたいだろう?」というところから考え始めることができます。
それだけでも、家族の迷いは少し変わるのではないでしょうか。
もちろん、今すぐ親に「終活の話をしよう」と宣言する必要はありません。
まずは次に会ったとき、
「これからも、この家で暮らしたい?」
と聞いてみる。
それだけでも、親のこれからを知るための一歩になります。
親の終活は、子どもが親の人生を決めることではありません。
親がこれからどう生きたいのかを知り、その希望を一緒に考えていくこと。
私は、それも50代の子世代ができる大切な終活なのだと思っています。
この章のまとめ
親の介護が気になり始めたからといって、今すぐ介護の準備をすべて始める必要はありません。
むしろ、親が元気な今だからこそ、
- 親はこれからどこで暮らしたいのか
- 介護が必要になったら、誰に頼りたいのか
- 今の住まいで暮らし続けるために必要なことはないか
- 親自身はどんな生活を望んでいるのか
を少しずつ知っておくことが大切です。
親の「自分の家で最期まで過ごしたい」という言葉と、10年前のリフォームが今の介護を支えている事実を通して、介護の準備は、介護が始まってからではなく、その前からできることがあると私は感じています。
終活は、死後の準備だけではありません。
親がこれからどんなふうに暮らしたいのかを知ることも、終活の大切な一歩です。
そして、すべてを一度に決めなくても大丈夫です。
まずは、
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
その一言から始めてみてもいいのではないでしょうか。
次の章では、親の介護について考えるとき、最初に確認しておきたい5つのことを具体的に整理します。
第2章 親の介護で最初に確認したい5つのこと

親の介護について考え始めたとき、
「何を聞いておけばいいんだろう?」
と迷う人も多いのではないでしょうか。
介護の話というと、介護サービスや施設、お金のことを思い浮かべがちです。
でも、その前に知っておきたいのは、親自身がどんな暮らしを望んでいるのかということ。
ここでは、まだ介護が必要になっていない段階でも確認しておきたいことを、5つに絞って紹介します。
全部を一度に聞く必要はありません。
親との普段の会話の中で、少しずつ知っていけば大丈夫です。
親はどこで暮らしたい?
まず確認したいのは、介護が必要になったとき、親がどこで暮らしたいと思っているのかです。
「自宅で暮らしたい」のか、「家族の近くがいい」のか、「状況によっては施設も考える」のか。
親の希望を知っておくことで、その後に考える住まいや介護サービスの選択肢も変わってきます。
たとえば、
「もし足が悪くなったら、今の家に住み続けたい?」
「一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」
「施設に入ることについてはどう思う?」
こんな聞き方なら、「介護について話し合おう」と構えなくても会話を始めやすいでしょう。
ここで大切なのは、親の希望を聞くことと、実現できる方法を決めることは別だということです。
「自宅で暮らしたい」と言われても、その時点で家を改修する必要はありません。
実際に介護が必要になったときには、身体の状態や家族の状況、利用できるサービスなどを見ながら考えていくことになります。
まずは、
「お母さんは、これからどこで暮らしたい?」
と聞いてみる。
それだけでも、親の終活を考える大切な一歩になります。
介護が必要になったら誰に頼りたい?
次に確認したいのは、介護が必要になったとき、誰に頼りたいと思っているのかです。
ここで大切なのは、「子どもが介護する前提」で話を進めないこと。
親が「長女に相談したい」と思っているのか、「家族より介護サービスを利用したい」のか、「できるだけ自分で暮らしたい」のかによって、家族の役割も変わってきます。
たとえば、
「もし介護が必要になったら、誰に相談したい?」
「私たちに頼りたいことはある?」
「家族以外の人に手伝ってもらうのはどう思う?」
と聞いてみると、親の考えが少しずつ見えてくるかもしれません。
そして、ここで確認しておきたいのが、子ども側にも仕事や家庭があるということです。
「親の介護だから、子どもが全部やる」
と最初から決めてしまうと、後になって家族の負担が大きくなることがあります。
介護が必要になった場合には、介護保険サービスなどを利用しながら、家族だけで抱え込まない方法を考えることもできます。
この章では「誰に頼りたいか」を確認するところまでにして、実際に介護が必要になったときの相談先や介護サービスについては、後の章で詳しく説明します。
医療についてどう考えている?
介護を考えるときには、親がどのような医療やケアを望んでいるのかも、元気なうちに少しずつ聞いておきたいところです。
病気やけがなどで、本人が自分の希望を伝えにくくなることもあります。
そんな「もしものとき」に備えて、普段から希望を話しておくことには意味があります。
厚生労働省は、本人が大切にしていることや望む生き方、もしものときにどのような医療やケアを望むかについて、家族や医療・ケアチームと前もって話し合う取り組みを「人生会議(ACP)」としています。
たとえば、
「もし入院したら、どんなことが心配?」
「できるだけ自宅で過ごしたい?」
「病院で治療することについて、どう考えている?」
など、答えやすいところから話してみてもいいでしょう。
ここで注意したいのは、一度話したから終わり、ではないということです。
厚生労働省も、人生会議では気持ちや考えが変わることを前提に、何度でも話し合い、見直すことが大切だとしています。
だからこそ、難しい医療の話を一度に全部決める必要はありません。
まずは「もしものとき、どうしたい?」と聞いてみる。
その会話が、親の希望を知るきっかけになります。
お金はどうする?
介護について考えるなら、介護にかかるお金を誰がどのように負担するのかも、早めに考えておきたいポイントです。
ただし、最初から預金額や資産の総額を聞き出そうとすると、親が身構えてしまうことがあります。
まずは、
「もし介護が必要になったら、お金のことはどうしたい?」
「介護費用は自分のお金から出したい?」
「私たちに負担してほしいことはある?」
といった、考え方を確認するところから始めてもいいでしょう。
介護サービスを利用する場合には介護保険が関係しますが、利用者の負担やサービスの内容などは、本人の状況や所得などによっても異なります。
そのため、「介護には○万円かかる」と一律に考えるのではなく、必要になった時点で制度やサービスを確認することが大切です。
また、介護費用だけでなく、通院費、住まいの変更、家の修繕など、生活全体のお金について考える場面も出てきます。
このブログでは後の章で、認知症になった場合の財産管理や預金、成年後見制度などについても詳しく扱います。
この段階では、
「介護が必要になったときのお金について、親はどう考えているのか」
を知っておくことを目標にしておきましょう。
緊急時に連絡してほしい人は誰?
最後に確認しておきたいのが、何かあったとき、誰に連絡してほしいのかです。
意外と簡単なことのようですが、いざというときになって、
「誰に連絡すればいい?」
「病院には誰が行く?」
「遠くに住んでいるきょうだいには伝える?」
と家族が慌てることがあります。
そこで、
「何かあったときは、誰に連絡してほしい?」
「私以外に、知らせてほしい人はいる?」
「きょうだいにも連絡したほうがいい?」
などを聞いておきます。
ここでは、家族の中で「誰が一番介護をするか」を決める必要はありません。
まずは、親が信頼している人を知っておくことが大切です。
親しい友人や親族など、子どもが知らない人の名前が出てくることもあるかもしれません。
「そんな人がいるんだ」と知るだけでも、親の人間関係を理解するきっかけになります。
そして、連絡先が分かっていることは、緊急時だけでなく、今後家族で親のことを考えるときにも役立ちます。
5つを全部、一度に聞かなくてもいい
ここまで、親の介護について最初に確認しておきたい5つのことを見てきました。
もう一度まとめると、
- 親はどこで暮らしたい?
- 介護が必要になったら誰に頼りたい?
- 医療についてどう考えている?
- お金はどうする?
- 緊急時に連絡してほしい人は誰?
です。
でも、これをチェックリストのように並べて、
「はい、お母さん。5つ答えて」
と聞く必要はありません。
むしろ、そんなふうに聞かれたら、親も少し構えてしまうかもしれません。
大切なのは、親の答えを決めることではなく、親が何を大切にしているのかを知ることです。
たとえば、テレビで介護施設の話題が出たときに、
「もし自分だったら、施設ってどう思う?」
と聞いてみる。
病院に行った帰りに、
「もし将来、通院が大変になったらどうしたい?」
と話してみる。
そんな何気ない会話でも十分です。
私自身、このブログを書く中で強く感じているのは、終活の準備は、親の生活を子どもが決めることではないということです。
親がどう生きたいのかを知り、その希望を家族が共有しておく。
その先に、必要な介護や医療、住まい、お金のことを考えていく。
その順番なら、「親の終活」という少し重く感じるテーマも、もう少し身近なものとして考えられるのではないでしょうか。
この章のまとめ
親の介護について考え始めたら、まず確認したいのは次の5つです。
- どこで暮らしたいのか
- 誰に頼りたいのか
- 医療やケアをどう考えているのか
- 介護のお金をどう考えているのか
- 緊急時に誰に連絡してほしいのか
全部を一度に聞く必要はありません。
まずは一つだけ。
たとえば、
「もし将来、今の家で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」
そんな問いから始めてもいいのです。
親の答えを聞いて初めて、「では、どうすればその希望に近づけるだろう」と考えることができます。
次の章では、こうした話を親にどう切り出せばいいのか、「終活の話をすると嫌がられそう」という50代の子ども側の悩みについて考えていきます。
第3章 親に「介護と終活」の話をするとき、何から切り出す?

親の介護や終活について考え始めても、いざ本人を目の前にすると、
「どうやって話せばいいんだろう」
と、言葉に詰まってしまうことがあります。
「終活について話したい」と思っていても、
「まだ元気だから」
「そんな話をしたら、死ぬのを待っているみたい」
と思われそうで、結局何も言えない。
まず乗り越えなければならないのは、この「話し始める難しさ」なのだと私自身も感じています。
大切なのは、最初から終活の話を完璧にしようとしないこと。
まずは、親のこれからの暮らしについて話すことから始めてみます。
「介護」から入ると、終活の話は少し話しやすくなる
ここで一つ、お伝えしておきたいことがあります。
一般に「終活の話をしよう」と切り出すより「介護の話をしよう」と切り出すほうが、実は話しやすいようなのです。
「終活」という言葉には、どうしても「死」や「相続」「葬儀」などをといったイメージが付きまといます。一方で「介護」は、もう少し手前にある、暮らしの延長線上の話です。
「もし将来、体が弱くなったら」という聞き方なら、親も「まだ先の話」と受け止めやすく、身構えにくいのではないでしょうか。
つまり、介護をきっかけに暮らし方の希望を聞いていくと、気づいた時には相続やお金のことも自然に話せる関係ができている——そんな順番も可能です。
いきなり「終活しよう」と言わない
親に介護や終活の話をするときは、いきなり「終活を始めよう」と切り出さないほうが話しやすいでしょう。
子どもにとっては「将来のための準備」でも、親からすると
「もうそんなことを考える年齢なの?」
と、少し寂しく感じるかもしれません。
「準備をしてもらう」のではなく、「親がどうしたいのかを知る」ことが先。
終活を始めることが目的ではありません。親の希望を知るための会話が、最初の一歩なのです。
だから最初は、終活という言葉を使わなくてもいいのです。
たとえば、
「最近、これからの暮らしのことを考えることがあるんだ」
「この家、これからもずっと住みたい?」
「もし足腰が弱くなったら、どうしたい?」
そんなところから始められます。
私自身も、親の終活について考えるようになってから、「準備をしてもらう」のではなく、「親がどうしたいのかを知る」ことが先なのではないかと思うようになりました。
終活を始めることが目的ではありません。
親の希望を知るための会話が、最初の一歩なのです。
「これからどう暮らしたい?」から始める
親の終活の話を切り出すなら、私は「これからどう暮らしたい?」という問いが、一番自然な入口だと思います。
介護や相続について直接聞くよりも、親自身の希望を中心にした話になるからです。
たとえば、こんな聞き方があります。
「これからも今の家で暮らしたい?」
「年を取っても、できるだけ自分で生活したい?」
「もし一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」
こうした質問に正解はありません。
「自宅で暮らしたい」と言う人もいれば、「子どもの近くに行きたい」と考える人もいるでしょう。
大切なのは、子どもが良いと思う答えではなく、親本人の答えを聞くことです。
そして、親の希望は一度決めたら変えられないものでもありません。
体の状態や家族の状況が変われば、考え方が変わることもあります。
だから、「今の親はどう思っているのか」を知る。
それだけでも、十分意味のある会話になります。
親が嫌がったら一度引く
親が終活や介護の話を嫌がったら、その場で無理に話を続けないことも大切です。
一度拒まれたからといって、「親は終活について何も考えていない」とは限りません。
そんなとき、説得を続けようとすると、終活そのものが「子どもから迫られる話」になってしまいます。
「そっか。まだ考えたくないよね」
と一度引いてみる。
別のタイミングでまた自然に話せる機会がやってきます。
たい言い方や、再び切り出すタイミングの具体例は、後述する既存記事で詳しく紹介しています。
お金の話は信頼関係ができてからでいい
介護を考え始めると、貯金や介護費用、家や土地のことなど、聞きたいことがたくさん出てきます。でも、お金の話は親子でも切り出しにくいテーマです。いきなり「財産を教えて」と言われたら、身構えてしまう親もいるでしょう。
まずは、
「もし介護が必要になったら、お金のことはどうしたい?」
と、考え方から聞いてみるくらいで十分です。財産の整理や認知症になった場合の管理、成年後見制度などについては、この先の章で詳しく取り上げます。
ここでは、お金の話は大切だけれど、最初の会話で全部聞く必要はないということだけ覚えておけば十分です。
会話例
実際の場面を、2つだけ紹介します。
①親と一緒にテレビを見ているとき
「最近、介護のニュース多いね。もし自分だったら、どんなふうに暮らしたい?」
重い話として始めるのではなく、テレビで見た話をきっかけにする方法です。
友人や親戚の話をきっかけにする方法、自分の気持ちを伝える方法など、場面別の切り出し方をもっと知りたい方は、後述する既存記事でさらに詳しく紹介しています。
親との会話は「聞き出す」より「知る」
親の終活について話すとき、私たちはつい、
「聞いておかなければ」
と思ってしまいます。
でも、チェック項目を一つずつ埋めるように質問していく必要はありません。
今日聞けるのが一つだけなら、それで十分です。
「これからも、この家に住みたい?」
「何かあったとき、誰に頼りたい?」
そんな一言から、親の思いが見えてくるかもしれません。
そして、もし答えが自分の考えていたものと違っていたとしても、すぐに解決策を探さなくていい。
まず、
「そう思っているんだね」
と知ること。
そこから家族の終活は始まるのだと思います。
親の終活の「切り出し方」について、もう少し具体的なタイミングや言葉、避けたい言い方まで知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
この章のまとめ
親に介護や終活の話をするときは、最初から「終活しよう」と言わなくても大丈夫です。
まずは、
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
というところから始めてみる。
そして、
- 親が嫌がったら、一度引く
- 一回の会話ですべて聞こうとしない
- お金の話は、信頼関係ができてからでもいい
- 親の答えを決めつけず、まず聞く
このくらいの気持ちで十分です。
終活は、親に準備をさせることではありません。
親がこれからどう生きたいのかを、子どもが知ること。
そのための会話だと考えると、少しだけ切り出しやすくなるのではないでしょうか。
次の章では、実際に介護が必要になったとき、家族だけで抱え込まないために知っておきたい公的な相談先や介護サービスについて見ていきます。
第4章 介護が必要になったら、家族だけで抱え込まない

前の章までは、親の希望を聞くための会話について取り上げてきました。
ここからは、実際に介護が必要になったとき、何が起こるのかを知っておく章です。会話で聞いた親の希望は、ここから先の手続きの中で、初めて意味を持ってきます。
親の介護が必要になったとき、最初に知っておきたいのは、家族だけで介護を背負う必要はないということです。
介護保険には、要介護認定を受けた人が利用できるさまざまなサービスがあり、地域には介護について相談できる窓口もあります。
とはいえ、いざ親に介護が必要になったら
「どこに相談すればいい?」
「要介護認定って、どうやって受けるの?」
「ケアマネジャーって何をしてくれる人?」
と、分からないことばかりではないでしょうか。
ここでは、介護が始まったときの基本的な流れを、できるだけシンプルに整理します。
要介護認定とは
介護保険のサービスを利用したいときは、まず市区町村に要介護・要支援認定を申請するのが基本です。
申請すると、認定調査や主治医意見書をもとに審査が行われ、市区町村が要介護度を決定します。介護保険法では、申請から認定通知までは原則30日以内とされています。ただし、実際には自治体によって審査に時間がかかることもあり、1~2ヶ月程度を見ておくと安心です。
要介護認定は、
- 要支援1・2
- 要介護1~5
- 非該当
に分かれています。
「要介護1だから、このサービスしか使えない」という単純なものではありません。
本人の心身の状態や希望などを踏まえて、必要なサービスを組み合わせていきます。
たとえば、親が以前は一人で買い物に行けていたのに、転倒をきっかけに外出が難しくなった。
そんなときには、「何ができなくなったのか」「何を続けたいのか」を整理しながら、必要な支援を考えていくことになります。
要介護認定は、家族が親の介護度を判断するためのものではありません。
専門的な調査と医師の意見などをもとに、介護保険サービスの必要性を判断してもらう仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
地域包括支援センターに相談する
「まだ要介護認定を受けるほどなのか分からない」という段階でも、地域包括支援センターに相談できます。
地域包括支援センターは、高齢者本人だけでなく、その家族からの相談にも対応する地域の身近な相談窓口です。
介護が必要になってからだけではなく、
「最近、親の物忘れが増えた気がする」
「一人暮らしが少し心配になってきた」
「介護保険を使ったほうがいいのか分からない」
という段階で相談しても構いません。
厚生労働省の介護保険の解説でも、市区町村や地域包括支援センターは、介護サービスや生活支援について相談できる窓口として案内されています。
私がこの仕組みを知っておいてほしいと思うのは、「介護が必要になったら、まず家族が方法を探さなければならない」というわけではないからです。
困ったときに相談できる場所を、あらかじめ知っているだけでも安心感が違います。
もし今、親の介護について漠然とした不安があるなら、
「何か起きてから」ではなく、「何か起きたらここに相談する」
と覚えておくだけでも十分です。
ケアマネジャーに相談する
要介護1~5と認定され、在宅で介護サービスを利用する場合には、ケアマネジャー(介護支援専門員)がケアプランを作成し、サービス事業者との調整などを行います。
ケアマネジャーは、本人や家族の希望、心身の状態などを踏まえて、どのような介護サービスをどのように利用するかを考える専門職です。
「訪問介護を使うのか」
「デイサービスに通うのか」
「福祉用具が必要なのか」
などを、家族だけで一から決める必要はありません。
たとえば、
「できるだけ自宅で暮らしたい」
「家族が仕事を続けられるようにしたい」
「一人で入浴するのが難しくなった」
といった本人や家族の希望・状況を伝える。
そのうえで、必要なサービスを組み合わせていきます。
第2章で聞いた「これからどこで暮らしたい?」という親の答えは、ここで初めて実務的な意味を持ちます。ケアマネジャーに伝える情報は、まさにこうした希望なのです。もし親が「自宅で暮らし続けたい」と話していたなら、その一言をそのままケアマネジャーに伝えてみてください。
厚生労働省も、ケアマネジャーについて、利用者の相談に応じ、心身の状況などに合わせてケアプランを作成し、市区町村やサービス事業者などとの連絡調整を行う専門職と説明しています。
つまり、ケアマネジャーは単に「介護サービスを紹介する人」ではありません。
親ができるだけその人らしい生活を続けるために、介護の方法を一緒に考えてくれる存在なのです。
介護サービスを利用する
介護保険では、必要な支援に応じてさまざまなサービスを利用できます。
たとえば、自宅で暮らしながら利用するものとして、訪問介護、訪問看護、通所介護(デイサービス)、訪問リハビリテーション、福祉用具貸与などがあります。
「介護」と聞くと、
「家族が毎日親の家に通う」
「誰かが仕事を辞めて介護する」
というイメージを持ってしまうかもしれません。
でも、実際にはさまざまなサービスを組み合わせることで、家族の負担を減らしながら在宅生活を続ける方法があります。
たとえば訪問介護では、ホームヘルパーが自宅を訪問して、食事・排泄・入浴などの身体介護や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活援助を行います。
また、通所介護なら、施設に通って食事や入浴、機能訓練などのサービスを受けることができます。
もちろん、どのサービスが合うかは親の状態や希望によって違います。
だからこそ、家族だけで「何を使えばいいのか」を悩み続けるより、ケアマネジャーなどに相談しながら考えていくことが大切です。
介護費用を確認する
介護サービスを利用するときには、介護保険が使えるからといって、すべて無料になるわけではありません。
介護保険サービスの利用者負担は、原則1割で、一定以上の所得がある場合は2割または3割です。施設サービスでは、これに加えて居住費・食費・日常生活費などが必要になる場合があります。なお、この2割負担の対象範囲は現在も見直しが議論されており、今後、対象となる所得の基準が変わる可能性があります。
また、在宅サービスには要介護度ごとに1か月あたりの利用限度額が設定されています。
限度額を超えて利用した部分は、原則として全額自己負担になります。
そのため、
「介護保険があるから、お金の心配はしなくていい」
と考えるのは少し危険です。
一方で、
「介護になったら、ものすごい金額がかかるのでは?」
と、必要以上に怖がる必要もありません。
親の所得や要介護度、利用するサービス、住んでいる地域などによって実際の負担は変わります。
第2章で取り上げたように、「介護費用は自分のお金から出したい?」と聞いていれば、ここでの費用確認もスムーズになります。親の考え方をすでに知っているだけで、いざという時に慌てず具体的な金額の相談に進めます。
まずは、親がどのような介護を望んでいるのかを確認し、必要なサービスが見えてきたところで、具体的な費用を確認していけばいいのです。
介護費用については、この先の「認知症になった場合の財産管理」や「親の終活とお金」の話ともつながってきます。
介護が始まっても、「家族が全部やる」必要はない
ここまでの流れを整理すると、
介護が必要になる
↓
市区町村へ要介護認定を申請
↓
認定・要支援/要介護度の決定
↓
地域包括支援センターやケアマネジャーに相談
↓
ケアプランを作成
↓
必要な介護サービスを利用する
という流れが基本になります。
もちろん、実際の手続きは親の状態や地域によって異なります。
だからこそ、「介護が始まったら、まず専門機関に相談する」と覚えておくだけでも十分です。
私自身、親の介護について考えるときに怖いと感じるのは、介護そのものだけではありません。
「全部、自分がやらなければいけなくなったらどうしよう」
という気持ちです。
でも、介護保険には家族だけではなく、さまざまな専門職やサービスが関わる仕組みがあります。
だから、親の介護を考えることは、子どもが一人で背負う方法を考えることではないのです。
「困ったら、誰に相談すればいいか」。
その答えを知っておくことも、親の終活の大切な準備だと思います。
この章のまとめ
親の介護が必要になったときは、家族だけで解決しようとしなくても大丈夫です。
まず覚えておきたいのは、
- 介護保険を利用するなら、要介護・要支援認定の申請が基本
- 介護について迷ったら、市区町村や地域包括支援センターに相談できる
- 要介護1~5で在宅サービスを利用する場合は、ケアマネジャーがケアプラン作成などを支援する
- 訪問介護やデイサービスなど、家族を支えるさまざまなサービスがある
- 介護費用は、親の所得やサービス内容などによって変わる
ということです。
今すぐ介護が必要でなくても、
「もし明日、親の介護が必要になったら、まず地域包括支援センターに相談する」
と知っているだけで、少し心構えが変わるのではないでしょうか。
そして、もう一つ覚えておきたいことがあります。
介護を支えるのは、家族だけではありません。
親が望む暮らしをできるだけ続けるために、家族と専門職が一緒に方法を考えていく。
それが介護保険を利用するということでもあります。
次の章では、親の介護と自分の仕事をどう両立するのか。
「介護のために仕事を辞めなければならないの?」
という、50代の子世代が抱えやすい不安について考えていきます。
第5章 介護と仕事を両立するために、50代の子が知っておきたいこと

親の介護が必要になったとき、50代の子どもが不安になることの一つが、仕事との両立ではないでしょうか。
「介護が必要になったら、仕事を辞めるしかないのかな」
そう考えてしまう人もいると思います。
でも、介護が始まったからといって、すぐに仕事を辞める必要があるとは限りません。
介護には、介護保険サービスだけでなく、仕事と介護を両立するための制度もあります。
ここでは、介護離職を避けるために、50代の子世代が知っておきたい基本を整理します。
「私が介護しなければ」と思い込まない
親の介護が必要になっても、子どもが一人ですべてを担う必要はありません。
「親だから自分が面倒を見なければ」と思うのは自然な気持ちですが、それだけで仕事や自分の生活まで犠牲にする必要はないのです。
特に50代になると、自分自身の仕事に責任があったり、子どもの進学や家庭のことがあったりします。
親の介護と自分の生活。
どちらも大切にしたいと思うのは、わがままではありません。
たとえば、親が転倒して介護が必要になったとします。
最初に考えるのが、
「私が毎日実家に通わなければ」
ではなく、
「親に必要な支援は何だろう?」
「家族でできることと、サービスに任せることは何だろう?」
と考えるだけでも、選択肢が変わってきます。
第4章で紹介した地域包括支援センターやケアマネジャーなどに相談すれば、介護保険サービスを利用した支援方法を一緒に考えることができます。
介護は、家族の愛情だけで乗り切るものではありません。
親を大切にすることと、子どもが自分の生活を守ることは、両立していい。
私は、そう考えています。
介護休業という選択肢
仕事を続けながら介護するための制度の一つに、介護休業があります。
介護休業とは、要介護状態にある対象家族を介護するために、一定期間、仕事を休むことができる制度です。
厚生労働省によると、対象家族1人につき、原則として3回まで、通算93日まで取得できます。
ここで覚えておきたいのは、介護休業は「そのまま介護を続けるための長期休暇」というより、介護と仕事を両立するための体制を整えるための期間として位置づけられていることです。
たとえば、
- ケアマネジャーと介護サービスについて相談する
- 親の通院や介護認定の手続きを進める
- 家族で介護の分担を話し合う
- 今後の働き方を勤務先と相談する
といったことに時間を使えます。
また、介護休業とは別に、仕事と介護の両立を支援するための介護休暇もあります。
介護休暇は、対象家族が1人なら年5日まで、2人以上なら年10日まで、1日または時間単位で取得できます。
介護休業と介護休暇は名前が似ていますが、目的や使い方が異なります。
「まとまった期間を使って介護体制を整えたい」のか、「通院の付き添いなどで短時間休みたい」のか。
状況に合わせて制度を使い分けることになります。
仕事を辞める前に相談する
親の介護で仕事を辞めようと思ったら、退職を決める前に、勤務先や公的な相談窓口へ相談することをおすすめします。
一度仕事を辞めてしまうと、同じ条件で再就職できるとは限りません。
特に50代では、これまで積み重ねてきたキャリアや収入、社会とのつながりもあります。
介護が始まったばかりの時期は、
「このままでは仕事なんて続けられない」
と感じるかもしれません。
でも、介護サービスを利用したり、勤務時間を調整したり、介護休業などの制度を使ったりすることで、働き続けられる可能性があります。
厚生労働省は、仕事と介護の両立支援について、介護休業や介護休暇のほか、所定労働時間の短縮等の措置など、複数の制度を設けています。
たとえば勤務先の人事担当者に、
「親の介護が必要になりそうなのですが、利用できる制度を教えてください」
と相談するだけでもいいのです。
会社によって利用できる制度や手続きの方法が異なる場合もあるので、早めに確認しておくと安心です。
「辞めるか、続けるか」の二択にする前に、第三の選択肢を探す。
これが、介護離職を考えるときに大切な視点だと思います。
家族だけでなく制度を使う
介護と仕事を両立するには、家族の頑張りだけでなく、介護保険や職場の制度を組み合わせることが大切です。
介護は、毎日同じ量の支援が必要になるとは限りません。
親の状態が変われば、必要なサービスも変わります。
たとえば、
「平日は仕事があるので訪問介護を利用する」
「通院の日は介護休暇を使う」
「家族が対応できない時間は介護サービスを利用する」
というように、それぞれの家庭に合った方法を組み合わせることができます。
そして、ここで忘れたくないのが、きょうだいとの分担です。
近くに住んでいるきょうだいだけが親の介護を担い、遠くに住むきょうだいは何もできない。
そんな状態になると、家族の中に不公平感が生まれることがあります。
だからこそ、介護が始まったときには、
「誰が何をするか」
だけではなく、
「誰なら何ができるか」
を考えることも大切です。
電話やオンラインでの情報共有、手続き、費用の管理、帰省時の対応など、直接介護をしなくてもできることはあります。
きょうだいでの介護分担については、この後の章で詳しく扱います。
私が介護について考えるとき、「全部やる」という選択肢は外しておきたい
私自身、親の介護を実際に経験したわけではありません。
だからこそ、介護について考えるときには、「自分だったらどうするだろう」と想像します。
もし親が突然倒れて、
「今日から介護が必要です」
と言われたら。
仕事もある。
家庭のこともある。
親のことも心配。
そんな状況で、「自分が何とかしなければ」と思ったら、きっと視野が狭くなると思います。
だから私は、介護について考える段階から、「家族だけで全部やる」という選択肢を最初から外しておきたいと思っています。
これは制度上の決まりではなく、私自身の考えです。
第1章で書いたように、義理の祖母が高齢になった現在の家族の暮らしを見ていると、介護は一人の力だけで続けるものではないと感じます。
家族ができること。
介護サービスにお願いすること。
仕事を続けるために職場の制度を利用すること。
それぞれを組み合わせることで、無理なく続けられる形を探していく。
親のためにも、子ども自身のためにも、その視点を持っておきたいと思っています。
「仕事を辞める」前に、確認したいこと
もし親の介護が現実になったとき、いきなり退職を考える前に、次のことを一つずつ整理してみるといいでしょう。
親について
- どんな介護が必要なのか
- どこで暮らしたいのか
- 介護サービスを利用できるのか
家族について
- 誰が何をできるのか
- きょうだいに頼めることはあるか
- 家族以外の支援を利用できるか
仕事について
- 介護休業を利用できるか
- 介護休暇を利用できるか
- 勤務時間などを調整できる制度があるか
- 職場の相談窓口はどこか
全部を一度に整理しなくても構いません。
大切なのは、
「介護が始まったら、仕事を辞めるしかない」
と決めつけないことです。
この章のまとめ
親の介護と仕事を両立するために、まず覚えておきたいのは、子どもが一人ですべての介護を背負う必要はないということです。
介護が必要になったら、
- 地域包括支援センターやケアマネジャーに相談する
- 介護保険サービスを利用する
- 介護休業を利用する
- 介護休暇を利用する
- 勤務先に利用できる制度を確認する
- きょうだいでできることを分担する
という複数の選択肢があります。
介護休業は、対象家族1人につき原則3回、通算93日まで取得できます。
でも、制度の数字を覚えることより大切なのは、
「仕事を辞める前に、相談できる場所がある」
と知っておくことです。
もし今、親は元気だけれど、
「いつか介護が必要になったら、仕事はどうしよう」
と考えているなら、まず勤務先の就業規則や相談窓口を確認しておく。
それだけでも、いざというときの選択肢が一つ増えます。
親を大切にすることと、自分の人生を大切にすること。
その二つは、どちらか一方を諦めなければならないものではありません。
次の章では、介護が必要になってから慌てないために、親が元気なうちから話しておきたい「人生会議(ACP)」について考えていきます。
第6章 介護の前に親と話しておきたい「人生会議」

親の介護について考えるとき、「介護が必要になったらどうするか」だけを話し合えばいいのでしょうか。
私は、それだけではないと思っています。
たとえば親が、
「できるだけ今の家で暮らしたい」
「病院より、できれば自宅で過ごしたい」
「家族には迷惑をかけたくない」
と思っていたとしたら。
その思いを知らないまま介護が始まると、子どもは「親のために」と考えながらも、何を選べばいいのか迷ってしまいます。
だからこそ、介護が始まる前に知っておきたいのが、親がこれからどんなふうに生きたいのかということです。
そのための対話の一つが「人生会議」です。
「私が介護しなければ」と思い込まない
人生会議を始めるときに、まず大切なのは、「私が親のために正しい答えを決めなければ」と思わないことです。
人生会議は、家族が親の代わりに介護や医療の方針を決めるためのものではありません。
厚生労働省は、人生会議(ACP)を、本人が大切にしていることや望む生き方、もしものときにどのような医療やケアを望むかについて、家族や大切な人、医療・ケアチームなどと前もって話し合い、共有する取り組みとしています。
つまり、最初に必要なのは「介護の正解」を探すことではなく、
「親は何を大切にしているのだろう?」
と知ろうとすることなのです。
たとえば、
「できるだけ自宅で暮らしたい」
という親の希望が分かったとします。
その場合も、「では自宅介護にしなければ」と決める必要はありません。
訪問介護や訪問看護、デイサービスなど、さまざまな支援を検討しながら、その希望に近づける方法を考えていけばいいのです。
これは第4章で紹介した介護サービスともつながっています。
親の希望を先に知り、その後で「どうすれば実現できるか」を考える。
この順番を覚えておくと、介護を「家族が全部やるもの」と考えずに済みます。
人生会議とは?
人生会議とは、「もしものときに、どんな医療やケアを望むのか」を中心に、本人の価値観や希望を家族などと話し合い、共有していくプロセスです。
ACP(アドバンス・ケア・プランニング)という言葉で呼ばれることもあります。
厚生労働省は、人生会議について、本人の気持ちを家族や信頼できる人と共有することが大切だと説明しています。気持ちは変わることもあるため、その都度、何度でも話し合うことも大切とされています。
ここが、人生会議を難しく考えなくていい理由の一つです。
「延命治療を受けるか」
「どの病院にするか」
といった具体的な医療の選択を、最初から決める必要はありません。
むしろ最初は、
「何を大切にして暮らしたい?」
というところからでもいいのです。
人生会議という名前から、家族が集まって正式な「会議」を開くイメージを持つかもしれません。
でも、もっと小さな会話から始められます。
どこで暮らしたい?
人生会議でまず聞いてみたいことの一つが「これからどこで暮らしたいか」です。
住む場所は、親の毎日の生活に直接関わるからです。
「できれば今の家に住み続けたい」
「子どもの近くに行きたい」
「介護が必要になったら施設でもいい」
など、考え方は人それぞれでしょう。
私の親は「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」という思いを持っていることを、私自身も親と話す中で知りました。
親の考えを聞いて、私は改めて今の家を見ました。
玄関には段差があり、2階にも階段があります。
今は何の問題もなく暮らせても、足腰が弱くなったときには、「住み慣れた家にいたい」という希望だけでは解決できないこともあるかもしれません。
そこで大切なのは、
「自宅で暮らすのは無理だから施設にしよう」
と子どもが決めることではありません。
「自宅で暮らしたい」という親の希望を知ったうえで、どうすればその希望に近づけるのかを考えることです。
住宅の改修が必要になるかもしれません。
介護サービスを利用する方法もあるでしょう。
状況によっては、住み替えを考えることもあるかもしれません。
答えは一つではありません。
だからこそ、まずは「どこで暮らしたい?」を聞いておくことに意味があります。
どんな医療を受けたい?
人生会議では、どのような医療やケアを望んでいるのかについても、元気なうちから少しずつ話しておくことが大切です。
ただ、いきなり難しい医療の話をする必要はありません。
「入院したら何が心配?」
「できるだけ苦痛を少なくしてほしい?」
「できるだけ長く生きたい?」
など、親が大切にしていることから聞いてみてもいいでしょう。
医療については、病気になったときの状態や治療方法によって選択肢が変わります。
そのため、元気なうちに「この治療を受ける」と細かく決めておけば十分、というものでもありません。
むしろ、
「自分だったら、何を大切にしたいと思う?」
という価値観を共有しておくことが、もしものときの支えになります。
人生会議の考え方では「どのような治療を受けたいか、受けたくないか」だけでなく、「何を大切にしたいか」を考え、それを周囲と話し合うことを勧めています。
たとえば、
「意識がある状態でできるだけ自宅で過ごしたい」
「食べることを最後まで大切にしたい」
「家族に負担をかけたくない」
など。
医療そのものではなく、その人が大切にしている生活を知ることから始めてもいいのです。
誰にそばにいてほしい?
人生会議では、「どんな医療を受けたいか」だけでなく、「誰と過ごしたいか」「誰に自分の思いを託したいか」も話しておきたいことの一つです。
もし本人が自分の希望を伝えられない状況になったら、家族や信頼する人が「本人ならどう考えるだろう」と考える場面が出てくるかもしれません。
そんなとき、普段から親の思いを聞いていることが大きな手がかりになります。
「何かあったら、誰にそばにいてほしい?」
「大事なことを相談するなら誰がいい?」
「病院に行ったとき、誰に連絡してほしい?」
そんな質問からでも構いません。
必ずしも子どもである必要はありません。
兄弟姉妹、親しい友人、かかりつけ医など、親にとって信頼できる人がいるかもしれません。
厚生労働省が示す人生会議の定義でも、話し合う相手は「家族等」とされており、家族に限らず信頼できる人や医療・介護のスタッフなども含まれると理解されています。
第2章で「緊急時に誰に連絡してほしいか」を確認しましたが、ここで考えたいのはもう一歩深い部分です。
「親が、自分の思いを託したいと思っている人は誰なのか」
そこを知ることが、もしものときの家族の支えになります。
希望は変わってもいい
人生会議で一番覚えておきたいのは、今日話したことが、ずっと変わらない約束になるわけではないということです。
人は、病気になったり、生活環境が変わったり、家族の状況が変わったりすると、考え方も変わります。
「今は自宅で暮らしたい」と思っていても、数年後には、
「介護サービスを使ってもらえる施設のほうが安心」
と考えるようになるかもしれません。
逆に、以前は施設を考えていた人が、
「やっぱり住み慣れた家にいたい」
と思うこともあるでしょう。
厚生労働省も、人生会議では気持ちが変わることを前提として、その都度、何度でも話し合うことが大切だとしています。
だから、
「前にこう言ったじゃない」
と、過去の発言に親を縛る必要はありません。
「今はどう思っている?」
と、また聞けばいい。
私は、この「変わってもいい」という考え方が、人生会議を身近にしてくれると思っています。
第1章で触れた、夫の実家のリフォームのことを思い出します。当時は「そこまで必要かな」と思っていた備えが、今の介護の負担を減らしてくれています。人生会議も同じで、未来を完璧に予測するためのものではありません。親の「こうありたい」を知っておく。それだけでも、もしものときに家族が考えるための大切な手がかりになります。
「人生会議」は、特別な会議でなくてもいい
人生会議という言葉を聞くと、
「家族全員を集めて、きちんと話し合わなければ」
と思うかもしれません。
でも、そんなに構えなくても大丈夫です。
食事をしながら、
「お母さん、これからもこの家に住みたい?」
と聞いてみる。
テレビで病院や介護の話題が出たときに、
「もし自分だったら、どうしたい?」
と聞いてみる。
それだけでも、親の価値観を知るきっかけになります。
厚生労働省も、人生会議は「一度話し合って終わり」ではなく、気持ちや状況の変化に合わせて繰り返し話し合うプロセスとして位置づけています。
だから、今日すべてを聞き出す必要はありません。
今日ひとつ聞いて、またいつか一つ聞く。
そのくらいのペースでもいいのです。
この章のまとめ
介護が始まる前に親と話しておきたいのは、介護の方法だけではありません。
まず知りたいのは、
- どこで暮らしたいのか
- どんな医療やケアを望んでいるのか
- 誰にそばにいてほしいのか
- 何を大切にして生きたいのか
という、親自身の思いです。
人生会議は、家族が親のために「正解」を決める話し合いではありません。
親が大切にしていることを知り、その思いを家族で共有しておくための時間です。
そして、希望は変わってもいい。
だからこそ、難しく考えなくてもいいのだと思います。
もし今、親が元気なら。
次に会ったとき、こんな一言を聞いてみませんか。
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
もしかしたら、思ってもいなかった親の気持ちが返ってくるかもしれません。
その答えを聞くことから、親の終活は始まるのだと思います。
次の章では、親が認知症になり判断能力が低下した場合に、介護費用や預金などの財産管理をどう考えておけばいいのかについて整理します。
第7章 認知症で判断能力が低下したら、介護費用や財産管理はどうなる?

親の介護を考えるとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「体の世話」だと思います。でも実際に多くの家族がつまずくのは、意外にも「お金」の場面です。
介護サービスを契約する。施設の費用を払う。親の預金から生活費を出す。
こうしたことは、親が自分で判断できるうちは、それほど問題にならないかもしれません。
では、認知症などによって判断能力が低下したらどうなるのでしょうか。
ここでは、必要以上に不安にならないために、親の終活と介護を考える50代が知っておきたい財産管理の基本を整理します。
認知症で判断能力が低下すると、何が難しくなる?
認知症になったからといって、すぐに何もできなくなるわけではありません。
ただし、判断能力が低下すると、預貯金の管理や契約、不動産の処分などを本人だけで行うことが難しくなる場合があります。
たとえば、
「この契約を結んでも大丈夫か」
「自宅を売却してもよいか」
「どのお金から介護費用を支払うか」
といった判断が難しくなることがあります。
最高裁判所の2025年の成年後見関係事件の統計を見ると、後見・保佐・補助などが認められた事件の開始原因では、認知症が61.3%と最も多くなっています。
つまり、成年後見制度が必要になった人の背景には、認知症が大きく関わっていることが分かります。
ただし、この61.3%という数字は「認知症になった人の61.3%が成年後見制度を利用する」という意味ではありません。
あくまで、成年後見関係事件の中で、認知症が開始原因として最も多かったという統計です。
私自身、身近な高齢者の介護を見ていると、以前は「介護」と聞けば、食事や移動、入浴など身体の世話を思い浮かべていました。
けれど介護サービスを利用する生活を考えると、その裏には契約や費用の支払いがあります。
そこで初めて私は、親の介護を考えるなら、体のことだけでなく「親のお金をどう扱うのか」も元気なうちから考えておく必要があると感じるようになりました。
親の預金がどこにあるのか。
介護費用は何から払うつもりなのか。
今は答えまで決めなくても、そんなことを少しずつ親に聞いておく意味はありそうです。
預金を引き出せなくなる?「資産凍結」と呼ばれる状態とは
親の判断能力が低下すると、家族がこれまでと同じように親の預金を動かせなくなることがあります。
ただし、「認知症になった瞬間に銀行口座が自動的に凍結される」という仕組みではありません。
預金は本人の財産なので、家族であっても自由に引き出せるわけではありません。
全国銀行協会は、本人以外が預金を引き出す場合、原則として預金者本人の意思確認が必要と案内しています。
問題になるのは、認知症などによって本人の意思確認が難しくなった場合です。
たとえば、親が介護施設に入り、
「施設費用を親の預金から払いたい」
と思っても、家族だからという理由だけで自由に引き出せるとは限りません。
こうした状態を一般に「資産凍結」と表現することがあります。
ただし、これは「認知症になったら一切預金を使えない」という意味ではありません。
全国銀行協会は、本人の生活費や入院費、介護施設費用などのために資金が必要で困っている場合には、まず取引銀行に相談するよう案内しています。
銀行によって対応や必要書類が異なる場合もあります。
つまり、
「認知症になったら口座が自動的に凍結され、一切お金を使えなくなる」
という単純な仕組みではありません。
一方で、
「子どもなら親のお金を当然に使える」
わけでもないのです。
だからこそ、判断能力が十分なうちに、
「介護費用はどの口座から払うつもり?」
「普段使っている銀行はどこ?」
と確認しておくことも、親の終活の一つだと思います。
判断能力が低下した後に利用できる「法定後見制度」
親の判断能力が低下し、財産管理や契約を本人だけで行うことが難しくなった場合には、法定後見制度を利用できる場合があります。
法定後見制度は、家庭裁判所が本人を支援する人を選び、財産管理や法律行為などを支援する仕組みです。
2026年9月現在は、判断能力の程度に応じて、
- 後見
- 保佐
- 補助
の3つの制度があります。
実際に、財産管理は成年後見制度を利用する大きな理由になっています。
最高裁判所の2025年の統計によると、成年後見関係事件の主な申立ての動機は、
- 預貯金等の管理・解約:93.4%
- 身上保護:74.2%
- 介護保険契約:45.7%
- 不動産の処分:36.3%
となっています。複数回答のため、割合の合計は100%にはなりません。
この数字から分かるのは、成年後見制度を申し立てる動機として、財産管理に関する問題が非常に大きいということです。
また、2025年12月末時点の成年後見制度の利用者は259,901人で、前年の253,941人から約2.3%増えています。
ここで、現在の制度について一つ知っておきたい変化があります。
成年後見制度は、2026年6月17日に改正法が成立し、6月24日に公布されました。
改正後は現在の「後見」「保佐」を廃止し、「補助」に一元化したうえで、本人が必要とする範囲で支援を利用できる仕組みへ見直されます。
ただし、成年後見制度に関する改正はまだ施行されていません。
施行日は、2026年6月24日の公布から2年6か月以内に政令で定められる日とされています。したがって、2026年9月現在は、従来の「後見・保佐・補助」の制度が利用されています。
制度が変わる時期でもあるため、実際に利用を検討するときは、法務省や裁判所などの最新情報を確認することが大切です。
元気なうちに検討できる「民事信託(いわゆる家族信託)」
親の判断能力が十分なうちなら、将来の財産管理に備えて、民事信託(いわゆる家族信託)を検討する方法もあります。
信託とは、財産を持つ人が、信頼できる人などに財産の管理・処分などを託す仕組みです。
民事信託は信託法に基づく契約であり、成年後見制度のように国が用意した公式な仕組みではありません。
たとえば親が、
「将来、自分でお金を管理するのが難しくなったら、子どもに一定の財産を管理してほしい」
と考えている場合などに、信託を検討するケースがあります。
ただし、ここで注意したいことがあります。
民事信託は、成年後見制度の代わりになる万能な制度ではありません。
基本的には財産管理のための仕組みなので、介護や医療に関するあらゆる判断を家族が代わりにできる制度ではありません。
また、信託契約の内容によって、管理できる財産やできることも変わります。
そのため、
「成年後見と家族信託、どちらがお得?」
と単純に比べるより、
親の財産は何か。何に備えたいのか。誰に何を任せたいのか。
を先に考えたほうがよいでしょう。
どの制度が合うかは、親の財産や家族構成、何に備えたいのかによって変わります。
何も準備していなかったら、まずどこに相談する?
親が何も準備しないまま判断能力が低下しても、家族だけで解決策を決める必要はありません。
まずは困っている内容に応じて、専門機関へ相談するところから始められます。
たとえば、親の預金を介護費用に使う必要があるなら、まず取引銀行に相談します。
成年後見制度が必要なのか分からない場合には、地域包括支援センターや自治体の成年後見に関する相談窓口などに相談する方法があります。
必要に応じて、司法書士や弁護士などの専門家につなげてもらうこともできます。
「何も準備していなかった」
と思うと、家族は焦ってしまうかもしれません。
でも、
「成年後見制度を使うしかない」
「家族信託にしておけばよかった」
と家族だけで結論を出す必要はありません。
状況を整理してから、その家庭に合う方法を専門家と一緒に考えていけばいいのです。
そして、まだ親が元気なら、今できることがあります。
大切なのは、今日どちらかの制度に決めることではなく、
「もし親が認知症になったら、お金の管理はどうする?」
という問いを、家族の間で一度共有しておくことです。
たとえば親に、
「もし自分で銀行に行けなくなったら、お金のことはどうしたい?」
と聞いてみる。
それだけなら、「財産を全部教えて」と迫る話にはなりません。
終活のお金の話は、金額を聞くところから始めなくてもいいのです。
この章のまとめ
認知症で判断能力が低下すると、預貯金の管理や契約、不動産の処分などを本人だけで行うことが難しくなる場合があります。
だからこそ、親の介護について考えるときは、身体のことだけではなく「介護に必要なお金をどう管理するのか」も考えておきたいところです。
この章で覚えておきたいのは、
- 認知症になったからといって口座が自動的に凍結されるわけではない
- 本人の意思確認が難しくなると、家族が自由に預金を動かせないことがある
- 困ったときは、まず取引銀行へ相談できる
- 判断能力が低下した後には、法定後見制度を利用できる場合がある
- 判断能力が十分なうちなら、民事信託を検討する方法もある
- 制度を家族だけで選ばず、必要に応じて専門機関へ相談する
ということです。
そして、ここで大切なのは、成年後見と民事信託のどちらを選ぶかを、今すぐ家族だけで決めることではありません。
まずは「親のお金はどこにあり、介護が必要になったとき、何から支払うのか」を親が元気なうちに確認しておくこと。
それだけでも、いざというときの家族の迷いは減らせます。
親の預貯金や保険などを整理する方法は、関連記事の「終活の財産整理は何から始める?」で詳しく紹介しています。
そして次の章では、お金と同じように介護が始まると問題になりやすい、きょうだい間の介護分担について考えていきます。
第8章 きょうだいで介護を分担するときに大切なこと

親の介護が始まると、きょうだいがいる家庭では「誰が介護するのか」という問題が出てきます。
「長男だから」
「親の近くに住んでいるから」
「仕事をしていないから」
そんな理由だけで、一人に負担が偏ってしまうと、きょうだいの間に不満が残ることがあります。
一方で、きょうだい全員が同じ時間、同じ量の介護をするのも現実には難しいものです。
だから、全員が同じことをする「平等」ではなく、それぞれができる形で支える「公平」が大事なのではないでしょうか。
「平等」と「公平」は違う
きょうだいで介護を分担するときは、同じ量を負担する「平等」より、それぞれの事情に合わせて支える「公平」を考えるほうが現実的です。
きょうだいにはそれぞれ仕事や家庭、住んでいる場所などの違いがあります。
たとえば親の近くに住んでいる人なら病院への付き添いを頼みやすい一方、遠くに住んでいる人は電話で親の様子を確認したり、帰省したときにまとまった対応をしたりすることができます。
つまり
「近くに住んでいる人=介護担当」
「遠くに住んでいる人=何もしない」
と決める必要はありません。
できることの種類が違うだけ、と考えてみると分担の仕方が変わってきます。
「私はこれならできる」
「今月は仕事が忙しいから、ここはお願いしたい」
と、それぞれの事情を出し合う。
それが、きょうだいで介護を続けるための第一歩になります。
近くに住む人だけに負担を集中させない
親の近くに住んでいるきょうだいに、介護の負担が集中しすぎないようにすることも大切です。
ここで気をつけたいのは、分担は時間とともに変わっていくということです。
最初は、
「実家が近いから、私がやるよ」
と言っていたとしても、介護が長く続けば状況は変わります。
仕事をしながら親の通院に付き添う。
休日も親の様子を見に行く。
何かあるたびに電話がかかってくる。
こうしたことが積み重なると、「どうして私ばかり」と感じてしまうこともあります。
負担は、始めた時点の量のまま止まっているわけではありません。半年前は無理なく続けられていたことが、今は難しくなっている、ということも起こります。
だからこそ、「最初にこう決めたから」と分担を固定するのではなく、負担が偏っていないかを途中で確認し合うことが大切です。
大切なのは、「介護に行けない=何もできない」ではないと考えることです。
情報を共有する
きょうだいの介護で「聞いていない」という不満を防ぐには、親の状態や今後の予定をできるだけ共有しておくことが大切です。
近くに住んでいる人だけが親の状況を把握していると、遠くのきょうだいは判断するための情報を持てません。
逆に、何も知らされないまま突然、
「来週、病院に行くから帰ってきて」
と言われても、仕事や家庭の予定を調整するのは難しいでしょう。
たとえば、家族で共有する情報を、
- 親の体調
- 通院や入院の予定
- 介護サービスの利用状況
- ケアマネジャーなど相談先
- 今後検討していること
などに整理しておく方法があります。
LINEなどで家族のグループを作って、簡単に記録しておくのも一つの方法です。
ここで大切なのは、情報を共有することと、全員が同じ意見になることは別だということです。
意見が違っても、「今、親がどういう状態なのか」をきょうだいで知っているだけで、話し合いやすくなります。
お金の立て替えを記録する
介護が続くと、病院代や交通費、日用品など、家族が一時的にお金を立て替える場面も出てきます。
このとき、少額だからと曖昧にせず、誰が何を支払ったのかを簡単に記録しておくことをおすすめします。
たとえば、
「病院の交通費3,000円」
「親のための日用品2,500円」
「施設への支払い5万円」
など、日付と金額だけでも残しておく。
介護が長くなると、後から、
「私ばかりお金を出している」
「そんなに払っていたなんて知らなかった」
という不満につながることがあります。
だからこそ、介護にかかったお金を見えるようにしておくことが大切です。
ただし、ここでは相続や財産分与の話まで広げません。
第7章でも触れたように、親のお金を誰がどのように管理するかは、判断能力や財産の状況によっても考え方が変わります。
きょうだい間のお金や役割分担がこじれやすいケースについては「親の終活で兄弟がもめないために」で詳しく取り上げています。
きょうだい間のお金の問題を避けるためにも、まずは「記録して共有する」こと。
それだけでも、後から話をするときの材料になります。
親の希望を中心にする
きょうだいで介護を話し合うとき、一番忘れたくないのが、「親はどうしたいのか」という視点です。
きょうだいの間で、
「自宅で介護したほうがいい」
「施設に入ったほうが安心」
「長男が中心になるべき」
などと意見を出し合っているうちに、親本人の希望が置き去りになってしまうことがあります。
でも、介護の主役はきょうだいではありません。
その生活を送るのは、親本人です。
たとえば親が、
「できるだけ今の家で暮らしたい」
と思っているなら、その希望を知ったうえで、
「どうすれば安全に暮らせるだろう」
「どんな介護サービスを利用できるだろう」
と考えていく。
逆に、
「家族に迷惑をかけるくらいなら施設に入りたい」
という考えなら、その気持ちも含めて検討する必要があります。
もちろん、親の希望をすべてそのまま実現できるとは限りません。
身体の状態や家族の事情、費用などによって、別の方法を選ばざるを得ない場合もあります。
それでも、「親がどうしたいのか」を最初に知っておくことには意味があります。
第6章で紹介した「人生会議」とも、ここでつながります。
きょうだいで介護方法を決める前に、
「お母さんは、これからどう暮らしたいと思っている?」
という親の声を確認する。
そこを出発点にしたいものです。
介護の分担は「最初に決めて終わり」ではない
きょうだいで介護の分担を決めても、ずっと同じ形で続けられるとは限りません。
親の状態が変わることもあります。きょうだいの仕事や家庭の状況が変わることもあるでしょう。
最初は近くに住んでいたきょうだいが転勤することもあれば、逆に遠くに住んでいたきょうだいが親の近くへ戻ることもあります。
だから、
「最初に決めたから、この人がずっと担当」
と固定しないことも大切です。
たとえば数か月に一度、
「今の分担で無理はない?」
と確認するだけでもいい。
「最近、ちょっと大変になってきた」
という声が出たら、そこで分担を見直せばいいのです。
介護は、きょうだいの我慢比べではありません。続けられる形に変えていくことも、介護の分担の一部なのだと思います。
私が大切だと思うのは、「介護をしている人」だけで考えないこと
私は、介護について考えるとき、「実際に親のそばにいる人」だけが大変なのではないと思っています。
近くに住む人には、日々の細かな対応があります。
一方、遠くに住む人には、「何もできていないのではないか」というもどかしさがあるでしょう。
それぞれに違う負担があります。
だからこそ、
「誰が一番大変なのか」
を比べるより、
「今、それぞれに何ができるのか」
を考えたほうが、きょうだいの関係を保ちやすいのではないでしょうか。
そして、これは親の終活にもつながります。
親が元気なうちに、
「もし介護が必要になったら、きょうだいでどう支えようか」
と話しておく。
介護が始まってから初めて集まるよりも、まだ余裕のある時期に一度話しておくほうが、家族にとっては気持ちの準備にもなります。
「誰が介護するか」ではなく、
「親のために、きょうだいそれぞれが何をできるか」
と考えてみる。
私は、そのほうが家族にとって無理の少ない形を探しやすいと思っています。
この章のまとめ
きょうだいで親の介護を分担するときは、全員が同じことをする必要はありません。
大切なのは、
- 「平等」ではなく「公平」を考える
- 分担は時間とともに変わるものだと知っておく
- 親の状態や介護の情報を共有する
- 立て替えたお金は記録しておく
- きょうだいの都合だけでなく、親の希望を中心にする
- 状況が変わったら分担も見直す
ということです。
介護が始まると、きょうだいの間で意見が違うこともあるでしょう。
でも、意見が違うこと自体が問題なのではありません。
「私はこう思う」
「私はここまでならできる」
「親はどうしたいと言っている?」
と話せることが大切です。
そして、まだ介護が始まっていないなら、今できることは一つあります。
きょうだいに、
「もし親の介護が必要になったら、私たちでどう支えようか?」
と、一度だけ話してみることです。
具体的な役割を決めなくても構いません。
「そのときは一人に任せないようにしよう」
そんな共通認識を持っておくだけでも、いざというときの支えになります。
きょうだい間でのお金や役割分担がこじれやすいケースについては、「親の終活で兄弟がもめないために」で詳しく取り上げています。
次の章では、親と離れて暮らしている場合でもできることに目を向け、遠方に住む50代の子が、どのように親の介護を支えられるのかを考えていきます。
第9章 遠方に住んでいても、親の介護にできることはある

親と離れて暮らしていると、
「介護が必要になったら、近くに住んでいるきょうだいに任せるしかないのかな」
と思ってしまうかもしれません。
でも、遠方に住んでいるからといって、親の介護に関われないわけではありません。
電話で様子を聞く。
家族で情報を共有する。
必要な書類を整理する。
専門機関とつながる。
帰省したときに、普段は見えない変化を確認する。
こうしたことも、親の介護を支える大切な役割です。
地域包括ケアの考え方では、遠方に暮らす家族についても、本人・家族・地域の支援者が話し合い、地域包括支援センターや介護支援専門員などと情報や支援の方向性を共有することが望ましいとしています。
「近くにいないから何もできない」と決めつけなくても大丈夫です。
電話で定期的に確認する
遠方の親を支えるなら、まずは電話などで定期的に話すことから始められます。
特別な質問を毎回する必要はありません。
むしろ、いつもの会話の中に、親の変化が表れることがあります。
「最近どう?」
「ちゃんと食べてる?」
「病院には行ってる?」
そんな何気ない会話でもいいのです。
たとえば、以前はよく話していた親が、
「最近、買い物に行くのが面倒でね」
「階段がちょっと怖くなった」
「病院に行くのが大変になってきた」
と言い始めたら、それは暮らしの変化を知るきっかけになります。
電話の回数を増やすことだけが大切なのではありません。
「いつもと違うこと」に気づける関係を作っておくことが大切です。
遠くにいるからこそ、普段の生活を直接見ることはできません。
だからこそ、親の声を定期的に聞いておく。
それだけでも、変化に気づく手がかりになります。
オンラインで家族会議をする
きょうだいがそれぞれ別の場所で暮らしているなら、電話やオンライン会議を使って、家族で情報を共有する方法もあります。
全員が同じ場所に集まる必要はありません。
たとえば定期的に、
「最近のお母さんの様子」
「病院の予定」
「介護サービスについて」
「次に誰が帰省するか」
などを短時間で共有するだけでもいいでしょう。
特に遠距離介護では、近くにいる人だけが親の状況を知っている状態を避けることが大切です。
近くのきょうだいからすると、
「毎日のことだから当然知っている」
という情報でも、遠くにいるきょうだいには分からないことがあります。
逆に、遠くにいるきょうだいは、
「そんなに大変になっていたなんて知らなかった」
と後から気づくこともあります。
だから、家族の中で情報を共有する仕組みを作っておく。
これは第8章でお伝えした、きょうだい間の介護分担ともつながります。
遠くに住んでいる人も、家族の情報を知っていれば、自分にできることを考えられます。
書類・情報の整理
遠方に住んでいる人だからこそ、書類や情報の整理を担当するという役割もあります。
たとえば、
- 親のかかりつけ医
- 介護サービスの利用状況
- 緊急連絡先
- 保険に関する情報
- 重要な書類の保管場所
- 介護に関する相談先
などです。
もちろん、親の個人情報や財産について、本人の了解なく勝手に管理するという意味ではありません。
親と相談しながら、「何がどこにあるか」を家族で分かるようにしておくことが目的です。
特に遠方に住んでいると、急に帰省する必要が生じたとき、
「病院はどこ?」
「介護サービスは何を使っている?」
「必要な書類はどこ?」
と、一から探すのは大変です。
あらかじめ情報が整理されていれば、必要なときに家族が動きやすくなります。
そして、この作業は親が元気なうちから始められます。
「もしものときに困らないように、連絡先だけまとめておかない?」
そんな軽い声かけからでもいいでしょう。
財産や保険、重要書類などの整理については、関連記事の「終活の財産整理は何から始める?」でも詳しく紹介しています。
地域包括支援センターに相談する
第4章で紹介した地域包括センターですが、実は遠方に住んでいてっも、親がクラス地域のセンターに相談できます。
たとえば親について、
「最近、一人暮らしが心配になってきた」
「転倒が増えている」
「介護保険を利用したほうがいいのか分からない」
といった不安がある場合です。
「私は遠方に住んでいるのですが、親のことで相談できますか?」
と、まず聞いてみるところから始められます。
ただし、親本人の意思やプライバシーにも関わるため、家族だけで勝手にすべてを決めるということではありません。
「親の希望を大切にしながら、地域の専門職とどうつながるか」
という視点を持っておくといいでしょう。
地域包括支援センターは全国の市町村に設置されており、担当するセンターは親の住所によって異なります。
帰省時に確認すること
遠方に住んでいるなら、帰省したときは「久しぶりに会う」だけでなく、普段の生活を知る機会としても大切にしたいものです。
電話では分からない変化が、実際に家を見ると見えてくることがあります。
たとえば、
- 家の中に以前はなかった物が増えている
- 階段の上り下りが大変そう
- お風呂やトイレが使いにくそう
- 冷蔵庫の中に食べ物がほとんどない
- 郵便物がたまっている
- 薬の管理が難しくなっている
などです。
ここで大切なのは、親の生活を「チェックする」という姿勢にならないこと。
「ちゃんとできている?」
と確認するより、
「この階段、今は大丈夫?」
「最近、買い物はどうしてる?」
と、普段の会話として聞いてみるほうが自然です。
そして、気になることがあっても、すぐに
「もう一人暮らしは無理じゃない?」
と結論を出す必要はありません。
まずは、
「今、どんなところが大変になっている?」
と聞いてみる。
親自身が感じている不便を知ることが先です。
遠距離介護で大切なのは「距離」より「つながり」
遠くに住んでいると、
「近くにいるきょうだいに任せてしまって申し訳ない」
「自分は何もできていない」
と感じることがあるかもしれません。
でも、介護は「親の家に何時間いたか」だけで測れるものではありません。
遠方に住む家族にも、それぞれの立場で親を支える役割があります。
そして、その役割は、必ずしも「直接介護すること」だけではありません。
親の様子を知ること。
家族と情報を共有すること。
必要なときに専門機関とつながること。
そうした関わりを続けていれば、遠くにいても親の介護を支えることができます。
だから、「遠くにいるから介護できない」ではありません。
遠くにいるからこそ、自分にできる役割を考える。
そんな考え方もできます。
私自身、親の「これから」を考えるようになって感じること
第1章でふれた、親の「自分の家で最期まで過ごしたい」という言葉を、私は今でもよく思い出します。
何か起きてから考えるのではなく、親が元気なうちに少しずつ準備しておくことにも意味がある。そう感じるようになったきっかけでした。
遠距離介護についても同じです。
介護が始まってから慌てて帰省するのではなく、今のうちから電話で話したり、家族と情報を共有したり、親の希望を聞いたりする。
今できる小さなことを重ねておけば、何か起きたときに、どこから動けばいいのかを考えやすくなります。
遠くにいる今だからこそ、聞いておきたい一言
遠方に住んでいると、「次に帰省したときに聞こう」と思っているうちに、時間が過ぎてしまうことがあります。
だから、特別な準備をしなくてもいい。
次に親と電話で話すとき、
「これからも今の家に住みたい?」
と聞いてみる。
あるいは、
「もし一人で暮らすのが大変になったら、どうしたい?」
と聞いてみる。
答えを出してもらう必要はありません。
親の答えを知っておくこと自体が、これからの介護を考える手がかりになります。
この章のまとめ
遠方に住んでいても、親の介護にできることはあります。
- 電話で定期的に話す
- きょうだいでオンラインなどを使って情報を共有する
- 親と相談しながら重要な情報を整理する
- 親の住む地域の地域包括支援センターに相談する
- 帰省したときに、普段の暮らしを知る
- 自分にできる役割を見つける
大切なのは、近くに住んでいる人と同じことをすることではありません。
それぞれの場所から、親をどう支えられるかを考えること。
それなら、遠くに住んでいてもできることはあります。
もし今、親が元気なら、次の電話で一つだけ聞いてみませんか。
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
その答えが、これからの親の終活を考える出発点になるかもしれません。
次の章では、介護だけで終わらせず、親の暮らしの先にある「実家・財産・相続」について、今のうちから何を考えておけばいいのかを整理します。
第10章 介護の先にある「実家・財産・相続」も少しずつ考える

介護のことを考え始めると、最初は「親の生活をどう支えるか」で頭がいっぱいになるかもしれません。
けれど、介護が始まると、少しずつ別の問題も見えてきます。
「この家には、この先も住めるのだろうか」
「親のお金は、どこにあるのだろう」
「もし相続になったら、きょうだいでどうする?」
終活というと、亡くなった後のことを準備するイメージがあります。
でも、実際にはそのずっと手前から考えておくことで、家族の負担を減らせることがあります。
ここでは、介護の先にある「実家・財産・エンディングノート・遺言書・相続」を、今すぐ全部終わらせるのではなく、まず全体像を知るために整理してみます。
実家をどうする?
介護を考えるときは、親が今住んでいる実家についても、「この先も暮らし続けられるか」という視点で考えておくことが大切です。
介護が必要になってから初めて、
「段差が多い」
「トイレやお風呂が使いにくい」
「車がないと買い物に行けない」
と気づくこともあります。
さらに、親が亡くなった後には、住む人がいなくなった実家をどうするかという問題も出てきます。
売却するのか、誰かが住み続けるのか、空き家として管理するのか。
家は思い出の詰まった場所である一方、維持や管理が必要な「資産」でもあります。
だからこそ、親が元気なうちに、
「この家には、これからも住みたい?」
「もし一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」
と聞いてみることには意味があります。
私自身、親が「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」と話しているのを聞いて、住みたい場所と、実際に住み続けられる家は同じとは限らないのだと考えるようになりました。
前章でも触れましたが、夫の実家では、元気なうちに行ったリフォームが、今の介護環境を支えています。家のことは、介護が始まってから考えるのではなく、元気なうちだからこそ見えることがあります。
実家の片付けや実家じまいについては、別の記事でも詳しく紹介しています。
「親が元気なうちに、実家について何を考えておけばいい?」と思った方は、こちらの記事「実家をどうする?」も参考にしてみてください。
預金・保険を把握する
介護が必要になる前に、親の預金や保険などの財産が「どこにあるのか」だけでも把握しておくと、いざというときの家族の戸惑いを減らせます。
大切なのは、親の財産を子どもが管理することではありません。
まずは、
- どの銀行を利用しているか
- 預貯金口座はいくつあるか
- 生命保険や医療保険に加入しているか
- 不動産を所有しているか
- 借入金などはないか
といった全体像を知っておくことです。
たとえば、親が入院したとき。
介護費用や医療費が必要になったのに、
「どこの銀行に口座があるのかわからない」
「保険に入っていることは聞いたけれど、証券が見つからない」
となると、家族はそれだけで慌ててしまいます。
前の第7章でも触れたように、判断能力が低下した場合には、家族だからといって親の預金を自由に動かせるわけではありません。
だからこそ、財産管理の制度を急いで決める前に、「そもそも親には何があるのか」を一緒に確認しておくことが最初の一歩になります。
「親の財産整理は、何から始めればいい?」
そう感じた方は、預貯金や保険などを整理する方法をまとめた関連記事も参考にしてください。
エンディングノート
エンディングノートは、財産だけでなく、親の「これからどう生きたいか」を知るためにも役立ちます。
遺言書のように財産の分け方を法的に決めるものではありませんが、医療や介護への希望、連絡してほしい人、大切にしているものなどを書き残しておくことができます。
たとえば、
「できれば自宅で暮らしたい」
「延命治療についてはこう考えている」
「入院したら、この人に連絡してほしい」
「大切な写真は、この子に渡したい」
など。
こうしたことは、財産の金額だけを見ていても分かりません。
そして、親の気持ちは変わることがあります。
一度書いたら終わりではなく、年齢や生活の変化に合わせて見直してもいいものです。
私がエンディングノートを大切だと思うのは、「親が亡くなった後のため」だけではなく、「親が今どう生きたいのか」を知るきっかけになるからです。
もし、まだ親に「終活を始めよう」と言うことに抵抗があるなら、
「最近、私も終活のことを考えているんだけど、お母さんはこれからどんなふうに暮らしたい?」
そんな会話から始めてもいいのではないでしょうか。
エンディングノートについては、書き方や選び方も含めて、別記事で詳しく紹介しています。
遺言書
エンディングノートと遺言書は同じものではありません。財産を誰にどのように残したいのかを法的に残しておきたい場合には、遺言書についても考える必要があります。
たとえば、親が
「長年面倒を見てくれた子に、この家を残したい」
「きょうだいには、それぞれこういう形で分けたい」
と思っていても、その希望を家族に話しているだけでは、法的な効力があるとは限りません。
一方、遺言書には法律上のルールがあります。
そのため、「とりあえず紙に書いておけば大丈夫」と考えるのではなく、必要に応じて専門家に相談することも大切です。
現在は、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう「自筆証書遺言書保管制度」もあります。
この制度では、遺言書の紛失や改ざんを防ぐため、法務局が原本などを保管します。また、相続開始後に相続人等が遺言書の保管の有無を確認できる仕組みもあります。
ただし、すべての家庭に遺言書が必要というわけではありません。
財産の種類や家族関係によっても、考えるべきことは変わります。
「うちは遺言書を作ったほうがいいのかな?」
と思ったら、まずは親の希望や財産の状況を整理するところから始めても遅くありません。
遺言書については、「終活で遺言書は必要?」という記事で、50代の子世代が親と話すときのポイントも含めて詳しく紹介しています。
相続
相続は、親が亡くなった後に初めて考えるものではありません。親が元気なうちから、家族で財産や希望について少しずつ共有しておくことで、相続のときの「知らなかった」を減らせます。
特に注意したいのが実家です。
預金なら金額を確認できますが、家や土地は簡単に分けられるものではありません。
「実家は誰が引き継ぐのか」
「売却するのか」
「誰も住まない場合はどうするのか」
こうした問題は、相続が始まってから考えると、きょうだいそれぞれの事情や気持ちがぶつかることもあります。
法務省も、相続が発生すると、遺産分割が終わるまで相続財産が相続人らの共有状態になることがあり、管理や処分が難しくなる場合があるとして、遺産分割を早めに進めることを案内しています。
また、「うちは財産が少ないから、相続税は関係ない」と思っている人もいるかもしれません。
相続税については、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に申告・納税が必要になります。基礎控除額は原則として「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
ただし、相続=相続税ではありません。
相続税がかからない場合でも、実家をどうするか、預金や保険をどう分けるか、きょうだいでどう話し合うかといった問題は残ります。
だからこそ、相続対策を「税金の問題」だけにしてしまわないことが大切です。
親が元気なうちにまず、
「もしものとき、この家をどうしたい?」
と聞いてみることをおすすめします。
そこから、
「預金はどこにある?」
「保険には入っている?」
「大切なものは誰に残したい?」
と、一つずつ話を広げていけばいい。
全部を一日で聞き出す必要はありません。
相続について詳しく知りたい方は、当ブログの「相続」と「相続税」に関する関連記事も参考にしてください。
この章のまとめ
介護を考え始めたとき、実家や財産、相続まで一度に考えるのは大変です。
でも、全部を今すぐ終わらせる必要はありません。
まずは、
①実家をこの先どうしたいか
②預金や保険がどこにあるか
③親はどんな暮らしを望んでいるか
④エンディングノートに残しておきたいことは何か
⑤遺言書が必要か
⑥相続のとき、家族が困りそうなことは何か
この全体像を知っておくだけでも、見える景色は変わってきます。
そして、ここまで読んでくださったあなたに、私が一つだけ提案するとしたら。
次に親と電話で話すとき、いきなり「相続」や「遺言書」の話をする必要はありません。
「この先も、この家に住みたい?」
まずは、そんな一言からでいいと思います。
その答えの中に、親が大切にしている暮らし方や、これから考えるべき終活のヒントが隠れているかもしれません。
終活は、亡くなるための準備だけではありません。
これからどう生きたいのかを、大切な人と一緒に考える時間でもある。
私は、そう考えています。
そして、その会話ができたら、親の終活は「準備」から「家族の対話」に変わっていくのではないでしょうか。
第11章 親の終活で一番大切なのは「全部終わらせること」ではない

ここまで読んで、「親の終活って、やることがたくさんあるんだな」と感じた方もいるかもしれません。
介護、医療、住まい、お金、エンディングノート、遺言書、相続……。
全部を一度に考えようとすると、かえって何から始めればいいのかわからなくなります。
でも、私はこの10章を書きながら、親の終活で一番大切なのは、「全部終わらせること」ではないと思うようになりました。
大切なのは、親がどんなふうに生きたいと思っているのかを知り、その思いを家族が少しずつ共有していくこと。
そのために、今日できることは一つで十分です。
親の意思を尊重する
親の終活で最初に大切にしたいのは、「子どもがどうしたいか」ではなく、親自身がどうしたいと思っているのかを知ることです。
なぜなら、親の人生を生きるのは、あくまで親本人だからです。
たとえば子どもからすると、
「施設に入ったほうが安心」
「家は売ったほうがいい」
「財産はこう分けたほうがいい」
と思うことがあるかもしれません。
もちろん、親の安全や家族の負担を考えれば、そう思うのは自然なことです。
それでも、まず聞いてみたいのは、
「お母さんは、これからどう暮らしたい?」
「お父さんは、何を大切にしていきたい?」
ということではないでしょうか。
私の親は以前、「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」と話していました。
その言葉を聞いてから、私は「自宅で過ごしたい」という希望だけを見るのではなく、その希望をかなえるためには、今の家でどんな準備が必要なのだろうと考えるようになりました。
今の家には階段や段差があります。
元気な今は気にならなくても、足腰が弱くなれば、暮らしにくさにつながるかもしれません。
だからこそ、親の希望を聞くことは、単なる聞き取りではありません。
「その希望をどうすれば大切にできるか」を家族で考えるスタートにもなります。
親の終活について、「どう切り出せばいいかわからない」という方は、当ブログの「親の終活の切り出し方」の記事も参考にしてみてください。
家族だけで決めない
親の終活や介護について、子どもだけで「こうする」と決める必要はありません。
むしろ、家族だけで抱え込むと、知らないうちに一人の負担が大きくなることがあります。
介護が必要になれば、介護保険のサービスや地域包括支援センターなど、家族以外にも相談できる場所があります。
財産管理や相続についても、状況によっては金融機関や専門家への相談が必要になるでしょう。
つまり、終活は「家族だけで全部解決するもの」ではありません。
たとえば、
「介護のことは地域包括支援センターに相談してみる」
「財産のことは専門家に確認する」
「相続については家族で早めに話しておく」
というように、問題ごとに適切な人や制度につないでいけばいいのです。
私自身、親のこれからを考える中で、「子どもだから何とかしなければ」と考えすぎないことも大切だと思っています。
家族だからこそできることもあります。
でも、家族だけではできないこともある。
その線引きを知っておくことが、結果的に親にとっても家族にとっても安心につながるのではないでしょうか。
もし介護が始まったときの相談先や公的サービスについて知りたい方は、第4章「介護が必要になったら、家族だけで抱え込まない」に戻って確認できます。
状況が変われば見直す
親の終活は、一度決めたら終わりではありません。年齢や健康状態、住まい、家族の状況が変われば、考え方も変わって当然です。
たとえば、今は元気なので、
「できるだけ自宅で暮らしたい」
と思っていても、数年後には、
「介護サービスを利用したい」
「家族の近くに住みたい」
「施設も選択肢に入れたい」
と気持ちが変わるかもしれません。
逆に、子どもが「もう一人暮らしは難しいだろう」と思っていた親が、環境を整えることで自宅での生活を続けられることもあります。
厚生労働省が進めている「人生会議(ACP)」でも、本人の価値観や希望を家族や医療・ケアの関係者と話し合い、その時々で繰り返し考えていくことが大切だとされています。
つまり、終活で「正解を一つ決める」必要はありません。
「今はこう思っている」
それを家族が知っているだけでも、大きな意味があります。
私の夫の家では、祖父母がまだ元気だった頃に家を改修しました。
その後、高齢になって介護が必要になったとき、段差が減っていたことで、家族が対応しやすい環境になっていました。
この経験から私が感じたのは、準備とは、未来を完璧に決めることではなく、そのときの暮らしに合わせて選択肢を残しておくことなのかもしれないということです。
親の気持ちも、家族の状況も変わります。
だから、終活ノートに書いたことも、家族で話したことも、「その時点での希望」と考えておけばいいのではないでしょうか。
今日できる一歩だけ始める
親の終活を何から始めればいいのかわからないなら、まずは質問を一つだけ決めるのがおすすめです。
終活ノートを買うことでも、財産を全部調べることでもありません。
最初の一歩は、親との会話でいいのです。
たとえば、
「これからも、今の家に住みたい?」
あるいは、
「もし介護が必要になったら、どんなふうに過ごしたい?」
もっと気軽に、
「最近、終活のことを考えてるんだけど、お母さんは何か希望ある?」
でも構いません。
親がすぐに答えられなくても、それで失敗ではありません。
「そんなこと、まだ考えたくない」
と言われるかもしれません。
そのときは、いったん話を終えてもいい。
大切なのは、一度ですべてを聞き出すことではなく、「この話をしてもいいんだ」と家族の間に道をつくっておくことだと思います。
私自身も、親のこれからを考えるようになって、「もっと早く全部聞いておけばよかった」と焦るより、今から一つずつ聞いていけばいいのだと考えるようになりました。
親の終活は、チェックリストを全部埋める競争ではありません。
今日一つ聞いて、また別の日に一つ聞く。
そんな小さな積み重ねでもいいのです。
もし今日、親と話せそうなら、こんな一言から始めてみませんか。
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
その答えが、あなたが親の終活を始める最初の一歩になるかもしれません。
この章のまとめ
親の終活で大切なのは、子どもがすべてを準備して、すべてを終わらせることではありません。
大切なのは、
- 親自身の希望を知る
- 家族だけで抱え込まない
- 状況が変われば、その都度見直す
- 今日できることを一つだけ始める
ということです。
「親の終活 介護」と検索したとき、きっと多くの人は「何を準備すればいいの?」という答えを探していると思います。
でも、本当に最初に必要なのは、もしかすると準備ではなく、親の話を聞くことなのかもしれません。
介護が始まってからでは、聞きたくても聞けないことがあります。
元気な今なら、まだ聞けることがある。
だから、難しい話をいきなり始めなくても大丈夫です。
今日、親と話す機会があったら、
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
と聞いてみる。
それだけでも、十分な一歩です。
終活は、死を考えるためだけのものではありません。
これからの人生をどう過ごしたいのかを、大切な人と一緒に考える時間。
私は、そんなふうに終活を考えていきたいと思っています。
そして、この記事をここまで読んでくださったあなたが、少しでも「親に聞いてみようかな」と思ってくださったなら。
それが、このブログで私が一番届けたかったことです。
FAQ 親の終活と介護でよくある質問

ここまで「親の終活と介護」について読んできても、
「結局、いつ始めればいい?」
「遠くに住んでいる私は何ができる?」
「認知症になったら親のお金はどうなる?」
など、まだ気になることがあるかもしれません。
本文の内容とも重なる点がありますが、ここでは、50代の子世代が特に迷いやすいことをFAQ形式でまとめます。
Q1. 親の終活はいつから始めればいい?
親の終活は、「何か起きてから」ではなく、親が元気なうちに少しずつ始めるのがおすすめです。
ただし、「今日から終活を始めよう」と大きな準備を始める必要はありません。
終活を始めるタイミングは、年齢だけで決まるものではないからです。
たとえば、
「最近、親の足腰が弱くなってきた」
「一人暮らしが少し心配になってきた」
「介護のニュースを見て、自分の親のことが気になった」
そんな小さなきっかけでも十分です。
私自身、親が「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」と話しているのを聞いたことで、これからの暮らしについて考えるようになりました。
そのとき私が感じたのは、終活は「亡くなる準備」だけではなく、これからどんな生活をしたいのかを知ることから始められるということです。
だから、最初の一歩はエンディングノートを買うことでも、財産を調べることでもありません。
「これからも今の家に住みたい?」
そんな一言を聞いてみるところからでもいいのです。
親の終活は、親が元気で会話ができる今だからこそ始めやすいもの。
「親にどう切り出せばいい?」という方は、当ブログの「親の終活の切り出し方」の記事も参考にしてください。
Q2. 親の介護は子どもがしなければいけませんか?
親の介護を、子どもが一人ですべて背負う必要はありません。
介護保険には、訪問介護や通所介護など、本人の生活を支えるさまざまなサービスがあります。
また、市区町村に設置されている地域包括支援センターでは、高齢者や家族からの介護に関する相談を受けています。
「介護=子どもが仕事を辞めて世話をする」と考えてしまうと、選択肢が一気に狭くなります。
たとえば、近くに住む子どもが通院に付き添い、遠方のきょうだいが電話や書類の整理を担当する。
必要に応じて介護サービスにも入ってもらう。
そんな形もあります。
私自身、親の介護を実際に担っているわけではありません。
だからこそ、まだ何も起きていない今の段階で、「もし介護が必要になったら、私が全部やらなければ」と決めつけないことが大切だと考えています。
介護は、家族だけで抱えるものではなく、使える制度やサービスも含めて考えるもの。
介護が始まったときの相談先やサービスについては、第4章「介護が必要になったら、家族だけで抱え込まない」で詳しく説明しています。
Q3. 遠方に住んでいても親の介護はできますか?
遠方に住んでいても、親の介護を支えることはできます。
大切なのは、実際に介護をすることだけではありません。
電話で様子を確認したり、家族と情報を共有したり、必要な書類を整理したり、地域の相談先につないだりすることも支援の一つです。
厚生労働省も、遠距離介護では親本人や家族、地域の支援者などと話し合い、情報を共有しておくことが大切だと案内しています。
たとえば、遠方に住む子が、
「今度の病院はいつ?」
「最近、困っていることはない?」
と定期的に確認する。
帰省したときには、家の中で危険な場所がないか、生活に変化がないかを見ておく。
こうした小さな関わりでも、親の変化に早く気づくきっかけになります。
私も、親の「これから」を考えるようになってから、距離よりも「話せるうちに話しておくこと」のほうが大切なのではないかと思うようになりました。
遠方だから何もできない、ということではありません。
距離に合わせて、自分にできる役割を考えることが遠距離介護の第一歩です。
具体的な方法は、第9章「遠方に住んでいても、親の介護にできることはある」で紹介しています。
Q4. 介護と相続は一緒に考えたほうがいいですか?
介護と相続は別の問題ですが、親のこれからを考えるときには、少しずつつなげて考えておくと安心です。
介護では「今の生活をどう支えるか」が中心になります。
一方、相続では、親が亡くなった後の財産や実家をどうするかが問題になります。
ただ、実際にはこの二つはつながっています。
たとえば、介護をきっかけに実家のバリアフリー化を考えたり、親が施設に入ることで空き家になる可能性が出てきたりします。
「親が住めなくなったら、この家はどうする?」
という問題が、介護の途中で出てくることもあるでしょう。
また、親のお金を介護費用にどう使うのかを考えることもあります。
だからといって、介護が始まった時点で相続対策をすべて終わらせる必要はありません。
まずは親の希望と、実家や財産の全体像を知る。
そのうえで、必要なことから順番に考えていけば大丈夫です。
介護は「今の暮らし」、相続は「その先の財産」と考え、それぞれを整理しながらつなげていく。
実家・預貯金・保険・遺言書・相続については、第10章「介護の先にある『実家・財産・相続』も少しずつ考える」でまとめています。
Q5. 介護について親と何を話しておけばいいですか?
まず聞いておきたいのは、「どんな介護を受けたいか」よりも、「これからどんなふうに暮らしたいか」です。
介護の話から始めると、
「まだ介護なんて必要ない」
「そんな先のことを考えたくない」
と親が身構えてしまうことがあります。
そこで、
「この先も今の家に住みたい?」
「もし一人で暮らすのが難しくなったら、どうしたい?」
「病院や介護のことで困ったら、誰に相談したい?」
など、暮らしについて聞いてみます。
親の希望がわかれば、その後に必要な介護や医療について考えやすくなります。
たとえば、「できるだけ自宅で暮らしたい」という希望がわかれば、
「では、今の家で暮らし続けるには何が必要だろう?」
と考えることができます。
私の親も「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」と話していました。
その言葉を聞いたことで、私は「自宅で過ごしたい」という希望を、単なる希望のままにせず、家の環境や介護のことまで考えておく必要があると感じました。
親の希望を聞くことは、介護の答えを決めることではありません。
これからの暮らしを一緒に考えるための、最初の会話です。
親への声かけに悩んだら、第3章「親に『介護と終活』の話をするとき、何から切り出す?」も参考にしてください。
Q6. 親が認知症になったら、お金の管理はどうなりますか?
親が認知症になったからといって、銀行口座が自動的に凍結されるわけではありません。ただし、判断能力が低下すると、本人の意思確認が難しくなり、家族がこれまでと同じように預金を動かせなくなることがあります。
ここは、誤解されやすいところです。
預金は親本人の財産なので、子どもだから自由に引き出せるわけではありません。
全国銀行協会も、本人の生活費や入院費、介護施設費用などの支払いに困った場合には、まず取引銀行に相談するよう案内しています。
たとえば、親が施設に入ることになり、
「毎月の費用を親の口座から支払いたい」
と思っても、本人の意思確認が難しい状態になっていれば、家族が簡単に手続きをできない場合があります。
だからこそ、元気なうちに、
「どこの銀行を使っている?」
「介護が必要になったら、費用はどうしたい?」
と確認しておく意味があります。
なお、判断能力が低下した後の財産管理には、成年後見制度などの仕組みがあります。
一方で、認知症になる前から財産管理について備える方法として、民事信託(いわゆる家族信託)などが検討されることもあります。
ただし、これらは家族の状況によって適した方法が異なります。
「認知症になったら口座が凍結する」と単純に考えるのではなく、「本人のお金を、本人のためにどう管理するか」を元気なうちから考えておくことが大切です。
成年後見制度や民事信託については、第7章「認知症で判断能力が低下したら、介護費用や財産管理はどうなる?」で詳しく解説しています。
この章のまとめ
「親の終活と介護、結局何から始めればいい?」
そう思ったら、まずは大きな準備をしようとしなくても大丈夫です。
親の希望を知る。
家族で共有する。
必要になったら、制度や専門家につなぐ。
そして、状況が変われば見直す。
このくらいのペースで十分です。
終活という言葉を聞くと、「親に死を意識させてしまうのでは」と抵抗を感じる人もいるでしょう。
私も、親にいきなり「終活しよう」と言うのは難しいと思います。
だからこそ、最初は終活という言葉を使わなくてもいい。
次に親と話すとき、
「これから、どんなふうに暮らしたい?」
と聞いてみる。
答えがすぐに返ってこなくても構いません。
その一言が、親のこれからを知るきっかけになるかもしれないからです。
終活は、何かを「終わらせる」ためだけのものではありません。
大切な人がこれからどう生きたいのかを知り、その思いを家族で受け止めていく時間でもあります。
この記事を読んでくださったあなたが、今日ひとつだけ親に聞いてみる。
その小さな一歩から、親の終活は始まっていくのだと思います。
まとめ 今日、親に一つだけ聞いてみませんか?

親の終活と介護について考え始めると、「何を準備すればいいんだろう」と不安になるかもしれません。
でも、ここまで読んでくださったあなたに、最後に一つだけ伝えたいことがあります。
親の終活は、全部を完璧に準備することから始めなくてもいい。
大切なのは、親がこれからどんなふうに暮らしたいのかを知ることです。
介護が必要になったとき、どこで暮らしたいのか。
どんな医療や介護を望んでいるのか。
誰にそばにいてほしいのか。
実家をどうしたいのか。
そして、何を大切にして人生を過ごしたいのか。
こうしたことは、親が元気なうちだからこそ聞ける話でもあります。
私自身、親が「できれば自分の家で最期まで過ごしたい」と話してくれたことで、親の終活について考えるようになりました。
その言葉を聞くまでは、「終活=亡くなった後のための準備」というイメージが、どこかにあったのだと思います。
でも、親の希望を知ったことで、
「では、その希望をかなえるために、今できることは何だろう?」
と考えるようになりました。
家のこと。
介護のこと。
お金のこと。
家族で話しておくこと。
どれも、親の人生を勝手に決めるためではありません。
親が大切にしているものを知り、その思いをできるだけ尊重するための準備です。
だから、まだ何も起きていない50代の今だからこそ、できることがあります。
終活ノートを買うことでも、財産をすべて整理することでもありません。
もっと小さなことでいい。
今日、親に一つだけ聞いてみませんか?
「終活しよう」と切り出す必要もありません。
相続の話を始めなくても大丈夫です。
今日、親と電話で話すとき。
一緒に食事をするとき。
帰省して顔を合わせたとき。
そんな何気ないタイミングに、
「もし体が思うように動かなくなったら、どこで暮らしたい?」
と聞いてみる。
「今の家に住みたい」
「子どもの近くに行きたい」
「施設に入るのもいいかな」
「そんなこと、まだ考えてないよ」
どんな答えでもいいのだと思います。
答えが出なくても、それで終わりではありません。
むしろ、その一言をきっかけに、いつかまた話せるかもしれません。
親の気持ちは、年齢や健康状態によって変わることもあります。
だから、一度ですべてを決める必要もないのです。
私も、親のこれからを考える中で、「もっと早く聞いておけばよかった」と後悔するより、今、聞けることを一つずつ聞いていこうと思うようになりました。
親の終活は、親の人生を子どもが管理することではありません。
親の代わりに答えを決めることでもありません。
親の「こうしたい」を知ること。
そして、その思いを家族が知っていること。
それだけでも、いざというときの選択肢は変わってくるはずです。
もしこの記事を読み終えた今、あなたの頭に親の顔が浮かんだなら。
まずは一つだけ。
「もし体が思うように動かなくなったら、どこで暮らしたい?」
と聞いてみませんか?
その会話が、親の終活の始まりになるかもしれません。
そしていつか、親の希望を聞いておいてよかったと思える日が来るかもしれません。
終活は、怖いものではないのだと思います。
大切な人がこれからどう生きたいのかを知るための時間。
私は、そんな終活を家族と一緒に考えていきたいと思っています。
あなたも今日、親と一つだけ話してみませんか。


















