親の終活で兄弟がもめないために|50代からできること

「親のこと、そろそろ考えたほうがいいのかな」

50代になると、親の介護や実家、財産、相続のことが少しずつ気になってきます。

でも、親のことを考えるとき、意外と難しいのがきょうだいとの関わり方です。

近くに住むきょうだいが親のことを心配して、いろいろ調べたり、親と話をしたり、手続きを進めたりすることもあるでしょう。

本人は「親のために」と思っていても、ほかのきょうだいに情報が共有されていなければ、

「そんな話、聞いていない」
「もう決まっているの?」

と、不信感が生まれることがあります。

私自身も、きょうだいの一人が親のことを積極的に進める一方で、ほかのきょうだいには十分な情報が共有されず、置いていかれたような気持ちになったという話を聞いたことがあります。

また逆に、ほかのきょうだいが何も動かず、自分ばかりが負担しているとモヤモヤした経験がある人もいるのではないでしょうか。

親の終活では、誰か一人が頑張ることよりも、必要な情報を共有することが大切なのだと感じていす。

そして、意見が食い違ったときこそ、忘れたくないのが、

「親はどうしたいのか?」

という視点です。

この記事では、親の終活で兄弟がもめる原因から、きょうだいの役割分担、親への話の切り出し方、遠方のきょうだいとの情報共有、相続の基礎知識まで、50代の今からできることを順番に整理します。

全部を一度に決める必要はありません。

親のことを、きょうだいと少し話してみる。

そのための最初の一歩を、一緒に考えていきましょう。

※「兄弟」という表記について
本文では、男性の兄弟だけでなく、兄妹・姉弟・姉妹など、さまざまなきょうだいを含めてお話ししています。そのため、本文中では「きょうだい」とひらがなで表記しています。

Table of Contents

第1章|親の終活、兄弟でもめたくないと思ったら最初にすること

「親の終活、そろそろ考えたほうがいいのかな」

50代になると、親がまだ元気でも、そんなことが頭をよぎることがあります。

実家のこと、これからの暮らし、介護、財産、お墓……。考え始めれば、気になることはいくつも出てきます。

でも、最初から全部を決めようとする必要はありません。

親の終活でまず大切なのは、「何をするか」を決めることより、「親はどうしたいのか」を知ること。そして、その情報をきょうだいで共有しておくことです。

私自身、きょうだいの終活への関わり方をめぐって、「良かれと思って動くこと」と「家族みんなが納得できること」は同じではない、と感じた経験があります。

「終活=財産や相続の話」ではありません

親の終活と聞くと、遺言書や財産整理、相続を思い浮かべる人も多いでしょう。

もちろん、それらも大切な準備です。ただ、親の終活は財産をどう分けるかだけの話ではありません。

これからどこで暮らしたいのか。介護が必要になったらどうしたいのか。どんな医療を受けたいのか。お葬式やお墓をどう考えているのか。

そうした「これから、どう生きたいのか」を知ることも、親の終活の大切な一部です。

厚生労働省が進める「人生会議(ACP)」でも、本人が大切にしたいことや望む生き方、もしものときにどのような医療やケアを望むのかを、家族などと前もって考え、話し合い、共有することが大切だとされています。 (厚生労働省)

つまり、終活の最初の一歩は、

「親の財産をどうする?」ではなく、「親はこれからどうしたい?」

と考えることなのかもしれません。

関連記事:終活は何から始める?

終活を始める順番や、最初に整理しておきたいことについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。

まず確認したいのは「親がどうしたいのか」

親の終活について考えるとき、子ども同士で先に話を進めたくなることがあります。

「実家はどうする?」

「介護が必要になったらどうする?」

「相続はどうなる?」

心配なことが多ければ多いほど、先回りして答えを出したくなるものです。

でも、ここで一度立ち止まってみましょう。

その答えを決めるのは、親ではないでしょうか。

たとえば、子どもたちが「実家は売ったほうがいい」と考えていても、親は「できるだけ長くこの家に住みたい」と思っているかもしれません。

反対に、親自身が「家はもう手放していい」と考えていることもあります。

大切なのは、子どもたちの正解を親に当てはめることではなく、まず本人の気持ちを知ることです。

厚生労働省も人生会議について、本人の価値観や希望を家族などと話し合い、共有するプロセスを重視しています。また、一度決めて終わりではなく、状況や気持ちの変化に応じて繰り返し話し合うことが大切だとしています。 (厚生労働省)

「親の終活をどうするか」ではなく、

「親は、これからどう暮らしたい?」

から始める。

それなら、終活の話も少し身近になるのではないでしょうか。

一人が良かれと思って進めることが、きょうだいの不信感につながることもある

ここで、私自身がきょうだいとの関わりの中で感じたことをお話しします。

あるとき、行動力のあるきょうだいが、親のことを心配して一人でいろいろと調べ、親とも話をし、必要な手続きまで進めていました。

きっと本人には、「親のためにやっている」という気持ちがあったのだと思います。

実際、何もしないより、動いてくれる人がいることはありがたいことです。

ところが、ほかのきょうだいには、

  • 親と何を話したのか
  • 何が決まったのか
  • どこまで話が進んでいるのか

といったことが、十分に共有されていませんでした。

すると、知らされていなかった側には、別の感情が生まれます。

「なぜ私たちは何も知らされていないの?」

「もう、そこまで決まっているの?」

そんな不信感や不快感が積み重なり、まるで自分たちだけ置いていかれたような気持ちになったといいます。

問題だったのは、情報を共有しないまま話が進んでいたことでした。

ここから私が感じたのは、

「良かれと思って動くこと」と「きょうだいに情報を共有すること」は、別の問題なのだ。

ということです。

親のために誰かが積極的に動くこと自体は、悪いことではありません。

むしろ、行動できる人がいることは家族にとって大きな助けになります。

ただ、その人だけが情報を持ち、判断し、手続きを進める状態が続くと、ほかのきょうだいは「自分には何も知らされていない」と感じるかもしれません。

だからこそ、一人が多く動く場合ほど、情報を共有することが大切なのだと思います。

全員が同じことをする必要はありません

「きょうだいで情報共有する」と聞くと、全員が同じだけ動かなければならないように感じるかもしれません。

でも、そんな必要はありません。

近くに住んでいる人なら、親の様子を見に行くことができます。

遠方に住んでいる人なら、制度を調べたり、専門家を探したり、必要な情報を整理したりできます。

話をするのが得意な人もいれば、書類を整理するのが得意な人もいるでしょう。

大切なのは、「全員が同じことをする」ことではなく、「誰か一人だけが全部背負わない」ことです。

そしてもう一つ。

役割を決めたからといって、それをずっと固定する必要もありません。

親の状況が変われば、できることも変わります。

最初は近くに住むきょうだいが実家のことを担当していても、仕事や家庭の事情が変わることがあります。逆に、遠方にいたきょうだいが時間を取れるようになることもあります。

だから、

「あなたはこれを担当ね」

と決め切るより、

「今はこれをお願いできる?」「次は私がやるよ」

と、その都度調整できる関係のほうが長続きします。

だからこそ、情報は共有しておく

では、何を共有すればいいのでしょうか。

最初から親の財産をすべて調べて、詳細な一覧表を作る必要はありません。

まずは、

  • 親とどんな話をしたのか
  • 親が何を気にしているのか
  • 何か決まったことがあるのか
  • 今後、家族で話したほうがよさそうなことは何か

を、きょうだいで知っておく程度でも十分です。

たとえば、

「お母さんが、できるだけ今の家に住みたいって言ってたよ」

「最近、病院のことを少し心配していたみたい」

「実家の書類について、一度みんなで確認したほうがよさそう」

そんな小さな共有から始めてもいいのです。

情報共有は、全員に同じ負担を求めるためではありません。

「知らないまま話が進んでしまった」という不信感を減らすためです。

厚生労働省の「人生会議」でも、本人の希望を家族などと話し合い、共有することが重視されています。話し合った内容は一度決めて終わりではなく、状況に応じて見直していくものとされています。 (厚生労働省)

親の気持ちも、家族の状況も、時間とともに変わります。

だからこそ、「一度決めたから大丈夫」ではなく、そのときどきで話し直せる関係をつくっておくことが大切なのです。

この記事は「もめないルール集」ではなく「話し合うための土台づくり」

ここまで読んで、

「でも、うちのきょうだいはそんなに簡単に話し合えない」

と思った方もいるかもしれません。

もちろん、すべての家族が同じように話し合えるわけではありません。

きょうだいの距離が遠かったり、もともと関係がぎくしゃくしていたり、親のことについて温度差があったりすることもあるでしょう。

それでも、最初から「きょうだい全員の意見を一致させる」必要はありません。

むしろ目指したいのは、

「意見が違っても、話せる状態」

です。

そして、意見がぶつかったときに戻る場所を決めておく。

その場所が、

「親はどうしたいのか」

なのだと思います。

きょうだいの誰かが正しいか、誰が多く動いたか、誰の意見を採用するか。

そこにこだわり始めると、親の終活がいつの間にか「きょうだい同士の勝ち負け」のようになってしまいます。

そうではなく、

「お父さんはどうしたい?」

「お母さんは何を大切にしたい?」

と、親本人の気持ちに戻る。

それが、親の終活を家族の対立ではなく、家族で未来を考える時間に変えていくための土台になるのではないでしょうか。


この章のまとめ

親の終活を始めるとき、最初から財産や相続について結論を出す必要はありません。

まず大切なのは、親がこれからどう暮らしたいのかを知ることです。

そして、きょうだいの中で誰かが積極的に動く場合も、ほかのきょうだいが置いていかれないよう、話したことや決まったことを共有しておく。

全員が同じことをする必要はありません。

できる人が、できることを担う。けれど、情報はみんなで共有する。

もし意見が食い違ったときは「誰が正しいか」ではなく「親はどうしたいのか」に戻ってみる。

終活は、家族の誰か一人が背負う仕事ではありません。

大切な人のこれからを、一緒に考える時間。

そう考えると、終活の最初の一歩も、少しだけ踏み出しやすくなるのではないでしょうか。

第2章|なぜ仲のいい兄弟でも親の終活でもめるの?

親の終活できょうだいがもめるのは、必ずしも仲が悪いからではありません。

むしろ、親を心配しているからこそ、それぞれが「自分が何とかしなければ」と動き、考え方や負担の違いが表面化することがあります。

今まで仲のよかったきょうだいでも、親の介護や実家、財産の話が出てくると、急に意見が合わなくなることもあります。

「どうして分かってくれないの?」

そう思う前に、まずはきょうだいそれぞれに見えている景色が違うことを知っておくと、少し冷静に考えられるかもしれません。

「私ばかり」がきょうだい関係をこじらせる

親の終活できょうだいがもめる大きなきっかけの一つが、「自分ばかり負担している」という感覚です。

実家の近くに住む人が親の通院に付き添い、家の片付けをし、親から相談を受ける。その一方で、遠方のきょうだいは日常の様子が分からない。そんな状況が続けば、近くにいる人に不満がたまるのは自然なことです。

厚生労働省も、介護と仕事の両立を支援する中で、家族で介護の分担を決めたり、地域包括支援センターやケアマネジャーなどに相談したりすることを案内しています。介護を一人で抱え込まず、制度やサービスを利用することも重要とされています。 (厚生労働省)

一方で、遠方にいるきょうだいからすると、

「そんなに大変だとは知らなかった」

「何か手伝いたかったけれど、声をかけてもらえなかった」

ということもあります。

つまり、「私ばかり」という不満の背景には、負担そのものだけでなく、負担が見えていないこともあるのです。

だからこそ、親の終活では「誰が一番頑張っているか」を競うのではなく、何が起きているのかを共有することが大切です。

行動する人と、まだ必要性を感じていない人の温度差

きょうだいの間で終活への温度差があるのは珍しいことではありません。

一人は「そろそろ親のことを考えないと」と思っていても、別のきょうだいは「親はまだ元気だから大丈夫」と考えている、といったことは珍しくないのです。

この違いは、親への思いの強さの違いとは限りません。

親と同居している、近くに住んでいる、最近病院に付き添ったなど、親の日常に触れる機会が違えば、感じる危機感も変わるからです。

例えば、長女は親の物忘れが少し増えたことに気づいている。一方、半年に一度しか実家に帰らない長男には、その変化が分からない。

ここで長女が「どうして何も考えてくれないの?」と思っても、長男には長男の見えている現実があります。

逆に、長男からすれば「まだ何も起きていないのに、なぜそんなに急ぐの?」となるかもしれません。

温度差があること自体を問題にするより、まず情報量の違いを埋めること。

それだけでも、きょうだいの受け止め方は変わってきます。

介護・実家・お金で負担が偏る

親の終活できょうだいの意見がぶつかりやすいのは、気持ちだけではなく、具体的な負担が関わってくるからです。

特に大きいのが、介護、実家の管理、そしてお金です。

たとえば、実家の近くに住むきょうだいが親の通院や家の管理を担っているのに、遠方のきょうだいは何もしていないように見える。反対に、遠方のきょうだいが交通費をかけて何度も帰省していても、その負担は近くにいる人からは見えにくいでしょう。

お金も同じです。

親のために何かを購入した費用、実家の修繕費、交通費、専門家への相談費用など、細かな支出が積み重なると、「なぜ私だけ払っているの?」という不満につながることがあります。

だから、負担を考えるときは「介護をした時間」だけでなく、お金・距離・仕事・家庭への影響まで含めて考えることが大切です。

厚生労働省も、介護と仕事を両立するためには、家族だけで抱え込まず、介護サービスや地域の相談機関などを組み合わせることを勧めています。 (厚生労働省)

後の章では、こうした負担を「誰が何をできるか」という役割分担の視点から考えていきます。

親の希望を知らないまま きょうだいで話し合う

きょうだいだけで先に「親のことをどうするか」を決めようとすると、意見が対立しやすくなります。

なぜなら、話し合っている人たちが、肝心の親の希望を知らないまま答えを出そうとしているからです。

「実家は売ったほうがいい」

「いや、残したほうがいい」

「施設に入ったほうが安心」

「まだ自宅で暮らせる」

どちらにも、それぞれの理由があります。

でも、親本人はどう思っているのでしょう。

「できるだけ今の家にいたい」

「子どもに迷惑をかけたくない」

「家は手放してもいいから、最後まで自分らしく暮らしたい」

親の考えを知らなければ、きょうだいの話し合いは「自分の考える正解」をぶつけ合う場になってしまいます。

だからこそ、きょうだいで意見が食い違ったときほど、

「お父さん、お母さんはどうしたいんだろう?」

と、親本人の意思に戻ることが大切です。

情報を一人だけが持っている

きょうだいの不信感は、「何を決めたか」だけでなく「何を知らされていないか」から生まれることがあります。

前章でも述べていますが、きょうだいのうち一人だけがいろいろと調べ、親と話をし、必要な手続きまで進めていたいことがありました。

動いていた本人からすれば、「親のために早く何かしてあげたい」という思いがあったのだと思います。

ところが、ほかのきょうだいには、

  • 親と何を話したのか
  • 何が決まったのか
  • どこまで進んでいるのか

が十分に共有されていませんでした。

そのため、知らされていない側には、

「もうそこまで話が進んでいたの?」

「どうして私たちは何も知らないの?」

という不信感が残りました。

私は、一人が動いたことそのものを責めたいわけではありません。

むしろ、親のことを思って行動してくれたことには、ありがたい部分もありました。

ただ、

良かれと思って動くことと、家族が納得できる形で進めることは、同じではない。

そのことを実感しました。

終活では、行動力のある人がいることは大きな助けになります。

だからこそ、その人だけが情報を持つのではなく、「こんな話をしたよ」「ここまで進んだよ」と共有しておく。

それだけでも、「置いていかれた」という感覚は減らせるのではないでしょうか。

実家によく出入りするきょうだいと、遠方のきょうだいでは見えているものが違う

実家との距離は、きょうだいの考え方にも影響します。

実家によく行くきょうだいは、親のちょっとした変化や、家の傷み、物の多さなど、日常の細かな部分まで目に入ります。

一方、遠方に住むきょうだいは、電話や帰省したときの様子だけで判断することになります。

また逆に、たまに行くからこそ気づく変化もあります。

同じ親を見ていても、

「そろそろ何か準備したほうがいい」

という人と、

「まだ大丈夫でしょう」

と感じ方の差もあります。

ここで、「近くにいる人のほうが正しい」「遠方の人は何も分かっていない」と決めつけるのは危険です。

近くにいる人には、日常的な負担があります。

遠方の人には、仕事や家庭の事情があり、すぐには動けない事情があるかもしれません。

距離の違いを、関心の強さの違いと決めつけないこと。

そのうえで、実家の様子や親の変化を写真やLINEなどで共有すれば、遠方のきょうだいにも状況が伝わりやすくなります。

具体的な情報共有の方法や役割分担については、後の章で詳しく取り上げます。

きょうだいの配偶者が関わることで意見が複雑になることもある

きょうだいだけなら話がまとまりそうなのに、配偶者の意見が入った途端、話が難しくなることもあります。

特に、実家によく出入りしているきょうだいの配偶者は、親の生活や負担を身近に感じている分、「こうしたほうがいい」という思いが強くなることがあるのです。

私自身も、そうした状況を実際に見てきました。

ただ、だからといって配偶者を「口を出す人」として邪険にするのは違うと思っています。

その人には、その人なりの心配があります。

義親のことを思っている場合もあれば、自分の家庭への負担を心配している場合もあるでしょう。

たとえば、実家の管理や親の通院を手伝うことで、その配偶者にも時間や労力の負担がかかっていることがあります。

だからこそ、その思いそのものは否定しない。

でも、意見が強くなって「こうするべき」という話になったときほど、私は一度「親本人はどうしたいのか」に戻ることが大切だと思います。

親の終活について話し合うときは、誰かを悪者にするのではなく、

「お母さん自身はどうしたいって言っている?」

と確認する。

それなら、配偶者の意見も聞きながら、話の軸を親本人に戻すことができます。

「平等」と「公平」は違う

兄弟で親の終活を分担するとき、「全員が同じ量を負担すること」が公平だと思ってしまいがちです。

でも、実際の家族では、同じことを同じだけするのは難しいものです。

近くに住んでいる人と遠方に住んでいる人。仕事が忙しい人と時間に余裕がある人。親と話しやすい人と、少し距離がある人。

条件が違うからです。

例えば、近くに住むきょうだいが月に一度実家を確認する代わりに、遠方のきょうだいが行政や施設の情報を調べる。書類が得意な人が情報を整理し、話をするのが得意な人が親との会話を担当する。

これなら、やっていることは違っても、家族の一員として関わることができます。

「同じことをする」のではなく、「それぞれができることを担う」。

これが、親の終活では現実的な公平さなのだと思います。

意見が違うこと自体は悪いことではない

きょうだいの意見が違うことは、それだけで問題ではありません。

むしろ、違う立場から意見が出ることで、家族だけでは気づかなかったことが見えてくる場合もあります。

「実家は残したい」という人がいれば、「維持する費用はどうする?」という視点も必要です。

「親は自宅で暮らしたい」という希望があれば、「そのためにはどんな支援が必要?」と考えることもできます。

大切なのは、意見を一致させることではありません。

違う意見が出たときに、親の希望を中心に話し合えることです。

そして、すぐに結論が出ないことがあってもいい。

親の状況が変われば、家族の考えも変わります。

だからこそ、「今ここで全部決めなければ」と焦らないことも、親の終活では大切なのではないでしょうか。


この章のまとめ

親の終活で兄弟がもめる原因は、兄弟の仲が悪いからとは限りません。

見えているもの、負担しているもの、親への思い、そして持っている情報が、それぞれ違うからです。

特に注意したいのは、「誰か一人だけが情報を持って、良かれと思って話を進めてしまう」状態です。

行動する人を責める必要はありません。

行動する人ほど情報を共有する。そして、近くにいる人も遠くにいる人も、それぞれができることを担う。

配偶者の意見が強くなったときも、誰かを責めるのではなく、その人の心配や負担にも目を向けながら、最後は「親はどうしたいのか」に戻る。

そう考えると、「きょうだいでもめない」という目標も、少し違って見えてきます。

意見が違わない家族を目指すのではなく、意見が違っても話し合える家族を目指す。

そのための準備こそ、50代から始める親の終活なのかもしれません。

第3章|兄弟で親の終活を進めるときの役割分担

親の終活で大切なのは、きょうだい全員が同じことをすることではありません。

住んでいる場所や仕事、得意なことに合わせて、それぞれができることを担う。 そのうえで、必要な情報を共有しておくことが、きょうだい間の不信感や負担の偏りを防ぐポイントです。

「近くに住んでいるから自分が全部やらなければ」

「遠くにいるから何もできない」

そんなふうに考える必要はありません。

近くに住むきょうだいができること

実家の近くに住んでいるきょうだいは、親の様子を直接確認できることが大きな役割になります。

通院の付き添いや実家の状態確認、親からのちょっとした相談など、遠方のきょうだいには難しいことを担えるからです。

たとえば、

  • 親の通院や外出の付き添い
  • 実家の設備や家の状態の確認
  • 郵便物や重要書類の確認
  • 親から相談されたことの共有
  • 地域の介護サービスなどの情報収集

などがあります。

ただし、近くに住んでいるからといって、親に関することをすべて引き受ける必要はありません。

近くにいる人が毎回対応することが当たり前になると、少しずつ負担が積み重なり、「どうして私ばかり」という気持ちにつながることがあります。

「今日、病院に付き添ってきたよ」

「実家を見たら、ここが少し傷んでいたよ」

そんな小さな報告をきょうだいに共有するだけでも、状況を知ってもらうきっかけになります。

近くにいる人の役割は、「全部背負うこと」ではなく、「直接見える情報を家族につなぐこと」でもあるのです。

遠方に住むきょうだいができること

遠方に住んでいるからといって、親の終活に関われないわけではありません。

むしろ、「その場にいないからこそできること」もあります。

例えば、

  • 介護施設やサービスの情報を調べる
  • 自治体の制度を調べる
  • 相続や遺言について情報収集する
  • 必要な専門家を探す
  • 家族で共有する情報を整理する
  • オンラインで親やきょうだいと話す

といったことです。

たとえば、近くに住む姉が親の通院に付き添い、遠方の弟が介護サービスについて調べる。

この二人は、同じことをしているわけではありません。

でも、どちらも親のこれからを支える役割を担っています。

遠方にいるきょうだいが「何もできない」と感じる必要はありません。

距離ではなく、「自分には何ができるか」で考える。

それだけでも、きょうだいの役割分担は変わってきます。

書類や情報整理が得意な人ができること

家族の中に、書類を整理したり情報をまとめたりするのが得意な人はいませんか?

そうした人には、親の終活に関する情報を整理する役割が向いています。

例えば、

  • 親がどんな希望を話していたか
  • 重要書類がどこにあるか
  • どんな手続きが進んでいるか
  • きょうだいで話し合った内容
  • 今後確認したいこと

などを、分かりやすくまとめておく方法があります。

ここで大切なのは、一人だけが情報を管理する状態にしないことです。

前章でも触れたように、情報を一人だけが持っていると、ほかのきょうだいは「何も知らされていない」と感じることがあります。

例えば、共有フォルダや家族のLINEグループなどを使って、「今どうなっているのか」が分かる状態にしておく。

もちろん、親の個人情報や財産に関する重要な情報まで、何でも無制限に共有すればいいという意味ではありません。

親本人の意思やプライバシーにも配慮しながら、家族で共有したほうがよい情報と、慎重に扱う情報を分けることが大切です。

親との会話が得意な人ができること

親との会話が得意な人は、親の気持ちを聞く役割を担うことができます。

終活の話は、どうしても「死」や「お金」を連想させます。

だからこそ、親にとって話しやすい人がいるなら、その人が最初の聞き役になるのも一つの方法です。

例えば、

「これからもこの家に住みたい?」

「もし介護が必要になったら、どうしたい?」

「お葬式って、どんなふうにしてほしい?」

など、親の希望を聞くところから始めます。

ただし、聞き役の人が親の代わりに決定するわけではありません。

親が話した内容をきょうだいで共有し、「お母さんはこう言っていたよ」と伝える。

そうすれば、きょうだいがそれぞれの想像だけで親の希望を判断することも減ります。

親の終活では、「何を決めたか」だけでなく、「本人が何を大切にしているのか」を知ることも大切なのです。

お金や手続きが得意な人ができること

お金や手続きに抵抗がない人は、情報収集や専門家探しなどを担当すると力を発揮できます。

例えば、

  • 相続に関する制度を調べる
  • 遺言書について調べる
  • 必要な書類を確認する
  • 自治体の相談窓口を探す
  • 司法書士や行政書士などの専門家を探す

といった役割です。

ただし、ここでも大切なのは「調べた人が、そのまま家族の意思決定者にならないこと」です。

制度を調べることと、「こうするべき」と決めることは別だからです。

例えば、「この方法がよさそう」と調べたら、

「こういう制度があるみたいだけど、お母さんはどう思う?」

と、親やきょうだいに情報を渡す。

必要に応じて専門家に確認する。

そんなふうに、情報を集める役割と、決める役割を分けると、話し合いがこじれにくくなります。

役割は「長男・長女」ではなく「できること」で決めていい

親の終活というと、「長男だから」「長女だから」と、昔ながらの役割を思い浮かべる人もいるかもしれません。

でも、今の家族の暮らしはさまざまです。

長男が遠方で暮らしていて、次女が実家の近くに住んでいることもあります。

長女が仕事で忙しく、弟のほうが時間を取りやすいこともあるでしょう。

だから、「誰がやるべきか」ではなく、「誰が何ならできるか」で考えるほうが現実的です。

例えば、

役割向いている人の例
実家の確認近くに住む人
親との会話親と話しやすい人
情報収集調べるのが得意な人
書類整理整理が得意な人
オンライン共有ITが得意な人
専門家探し行動力のある人
費用の記録お金の管理が得意な人

このように分ければ、「私には何もできない」という人も、自分なりの役割を見つけやすくなります。

そして、全員が同じ量を担当する必要はありません。

大切なのは、家族の誰か一人に負担と情報が集中しすぎないことです。

一人が多く動く場合ほど、情報共有を意識する

親の終活では、どうしても行動力のある人が中心になることがあります。

それ自体は悪いことではありません。むしろ、誰かが動いてくれることで、物事が前に進むこともあります。

ただ、「動く人」と「決める人」と「情報を共有する人」を同じ一人にしないことは意識しておきたいところです。

例えば、姉が親と話をして、行政の手続きについて調べたとします。

そのとき、

「今日、お母さんとこういう話をしたよ」

「こういう制度があるみたい」

「今度、みんなで一度話したほうがよさそう」

と、途中経過を共有しておく。

それだけでも、ほかのきょうだいが後から突然知らされる状況を防げます。

行動力のある人ほど、「自分がやっているから大丈夫」と思わず、途中経過を伝えることが大切です。

「決まったことだけを報告する」のではなく、「今、ここまで考えている」と共有する。

それなら、ほかのきょうだいも一緒に考える余地が残ります。

一度決めた役割も、親の状況に合わせて見直す

親の終活における役割分担は、一度決めたら終わりではありません。

親の健康状態や暮らし、きょうだいそれぞれの仕事や家庭の事情が変われば、必要な役割も変わっていくからです。

例えば、最初は「実家の確認は姉」と決めていても、姉が仕事で忙しくなるかもしれません。

そのときに「姉が担当だから」と押しつけるのではなく、「今は誰ならできる?」と見直せばいいのです。

逆に、遠方だった弟が転勤で実家の近くに住むようになることもあります。

親の終活は、数週間で終わる作業ではありません。

家族の状況に合わせて、役割を入れ替えたり、減らしたり、専門家や介護サービスなど外部の力を借りたりしていい。

「一度決めた役割を守ること」よりも、「今の家族に合った形に変えていくこと」のほうが大切です。


きょうだいの役割分担で大切なのは「同じ量」ではなく「情報と気持ちの共有」

ここまで見てきたように、親の終活では、きょうだい全員が同じことを担当する必要はありません。

近くにいる人には近くにいる人の役割があり、遠方にいる人にもできることがあります。

書類整理が得意な人、親との会話が得意な人、情報収集が得意な人。それぞれの力を持ち寄ればいいのです。

そして、もう一つ忘れたくないのが、情報を共有することです。

誰か一人が多く動くことになっても、「今、何をしているのか」「親は何と言っているのか」を共有しておけば、ほかのきょうだいも状況を理解できます。

後の章では、遠方のきょうだいも含めて、LINEやオンラインなどを使って「一人で抱えない」ための情報共有について、もう少し具体的に考えていきます。

親の終活は、きょうだい全員で同じ道を歩くことではありません。

それぞれ違う場所からでも、同じ方向を向けるようにすること。

その中心に置きたいのが、親本人の「こうしたい」という気持ちです。


この章のまとめ

親の終活におけるきょうだいの役割は、「長男だから」「近くに住んでいるから」と決める必要はありません。

住んでいる場所、仕事、家庭の事情、得意なことなどを考えながら、それぞれができることを担えばいいのです。

ただし、誰か一人が多く動く場合ほど、情報共有は大切になります。

全員が同じ量を担当することが「公平」なのではありません。

できる人ができることを担いながら、親の希望や進んでいることを共有する。

そして、親の状況や家族の事情が変われば、役割も見直す。

それくらい柔軟でいいのだと思います。

終活は、きょうだいの誰か一人が背負う仕事ではありません。

「私はこれならできるよ」と、それぞれが一つずつ持ち寄る。

そんなところから始めてもいいのではないでしょうか。

第4章|親が終活を嫌がるとき、兄弟でどう対応する?

親に終活の話をしたら、「まだそんな話をする年じゃない」「縁起でもない」と嫌がられた。

そんな経験をする人は、決して珍しくありません。

親のことを心配しているからこそ、子どもは「早めに準備しておいたほうがいい」と思います。でも、親からすると、終活という言葉が「死」や「老い」を強く意識させることもあります。

だからこそ、親が終活を嫌がるときは、説得することよりも、話しやすい入口を探すことが大切です。

「終活しよう」は避ける

親が終活を嫌がるなら、最初から「終活をしよう」と持ちかけないほうが話しやすいことがあります。

「終活」という言葉を聞いただけで、「自分が死ぬ準備をさせられる」と感じる親もいるからです。

たとえば、

「お母さん、終活について話したいんだけど」

と言うより、

「これからもこの家に住みたい?」

「もし足腰が弱くなったら、どうしたい?」

と聞く。

こちらは同じ「親のこれから」を考える話ですが、受け取る印象はかなり違います。

厚生労働省の「人生会議(ACP)」も、本人が大切にしたいことや望む生き方、もしものときに希望する医療やケアについて、前もって考え、家族などと話し合う取り組みです。最初から「終末期のことを決める」のではなく、本人の思いや価値観を知ることが出発点になります。 (厚生労働省)

終活の話をすることより、親の話を聞くことから始める。

そのくらいの気持ちでいいのだと思います。

「これからどう暮らしたい?」から始める

親の終活を始めるなら、「死んだ後」ではなく「これから」の話から入るのがおすすめです。

親にとっても、自分のこれからの暮らしなら話しやすいからです。

たとえば、

  • これからも今の家に住みたい?
  • 庭の手入れが大変になったらどうしたい?
  • 車の運転をやめるとしたら、どうやって買い物する?
  • もし介護が必要になったら、どこで暮らしたい?
  • 病気になったとき、どんな治療を受けたい?

こうした質問なら、「遺産をどうする?」よりずっと自然です。

前出の厚生労働省・人生会議でも、まず「自分が何を大切にしたいか」を考え、それを家族や信頼できる人と話し合うことを勧めています。また、気持ちは変わることがあるため、何度でも繰り返し話し合うことが大切だとしています。 (厚生労働省)

だから、一度の家族会議で結論を出そうとしなくて大丈夫です。

「そういえば、お母さんはどうしたい?」と聞く会話を少しずつ増やす。

それも、立派な終活の一歩です。

財産の話を急がない

親の終活で気になるのが、財産や相続という人も多いでしょう。

でも、最初から「通帳はどこ?」「財産はいくらあるの?」と聞くと、親が警戒してしまうことがあります。

子どもにとっては将来困らないための確認でも、親からすると「自分が死んだ後のお金の話をされている」と感じるかもしれません。

特に、まだ元気に暮らしている親なら、

「そんなに急がなくてもいいでしょう」

と思うのも無理はありません。

まずは、住まいや医療、介護、これからやりたいことなど、親が話しやすいテーマから始める。

そのうえで、必要になったタイミングで財産や遺言について話すほうが、親も受け入れやすいでしょう。

例えば、

「相続のことを決めたいんじゃなくて、もし何かあったときに、お母さんの希望を私たちが知らないのが一番困ると思って」

という伝え方なら、少し意味が変わってきます。

もちろん、財産や遺言が重要ではないということではありません。

ただ、親の終活の最初の会話としては、財産より「本人の希望」を優先する。

この順番が、家族の会話を続けるうえで大切なのだと思います。

親が嫌がったら一度引く

親が終活の話を嫌がったら、無理に続ける必要はありません。

「まだ考えたくない」と言われたら、「そうだよね」と一度受け止めて、話題を変えることも選択肢です。

ここで子どもが焦って、

「でも、何かあってからでは遅いよ」

「今のうちに決めておかないと困るよ」

と説得を続けると、親はますます終活の話を避けるようになるかもしれません。

厚生労働省の資料でも、人生会議は本人の気持ちや準備状態を踏まえながら進めることが重要とされています。本人の気持ちは変化することもあり、繰り返し話し合うことが前提です。 (厚生労働省)

たとえば、

「今日はその話やめようか。また今度ね」

くらいで終わらせてもいい。

そして数週間後、テレビで介護の話題が出たときに、

「この前の話だけど、もし自分だったらどうしたい?」

と、別の角度から聞いてみる。なかなか会えない環境であれば難しいかもしれませんが、オンラインや電話、文字情報でも構いません。

一度で話をまとめるより、何度も話せる関係を残すこと。

それも親の終活では大切です。

きょうだい全員で一斉に説得しない

親が終活を嫌がっているとき、きょうだい全員で「ちゃんと考えて」と説得するのは、あまりおすすめできません。

子どもたちに囲まれて、「終活しなさい」と言われたら、親からすれば責められているように感じる可能性があるからです。

例えば、長男が「そろそろ遺言書を書いたほうがいい」、長女が「実家も片付けたほうがいい」、次女が「施設のことも考えて」と一斉に話したら、親は何から答えればいいのか分からなくなります。

それよりも、親が話しやすいきょうだいが一人、まず聞き役になる。

そして親が話したことを、必要に応じてきょうだいで共有する。

このほうが、親にとっても負担が少ないでしょう。

もちろん、親の意思を一人が独占するという意味ではありません。

「誰が親と話すか」と「誰が情報を共有するか」は分けて考える。

この意識が大切です。

「死」の話ではなく「これから」の話から始める

終活の話が難しいのは、「死」を連想させるからかもしれません。

だからこそ、最初は「死んだ後」ではなく、「生きている今とこれから」に目を向けてみます。

「お父さん、これから何かやってみたいことある?」

「旅行に行くなら、どこに行きたい?」

「家の中で、これからも残したいものってある?」

そんな会話も、親の価値観を知るきっかけになります。

一見、終活とは関係ないように思えるかもしれません。

でも、親が「この家で暮らしたい」「友達との時間を大切にしたい」「できるだけ人に迷惑をかけたくない」と話してくれたら、それは今後の介護や住まいを考えるときにも大切な情報になります。

厚生労働省の「人生会議」でも、話し合う内容は医療やケアだけではなく、「何を大切にしたいか」「どんなふうに生きたいか」という本人の価値観から始めることが示されています。 (厚生労働省)

終活は「人生の終わりについて話すこと」だけではありません。

親がこれからどんな時間を過ごしたいのかを知ることも、終活です。

きょうだいの意見を先にまとめてから親に伝えない

親のことだからこそ、きょうだいで先に話し合っておきたいと思うことがあります。

でも、親の意思を確認する前に子どもだけで結論をまとめるのは、少し注意が必要です。

「実家は売ることにしよう」

「介護施設を探そう」

「財産はこう分ければいい」

と子ども同士で決めてから親に伝えたら、親には「もう私のことは決まっている」と感じられるかもしれません。

これは、前の章で触れた「一人が良かれと思って話を進める」ことともつながります。

子どもたちがどれだけ親を思っていても、親本人の希望を確認しないまま進めれば、親の人生を子どもが決めることになってしまいます。

まず親に聞く。

その後で、きょうだいが情報を共有する。

そして必要なら、もう一度親を交えて話し合う。

この順番を意識しておくと、きょうだいの意見だけで話が先に進むことを防ぎやすくなります。

ただし、親の判断能力や健康状態によっては、本人だけで意思決定することが難しいケースもあります。その場合は、家族だけで結論を急がず、医療・介護の専門職などに相談することが大切です。厚生労働省も、本人の意思や価値観を尊重しながら、家族や医療・ケアチームと繰り返し話し合うことを人生会議の基本としています。 (厚生労働省)


親の終活の話をするなら、エンディングノートを「きっかけ」にしてみる

ここまで読んで、

「でも、いきなり親にこんな質問をするのは難しい」

と思った方もいるでしょう。

そんなときは、エンディングノートを会話のきっかけにする方法もあります。

「これを書いておいて」と渡すのではなく、

「こんなの見つけたんだけど、一緒に見てみない?」

くらいの軽い誘い方でもいいでしょう。

エンディングノートは、財産や相続だけを書くものではありません。

医療や介護、連絡してほしい人、思い出の品、葬儀やお墓についての希望など、親の考えを知るきっかけにもなります。

ただし、エンディングノートそのものには法的な効力がないため、遺言書の代わりになるわけではありません。

「親に終活をさせるためのノート」ではなく、「親の話を聞くためのきっかけ」

そう考えると、少し使いやすくなるのではないでしょうか。

関連記事:終活のエンディングノート、選び方・始め方は?50代からの入門ガイド

親に何を聞けばいいのか迷う場合は、エンディングノートを使った整理方法も参考にしてみてください。


この章のまとめ

親が終活を嫌がるとき、無理に説得する必要はありません。

「終活しよう」「相続について決めよう」と切り出すより、

「これからどう暮らしたい?」

という会話から始めるほうが、親の気持ちを聞きやすくなります。

そして、きょうだいで先に答えを決めてしまうのではなく、まず親本人の希望を聞く。

親が嫌がったら一度引いて、また別の機会に話してもいい。

終活の話は、一度ですべて決めるものではありません。

厚生労働省も人生会議について、気持ちは変化するため、何度でも繰り返し話し合うことが大切だとしています。 (厚生労働省)

だから、

「今、親に終活をさせなければ」

と焦らなくても大丈夫です。

まずは今日の食事のときに、

「これから、どんなふうに暮らしたい?」

と聞いてみる。

もしかすると、その何気ない一言が、親の終活について話し始めるきっかけになるかもしれません。

第5章|遠方の兄弟がいても「一人で抱えない」仕組みを作る

親の終活で、きょうだいの一人が実家の近くに住んでいると、「結局、近くにいる私がやるしかない」となりがちです。

でも、遠方に住むきょうだいにもできることはあります。大切なのは、距離ではなく「どう関わるか」を決めることです。

厚生労働省は、地域包括支援センターを高齢者や家族介護者の総合的な相談窓口として位置づけています。家族だけで抱え込まず、地域の支援も組み合わせることができます。 (厚生労働省)

LINEで情報を共有する

遠方のきょうだいとの情報共有には、普段から使っているLINEを活用するのが手軽です。

大切なのは、何か大きな問題が起きたときだけ連絡するのではなく、「今どうなっているか」をこまめに伝えることです。

例えば、

「今日、お母さんの病院に行ってきたよ」
「先生からは今のところ問題ないと言われたよ」
「実家の庭がかなり伸びていたから、来週業者に相談してみるね」

この程度でも構いません。

前章で書いたように、私自身、きょうだいの一人が親のことを積極的に進めていた一方で、ほかのきょうだいには十分な情報が伝わらず、置いていかれたような不信感を持った経験があります。

その経験から、私は「決まったことを報告する」だけではなく、「今、何を考えているか」まで共有することが大切だと感じるようになりました。

もちろん、親のプライバシーに関わることまで何でも共有する必要はありません。

親本人の意向も確認しながら、家族で共有しておいたほうがよい情報を決めておくといいでしょう。

オンラインで家族会議をする

きょうだいが遠方に住んでいるなら、オンラインで家族会議をする方法もあります。

全員が実家に集まることにこだわると、仕事や家庭の事情から、話し合う機会そのものが減ってしまうからです。

例えば、月に一度30分だけ、

  • 親の最近の様子
  • 今困っていること
  • 進めていること
  • 次に誰が何をするか

を確認するだけでも十分です。

大事なのは、家族会議を「結論を出す場」にしすぎないことです。

「今のところ問題なし」と確認できるだけでも、遠方のきょうだいにとっては安心材料になります。

反対に、何か問題があったときには、早い段階で共有できます。

親の介護などが始まった場合は、家族だけで判断せず、地域包括支援センターなどに相談する方法もあります。地域包括支援センターは、高齢者本人だけでなく家族介護者の相談にも対応しています。 (厚生労働省)

「家族で全部解決する会議」ではなく、「家族だけで抱え込まないための確認の場」と考えると続けやすくなります。

実家の状況を写真で共有する

遠方に住んでいるきょうだいには、実家の様子を写真で伝えるのも効果的です。

電話で「実家がかなり片付いていない」と聞くのと、実際の写真を見るのとでは、受け止め方が違います。

例えば、

  • 庭や外壁の状態
  • 屋根や雨どいなどの気になる箇所
  • 物が増えている部屋
  • 壊れた家電
  • 親が使っている生活用品

など、必要な範囲で写真を共有します。

「こんなに物が増えているとは思わなかった」

「階段が少し危なそうだね」

など、遠方にいるきょうだいも具体的に状況をイメージできます。

ただし、親に無断で家の中を撮影して共有するのは避けたいところです。

「この写真、みんなに送ってもいい?」と、親の気持ちを確認することも忘れないようにしたいですね。

実家の片付けや管理、実家じまいについても目を向けると、この先さらに考えることが増えてきます。別記事も良かったらご覧ください。

関連記事:親の終活と実家についての記事はこちら

この段階では「親が暮らしている今の実家」と「将来どうするか」は分けて考えてみたほうがよいでしょう。話し合いを整理しやすくなります。

重要書類の保管場所を共有する

遠方のきょうだいにとって、実家にある重要書類の場所が分からないことは、大きな不安になります。

そこで、親の了解を得たうえで、「何がどこにあるか」を家族で把握しておく方法があります。

例えば、

  • 保険証券
  • 年金関係の書類
  • 不動産関係の書類
  • 通帳などの保管場所
  • 印鑑の保管場所
  • 遺言書の有無
  • 重要な契約書

などです。

ただし、ここで注意したいのは、「場所を共有すること」と「子どもが勝手に管理すること」は別だということ。

親のお金や財産を子どもが勝手に動かすという話ではありません。

あくまでも、いざというときに「どこを確認すればいいか」が分かるようにしておくための情報整理です。

財産整理や相続については、後の章で詳しく扱います。

親の状況を定期的に更新する

一度情報を共有したからといって、それで終わりではありません。

親の健康状態、暮らし、考え方は時間とともに変わるからです。

例えば、半年前には「まだ車に乗る」と言っていた親が、最近になって「そろそろ運転をやめようかな」と考えているかもしれません。

あるいは、「この家に住み続けたい」と言っていた親が、体力の低下によって考えを変えることもあります。

だから、家族の情報共有も一度きりではなく、

「最近、お母さんどう?」

という程度の確認を続けておく。

厚生労働省が進める「人生会議(ACP)」でも、本人の気持ちや状況は変化するため、話し合いを一度で終わらせず、繰り返すことが大切と強調しています。

終活は「一度決めたら変更できないもの」ではありません。

親の今の気持ちを、その都度知っておくことも終活です。

「知っている人」と「知らない人」を作らない

ここは、この記事で特に伝えたいところです。

親の終活で怖いのは、きょうだいの誰かが何かを知っていることではありません。

「自分だけ何も知らない」という状態が生まれることです。

繰り返しになりますが、きょうだいの一人が親のために動いていたことを、ほかのきょうだいが十分に知らないという状況は避けたいものです。

「自分も親のことを考えているのに、なぜ話に入れてもらえないのだろう」

そんな置いていかれた感覚は、単なる情報不足以上のものになります。

だからといって、動いたきょうだいを責めたいわけではありません。

その人には、その人なりの「親のために何とかしたい」という思いがあったはずです。

だからこそ、

「誰が何をするか」だけでなく、「誰が何を知っているか」も確認する。

この視点を持っておくといいと思います。

近くに住むきょうだいが多くを担っていてもいい。

遠方のきょうだいが実家に頻繁に行けなくてもいい。

ただ、「今こういう状況だよ」と伝える。

それだけでも、家族の中に生まれる距離感は変わってきます。

近くにいる人だけに負担を集中させない

一方で、情報共有だけでは解決できないのが、実際の負担の問題です。

親の通院、買い物、実家の管理、介護の手続きなど、近くに住んでいるきょうだいに仕事が集中すると、いずれ無理が出てくることがあります。

厚生労働省も、家族介護者を含めて社会全体で支える必要性を示し、地域包括支援センターによる家族介護者支援を進めています。 (厚生労働省)

例えば、近くに住む姉が親の通院を担当するなら、遠方の弟は、

  • 介護サービスを調べる
  • 自治体の制度を調べる
  • 家族会議の日程を調整する
  • 必要な書類を整理する
  • 帰省したときにまとまった用事を引き受ける

といった役割を持つことができます。

それでも家族だけでは難しくなってきたら、地域包括支援センターなど外部の力を借りる。

地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、介護や生活、家族介護者の悩みなどについて相談できます。 (厚生労働省)

「家族だから家族だけで何とかする」と思わないこと。

これも、親の終活を長く続けていくためには大切な考え方です。


家族の「情報共有ルール」を最初に一つだけ決めておく

ここまで読んで、「そんなにきちんと家族会議をしないといけないの?」と思うかもしれません。

私は、最初から完璧な仕組みを作る必要はないと思っています。

むしろ、最初に一つだけ、

「親のことで何か決まったら、きょうだいのグループLINEで共有しよう」

と決めるだけでも十分です。

それができるようになったら、必要に応じて、

  • 月1回、近況を共有する
  • 写真を共有する
  • 話し合うことをメモしておく
  • 次に誰が何をするか確認する

と少しずつ増やせばいい。

家族の状況によってはLINEが合わないこともあります。その場合は電話やメール、オンライン会議など、続けやすい方法を選べばいいのです。

重要なのは、便利なツールを選ぶことではなく、「一人だけが知っている状態」をできるだけ作らないこと。

それが、兄弟で親の終活を進めるときの小さな安心につながります。


この章のまとめ

遠方に住むきょうだいがいても、親の終活は一人で抱え込む必要はありません。

LINEで近況を共有したり、オンラインで話したり、実家の写真を共有したり。

遠くにいてもできることは意外とあります。

そして、近くに住むきょうだいも、すべてを引き受けなくていい。

「近くにいる人が現場を支え、遠くにいる人が情報や調査、別の役割を担う」

という形でもいいのです。

私自身の経験からも、きょうだいの間で「知っている人」と「知らない人」を作らないことは、とても大切だと感じています。

誰か一人が頑張る家族ではなく、それぞれができることを持ち寄る家族へ。

そのために、まずはきょうだいのグループLINEなどで、

「親のことで何かあったら、ここで共有しよう」

と決めておく。

それだけでも、親の終活は少し違った形で始められるのではないでしょうか。


第6章|兄弟で話しておきたい「親の終活」7項目

親の終活についてきょうだいで話すとき、いきなり「相続をどうする?」と決め始める必要はありません。

まず確認したいのは、親本人が何を望んでいるのかです。

「誰が何をするか」を決める前に、親の希望を知っておく。
そのうえで、きょうだいが情報を共有し、それぞれができることを考える。

ここでは、50代から親と話しておきたい7つのテーマを紹介します。


① 医療・介護|もしものとき、親はどうしたい?

医療や介護については、「何をしてほしいか」だけでなく、「どんな暮らしを続けたいか」から聞いてみるのがおすすめです。

親が元気なうちは、「介護なんてまだ先」と思うかもしれません。

でも、いざ入院したり、認知機能が低下したりすると、本人に希望を聞くことが難しくなる場合があります。

そのため、普段から親の気持ちを確認しておくことが大切です。

  • できるだけ自宅で暮らしたい?
  • 介護が必要になったら、誰に相談したい?
  • 自宅での介護と施設での介護、どう考えている?
  • 延命治療について何か希望はある?
  • 病院や施設に入る場合、どんなことを大切にしたい?

などといったことを是非聞いてみてください。

ここで重要なのは、子どもが親の医療方針を決めることではありません。

「お母さんはどうしたい?」と聞き、その思いを家族で共有する。

そして、気持ちは変わってもいい。

厚生労働省も、人生会議は一度決めて終わりではなく、気持ちや状況の変化に応じて繰り返し話し合うことが大切だとしています。 (厚生労働省)

医療・介護の話は、「もしものときに親の希望が分からない」という事態を減らすための会話です。


② 住まい|親はこれからどこで暮らしたい?

住まいについては、「実家をどうするか」より先に、「親はどこで暮らしたいか」を確認することが大切です。

50代になると、子ども側は実家の管理や将来の処分が気になってきます。

「この家、誰が住むの?」

「空き家になったらどうする?」

そんな話をしたくなるでしょう。

でも、親にとって実家は単なる不動産ではありません。

長年暮らしてきた家であり、思い出の詰まった場所でもあります。

だから、

「この家、将来どうする?」

だけではなく、

「これからも、この家で暮らしたい?」

と聞いてみる。

さらに、

  • 階段が大変になったらどうしたい?
  • 車を運転できなくなったらどうする?
  • 一人暮らしが難しくなったら?
  • 子どもの近くに移りたい?
  • 今の地域を離れたくない?

など、暮らしそのものについて話してみます。

実家の処分や実家じまいは、親の希望だけで決められるものでもありません。

そのため、この段階では結論を急がず、「親が今、どんな暮らしを望んでいるのか」を知るところまでで十分です。

関連記事:実家をどうする?50代から始める親の終活|実家じまいだけじゃない家族の話し合い

実家の管理や実家じまいについては、こちらの記事で詳しく扱っています。


③ 財産|「いくらある?」より「どこに何がある?」

財産については、金額をすべて聞き出すことより、いざというときに必要な情報へたどり着ける状態にしておくことが重要です。

親にいきなり、

「預金はいくらあるの?」

「土地はいくら?」

と聞くのは、抵抗がある人もいるでしょう。

そこで最初は、

  • 重要書類はどこにある?
  • 保険証券はどこ?
  • 不動産関係の書類は?
  • 通帳などはどこに保管している?
  • 借入金などはある?
  • 財産について相談できる人はいる?

といった「情報の場所」から確認する方法があります。

ここで注意したいのは、保管場所を把握することと、子どもが親の財産を管理することは別だということです。

親の意思を無視して通帳や印鑑を子どもが管理する、という話ではありません。

また、相続税についても、すべての家庭に相続税がかかるわけではありません。

国税庁によると、相続税には「3,000万円+600万円×法定相続人の数」という基礎控除があります。正味の遺産額が基礎控除額を超える場合などに、相続税の申告・納税が必要になります。 (国税庁)

相続については別の記事でも扱っていますが、50代の段階ではまず、

「親にどんな財産があるか」ではなく、「必要な情報がどこにあるか」

を家族で把握することから始めてもいいでしょう。

関連記事:終活と相続は何から始める?50代の子世代が親と話しておきたい準備と進め方

     終活の財産整理は何から始める?50代の子世代が親と一緒に進める準備と話し方


④ 遺言|「誰に何を残すか」だけではない

遺言については、親がどのような思いで財産を残したいのかを確認しておくことが大切です。

「遺言書を書いて」と子どもから言われると、親によっては「もう死ぬと思われているの?」と抵抗を感じるかもしれません。

一方で、きょうだいが複数いる場合、親が元気なうちに意思を残しておくことが、後の話し合いを考えるうえで重要になるケースもあります。

例えば、

「財産は法律どおりでいいと思っている?」

「誰かに特に残したいものはある?」

「家について何か希望はある?」

など、まずは考えを聞いてみる。

法務省には、自筆証書遺言書を法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」があります。現在も制度案内が公開されており、遺言書の原本と画像データを法務局で保管する仕組みです。 (法務省)

ただし、この記事で大切なのは遺言書の作り方そのものではありません。

「親は、自分の財産や家族に何を伝えたいのか」

そこを知ることです。

なお、エンディングノートに希望を書いておくことと、法的効力のある遺言書を作成することは別です。

遺言書については、関連記事をご覧ください。また、後の「相続でもめないために」の章でも詳しく扱います。

関連記事:終活で遺言書は必要?50代の子世代が親と後悔なく話し合うための始め方


⑤ 葬儀|「どんな最後にしたい?」より「どう見送られたい?」

葬儀については、親がどんな形で見送られたいと思っているのかを、元気なうちに聞いておくと安心です。

「葬式はどうする?」

と聞くと、急に死を意識させるように感じるかもしれません。

そこで、テレビやラジオで葬儀の話題になった時などにさりげなく自分たちの問題として

「家族だけで静かにしたい?」

「お世話になった人には知らせたい?」

「何かやってほしいことはある?」

くらいから始めるといいでしょう。

葬儀にはさまざまな形式があります。

家族葬にしたい人もいれば、昔から付き合いのある人に来てもらいたい人もいます。

子どもからすると「小さな葬儀で十分」と思っていても、親には親の希望があるかもしれません。

ここでも、

子どもが費用や手間だけを基準に決めないこと

が大切です。

もちろん、親の希望だけですべてが決まるわけではありません。

費用や地域の慣習、家族の事情などもあります。

だからこそ、元気なうちに希望を聞いておけば、いざというときにきょうだいが「どうする?」とゼロから悩まずに済みます。


⑥ お墓|「墓じまいする?」より、親の思いを聞く

お墓については、墓じまいをするかどうかを先に決めるのではなく、親がお墓についてどう考えているのかを聞くことから始めます。

50代になると、

「このお墓、将来誰が管理するんだろう」

「子どもたちに負担を残したくない」

と考えることがあります。

一方で、親からすると、

「先祖代々のお墓だから残したい」

「できれば自分もここに入りたい」

という思いがあるかもしれません。

例えば、

  • お墓は今後どうしたい?
  • 誰に管理してほしい?
  • 墓じまいについてどう考えている?
  • お墓以外の供養方法について考えたことはある?
  • 子どもに負担をかけたくないと思っている?

といったことを聞いてみます。

ここでも、親の希望を聞いたうえで、家族の事情を合わせて考えることが大切です。

特に、きょうだいの誰か一人だけが「墓じまいを進めよう」とすると、ほかのきょうだいから「そんな話、聞いていない」と不信感を持たれる可能性があります。

お墓の問題も、最初から結論を出す必要はありません。

まずは、

「お母さんは、お墓のことどう考えてる?」

と聞くところからでいいのです。

お墓に関する関連記事はこちら

うちの墓、どうする?」親と話す前に知っておきたい終活とお墓

⑦ デジタル情報|スマホの中にも「親のこれから」がある

デジタル情報については、スマホやSNSなど、親が使っているサービスを少しずつ把握しておくことが大切です。

昔の終活なら、通帳や保険証券、印鑑などを整理すればよかったかもしれません。

でも今は、スマートフォンの中に写真や連絡先、契約しているサービスなど、多くの情報があります。

例えば、

  • スマートフォン
  • メール
  • SNS
  • 写真
  • ネットショッピング
  • サブスクリプション
  • オンライン銀行
  • 暗号資産
  • その他のオンラインサービス

などです。

ここで注意したいのは、「全部のパスワードを教えて」と迫ることではありません。

親のプライバシーを尊重しながら、

「もしスマホが使えなくなったら、どうしてほしい?」

「写真はどうしてほしい?」

「契約しているサービスで、解約してほしいものはある?」

といった希望を確認することから始めます。

特にデジタル情報は、本人が元気なうちでなければ確認しにくいものもあります。

「スマホの中のことまで終活なの?」

と思うかもしれません。

でも、親が大切にしている写真や、家族との思い出、オンライン上の契約なども、その人の人生の一部です。

「何を残したいか」だけでなく、「何を残さなくていいか」も聞いておく。

これからの終活では、そんな視点も必要になってきます。

関連記事:親のスマホ、このままで大丈夫?終活で考えたいデジタル遺品の整理と家族が困らない準備

デジタル遺品については、こちらの記事でより具体的な整理方法を紹介しています。


7項目を「全部一度に聞く」必要はありません

ここまで7項目を挙げましたが、一度の家族会議で全部確認しようとしないことが大切です。

医療・介護の話だけでも、親にとってはかなり大きなテーマです。

さらに財産、遺言、お墓……と続ければ、「もう終活の話はしたくない」となってしまうかもしれません。

例えば、今日は、

「これからも、この家に住みたい?」

と聞く。

次に実家へ行ったとき、

「お墓のことって、何か考えてる?」

と聞く。

そんなふうに、日常の会話の中で少しずつ聞いていく方法もあります。

そして、親から聞いたことをきょうだいで共有する。

「お母さんはこう言ってたよ」

「このことはまだ決めていないみたい」

「次に会ったとき、もう少し聞いてみよう」

それだけでも、家族の中に共通の情報が増えていきます。


7項目を「きょうだい会議のチェックリスト」にする

この章で紹介した7項目は、すべてを決めるためのチェックリストではありません。

「親に聞いてみたいこと」のリストとして使うのがおすすめです。

項目まず確認したいこと
医療・介護どんな暮らしを続けたい?
住まいこれからどこで暮らしたい?
財産重要書類はどこにある?
遺言財産や家族に伝えたい希望はある?
葬儀どんなふうに見送られたい?
お墓お墓についてどう考えている?
デジタルスマホやデジタル情報をどうしてほしい?

そして、きょうだいで共有するときは、

「決まった/決まっていない」だけでなく、「親はこう話していた」まで残す。

これが、この記事で何度もお伝えしてきた「親の意思を中心にする」という考え方につながります。


この章のまとめ

親の終活について兄弟で話しておきたいことは、大きく7つあります。

医療・介護住まい財産遺言葬儀お墓、デジタル情報。

ただし、これらをすべて兄弟で決める必要はありません。

まずは、

「親はどうしたいのか?」

を知ること。

そのうえで、親が話してくれたことや決まったことをきょうだいで共有する。

厚生労働省の「人生会議」でも、本人の価値観や希望を家族などと話し合い、共有することが重視されています。大切なのは、家族が一つの「正解」を作ることではなく、本人の思いを知っておくことです。 (厚生労働省)

7項目を一気に確認しなくても大丈夫です。

今日、親に一つだけ聞いてみる。

「これからも、この家で暮らしたい?」

そんな何気ない質問から始まってもいいのです。

終活は、親の人生を子どもが整理するためのものではありません。

親がこれからどう生きたいのかを知り、その思いを家族で支えていくための時間。

そう考えると、「何を聞けばいいの?」という不安も、少し軽くなるのではないでしょうか。

第7章|相続でもめないために、親が元気なうちに知っておきたいこと

親が元気なうちは、「相続なんてまだ先」と思うかもしれません。

でも、きょうだいの関係がこじれるのは、相続が始まってから突然というより、親が元気なうちに家族がそれぞれ違う認識を持ったまま時間が過ぎてしまうことから始まる場合があります。

ここで必要なのは、相続の専門家になることではありません。

「法定相続分って何?」

「遺言書があれば安心なの?」

「介護をした人はどうなるの?」

そんな基本的なことを、50代のうちに家族で少し知っておくことです。

相続について知らないことが、きょうだいの「聞いていた話と違う」「そんなこと知らなかった」という行き違いにつながらないようにする。

それが、この章の目的です。


法定相続分を知っておく

きょうだいで相続について話すなら、まず法定相続分は「法律上決められた相続の割合」であって、「必ずその割合で分けなければならない」という意味ではないと知っておきましょう。

たとえば、父親が亡くなり、母親と子ども2人が相続人になる場合、法定相続分は、配偶者が2分の1、子ども2人がそれぞれ4分の1です。国税庁もこの例を示しています。 (国税庁)

ここで注意したいのは、

「法律では半分ずつだから、絶対に半分ずつにしなければいけない」

ということではない点です。

相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる分け方をすることもできます。

たとえば、実家を長男が引き継ぐ代わりに、ほかのきょうだいが別の財産を取得する、といった分け方も考えられます。

ただし、不動産などが含まれると話は複雑になります。

法務省も、遺産分割とは、相続人全員が参加して相続財産の分け方を決める手続きだと説明しています。 (法務省)

だからこそ、親が元気なうちから、

「誰がいくらもらうか」だけではなく、「実家をどうするのか」まで考えておくこと

が、きょうだいの行き違いを減らすことにつながります。


遺言書があっても、すべてが決まるとは限らない

「親が遺言書を書いてくれれば、きょうだいでもめることはない」と考えるのは少し危険です。

遺言書は重要な準備ですが、遺言書があれば必ずすべての問題が解決するわけではありません。

例えば、「長男にすべての財産を相続させる」という内容の遺言があったとしても、一定の相続人には「遺留分」という最低限の取り分を保障する制度があります。

また、遺言書の内容だけでなく、不動産の評価や生前贈与、介護への貢献など、さまざまな事情が絡むこともあります。

法務省による相続法改正では、遺留分について、侵害された場合にはその額に相当する金銭の支払いを請求する仕組みに改められています。 (法務省)

つまり、

「お父さんが遺言書を書いたから、もうきょうだいで話し合う必要はない」

とは限りません。

むしろ、親が元気なうちに遺言書を作るのであれば、

「どうしてこの分け方にしたのか」

「実家についてはどう考えているのか」

など、親の思いも家族が理解できていると、後の受け止め方が変わる可能性があります。

もちろん、遺言の内容を子どもが誘導するという意味ではありません。

親本人の意思で作成すること。

これが大前提です。


遺留分について知っておく

きょうだいで相続を考えるなら、「遺留分」という言葉だけでも知っておくと安心です。

遺留分とは、一定の相続人に法律上保障されている最低限の遺産取得分のことです。

例えば、親が特定の子どもだけに多くの財産を残す遺言を作った場合、ほかの一定の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。

その場合、遺留分を持つ人は、一定の要件のもとで、財産を多く受け取った人などに対して金銭の支払いを請求できます。法務省も、現在の遺留分制度について「遺留分侵害額」に相当する金銭を請求する仕組みを案内しています。 (法務省)

ここで大切なのは、

「親が好きなように財産を分けたいと思っても、法律上まったく自由というわけではない」

と知っておくことです。

一方で、遺留分の具体的な計算は、財産の内容や生前贈与などによって変わります。

「うちの場合はどうなる?」と感じたら、きょうだいだけで判断せず、弁護士などの専門家に確認するほうが安全です。

この記事では制度の概要を知るところまでにして、具体的なケースについては専門家に相談することをおすすめします。


遺産分割協議は相続開始後に行う

「遺産分割協議」という言葉は少し難しく聞こえますが、簡単に言えば、親が亡くなった後、相続人全員で「遺産をどう分けるか」を話し合うことです。

親が元気なうちに子どもだけで「この家は長男」「預金は次女」と決めても、それがそのまま正式な遺産分割協議になるわけではありません。

相続が開始した後、相続人が確定し、実際の財産を確認したうえで話し合うことになります。

法務省も、遺産分割について「法律で決められた相続人が全員参加して、相続財産の分け方を決定する手続」と説明しています。 (法務省)

ここで50代のうちにできることは、

「将来、どう分けるかを今決めておく」

というより、

「親がどんな財産を持っていて、何を大切にしているのかを、家族が知っておく」

ことです。

特に実家のような不動産は、「売ればいい」と簡単にはいかないことがあります。

誰が住むのか、売却するのか、維持できるのか。

こうした問題を後回しにすると、相続が始まった後にきょうだいが一気に話し合わなければならなくなります。

なお、不動産を相続した場合の相続登記は2024年4月1日から義務化されています。法務省は、遺産分割を早期に進めることも案内しています。 (法務省)


相続税がかかるケースを知っておく

「親の財産がある=相続税がかかる」と考える必要はありません。

相続税には基礎控除があり、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合などに相続税の申告・納税が必要になります。

基礎控除額は、

3,000万円+600万円×法定相続人の数

です。国税庁が現在案内している計算式もこの形です。 (国税庁)

例えば、法定相続人が3人なら、

3,000万円+600万円×3人=4,800万円

が基礎控除額になります。つまりこの場合、遺産が4800万円以内であれば相続税はかからないということです。

ただし、相続税の計算では、単純に預貯金だけを足せばよいわけではありません。

不動産や生命保険、債務、葬式費用、生前贈与など、さまざまな要素が関係します。 (国税庁)

そのため、

「うちは家と預金を合わせても4,000万円くらいだから大丈夫」

と自己判断するのは避けたほうがいいでしょう。

相続税については、この記事では基本的な仕組みを知るところまでにしておきます。

関連記事:終活で相続税は気にするべき?基礎控除をわかりやすく解説|親に認したい6つのこと

財産の種類が多い、土地や賃貸物件がある、過去に大きな贈与を受けているなどの場合は、税理士など専門家への相談も選択肢になります。


介護を担った人に関係する「特別寄与」の制度

親の介護をしたきょうだいがいる場合、「長い間、介護してきたのに、相続では他のきょうだいと同じなの?」という疑問が生まれることがあります。

こうした問題に関係する制度の一つが、特別寄与料です。

これは、相続人ではない親族が、無償で療養看護などを行い、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合に、一定の要件のもとで相続人に対して金銭を請求できる制度です。法務省も、2019年の相続法改正で設けられた制度として説明しています。 (法務省)

ここで注意したいのは、「介護したきょうだいなら、必ず相続財産を多くもらえる」という制度ではないことです。

特別寄与料には対象となる人や要件があり、具体的な金額も個別の事情によって変わります。

また、介護をした人が「相続人」である場合には、特別寄与料ではなく、別の「寄与分」という制度が問題になることがあります。

つまり、

「私が介護したから、その分を多くもらえるはず」

と、きょうだいだけで決めつけるのは危険です。

だからこそ、親が元気な段階から、介護を誰が担っているのか、どんな負担が生じているのかを家族で共有しておくことが大切です。

「相続のときに話せばいい」ではなく、介護が始まった時点から情報を共有しておく。

それが、後の「そんな話は聞いていない」を減らすことにつながります。


判断が難しいケースでは、きょうだいだけで結論を出さない

相続について「これはどうなるんだろう?」と思ったときは、きょうだいだけで結論を出さないほうが安全です。

特に、不動産、遺言、相続税、生前贈与、介護の負担、認知症などが絡む場合は、一つの判断が家族の財産や権利に大きく影響することがあります。

例えば、

  • 実家の土地と建物が主な財産
  • 親が一人の子に多額の援助をしている
  • 遺言書の内容にきょうだいの意見が割れている
  • 長期間、特定のきょうだいが介護をしている
  • 親の判断能力に不安がある
  • 相続税がかかるか分からない

こうしたケースです。

法テラスでは、相続、遺産分割、遺言、遺留分・寄与分・特別受益、相続税・贈与税など、相続に関するさまざまな相談情報を案内しています。 (ほうてらす)

「弁護士に相談するほど大げさな話ではない」と思う段階でも、まず制度を確認するための相談先を探すことができます。

法テラスは、法律問題に該当するか分からない場合でも、法制度や適切な相談窓口を案内しています。一定の条件を満たす人には無料法律相談などの制度もあります。 (法テラス)

大切なのは、

「専門家に相談したら負け」ではなく、「家族だけで決めなくていい」と知っておくこと。

専門家に相談することは、きょうだいの対立を深めるためではなく、むしろ同じルールを共有するための手段にもなります。


「相続の話をする=きょうだいで財産を取り合う」ではない

ここまで読んで、「相続って、やっぱり難しいな」と感じたかもしれません。

確かに、相続には法律や税金が関わるため、すべてを家族だけで理解する必要はありません。

でも、50代の今から知っておきたいのは、もっと基本的なことです。

「親が亡くなってから初めて、きょうだいで財産の話をする」という状態をできるだけ避けること。

親が元気なうちなら、

「実家はどうしたい?」

「遺言書について何か考えている?」

「もし介護が必要になったら、どうしたい?」

と、親の希望を聞くことができます。

相続が始まってからでは、「親はどう思っていたのか」を直接聞けなくなることがあります。

だからこそ、終活として相続を考える意味があるのだと思います。


この章のまとめ

きょうだいで相続でもめないために、50代のうちから知っておきたいのは、難しい法律の知識をすべて覚えることではありません。

まず、

  • 法定相続分
  • 遺言書
  • 遺留分
  • 遺産分割協議
  • 相続税
  • 特別寄与

といった基本的な言葉を知っておく。

そして、もっと大切なのが、

「親はどうしたいのか」を元気なうちに聞いておくことです。

法定相続分や相続税のルールは、法律や税制によって決まっています。

一方で、

「この家をどうしたい」

「誰に何を残したい」

「介護が必要になったらどうしたい」

という親の思いは、親本人にしか分かりません。

だから、制度については公的機関の情報を確認する。判断が難しいところは専門家に相談する。そして、家族の中では親の希望を共有する。

この3つを分けて考えると、相続への不安も少し整理しやすくなります。

相続の話をすることは、財産を取り合うためではありません。

親が大切にしてきたものを、家族がどう受け取っていくのかを考えること。

その準備を、まだ何も起きていない50代から少しずつ始めておく。

それが、将来の兄弟の「こんなはずじゃなかった」を減らす一歩になるのではないでしょうか。

第8章|【50代だからこそ】親の終活で兄弟関係を壊さないために

親の終活について考え始めると、「私が何とかしなければ」と思ってしまうことがあります。

親は高齢になってきた。実家のことも気になる。相続のことも少し心配。きょうだいにも、それぞれの家庭や事情がある。

気づけば、親の問題を自分一人で背負っているような気持ちになることもあるでしょう。

でも、親の終活は、あなた一人の責任ではありません。

きょうだい全員が同じように動く必要もありません。

大切なのは、誰か一人が頑張りすぎることではなく、親の希望を中心に、それぞれができることを持ち寄れる状態をつくることです。


親の問題を「自分(誰か)一人の責任」にしすぎない

親のことが心配だからこそ、「自分がやらなければ」と思うのは自然なことです。

でも、その責任感が強すぎると、いつの間にか親の終活を一人で背負ってしまいます。

例えば、実家の近くに住んでいるきょうだいなら、親の病院への付き添いや買い物、家の管理など、どうしても負担が増えるでしょう。

一方で、遠方のきょうだいは、親の様子を直接見ることができません。

すると、

「近くにいる私ばかり大変」

「遠くにいる人は何もしてくれない」

という気持ちが生まれることがあります。

でも、ここで一度立ち止まってみたいのです。

親の終活を家族だけで全部背負う必要はありません。

介護が必要になれば、地域包括支援センターや介護サービスなど、外部の力を借りることもできます。

相続や遺言で判断が難しいことがあれば、司法書士や行政書士、弁護士、税理士などに相談する方法もあります。

「親のことだから、家族が何とかしなければ」

と考えすぎなくてもいい。

家族で担うことと、専門家や公的サービスに頼ることを分ける。

それも、親の終活を長く続けるための大切な選択です。


きょうだいの温度差があってもいい

親の終活について、きょうだい全員が同じタイミングで危機感を持つとは限りません。

一人は「そろそろ考えたほうがいい」と思っているのに、別のきょうだいは「まだ元気だから大丈夫」と考えている。

こうした温度差は、珍しいことではありません。

むしろ、温度差があること自体を「悪いこと」と考えないほうがいいと私は思います。

親の近くに住んでいる人なら、日々の変化を感じています。

遠方に住んでいる人なら、電話で元気そうな親の声を聞いて、「まだ大丈夫」と感じるかもしれません。逆に、親の近くに住んでいると小さな変化には気づかず、たまに会う人のほうがちょっとした違和感に気づくこともあります。

見えているものが違えば、感じ方が違うのは当然です。

だから、

「どうして分かってくれないの?」

と責めるより、

「私は最近こう感じているんだけど、あなたはどう思ってる?」

と聞いてみる。

意見を一致させることより、お互いが何を感じているのかを知ることのほうが先です。


行動する人を責めるのではなく、情報共有を大切にする

親の終活では、行動力のあるきょうだいが中心になって動くことがあります。

親に話を聞き、制度を調べ、必要な手続きを確認する。

これは決して悪いことではありません。

むしろ、誰かが動いてくれたからこそ、親の問題が前に進むこともあります。

ただし、「動いていること」と「情報を共有すること」は別の問題です。

行動するきょうだいを責めることより、

「今、どこまで進んでいるの?」

「親は何と言っているの?」

と確認できる関係をつくる。

そして、動いている側も、

「今、こういう話をしているよ」

と途中経過を伝える。

「一人で進めない」と「一人で抱えない」は、どちらの側にも必要なことなのだと思います。


できる人が全部やらない

親の終活では、「できる人」がそのまま「全部やる人」になってしまわないことも大切です。

近くに住んでいて時間がある人、親との会話が得意な人、書類整理が得意な人など、家族にはそれぞれ違った強みがあります。

例えば、

  • 近くのきょうだい → 親の様子を確認する
  • 遠方のきょうだい → 情報を調べる
  • 事務作業が得意な人 → 情報を整理する
  • 親と話しやすい人 → 希望を聞く
  • ITが得意な人 → オンラインで情報共有する

という分担でもいいのです。

ここで大切なのは、全員が同じ量をやることではありません。

「公平」とは、必ずしも「同じことを同じだけする」ことではないからです。

ただし、たくさん動いている人が「私ばかり」と感じているなら、その負担を見直す必要があります。

逆に、あまり動いていない人も、「遠方だから何もできない」と決めつけなくていい。

前章で紹介したように、情報収集やオンラインでの家族会議など、距離があってもできることはあります。

できる人が全部やるのではなく、できる人ができることを持ち寄る。

それくらいの柔軟さがあっていいのです。


配偶者にも、それぞれの立場や思いがある

きょうだい本人だけでなく、その配偶者が義親の終活に関わることで、話が複雑になることもあります。

特に、実家によく出入りしているきょうだいの配偶者は、親の暮らしを身近に見ている分、「こうしたほうがいい」という思いが強くなることもあります。

「このままでは危ない」

「家を片付けたほうがいい」

「もっと施設を考えたほうがいい」

そう感じるのも、その人なりの心配や負担、親への思いがあるからかもしれません。

だから私は、「配偶者が口を出すから問題だ」と単純には考えたくありません。

実際に親の暮らしを近くで支えているなら、その人にしか分からない苦労もあるでしょう。

反対に、遠方に住むきょうだいからすると、

「そんな話は聞いていない」

「そこまで決めていいの?」

と感じることもある。

それぞれの立場から見える景色が違うのです。

だからこそ、配偶者も含めて意見を聞きながら、誰の人生について話しているのかを忘れないことが大切になります。


配偶者の意見が強いと感じたときほど「親はどうしたいのか」に戻る

きょうだいの配偶者の意見が強くなり、話がこじれそうになったときは、「誰が正しいか」を争うより、親本人の希望に戻ることが大切です。

例えば、

「実家はもう売ったほうがいい」

という意見が出たとしても、親が、

「できれば最後までこの家で暮らしたい」

と思っているかもしれません。

反対に、親自身が、

「もう家の管理は大変だから、手放したい」

と考えている可能性もあります。

だから、

「でも私はこう思う」

を繰り返すより、

「お母さんはどうしたいと言っている?」

に戻る。

これは、誰かの意見を否定するためではありません。

親の人生について話している以上、親本人の意思を中心に置き直すためです。

もちろん、親の希望だけですべてが決まるわけではありません。

費用、介護する側の負担、家族の生活、法律や制度など、現実的に考えなければならないこともあります。

それでも、最初の軸は「親はどうしたいのか」。

そこから現実的な方法を探していくほうが、家族同士の対立になりにくいでしょう。


親の希望をきょうだい関係の軸にする

きょうだいの意見が食い違ったとき、話し合いの軸を「誰が正しいか」にすると、なかなか終わりません。

そんなときこそ、親の希望に戻ります。

例えば、

「実家を売るべき」

「残すべき」

と意見が割れたとします。

そのとき、

「お母さんは、できればここに住み続けたいと言っていたよね」

というところから考え直す。

すると、

「じゃあ、あと何年くらいなら住めそう?」

「家の修繕費はどうする?」

「一人暮らしが難しくなったらどうする?」

と、次の話につなげられます。

つまり、親の希望は、きょうだいの意見を一つにするための答えではなく、話し合いの出発点なのです。

意見が違ってもいい。

その違いを持ったまま、「親にとって何がいいのか」を一緒に考えられれば、それで十分なのではないでしょうか。


「誰が正しいか」より「誰が何を担えるか」を考える

親の終活で意見がぶつかったとき、「どちらが正しいか」を決めようとすると、きょうだい関係そのものが傷ついてしまうことがあります。

それよりも、「では、誰が何を担えるだろう?」と考えてみる方法があります。

例えば、

「実家を残したい」という人と、

「管理が大変だから手放したい」という人がいたとします。

そこで結論を急ぐのではなく、

「実家を残すなら、誰が管理する?」

「遠方の人は何ができる?」

「費用はどうする?」

と具体的な役割に落としていく。

すると、「意見の違い」から「現実的な選択肢を探す話」へ変わっていきます。

すべての問題が解決するわけではありません。

でも、

「あなたが間違っている」から「どうすれば親の希望を実現できる?」

に視点が変わるだけで、会話の空気は変わることがあります。


意見が違っても「話せる状態」を残しておく

親の終活では、すべての意見を一致させる必要はありません。

むしろ、きょうだいで意見が違うのは当然です。

大切なのは、意見が違ったときにも、もう一度話せる状態を残しておくことです。

例えば、感情的になってしまったときは、その場で結論を出さない。

「今日はここまでにしよう」

「一度、親の希望を確認してからまた話そう」

と区切ることもできます。

そして、何か決める必要が出てきたときには、また話し合う。

親の終活は、今日決めたことが数年後も同じとは限りません。

親の健康状態も、きょうだいの仕事や家庭環境も変わっていきます。

だからこそ、一度で完璧な結論を出すより、何度でも話し合える関係を残すことのほうが大切なのだと思います。


私が親の終活で大切だと思うこと

親との距離や行動量の差により、きょうだいの間で溝が生まれてしまうことがあります。

問題の一つは「誰かが動いていることを、ほかのきょうだいが知らない」ことだと感じています。

そして、もう一つ。

きょうだいの配偶者が強く意見すると、つい「きょうだいだけで決めたい」と思ってしまうことがあります。

でも、その人にも、その人なりの心配や負担があります。

だから、邪険にするのではなく、その思いはいったん受け止める。

そのうえで、話がもめそうになったときほど、

「親はどうしたいんだろう?」

と、もう一度原点に戻る。

私は、それが親の終活できょうだい関係を壊さないために、できることの一つだと思っています。


この章のまとめ

親の終活できょうだい関係を壊さないために、全員が同じ考えになる必要はありません。

温度差があってもいい。

遠方の人がいてもいい。

行動力のある人がいてもいい。

配偶者が強い意見を持っていてもいい。

大切なのは、「誰が正しいか」を決めることではなく、親本人の希望を知り、それぞれの立場や負担を理解しながら、できることを持ち寄ることです。

そして、意見が食い違ったときには、

「親はどうしたいのか?」

に戻る。

親の終活は、きょうだいを一つの考えにまとめるためのものではありません。

違う考えを持ったきょうだいが、それでも話し合える状態を残しておくための時間でもあるのだと思います。

まだ何も起きていないのであれば、そのタイミングだからこそできることがあります。

親が元気なうちに、一度だけでもきょうだいで話してみる。

「これから、お母さんがどうしたいのか、みんなで聞いておこうか」

その一言が、将来の家族を少し楽にしてくれるかもしれません。

第9章|今日からできる「兄弟で揉めない終活」の一歩

ここまで読んで、「親の終活って、考えることがたくさんあるんだな」と感じたかもしれません。

医療や介護、住まい、財産、遺言、お墓、デジタル情報。きょうだいとの役割分担や、遠方に住んでいる場合の情報共有もあります。

でも、今日、その全部を始める必要はありません。

むしろ、最初から完璧に進めようとすると、「面倒だから、また今度」となってしまうこともあります。

親がまだ元気な50代だからこそ、できることがあります。

まずは一つだけ、話してみる。

それで十分です。


きょうだいLINEに一言送る

最初の一歩としておすすめなのは、きょうだいに短いメッセージを送ることです。

いきなり「終活について家族会議をしよう」と言う必要はありません。

例えば、

「最近、親のことちょっと気になってるんだけど、今度一回話さない?」

これくらいで十分です。

「終活」「相続」「介護」といった言葉を最初から並べると、相手が身構えてしまうことがあります。

まずは、「親のことが気になっている」という自分の気持ちを伝えるだけにします。

もし、きょうだいから、

「まだ早くない?」

「何かあったの?」

と返ってきても、焦らなくて大丈夫です。

「何かあったわけじゃないんだけど、元気なうちに一度みんなで話しておいたほうがいいかなと思って」

それくらいの返事でいいでしょう。

この段階では、結論を出す必要はありません。

むしろ、ここで「実家はこうするべき」「相続はこうしよう」と話を進めないことが大切です。

まずは、きょうだいで話せる状態をつくる。

それが最初の一歩です。


親に一つだけ質問する

きょうだいに声をかけたら、次は親にも一つだけ質問してみます。

おすすめなのは、財産や相続ではなく、親の「これから」を聞く質問です。

例えば、

「お母さん、これからもこの家に住みたい?」

あるいは、

「もし体が動きにくくなったら、どうしたい?」

でもいいでしょう。

親の答えがすぐに出なくても問題ありません。

「そんな先のこと分からないよ」

と言われたら、

「そうだよね」

で終わってもいい。

大切なのは、親から答えを引き出すことではなく、「これからのことを話してもいい」という空気をつくることです。

私たちは、親が元気でいると、「いつか聞けばいい」と思いがちです。

でも、親の希望を直接聞けるのは、親が元気な今だからこそ。

厚生労働省の「人生会議(ACP)」でも、本人が大切にしたいことや望む生き方について、家族などと前もって考え、話し合うことが大切だと言及しています。

だから、難しい質問を用意しなくてもいいのです。

「これからどうしたい?」

その一言からでも、親の終活は始められます。


エンディングノートを一緒に見る

「親に終活の話をするのは、やっぱり難しい」

そう感じるなら、エンディングノートを会話のきっかけにする方法もあります。

ただし、「これを書いておいて」と親に渡すだけではなく、一緒に見るのがおすすめです。

例えば、

「こういうノートがあるんだけど、ちょっと面白いよ。一緒に見てみない?」

くらいの軽い感じで始めます。

そして、

「このページだったら、お母さんは何を書く?」

「お葬式って、どういうのがいい?」

「この家のことはどうしたい?」

と話してみる。

書くことそのものより、ノートをきっかけに親の考えを聞けることに意味があります。

もちろん、エンディングノートには法的な効力がありません。

財産の分け方など、法的な効力を持たせたい内容については、遺言書など別の方法を検討する必要があります。

だからこそ、

エンディングノート=親に終活をさせるもの

ではなく、

エンディングノート=親の思いを聞くための会話の道具

と考えてみてください。

「何を書けばいいか分からない」という場合は、こちらの記事も参考になります。

関連記事:終活のエンディングノート、選び方・始め方は?50代からの入門ガイド


次に話す機会を決める

一度話したら、それで終わりにしなくても大丈夫です。

むしろ、次に話す機会だけ決めておくと、親の終活を無理なく続けやすくなります。

例えば、

「じゃあ、次に帰省したときにまた話そう」

でもいい。

きょうだいが遠方にいるなら、

「来月、30分だけオンラインで話そうか」

でも構いません。

大切なのは、「次回までに全部調べておく」という宿題を作らないことです。

次回は、

  • 親の気持ちが変わったか
  • 新しく分かったことはあるか
  • 困っていることはないか
  • 誰かに負担が偏っていないか

を確認するくらいで十分です。

親の終活は、短期間で完成させるものではありません。

親の健康状態が変われば、希望も変わるかもしれない。

きょうだいの仕事や家庭の事情も変わります。

だからこそ、一度決めたことを守るより、定期的に話し直せる関係をつくることが大切なのだと思います。


それでも「何から始めればいいか分からない」なら

ここまで読んでも、

「やっぱり、親に話しかけるのは勇気がいるな」

と思う人もいるでしょう。

私も、終活という言葉を親に向けることには、少し抵抗があります。

「死ぬ準備をしよう」と言っているように聞こえてしまうからです。

だから、最初から終活を始めなくてもいい。

例えば今日、きょうだいに、

「最近、親のことちょっと気になってるんだけど、今度一回話さない?」

とLINEを送ってみる。

あるいは、親に、

「これから、どんなふうに暮らしたい?」

と聞いてみる。

もしくはもう少しハードルを下げ、実家に行った時に気づいたことをきょうだいで共有するだけでも十分です。


「全部やらなくていい」が、親の終活のスタート

親の終活について調べ始めると、やることの多さに驚くかもしれません。

医療、介護、住まい、財産、遺言、葬儀、お墓、デジタル情報。

さらに、実家の片付けや相続、きょうだいとの役割分担まで考えると、「こんなにできない」と思ってしまいます。

でも、全部やらなくていいのです。

親の終活で本当に大切なのは、チェックリストを全部埋めることではありません。

親の希望を知ること。

きょうだいで情報を共有すること。

誰か一人に負担を集中させないこと。

そして、意見が違ったときには、

「親はどうしたいのか?」

に戻ること。

それができていれば、少しくらい進み方が遅くても大丈夫です。


まずは「一つだけ」話してみませんか?

この章を最後まで読んでくださった方に、私から一つだけ提案するとしたら、

今日、誰か一人に話しかけてみること。

きょうだいでも、親でも構いません。

「最近、親のことがちょっと気になってる」

それだけでもいいのです。

親の終活は、家族全員が集まって、大きな会議を開くところから始まるとは限りません。

食事をしながら交わした一言。

帰省したときの何気ない会話。

きょうだいに送った短いLINE。

そんな小さなやりとりから始まることもあります。

そして、もしかすると、その一言をきっかけに、

「お母さん、実はこう思っていたんだ」

「そんなこと考えていたなんて知らなかった」

と、これまで知らなかった親の気持ちを知ることができるかもしれません。


この章のまとめ

兄弟でもめないための終活だからといって、今日から大きなことを始める必要はありません。

全部やらなくていい。

今日、全部決めなくていい。

まずは一つだけ、話してみる。

きょうだいに、

「最近、親のことちょっと気になってるんだけど、今度一回話さない?」

と送ってみる。

親に、

「これから、どんなふうに暮らしたい?」

と聞いてみる。

それだけでも十分な一歩です。

終活は、親の人生を子どもが整理するための作業ではありません。

親がこれからどう生きたいのかを知り、その思いを家族で支えていく時間。

だからこそ、完璧でなくていいのだと思います。

今日できる小さな一歩が、いつか「話しておいてよかった」と思える一歩になるかもしれません。


📖 もう少し具体的に親の終活を考えたい方へ

「親と何を話せばいいのか分からない」

「エンディングノートを使って、もう少し整理してみたい」

そんな方は、ここまで紹介したエンディングノートの記事や、親の終活実家じまいやこれからについての記事も続けて読んでみてください。

第10章|終活と兄弟に関するよくある質問

ここまで読んで、

「考え方は分かったけれど、うちの場合はどうなんだろう?」

と思った方もいるかもしれません。

親の終活は、家族構成やきょうだいとの関係、親の希望、住んでいる場所によっても答えが変わります。

ここでは、本文では詳しく取り上げきれなかった、もう一歩踏み込んだ疑問について答えていきます。


きょうだいの仲が悪い場合、親の終活はどう進めればいい?

きょうだいの仲が良くなくても、親の終活を進めることはできます。無理に仲直りすることより、必要な情報を共有できる状態を作ることが大切です。

きょうだいだからといって、何でも分かり合えるとは限りません。

昔からのわだかまりがあったり、親との関わり方に差があったりすれば、親の終活をきっかけに昔の感情まで出てくることがあります。

そんな場合は、

  • 親の希望
  • 介護や通院などの状況
  • 実家の管理状況
  • 重要な手続き
  • 誰が何を担当しているか

など、必要な情報だけを共有する方法でも構いません。

直接話すと感情的になってしまうなら、LINEやメールなど文章で伝える方法もあります。

大切なのは、

「きょうだいだから仲良くしなければ」

ではありません。

「親のことについて、必要な話ができる状態を残しておく」こと。

それだけでも、親の終活を進めるうえでは大きな意味があります。

もし話し合いそのものが難しい場合や、財産・遺言などについて深刻な対立がある場合は、家族だけで解決しようとせず、専門家に相談することも選択肢です。


遺言書があればきょうだいは揉めませんか?

いいえ。遺言書があれば必ずきょうだいがもめない、とは言えません。

遺言書には、親が自分の財産を誰にどのように残したいのかを示せるという大きな意味があります。

一方で、

「なぜ自分はこの内容なの?」

「どうしてこの兄弟だけ多いの?」

と、相続人が納得できない場合もあります。

また、実家のような不動産が含まれていると、

「家をもらう代わりに、ほかの財産はどうする?」

「家を相続した後の管理は誰がする?」

など、遺言書だけでは解決しない問題も出てきます。

そのため、

遺言書は「もめないための万能薬」ではなく、親の意思を明確にするための重要な手段

と考えるのがよいでしょう。

遺言書を作るかどうか、どのような内容にするかは親本人の意思が大前提です。

子どもが「こう書いてほしい」と誘導するものではありません。

相続について考えるときは、遺言書の有無だけでなく、親が何を大切にしているのかを知っておくことも大切です。

詳しい制度については、第7章「相続でもめないために、親が元気なうちに知っておきたいこと」も参考にしてください。


遺言書があっても遺留分を請求されることはありますか?

あります。遺言書があっても、一定の相続人には遺留分が認められているためです。

遺留分とは、一定の相続人に保障された、最低限の遺産の取り分です。

例えば、親が特定の子どもに多くの財産を残す遺言を作った場合でも、ほかの一定の相続人の遺留分を侵害することがあります。

その場合、遺留分を持つ人は、一定の要件のもとで、財産を多く受け取った人などに対して金銭の支払いを請求できます。

現在の制度では、遺留分を侵害された場合、原則として遺留分侵害額に相当する金銭を請求する仕組みになっています。

ただし、誰に遺留分があるのか、どのくらいになるのかは、相続人や財産の内容によって変わります。

そのため、

「遺言書にこう書いてあるから大丈夫」

と家族だけで判断するのは避けたほうが安心です。

実際に遺留分が問題になりそうな場合は、弁護士などの専門家に確認することをおすすめします。

「遺言書がある=絶対にもめない」ではない。

このことを親子できょうだいで知っておくだけでも、後の行き違いを減らすきっかけになります。


実家を誰が引き継ぐかはいつ決める?

親が元気なうちに、子どもだけで「誰が相続するか」を決めてしまう必要はありません。まずは、親が実家をどうしたいのかを確認することが先です。

親にとって実家は、単なる財産ではありません。

「できるだけ最後までここで暮らしたい」という思いがあるかもしれません。

一方で、

「子どもに負担を残したくないから、いずれ手放したい」

と考えている場合もあります。

だから最初は、

「これからも、この家に住みたい?」

「もし住めなくなったら、どうしたい?」

と聞いてみる。

そのうえで、きょうだいそれぞれの事情を考えます。

実家を引き継ぐ人が決まったとしても、そこで終わりではありません。

  • 誰が住むのか
  • 誰が管理するのか
  • 修繕費はどうするのか
  • 将来売却するのか
  • 空き家になった場合はどうするのか

なども考える必要があります。

また、相続した不動産については、2024年4月1日から相続登記が義務化されています。

つまり、「誰がもらうか」だけではなく、

「その後、誰が責任を持って管理できるのか」

まで考えることが大切です。


親の終活にかかった費用は兄弟でどう分担する?

兄弟で必ず均等に負担しなければならない、という単純な問題ではありません。まずは「何に、いくら使ったのか」を共有することが大切です。

親の終活では、

  • 実家の片付け費用
  • 修繕費
  • 通院や付き添いの交通費
  • 帰省にかかる交通費
  • 書類の取得費用
  • 専門家への相談費用

など、さまざまなお金がかかることがあります。

さらに難しいのが、お金を負担した人と、時間や労力を負担した人が同じとは限らないことです。

例えば、近くに住む姉が毎週実家へ通い、遠方の弟が交通費や修繕費を負担しているケースもあります。

「一人いくら」と単純に割るだけでは、かえって不公平感が残ることもあるでしょう。

そこで、まずは、

「親のために、今どんな費用が発生しているのか」

を見えるようにします。

そして、親自身が負担するものなのか、子どもが負担するものなのかも分けて考えます。

特に、誰かが立て替えたお金を後から相続財産との関係で精算したい場合などは、法律上の扱いが問題になることがあります。

その場合は、家族だけで「これは相続のときに返してもらえばいい」と決めず、専門家に確認するほうが安全です。

兄弟で終活を進めるときに大切なのは、金額を完全に同じにすることより、「知らないうちに誰かが負担していた」という状態を作らないことです。


きょうだいの配偶者が口を出してくる場合は?

本文でもとりあげましたが、配偶者の意見を最初から排除するのではなく、その背景にある心配や負担を理解したうえで、最後は「親本人はどうしたいのか」に戻ることが大切です。

特に、実家によく出入りするきょうだいの配偶者は、親の生活を身近に見ています。

そのため、

「このままでは危ない」

「もっと早く施設を考えたほうがいい」

「家を整理したほうがいい」

など、強い意見を持つことがあります。

でも、その意見を単純に「口出し」と決めつけるのは少し違うかもしれません。

実際に親の暮らしを近くで支えているなら、その人にしか分からない負担や心配もあるでしょう。

私自身も、きょうだいの配偶者の意見が強くなることで、家族の話が複雑になりやすいと感じた経験があります。

だからこそ、

「なぜ、そう考えているんだろう?」

と一度考えてみる。

そのうえで、話が対立しそうになったときには、

「親本人はどうしたいと言っている?」

に戻ります。

親の終活について話している以上、中心に置きたいのは親本人の意思です。

配偶者を敵にしない。でも、親の意思も置き去りにしない。

このバランスを意識することが、家族の関係を守るうえでも大切なのだと思います。


この章のまとめ

「終活できょうだいがもめないためには、どうすればいい?」

そう考えると、きょうだい全員が同じ考えになることが必要なように思えてしまいます。

でも、そうではありません。

仲が悪くてもいい。

意見が違ってもいい。

遠方に住んでいてもいい。

配偶者が違う意見を持っていてもいい。

大切なのは、必要な情報を共有し、親本人の希望を中心に話し合える状態を残しておくことです。

相続や遺言、遺留分など、法律が関係する問題については、家族だけで判断せず、公的機関の情報を確認し、必要に応じて専門家に相談する。

お金の負担については、誰か一人が黙って抱え込まない。

実家については、「誰がもらうか」だけではなく、その後どうするのかまで考える。

こうした小さな準備が、将来の

「そんな話、聞いていない」

「私ばかり負担している」

というきょうだい間の行き違いを減らしてくれるかもしれません。

そして、もし迷ったときには、この記事の最初から最後まで何度も出てきた言葉に戻ってみてください。

「親はどうしたいのか?」

終活は、兄弟を同じ考えにするためのものではありません。

違う考えを持ったきょうだいが、それでも親のことを話せる状態を残しておくこと。

その準備こそが、50代から始める「兄弟でもめないための終活」なのだと思います。

第11章|まとめ|親の終活は、兄弟で「決める」より「話す」ことから

親の終活について考え始めると、最初は「何から始めればいいんだろう」と迷います。

介護のこと、実家のこと、財産や相続、遺言、お墓。
きょうだいとの役割分担や、遠方に住んでいる場合の情報共有も考えなければなりません。

けれど、ここまで読んでいただいた今、すべてを一度に決める必要はないことが分かっていただけたのではないでしょうか。

親の終活できょうだいがもめないために、私が大切だと思うことは、3つあります。


一人で抱えない・背負わせない

親のために動くことは大切です。

近くに住んでいるきょうだいが、病院への付き添いや実家の管理をしてくれることもあるでしょう。行動力のある人が、親に話を聞いたり、必要なことを調べたりすることもあります。

それ自体はありがたいことで、決して悪いことではありません。

しかし、情報が共有されないまま物事が進んでいくと、トラブルになる恐れがあります。

親の終活では、きょうだい全員が同じことをする必要はありません。

近くにいる人、遠くにいる人、書類整理が得意な人、親との会話が得意な人。それぞれができることは違います。

だからこそ、一人で抱えず、一人に抱え込ませず、必要な情報を共有することが大切です。

それだけでも、きょうだい間の「聞いていない」「知らなかった」というすれ違いを減らせるはずです。


親の意思を中心にする

きょうだいで意見がぶつかったとき、つい「どちらが正しいのか」を考えてしまいます。

実家を残すのか、手放すのか。

介護をどうするのか。

どこで暮らすのがいいのか。

きょうだいの配偶者も含め、それぞれの立場から意見が出てくるでしょう。

もちろん、その意見には、それぞれの心配や事情があります。

だから、誰かの意見を簡単に「口出し」と決めつける必要はありません。

それでも、話がこじれそうになったとき、私が戻りたいと思うのは、

「親はどうしたいのか?」

という問いです。

親がこれからも自宅で暮らしたいと思っているなら、その希望をどうすれば実現できるのかを考える。

反対に、親自身が「もう家の管理は大変だから手放したい」と思っているなら、その気持ちを出発点にする。

もちろん、親の希望だけですべてを決められるわけではありません。

費用や介護する側の負担、法律や制度など、現実的に考えなければならないこともあります。

それでも、「誰が正しいか」ではなく、「親はどうしたいのか」から考える。

それが、きょうだいで親の終活を話し合うときの大切な軸になるのだと思います。

そのうえで解決が難しいようであれば、専門家を頼ることも大切です。


今日、一つだけ話す

ここまで読んで、「じゃあ、何から始めよう?」と思った方へ。

私は、全部を始めなくてもいいと思っています。

まずは一つだけ。

きょうだいに、

「最近、親のことちょっと気になってるんだけど、今度一回話さない?」

と送ってみる。

それでもいいです。

親に、

「これから、どんなふうに暮らしたい?」

と聞いてみるのもいいでしょう。

エンディングノートを一緒に開いてみるのも、一つの方法です。

大切なのは、今日すべてを決めることではありません。

「親のことについて話してみる」ことです。

親の終活は、何かを決めることから始まるとは限りません。

何気ない会話の中で、

「そんなふうに考えていたんだ」

「知らなかった」

「じゃあ、これからどうしようか」

と話せること。

そこから始まる終活もあります。


親が元気なうちは、「まだ早い」と思うかもしれません。

でも、まだ何も起きていない今だからこそ、ゆっくり話せることがあります。

介護が始まってから。

病気になってから。

相続が始まってから。

そうなって初めて話し合うのではなく、何も起きていない今に、少しだけ話しておく。

それは、親の人生を子どもが決めることではありません。

親がこれからどう生きたいのかを知り、その思いを家族で共有することです。

そして、きょうだい全員が同じだけ動く必要もありません。

それぞれができることを担いながら、必要な情報を共有する。

意見が違ったときには、「誰が正しいか」ではなく、

「親はどうしたいのか」

に戻る。

それだけでも、家族のすれ違いは少しずつ減らせるのではないでしょうか。

今日、全部決めなくて大丈夫です。

まずは、

「親のこと、少し話してみない?」

と、誰かに声をかけるところから。

終活は、人生の終わりを考えることだけではありません。

大切な人が、これからどんなふうに生きたいのかを知る時間。

そして、家族がその思いに向き合う時間でもあるのだと思います。

その最初の一歩を、今日から始めてみませんか。

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