実家リフォームは何から?50代の子が親と考える終活とこれからの暮らし

今年のお正月、久しぶりに実家に帰りました。

リビングは暖房で暖かく、ほっとしたのも束の間。廊下に出た瞬間、思わずつま先立ちになりました。床が、驚くほど冷たかったのです。

「廊下には出たくないな」

そう思ったすぐあとに、もうひとつの気持ちが浮かびました。

「親は、大丈夫かな」

お風呂場は少し前にリフォームして、浴室暖房もついています。これなら安心だと思っていたのですが、広い脱衣所は昔のまま。持ち運びのヒーターを置いても、やはり少し寒い。

暖かいのは暖房のきいたリビングだけで、家全体が暖かいわけではない。久しぶりに帰ったからこそ、気づいたことでした。

毎日暮らしている親にとっては、慣れた寒さなのかもしれません。けれど私は、ニュースで見たヒートショックのことを思い出し、この温度差が親の体への負担にならないかと心配になりました。

「リフォームしたほうがいいのかな」

そう考えかけて、ふと立ち止まりました。

寒さや、昔から変わらない家の設備。

気になるのは、いつも子どもの私のほうです。でも、親はどう思っているのでしょう。この家でこれからも暮らしたいのか。それとも、少し暮らしやすく変えたいのか。その答えを、私はまだ聞けていません。

実家のリフォームを考えるとき、私たちはつい「どこを直すか」「いくらかかるか」から調べ始めます。もちろん、それも大切です。けれどその前に、考えておきたいことがあります。

子どもから見れば「直したほうがいい」と思う家でも、親にとっては長年暮らしてきた家です。しかも、親と子、そしてきょうだいの間でも、家への思いは同じではありません。

だからこそ、実家のリフォームは、古くなった家を新しくするだけの話ではありません。親が元気なうちに、これからどう暮らしたいかを家族で考えること。それは、親の終活の入り口にもなるのではないか。そんな思いで、この記事を書いています。

私自身の迷いも交えながら、実家のリフォームは何から始めればいいのかを整理していきます。最初の一歩は、リフォーム会社を探すことではありません。

まずは、親の「これから」を聞くところから始めましょう。

そのために、何から考えればいいのか。
ここから一緒に整理していきます。

Table of Contents

第1章 実家のリフォームは、親が元気なうちに考える

実家のリフォームは、親が元気なうちから考え始めるのがおすすめです。

「まだ介護も必要ないのに、早すぎるのでは?」と思うかもしれません。けれど、今の暮らしに大きな困りごとがない時期だからこそ、親がこれからの住まいについて考え、自分の希望を話せる余地があります。

私自身、実家のリフォームを考え始めて、最初に気になったのは家の寒さと設備の古さでした。けれども、それ以上に大切なのは、親がこれからどんなふうに暮らしたいのかを知ることだと気づきました。

「まだ介護は先」と感じるのは自然なこと

70代、80代の親が元気に暮らしているなら、「今すぐ実家をリフォームしなければ」という考えまで及ばないのは自然なことです。毎日の生活ができていて、本人が「困っていない」と感じているなら、家を大きく変える必要も感じにくいものです。

私の親も、寒い脱衣所では持ち運びのヒーターを使い、浴室では浴室暖房を使うなど、自分なりに工夫して暮らしています。お風呂は寒いもの、仕方がない。親はそう受け入れているように、私には見えました。

「子どもが心配しすぎなのかな」とも思います。それでも、久しぶりに帰った私には、あの廊下の温度差が忘れられません。「親は毎日、この家で暮らしているんだ」。そう思ったとき、家の問題は「今、困っているかどうか」だけでは考えられないと感じました。

だからといって、「高齢だから危ない家を直しましょう」と親に迫る必要はありません。まずは、今の家でどんな暮らしをしているのかを、子どもの側も知ること。そこから始めても遅くありません。

元気なうちなら、親の希望を聞ける

工事の内容より先に確認したいのは、親自身の希望です。住まいは毎日暮らす場所であり、長年そこで生活してきた親にしか分からない「大切にしたいもの」があるからです。

たとえば私の場合、耐震性や寒さ、防犯が気になりました。将来、車いすが必要になったときにも自分でトイレに行けるように、段差や開き戸も変えたほうがいいのではないかと考えています。けれど、それはあくまで私が子どもの立場から考えた「こうしたほうがいい」です。

親が同じように考えているとは限りません。実際、親の間でも、家への思いは同じではないように感じています。ただ、これは家族みんなで話し合った結果ではなく、ふだんの会話や家族から聞いた話から、私が受けた印象です。

だからこそ、子どもが先回りして決めてしまうのではなく、まず親自身の考えを聞くことが大切だと感じました。

厚生労働省の「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」では、本人が意思を形成し、表明し、それを実現するまでを支えることが、基本的な考え方として示されています。認知症の人への支援のガイドラインですが、「本人の意思を尊重する」という視点は、親のこれからの暮らしを考えるときにも大切だと思います。

「親が元気なうちに考える」というのは、子どもが親に代わって将来を決めることではありません。親が自分のこれからを考え、希望を家族に伝えられるうちに、一緒に考えること。私は、そこに大きな意味があると思っています。

認知症になる前に親と何を話しておけばいいのか気になっている方は、こちらの記事も参考にしてください。
→ 「親の終活と認知症|50代の子が“親が元気なうちに確認したい8つのこと」

「危ないから」ではなく「これからの暮らし」から考える

「廊下が寒いから直そう」「段差があるからなくそう」と、子どもの側から問題を並べると、親にとっては「今の家ではダメだ」と言われたように感じることもあります。

私も最初は、「耐震性を高めたほうがいい」「寒さをなんとかしたほうがいい」と、家の問題ばかり見ていました。でも、考えるうちに、その前に向き合う問いがあると気づきました。

「親は、この家で、これからも暮らしたいのだろうか」

暮らしたいのなら、何を残したいのか。今の暮らしで不便なところはどこか。年齢を重ねても、できるだけ自分で動けるようにしたいのか。それとも、家を大きく変えるより、今のまま暮らしたいのか。答えは親によって違い、その答えによって、必要なリフォームも、リフォーム以外の選択肢も変わってきます。

だから私は、実家のリフォームの最初の一歩は、「何を直すか」ではなく「親はどう暮らしたいのか」を知ることだと考えています。とはいえ、私自身、その問いをまだ親に聞けていません。いきなり「リフォームする?」と切り出す必要はなく、もっと小さなところから始められるはずです。具体的な聞き方は、次の章で深掘りしていきます。

この章のまとめ

実家のリフォームは、親が介護を必要としてから考えるものとは限りません。まだ元気だからこそ、親が自分の希望を話せる時間があります。

大切なのは、子どもが「危ないから直そう」と先に決めることではなく、まず「親は、この家で、これからも暮らしたいのだろうか」と考えてみること。

次の章では、親に話を切り出すとき、どんなふうに声をかければいいのかを考えます。

第2章 親に「これからどう暮らしたい?」と聞いてみる

実家のリフォームの話を親に切り出すなら、「どこを直す?」から始めないことが大切です。先に聞きたいのは、親が今の家でどんな暮らしをしていて、これからどう暮らしたいのかということです。

切り出し方の流れは、次の3つです。

  1. 今の暮らしで困っていること、大切にしていることを聞く
  2. 「この家で、これからも暮らしたい?」と聞いてみる
  3. 「まだ大丈夫」と言われたら、そこで急がず、次の機会につなぐ

第1章の最後に書いたとおり、私自身、この問いをまだ親に聞けていません。この章は、聞けた人の成功談ではありませんが、参考にしてみてください。

「リフォームしたほうがいい」から始めない

子どもの立場になると、家の中の気になるところが次々と目につきます。

「廊下が寒い」「段差が多い」「玄関の鍵が古い」「この開き戸は、将来使いにくくなりそう」。私自身も、実家に帰るたびに、そんなところが気になるようになりました。

けれど、「この家は危ないから、リフォームしたほうがいいよ」と結論から伝えると、親は長年暮らしてきた自分の家を否定されたように感じるかもしれません。実際、私が気持ちを伝えたときも、親は話を早めに切り上げることがありました。別のきょうだいが要望を伝えたときも、親が引いてしまったように見えました。

そこで、こんなふうに聞いてみるのはどうでしょうか。

「最近、家で不便なところない?」

「この前帰ってきたとき、廊下がすごく寒いと思ったんだけど、毎日暮らしていてどう?」

これなら、「リフォームする」という結論を押しつけず、親自身の感じ方を聞くことができます。

子どもには「不便」に見えることが、親にとっては「慣れているから困らない」こともあります。私の親も、寒い脱衣所では持ち運びのヒーターを使って、お風呂は寒いもの、仕方がないと受け入れているように、私には見えました。それが本当に「大丈夫」なのかどうかは、聞いてみないと分かりません。

親が大切にしている暮らしを聞く

親の希望を知りたいなら、いきなり将来の話をするより、まず今の暮らしを聞くほうが、親も答えやすいでしょう。ここで大切なのは、「何を直すか」だけでなく、「何を残したいか」も聞くことです。

  • 「家の中で、不便に感じる場所はある?」
  • 「この家のどこが好き?」
  • 「この暮らしで、続けたいことは何?」
  • 「できれば、変えたくないことはある?」

子どもが答えを用意してから質問しないことも大切です。「階段は危ないよね?」と聞けば、親は「そうだね」と答えるかもしれません。「階段はどう?」と聞けば、思ってもいなかった本音が出てくることがあります。

私の実家は、40年以上前に建てられた家です。玄関は、私が子どもの頃からほとんど変わっていません。私は当時から使われている古い鍵を見て「今の暮らしには不便だし、防犯上問題がありそうだな」と感じますが、親にとっては、長く使ってきていままで問題がなかったので不都合がないようです。また、家そのものに愛着があるように見えます。

親が「ここは残したい」と思っているものを知れば、リフォームするときにも、その希望を生かした計画が考えやすくなります。

「この家でこれからも暮らしたい?」と聞いてみる

実家のリフォームを考えるとき、確認したいのは、「この家でこれからも暮らしたいか」という親自身の気持ちです。この家に住み続けたいなら、「どこを直せば、これからも暮らしやすい?」という話につながります。もう少し暮らしやすい場所に移りたい気持ちがあるなら、リフォームだけを前提にする必要はなく、建て替えや住み替えなどの選択肢も考えられます。

私も最初は、「耐震性を高めて、古くなったところをリフォームすればいい」と考えていました。でも、親の間でも家への思いは同じではないように感じて、まず親の考えを聞かないと始まらないと思うようになりました。

ただ、「暮らしたい?」は、「はい」か「いいえ」で終わってしまう問いです。そのあとに、こう続けてみます。

「どんなふうに暮らせたらいいかな?」

厚生労働省の意思決定支援ガイドライン(第2版)も、本人が何を望むかは、開かれた質問で聞くことが重要だとしています(認知症の人への支援のガイドラインですが、聞き方の参考になります)。

避けたい言い方と言い換え例

話を切り出すときは、正しいことを伝えるより、親が話しやすい言葉を選ぶほうがよいでしょう。「年だから」「危ないから」と決めつけると、親の気持ちが閉じてしまうことがあるからです。

避けたい言葉言い換えの例
「危ないから直したほうがいいよ」「最近、ここ不便じゃない?」
「年なんだから、段差はなくしたほうがいいよ」「これからも暮らしやすくするなら、どうしたい?」
「介護になったら困るよ」「この家で、困っていることはある?」
「私たちが決めるから」「お母さんは、どうしたい?」
「この家は古すぎるよ」「長く暮らしてきたけど、変えたいところはある?」

もちろん、これらは決まった正解ではありません。大切なのは、親を説得するための質問ではなく、親の答えを聞くための質問にすることです。

親が話しているときは、すぐに反論したり、解決策を出したりしないこと。「そうなんだ」と一度受け止めてから、「じゃあ、どうしたい?」と続けるだけでも、会話の雰囲気は変わると思います。親の答えが自分の考えと違っても、正解・不正解を決める必要はありません。まずは「親はそう考えている」と知ることが、大切な情報になります。

親の終活について、どんなふうに話を切り出せばいいのか迷っている方は、こちらの記事も参考にしてください。
→ 「親の終活の切り出し方|50代が親を傷つけずに話すコツ」

親が「まだ大丈夫」と言ったら

親が「まだ大丈夫」と言ったら、暮らしの希望の話は、急いで決めなくていいと思います。その言葉も、今の親の大切な意思表示の一つだからです。

「そうだね。今は困ってないなら、急がなくていいね」と受け止めたうえで、会話を終わらせる必要もありません。「じゃあ、次に帰ってきたときに、一緒に家を見てみようか」くらいにしておけば、次の機会につながります。厚生労働省のガイドラインにも、本人が急いで決めることがないよう配慮し、意思決定を強制しないという趣旨の記述があります。

ただし、耐震診断で指摘があるなど、安全に関わることは、暮らしの希望とは分けて考えたいと思います。この点は、第4章で詳しく書きます。

実家のリフォームは、一度の会話で結論を出す必要はありません。何度か話しながら、親自身の考えが少しずつ見えてくることもあります。

遠方に住んでいても、最初の一歩は踏み出せる

離れて暮らしていても、急いで実家に帰って話をする必要はありません。電話で「最近、家で不便なことない?」と聞くところからでも十分です。帰省する予定があれば、そのときに一緒に家の中を歩きながら話す方法もあります。慣れた場所のほうが、親も安心して話しやすいでしょう。

大切なのは、電話や帰省のたびにリフォームの話を持ち出すことではなく、まず一度、親の暮らしについて聞いてみることです。

この章のまとめ

親の家を変える前に、親がどんな暮らしを続けたいのかを聞く。

「リフォームしたほうがいい」と説得するのではなく、「最近、家で不便なところない?」という小さな問いから始める。そして最後に、「この家で、これからも暮らしたい?」と聞いてみる。

私自身、「親の家を何とかしなければ」という気持ちばかりが先に立っていました。けれど、本当に必要だったのは、親の家を変えることではなく、親がどう暮らしたいのかを知ることでした。

親の答えが、自分の考えと同じとは限りません。それでも、まず親の気持ちを知る。実家のこれからを考えるとき、そこから始めることに意味があります。

第3章 親と一緒に実家を歩いてみる 実家版チェック10項目

実家のリフォームで、最初から「ここを直そう」と決める必要はありません。まずは親と一緒に家の中を歩き、どこで困っているのか、どこならこれからも安心して暮らせそうなのかを見つけることから始めます。

第2章では、親に「これからどう暮らしたい?」と聞くことについて書きました。次は、その答えを少し具体的にするために、実際の家を一緒に見てみます。専門家のような知識は必要ありません。「ここはどう?」と話しながら歩くだけで十分です。

「チェックしに来た」にならない声のかけ方

「点検する」のではなく、「一緒に歩く」という気持ちで始めます。親に家を採点されているような気持ちにさせないことが大切だからです。

「ちょっと一緒に家を見てみない?」

くらいで十分です。「ここ危ないよ」「ここも直したほうがいい」と次々に指摘するのではなく、

「ここ、毎日使っていてどう?」
「ここは困ったことない?」

と、親の感覚を聞きながら歩きます。家を見ることと、親を見ること。この二つを一緒にするのが、このチェックの目的です。

消費者庁も、高齢者の家庭内での転倒事故について、段差・床の物・浴室などの注意ポイントを示しています。以下の項目の一部は、それを参考にしています。

①玄関・外のアプローチ

立つ・しゃがむ・靴を履くという動作に、無理がないかを見ます。

  • 玄関や外の段差に、手すりや滑り止めがあるか
  • 靴の脱ぎ履きで、壁や物につかまっていないか
  • 雨の日や夜、足元が見えにくくないか

消費者庁は、階段や玄関などの段差に、手すり・滑り止め・足元を照らすランプなどを勧めています。

私の実家の玄関は、建築当時からほとんど変わっていません。今まで大きな問題は起きていませんが、「今まで大丈夫だったから、これからも大丈夫」とは限らないと感じました。

また、雨の日の玄関の使い勝手も確かめておくと安心です。

②廊下・段差・床

「歩きにくい場所」だけでなく、つまずくものがないかを見ます。普段暮らしている本人には、気づきにくいことがあります。

  • 敷居などの小さな段差がないか
  • めくれやすいカーペットやマットがないか
  • 床に物やコードが出ていないか
  • 将来、歩行器や車いすを使っても通れる幅があるか

廊下は、私にとって印象に残った場所です。リビングは暖房で暖かいのに、廊下へ出た瞬間、床の冷たさに思わずつま先立ちになりました。親は毎日、この廊下を歩いているのだと実感しました。

冬の廊下チェックも大事です。

③階段

手すり、足元の見えやすさ、上り下りの負担を見ます。

  • 手すりがあるか、使いやすい位置か
  • 足元が暗くないか
  • 荷物を持っているときも、無理なく上り下りできるか

「階段がある」だけで危険と決めつける必要はありません。親が実際に使っている様子を見て、「今は困っていないのか」「少し負担になっているのか」を聞きます。2階を寝室にしている家では、年齢を重ねたときの暮らし方を考えるきっかけにもなります。

「階段、荷物を持つときはどう?」と一言聞いてみましょう。

④トイレ

立ったり座ったりする動作に注目します。

  • 便座から立ち上がりやすいか
  • 手をつける場所があるか
  • 冬に寒くないか

今は問題なく使えていても、動作が変われば必要な設備も変わる可能性があります。夜の移動については⑧で見ます。

「トイレ、立ち座りはどう?」と聞いてみてください。

⑤浴室・脱衣所

滑りやすさに加えて、出入りのしやすさや温度も見ます。

  • 床が滑りやすくないか
  • 浴槽をまたぐ動作が負担になっていないか
  • 手すりが必要ではないか
  • 浴室と脱衣所の温度差はどうか

消費者庁は、浴室や脱衣所に手すりや滑り止めマットを設置することを勧めています。

私の実家では、浴室を少し前にリフォームして、浴室暖房をつけました。ところが、広い脱衣所は昔のまま。持ち運びのヒーターを使っていても、私は寒さを感じました。浴室をリフォームしても、周りの環境まで一緒に変わるとは限りません。

寒い時期、お風呂の前後は寒くないか確認しておきましょう。

⑥キッチン

「料理ができるか」より、どんなふうに料理をしているかを見ます。

  • 長時間立っているのがつらそうではないか
  • よく使う物が高い場所にないか
  • 踏み台を使っていないか
  • コンロまわりで不安なことはないか

「まだ料理できているから大丈夫」ではなく、「無理なく続けられているか」という視点で見てみます。

料理をするとき、前より大変になったところがないか聞いてみましょう。

⑦寝室・立ち座り

起き上がるときと、立ち上がるときの動作を見ます。

  • ベッドや布団から起き上がりやすいか
  • 立ち上がるときに、つかまる場所があるか
  • ベッドの高さが合っているか

消費者庁は、ベッドから起きてトイレに行こうとするときなど、体勢を変えるときはゆっくり慎重にと呼びかけています。親が今は問題なく動けているなら、無理に変える必要はありません。ただ、「これからもこの寝室で暮らしたい?」と考えるきっかけにはなります。

「朝、起きるときはどう?」と聞いてみてください。

⑧夜の移動

昼間は何ともない廊下でも、夜になると暗くなり、移動が負担になることがあります。

  • 寝室からトイレまでの廊下の照明は十分か
  • 通路に物が置かれていないか
  • 階段や段差の足元は見えるか

「夜中にトイレへ行くなら?」と想像すると、同じ家でも違って見えます。

「夜、トイレに行くときは暗くない?」と聞いてみましょう。

⑨暑さ・寒さ

「暖房があるか」だけでなく、家の中を実際に移動したとき、どんな環境になっているかを見ます。

  • 冬の廊下や脱衣所は寒くないか
  • 夏の寝室は暑くないか
  • 窓から冷気や熱気を感じないか
  • ストーブなどの暖房器具の近くで、安全に過ごせているか

廊下や脱衣所の温度差については、先ほど書いたとおりです。ストーブについては、国民生活センターが紹介している事故例に、居眠り中にやかんの蒸気でやけどをしたものがあります。温熱環境や断熱は、第4章で詳しく扱います。

「冬、家の中で寒い場所はどこ?」と確認してみてください。

⑩家事・外出の動線

最後は、設備ではなく、毎日の生活が家の中でどうつながっているかを見ます。

  • 洗濯物を運ぶ距離は長くないか
  • ゴミを外まで運ぶのが大変になっていないか
  • 買い物から帰って、荷物を運びにくくないか
  • 庭の手入れで、脚立やはしごを使っていないか

国民生活センターは、庭仕事の高所作業による転落の危険を挙げ、無理せず専門業者へ頼むことも選択肢だとしています。「これを5年後も続けられるだろうか」と考えると、見え方が変わります。

庭の手入れなど、屋外の作業を問題なくできるか確認してみましょう。

「全部直す」ではなく、まず3つだけ

気になるところがたくさん出てきても、すぐに「全部リフォームしよう」と考える必要はありません。まずは、気づいたことを3つだけ書き出し、親に聞いてみたいことを添えます。

気づいたこと今の対処親に聞いてみたいこと
脱衣所が寒い持ち運びのヒーターお風呂の前後、寒くない?
廊下が寒い暖かいのは暖房器具のある部屋だけ冬、家の中で寒い場所はどこ?
玄関の鍵が古いそのまま使っている玄関、使いにくいところはある?

この段階では、どんな工事をするかまで決めなくて大丈夫です。困っていることを見つけることと、解決方法を決めることは別の作業です。

実家版チェックリストを使う

10項目をすべて覚えておく必要はありません。親と歩きながら書き込める「実家版チェックリスト」を用意しました。「親が困っていること」「今は困っていないこと」「将来気になること」を書き込めます。

自分の家のリフォームを考える場合は、こちらの記事も参考にしてください。
→ 「50代のリフォームは何から?終活で考える、長く住める家づくり」

この章のまとめ

実家のリフォームは、いきなり工事箇所を決めるところから始まりません。まず親と一緒に家を歩いて、「どこが危ないか」ではなく、「どこで困っているか」を見つけます。昼間だけでなく、夜の移動や暑さ・寒さ、毎日の家事動線まで見る。全部を直す必要はありません。

まずは、気づいたことを3つ。そこまで整理できれば、次に「どこから手をつけるか」を考える準備ができます。

(出典)消費者庁「みんなの消費安全ナビ from 消費者庁 Vol.696」/国民生活センター「医療機関ネットワーク事業情報からみた高齢者の家庭内事故」(2025年10月29日公表)

第4章 高齢の親の家で考えたい「安全」と「快適」

実家のリフォームを考えると、気になる場所がいくつも見つかります。段差、浴室の寒さ、古い玄関や鍵、地震への備え。けれど、すべてを一度に直す必要はありません。まずは、気になることを次の3つに分けてみましょう。

  • 日常生活の安全:浴室・トイレ・階段・玄関など、転倒や移動の負担が気になる場所
  • 毎日の快適さ:廊下や脱衣所の寒さなど、我慢している不便
  • 建物そのものの安全:耐震性や老朽化など、専門家に確認したいこと

バリアフリーは「介護されるため」だけではない

高齢の親の家をバリアフリーにするのは、介護が必要になったときのためだけではありません。今の暮らしを楽にし、できるだけ長く自分の力で生活するための工夫でもあります。玄関の段差が低くなれば外出の負担が減り、トイレに手すりがあれば立ち座りを支えられます。

ただ、親も長年その家で暮らしているので、不便を感じながらも慣れてしまっていることがあります。今は何とかできていても、年齢を重ねるにつれて負担が大きくなる可能性はあります。だから私は、「介護が必要になったらどうするか」だけでなく、「これからも自分でできることを続けるには、どんな家がいいのか」という視点を持ちたいと思っています。

優先順位が高い場所

浴室・脱衣所、トイレ、階段、玄関は、毎日使い、転倒や移動の負担が気になりやすい場所です。第3章のチェック項目を手がかりに、親が困っている動作や、事故につながるおそれのある場所から考えます。4か所をすべて直すことが目的ではありません。最優先の場所は、親の身体の状態や住まいによって異なります。

工事の種類としては、厚生労働省の介護保険の住宅改修で、手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止などのための床材の変更、引き戸などへの扉の取替え、洋式便器などへの取替えが対象の種類として示されています。

ただし、この制度は誰でも使えるわけではありません。要支援・要介護の認定を受けた人が対象で、原則として、工事の前に市町村へ申請する必要があります(やむを得ない事情がある場合は、工事後の申請が認められることもあります)。認定を受けていない元気な親は、対象外です。使うときは、ケアマネジャーや自治体の窓口に確認しましょう。詳しくは、第6章でお金の話としてまとめます。

暑さ・寒さも見逃さない

暖房のある居間と、廊下や脱衣所では、体感温度が大きく違うことがあります。私が気になったのも、年末年始に帰省したときの、廊下や脱衣所の寒さでした。浴室は少し前にリフォームして浴室暖房もついていますが、広い脱衣所は昔のまま。親は、寒さは仕方がないと受け入れているように、私には見えました。

消費者庁は、高齢者の入浴中の事故を防ぐ注意点の一つとして、「入浴前に脱衣所や浴室を暖めましょう」と呼びかけています。暖かい部屋から寒い脱衣所に移ると血圧が上がり、その後、湯につかると下がるため、部屋との温度差をなくすことが大切だという説明です(一般に「ヒートショック」と呼ばれます)。脱衣所で暖房器具を使うときは、火事ややけどにも気をつけるよう書かれています。 

国土交通省が2026年3月に閣議決定した住生活基本計画(全国計画)でも、高齢者向けの住まいの整備やバリアフリー化とあわせて、健康面でも効果が期待される温熱環境の改善につながる省エネリフォームなどを進める方針が示されています。

実家の寒さが気になる場合は、暖房器具を足すだけでなく、窓から冷気が入っていないか、廊下や脱衣所まで暖められるかも確認してみましょう。ただ、寒い家だからといって、すぐに大規模な断熱リフォームが必要とは限りません。窓の断熱や暖房の見直しなど、家の状態や予算に合う方法があるので、具体的な工事は専門家に相談しながら検討するのが安心です。

安全な家とは、転ばないための家だけではない。寒さを我慢せずに過ごせること、トイレに行くのがおっくうにならないこと。そうした毎日の快適さも、これからの暮らしを考えるうえで大切にしたいと思っています。

耐震性や家の劣化も確認する

築年数の古い実家では、手すりや段差だけでなく、建物そのものの耐震性や劣化も確認したいところです。室内を使いやすく整えても、建物の構造に問題があれば、それだけで安心して暮らせるとはいえないからです。

国土交通省は、昭和56年(1981年)以前に建築された建物は、耐震基準が強化される前の「旧耐震基準」で建てられ、耐震性が不十分なものが多いとして、まず耐震診断で耐震性を把握するよう案内しています。そして、耐震性が不十分だった場合は、「耐震改修や建替えを検討しましょう」としています。もちろん、築年数だけで危険かどうかが決まるわけではないので、心配な場合は、自治体の耐震相談窓口などに確認しましょう。

また、国土交通省は、耐震診断などを口実にした悪質なリフォーム工事詐欺にも注意を呼びかけ、地方公共団体の窓口に相談するなどして、十分に気をつけるよう案内しています。診断を受けるときも、結果を確認するときも、自治体の窓口に相談しながら進めると安心です。

私の実家でも、約1年前に民間の耐震診断を受け、耐震性に問題があると言われました。耐震補強をしたほうがいい、という説明でした。当初は、補強でいいのでは、という考えもありましたが、設備の古さや、部屋ごとの寒暖差が大きい造りも気になり、この際まとめて解決するために建て替えたほうがいいのでは、と家族の考えが変わってきています。どう進めるかは、まだ決まっていません。

さらに、防犯面や老朽化、将来の介護まで考えると、どこまで直すべきなのか、家族の中でも意見が分かれてきます。私自身は、耐震補強だけでなく、断熱性を高めたり、玄関の鍵を使いやすくしたり、将来の暮らしに合う間取りを考えたりしたいと感じています。

国の住生活基本計画も、耐震改修とあわせた断熱改修などのリフォームの促進を掲げています。ただ、これは私が実家について考えていることで、すべての家に同じ改修が必要という意味ではありません。親の希望や建物の状態、費用などを踏まえて判断することが大切です。

耐震診断で指摘があった場合など、安全に関わることは、親の希望を聞くことと並行して、診断結果の確認や相談を進めるとよいでしょう。「今すぐ工事を決める」ことと、「まず確認する」ことは別です。

「古いから全部直す」「手すりを付けたから安心」と決めつけず、まず家の状態を確かめる。それが、実家のリフォームを考えるうえでの大切な一歩です。耐震化の進め方は、国土交通省の特設サイト「家族を思う、強い家~大地震に備える耐震改修」でも確認できます。支援制度は自治体によって異なるので、実家のある地域の情報も調べてみましょう。

自分の家についても、親の家と同じように、元気なうちにこれからの暮らしを考えておくと、慌てずに選べるかもしれません。50代のリフォームについては、こちらの記事にまとめています。
→ 「50代のリフォームは何から?終活で考える、長く住める家づくり」

この章のまとめ

高齢の親の家のリフォームは、気になるところをすべて一度に直す必要はありません。「日常生活の安全」「毎日の快適さ」「建物そのものの安全」の3つに分けると、優先順位が見えやすくなります。安全に関わることは、確認や相談を早めに進める。暮らしの希望に関わることは、親の話を聞きながら考える。

けれど、どこを直すかを決める前に、もう一つ大切なことがあります。親自身が何に困り、これからどんな暮らしを望んでいるのかを知ることです。

次の一歩として、第3章で書き出した「気づいたこと」を、3つの視点のどれにあたるか分けてみましょう。そのうえで、安全に関わるものがないかを確認します。

第5章 実家のリフォームは「全部直す」必要はない

実家のリフォームは、全部を一度に直す必要はありません。「今困っていること」を優先し、「今必要」と「将来必要」を分けて、小さな工事から考える方法があります。

実家の古さが気になり始めると、「ここも直したほうがいい」「あそこも危ない」と、気になる場所が次々に見えてきます。浴室、トイレ、玄関、階段、廊下。耐震性も防犯も心配で、将来の介護まで考えたくなります。そうなると、「どうせなら、まとめて直したほうがいいのでは」と考えてしまいがちです。

私の実家でも、耐震性に問題があると言われました。補強でいいのでは、という考えもありましたが、設備の古さや寒暖差のある造りも気になり、この際まとめて解決するために建て替えたほうがいいのでは、と家族の考えも変わってきています。「全部まとめて」と考える気持ちは、よく分かります。

ただ、ここで言いたいのは、「全部まとめて」を否定することではありません。親がこれからどう暮らしたいのかを聞く前に、「全部」と決めてしまわないことです。家を新しくすることより、親の暮らしに合わせて、必要なところから考えること。私は、そこを大切にしたいと思っています。

今困っていることを優先する

まず、「今、親が困っていること」から考えます。毎日感じている不便なら、工事のあとの効果も実感しやすいからです。

  • 「お風呂が寒い」と感じているなら、浴室や脱衣所から
  • 「トイレまで行くのが大変」なら、トイレまでの動線や立ち座りのしやすさを
  • 「玄関の段差が気になる」なら、段差や手すり、靴の脱ぎ履きを

第3章で見つけた10項目を、すべて「直さなければならない問題」と考える必要はありません。親に「この中で、一番困っているのはどこ?」と聞いて、優先順位をつけていけば、必要以上に大きなリフォームを考えずに済みます。

私自身、寒さや古さが気になり始めると、「あれも、これも」と目につくようになりました。耐震補強だけでもいいかと思っていた私が、断熱や鍵、扉のことまで望むようになったのです。でも、家を見ている私と、そこで長年暮らしてきた親では、気になる場所が同じとは限りません。「直したほうがいい場所」ではなく、「親が今困っている場所」から始める。それが、大切な視点です。

「今必要」と「将来必要」を分ける

「今困っていること」と「将来気になること」を分けて考えると、必要以上に焦らずに済みます。たとえば、次のようなものです。

今困っていること(例)

  • 浴室が寒い
  • トイレまでの移動が大変
  • 段差につまずきそう
  • 立ち座りがしにくい

将来気になること(例)

  • 階段の上り下り
  • 寝室をどこにするか
  • 車いすでの移動
  • 家事動線

「将来気になること」は、今すぐ工事が必要とは限りません。階段を今は問題なく上り下りできているなら、すぐにどうにかする必要はないでしょう。ただ、「このまま2階を使い続けるのか」「寝室を1階に移すのか」は、早めに考えておく意味があります。

大切なのは、「将来必要だから、今すぐ全部工事する」ではないことです。将来の希望を知っておけば、今回の工事で何を残し、何を変えるかを判断しやすくなります。たとえば、親が「将来は1階中心の生活にしたい」と考えているなら、浴室を直すときに、その希望を業者に伝えて相談できる可能性があります。「できるだけ今の生活を続けたい」なら、その気持ちを尊重した計画にできます。

「今」と「将来」を一緒に考える。でも、工事は必要なところから。このくらいの距離感が、ちょうどいいのだと思います。

小さな工事から始める

実家のリフォームは、大規模な工事だけが選択肢ではありません。手すり、照明、段差、滑り対策など、小さな改善から始める方法もあります。

  • 廊下やトイレに手すりをつける
  • 暗い場所に照明を足す
  • 小さな段差を解消する
  • 滑りやすい床を見直す
  • 開け閉めしにくい建具を確認する

家全体を大きく変えなくても、毎日の暮らしやすさが上がる場合があります。親が「今は大丈夫」と感じていることを、子どもが一気に変えようとすると、「自分の家を勝手に変えられる」と感じることもあります。だから、まず一か所。親自身が「ここが少し楽になったらうれしい」と感じるところから始めます。そこから、「やっぱりここも」「ここは今のままでいい」という希望が見えてくることもあります。

ただし、耐震補強や建て替えなど、大きな工事を考えている場合は、先にした小さな工事がやり直しになることもあります。順番は、専門家に相談しながら決めると安心です。

工事前の片付けと、工事中の親の負担

リフォームでは、完成後の家に目が向きがちですが、工事中に親がどう暮らすかも、最初に考えておきたいポイントです。浴室を工事すればお風呂に入れない期間が出ますし、キッチンなら食事の準備がいつも通りできません。廊下や玄関なら、家の中の移動が不便になります。

リフォーム会社に相談するときは、「何日くらい使えなくなるのか」「その間、親はどこで過ごすのか」「家具や荷物をどこへ移すのか」まで確認しておくと安心です。

もう一つ大切なのが、片付けです。長く暮らした家には、家具や衣類、思い出の品がたくさんあります。工事のために荷物を動かすとき、子どもが「もう使わないだろう」と先に判断してしまうと、親にとって大切なものまで手放してしまうことがあります。親の持ち物を整理することと、親の家をリフォームすることは、別の問題です。何を残し、何を処分するのか。そこにも、親自身の意思があります。

私の実家では、耐震診断を受け、2階にあった重いものを家族で1階に降ろしました。

この章のまとめ

実家のリフォームは、全部を一度に決めなくてもかまいません。まずは、

  1. 今、親が一番困っていること
  2. 将来、気になっていること
  3. 小さな工事で改善できること

を分けて考えます。工事をすると決めたら、完成後だけでなく、片付けや工事中の親の生活まで考えます。

「全部直す」か「少しだけ直す」かを決める前に、親がこれからどう暮らしたいのかを聞く。実家をどうするかを決めるのは、子どもだけではありません。

次の一歩

第3章のチェックリストで親と一緒に歩いてみた方は、10項目の中から「親が一番困っている1か所」だけを選んでみましょう。「ここを直そう」と決める必要はありません。まずは、

「そこが少し楽になるとしたら、どんなふうになったらいい?」

と聞いてみる。その一言から、親の「これからどう暮らしたいか」が見えてくるかもしれません。


関連記事
自分の家についても、同じ問いを向けてみることができます。「今は困っていなくても、これから先もこの家で暮らせるだろうか」。私自身の家のリフォームについては、こちらの記事で詳しく書いています。
→ 「50代のリフォームは何から?終活で考える、長く住める家づくり」

第6章 お金と名義の話|補助金・税金・費用の記録

実家のリフォームを考えるとき、避けて通れないのがお金の話です。「費用は親が出すのか、子どもが出すのか」「親名義の家を子どもがリフォームしても問題ないのか」「補助金は使えるのか」。気になることはいくつもあります。

親にお金の話を切り出すのは、少し気が重いものです。家族だからこそ、聞きにくいこともあるでしょう。私の実家でも、耐震診断で耐震性に問題があると言われ、補強をしたほうがいいと説明されたとき、家の安全だけでなく、これからどうするのかを具体的に考える必要があると感じました。

大切なのは、費用をすぐに決めることではなく、家の名義とお金の流れを、家族で確認しておくことです。ここでは、制度の細かい内容ではなく、判断するために知っておきたい範囲を整理します。(2026年10月14日時点の情報です)

最初に確認したい「実家の名義」

工事の内容より先に、土地と建物の名義を確認しましょう。誰が所有しているかによって、契約、費用負担、将来の相続について考えることが変わるからです。

「親が建てた家だから、父の名義だろう」と思っていても、登記の内容と一致しているとは限りません。土地は父親、建物は母親の名義という場合や、亡くなった祖父母の名義のままという場合も考えられます。

名義は、法務局で取得できる「登記事項証明書」で確認できます。法務省の「不動産登記のABC」によると、登記所に請求書を出せば、だれでも交付を受けられます。確認したいのは次の点です。

  • 土地と建物の所有者は誰か
  • 共有名義になっていないか
  • 住宅ローンなどの抵当権が設定されていないか
  • リフォームの契約を誰が行うのか

名義が、亡くなった方のままの場合は相続登記の期限にも注意が必要です。法務省によると、令和6年4月1日から、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内の登記が義務になりました。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。令和6年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は令和9年3月31日までです。名義がどうなっているか分からないときは、まず登記事項証明書を取り、必要に応じて司法書士に相談しましょう。

また、所有者と工事を希望する人が違う場合は、契約や工事に所有者の確認・同意が必要になることがあります。介護保険の住宅改修でも、自治体の案内では、本人と所有者が異なる場合に所有者の承諾書が必要とされています。

「誰の家を、誰の判断で、誰のお金で直すのか」。この整理が、実家のリフォームの土台になります。

親が費用を負担する場合

親名義の家を親のお金で直すなら、まず、親が無理なく出せる予算を考えます。工事費だけでなく、工事後の生活費や、医療・介護に備えるお金も含めて考えることが大切です。

たとえば、浴室だけを直すのか、窓や脱衣所も含めて断熱するのかで、費用は変わります。複数の場所を直すなら、見積もりを取り、優先順位をつけます。工事を始めてから追加の修繕が必要になることもあるので、見積もりの範囲と、追加費用が出る条件も確認しておくと安心です。

家が安全で暮らしやすくなることと、親の老後の安心を守ること。その両方のバランスを、親の意向を聞きながら決めます。子どもが独断で予算を決めるのではなく、親自身が納得できる計画にすることが大切です。

子が費用を負担する場合

子どもが費用を負担するときは、税金の扱いに注意が必要です。

国税庁は、親名義の建物に子どもが増築した場合、増築部分は建物の所有者である親の所有物となり、親が対価を支払わないときは、増築資金相当額の利益を受けたものとして贈与税が課税されると説明しています。子どもが支払った増築資金に見合う持分を親から子どもへ移して共有にすれば、贈与税は課税されませんが、その持分の移転は譲渡にあたり、譲渡益があれば所得税(譲渡所得)の対象になるとも説明しています。

ただし、これは「増築」についての説明です。通常の修繕や設備の交換も同じ扱いになるのかは、この説明からは分かりません。実際の扱いは、工事の内容や資金の出し方で変わるので、契約前に税理士に相談しましょう。

きょうだいで費用を分担する場合は、誰がいくら負担するのかを、書面で残します。「今回は私が払っておくね」という口約束だけでは、あとで認識が食い違うことがあります。費用を出すことと、家の所有権を持つことは別の問題です。お金を出したからといって、自動的に名義が変わるわけではありません。

領収書・契約書を残しておく

見積書、契約書、領収書、工事前後の写真、補助金の書類、保証書は、まとめて保管しておきましょう。あとから家族が、費用や工事内容を確認するための大切な記録になるからです。きょうだいで分担した場合は、誰がいくら負担したかも記録します。保管場所は、親だけが知っている場所ではなく、必要なときに家族が確認できる場所にします。紙に加えて、写真やPDFで残す方法もあります。

家族が元気で話し合えるうちは、記録がなくても困らないかもしれません。けれど、年月がたち、状況が変わると、当時の経緯を知る人がいなくなることもあります。「誰が、いつ、何のために、いくら負担したのか」を残しておくことは、未来の家族への引き継ぎです。終活というと財産や相続の整理を思い浮かべますが、リフォームの記録を残すことも、家族が後から困らないための準備の一つです。

介護保険の住宅改修

対象になる工事は、第4章で触れたとおりです。ここでは、お金の面で押さえたい点だけ書きます。

  • 対象は、要支援・要介護の認定を受けた人です。認定を受けていない元気な親は対象外です
  • 原則として、工事の前に市町村へ申請が必要です(やむを得ない事情がある場合は、工事後の申請が認められることもあります)
  • 支給限度基準額は20万円で、要支援・要介護の区分にかかわらず定額です。このうち、原則9割(所得に応じて8割・7割)が支給されます

「先に工事をしてしまった」とならないよう、ケアマネジャーや市区町村の窓口に、事前に相談しましょう。

介護保険の住宅改修では、手すりの取り付けや段差の解消など、一定の条件を満たす工事に費用の一部が支給されます。

対象になる工事や費用の上限、申請の流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
→介護保険の住宅改修とは?対象工事・費用・申請方法を解説

住宅省エネ2026キャンペーン

窓の断熱や高効率給湯器を考えているなら、国の補助制度も確認しましょう。リフォームは、すべての世帯が対象です。実家で関係しそうなのは、次の3つの事業です。

押さえておきたいのは、次の点です。

  • 申請するのは工事施工者です。登録された住宅省エネ支援事業者が申請し、工事の発注者が自分で申請することはできません。申請できるのは工事の完了・引渡し以降で、補助金は施工者に交付され、工事代金への充当か現金で還元されます。契約前に、対象工事か、申請に対応している事業者かを確認しましょう
  • 期限があります。交付申請の予約は遅くとも2026年11月16日まで、申請は遅くとも2026年12月31日までです。予算の上限に達した時点で終了するので、それより早く終わる場合もあります
  • 実家の工事が来年以降になる場合は、2026年のキャンペーンは使えない見込みです。来年度以降の制度があるかは、今のところ分かりません。工事を決める時点で、公式サイトを確認しましょう
  • 親名義の家を子どもが発注して費用を出す場合の扱いは、各事業の公式サイトや事務局に確認しましょう

建て替えを考えている場合は、新築向けの区分になります。長期優良住宅とZEH水準住宅は、若者夫婦世帯または子育て世帯に限り、GX志向型住宅はすべての世帯が対象です。

予算に対する申請額の割合は、公式サイトで毎日公開されています。工事を検討する時点で、最新の情報を確認してください。

自治体の助成制度を確認する

国の補助とは別に、都道府県や市区町村が独自の住宅リフォーム支援を設けていることがあります。調べるのは、あなたの住まいではなく、実家のある自治体の制度です。公式サイトでは、住宅リフォーム推進協議会のサイトで、地域の支援制度を確認できるとされています。「自治体名+住宅リフォーム+補助金」で検索し、自治体の公式サイトでも確認しましょう。耐震診断や耐震改修の支援も、自治体によって異なります。

なお、国費が充当されている自治体の制度は、国のキャンペーンの各事業と併用できません。

この章のまとめ

実家のリフォームでは、工事内容だけでなく、お金と名義も整理しておくことが大切です。確認したいのは、次の5つです。

  1. 土地と建物の名義を確認する(亡くなった方の名義のままなら、相続登記の期限にも注意)
  2. 親が負担できる予算を考える
  3. 子どもが費用を負担する場合は、契約前に税金の扱いを確認する
  4. 契約書や領収書を残し、費用負担の記録を共有する
  5. 介護保険・補助金・自治体の助成について、対象と期限を確認する

すべてを一度に決める必要はありません。費用の話をするときは、金額だけでなく、親がこれからどう暮らしたいのかも大切にしたいところです。

次の一歩

今日できることは、実家の土地と建物の名義を確認することです。名義が分からなければ、親に「リフォームを考える前に、一度確認しておこうか」と声をかけてみてください。その話をきっかけに、費用のことや、これからの暮らしについても、少しずつ話せるようになるはずです。

自分の家のリフォーム費用と老後資金のバランスの考え方は、前の記事の1章にまとめています。
→ 「50代のリフォーム費用はいくら? 老後資金とのバランスの考え方」

第7章 リフォームする前に、きょうだいで「実家をどうするか」を話す

実家のリフォームを考えるときは、親との話し合いだけでなく、きょうだい(兄弟姉妹)にも早めに情報を共有しておきたいところです。今は意見が一致していても、誰が住むのか、費用をどうするのか、将来の実家をどうするのかが違えば、あとから考えが分かれることがあるからです。

特に、きょうだいがそれぞれ別の場所で暮らしていると、実家の見え方が変わります。近くに住む人は「まだ大丈夫」と感じ、遠くに住む人は久しぶりに実家を見て「かなり古くなっている」と感じるかもしれません。毎日見ていると気づかない変化もあれば、離れているからこそ心配になることもあります。どちらが正しい、という話ではありません。

この章で言いたいのは、子ども同士で決めることではないということです。親の希望を中心に置いたうえで、きょうだいが同じ情報を持っておく姿勢が大事です。親抜きで、子どもだけで先に結論を出さないようにします。

誰が住むのか

まず確認したいのは、「これから誰がこの家で暮らすのか」です。住む人が変われば、必要なリフォームも変わるからです。

今は親が暮らしていても、「これからも夫婦でこの家に住み続けたい」のか、「どちらか一人になっても、この家で暮らしたい」のかで、考えることは違ってきます。さらに、「将来は子どもが戻ってくるかもしれない」「親が住まなくなったあとは、どうするのか」まで考えると、方向性はまた変わります。

ただ、将来のことをすべて決める必要はありません。まずは、「今後しばらく、この家で誰が暮らす予定なのか」を家族で共有するだけで十分です。たとえば、親が1階中心の暮らしを望むなら、1階の浴室・トイレ・寝室を優先して考えられます。住む人が変わる可能性が高いなら、大規模なリフォームの前に、必要性をじっくり考えることもできます。

実家は「古いから直す」のではなく、これから誰が、どのように使う家なのかを考えてから直す。この順番を、家族で共有しておきます。

誰が費用を出すのか

費用は、工事を決める前に、「誰が、どのくらい負担するのか」をきょうだいで共有します。金額だけでなく、それぞれの考え方を知ることが、あとの行き違いを防ぎます。

形はさまざまです。親が全額負担する、親と子どもで分担する、きょうだいで分担する、一人が多めに負担する。難しいのは、きょうだいにも、それぞれの家庭の事情があることです。住んでいる場所も、収入も、きょうだい自身の子どもの教育費や住宅の事情も違います。「きょうだいだから半分ずつ」と、簡単には決められません。

だから、金額を先に決めるのではなく、「親のために、どこまでリフォームするのか」「今、何が必要なのか」「親自身は、いくらくらいまで負担したいのか」を共有してから話すほうが、納得しやすくなります。税金や名義の扱いは、第6章で触れたとおり、別に確認が必要です。ここでは、家族として、どこまで実家のために負担するのかを話しておく。それが、あとで「そんな話は聞いていない」となるのを防ぎます。

先にきょうだいに伝えておきたいこと

結論だけでなく、そこに至る材料を共有します。次の5つは、同じ情報を持っておきたいところです。

  • 親の希望:この家で、これからどう暮らしたいか
  • 家の状態:耐震性、老朽化、寒さ、段差など
  • リフォームの候補:どこを直す必要がありそうか
  • 費用:見積もりはいくらか
  • 今後の見通し:いつ、どこまで工事する予定か

特に、「親の希望や困りごと」と「子どもの意見」は分けて伝えます。たとえば、「親が階段を不安に感じている」のは親の困りごとで、「親には、1階だけで暮らしてほしい」というのは子どもの意見です。ここが混ざると、きょうだいの間で話が複雑になります。

耐震診断の結果や見積書は、人づてではなく、書類や写真のまま共有します。「私はこう思う」だけでなく、「今、実家はこういう状態」という事実を共有すれば、きょうだいがそれぞれ別の情報で判断することを防げます。

私の実家では、耐震診断の結果を家族そろって同時に共有するタイミングがありませんでした。そのため受け止め方に差が出ることも感じました。

そんなギャップを減らすために、次の2つも決めておくと、行き違いが減ります。

  • 連絡役を決める。情報の窓口があると、バラバラに伝わりにくくなります。ただし、最終的に決める人とは分け、一人に負担が集中しないようにします
  • 話し合ったことを、短くメモに残す。第6章の「記録を残す」と同じ考え方です

遠方のきょうだいの関わり方

遠方に住むきょうだいも、現地に行けないからといって、関われないわけではありません。写真や動画、見積書を共有すれば、実家の状況を一緒に確認できます。

離れて暮らしていると、「実際に見ていないから、口を出しにくい」と感じる人もいます。反対に、近くに住むきょうだいは、「何も見ていないのに反対された」と感じることもあります。これでは、どちらにとっても苦しい話し合いになってしまいます。

そこで、家族LINEなどを使って、まず情報を共有してみます。たとえば、次のように、事実を短く伝えます。

「この前、実家の耐震診断を受けて、こういう結果だったよ」

「浴室のリフォームを考えていて、見積もりはこのくらい」

写真や動画があれば、家の状態も伝わりやすくなります。LINEだけですべてを決める必要はありません。大切なのは、遠方のきょうだいも、同じ情報を見ながら考えられる状態をつくることです。誰か一人が実家のことを抱え込まず、情報を共有しておく。そして、最終的にどうするかを考えるときは、親が何を望んでいるのかを中心に置く。これなら、遠くにいても、家族の一員として話し合いに参加できます。

「きょうだいで意見が違う」のは悪いことではない

実家のリフォームについて、きょうだいの意見が一致しないのは、珍しいことではありません。大切なのは、無理に一つにすることではなく、なぜそう考えるのかを共有することです。

たとえば、「早く耐震工事をしたほうがいい」という人と、「大きな工事はもう少し待ったほうがいい」という人がいたとします。正反対の意見に見えますが、話を聞くと、「親の安全が心配だから、早くしたい」「親の負担や費用を考えると、急いで決めたくない」という、それぞれの心配から出た意見かもしれません。どちらも、親や実家のことを考えているからこその意見です。

私は、実家のことを考える中で、「誰が正しいか」を決めようとすると、話し合いが難しくなると感じました。それよりも、「どんなところが気になっているの?」と聞いてみる。理由がわかると、折り合える部分が見つかることがあります。

私の実家でも、「早く何とかしたい」という考えと、「今のままのほうが便利」という考えがありました。話し合う中で、すぐに結論を出さず、「1年後を目安に考える」というところで折り合いました。

そして、もう一つ大切なのが、親の希望をきょうだいの意見より先に置くことです。子どもたちは、それぞれの生活や将来を考えながら、実家を見ています。だからこそ、子ども同士で「この家はこうする」と決めてしまうのではなく、親本人の希望を確認する。それが、実家のリフォームをきっかけに家族がもめないための、大きなポイントになると感じています。

この章のまとめ

実家のリフォームを考えるときは、工事の内容だけでなく、きょうだいで次のことを共有しておきましょう。

  1. これから誰が実家で暮らすのか
  2. 費用をどう考えるのか
  3. 親は何を希望しているのか
  4. 今の実家は、どんな状態なのか
  5. どこをリフォームする候補なのか
  6. これから、どうする予定なのか

特に大切なのは、結論ではなく、情報を共有することです。「リフォームすることになったから」と伝えるのではなく、「親はこう考えている」「家は今こういう状態」「見積もりはこのくらい」と、そこに至る材料を見せる。そうすれば、遠方のきょうだいも含めて、同じところから話を始められます。

そして、意見が違っても、それだけで失敗ではありません。きょうだいには、それぞれの生活があります。「みんな同じ意見にする」より、「違う意見があることを前提に話しておく」ことのほうが大切です。

次の一歩

まずは、家族LINEなどに、実家について今わかっていることを一つだけ共有してみてください。

「実家のリフォームを考えているんだけど、まず家の状態をみんなで共有しておきたいと思ってる」

このくらいで十分です。工事の内容も、費用の分担も、まだ決めなくていい。まずは「実家のこれからを、一緒に考えたい」と伝えるところから。それが、きょうだいで実家の話を始める、最初の一歩になります。

きょうだいでどう話し合えばもめにくいか、という問題は、リフォームだけに限りません。親の介護や相続など、これから家族で考えることが増えていく中でも大切になるテーマです。
→ 関連記事:親の終活で兄弟がもめないために|50代からできること

第8章 リフォームだけが答えではない|実家をどうするか考える

実家の古さが気になり始めると、「リフォームしたほうがいい」と考えるのは自然なことです。

寒い。段差がある。耐震性も心配。玄関の鍵も古い。気になるところを挙げれば、きりがありません。

けれど、ここまで考えてくると、私はもう一つの問いから逃げられなくなりました。

「そもそも、この家をこれからどうするのが、親にとって一番いいのだろう?」

実家には、「住み続けるために直す」以外にも、最小限の修繕で維持する、建て替える、住み替える、売却や賃貸を考える、今は何もしない、といった選択肢があります。大切なのは、「リフォームするか、しないか」を先に決めることではありません。親の希望、家の状態、そして費用。この3つを並べて、「これからどう暮らすのがいいのか」を考えることです。

リフォームして住み続ける

親が「この家でこれからも暮らしたい」と考えていて、家の状態も大きな問題がなければ、リフォームして住み続ける方法があります。

長年暮らしてきた家には、建物としての価値だけではないものがあります。近所との付き合い、通い慣れた病院や買い物先、庭や畑、家の中の思い出の品。子どもから見て古い家でも、親にとっては「できれば離れたくない家」かもしれません。

浴室やトイレ、玄関、段差、寒さなど、暮らしの中で困っている場所を優先して直す方法もあります。すべてを新しくする必要はありません。親がこれからも暮らしたい家なら、その希望を中心に、必要なところから整えていく。これが、実家リフォームの基本的な選択肢です。

最小限の修繕で維持する

家全体を直す必要がなければ、壊れたところや危険なところだけを直しながら暮らす方法もあります。たとえば、壊れた設備の交換、手すり、照明、小さな段差の解消、水漏れの修理などです。特に高齢になってから大規模な工事をすると、工事中の生活が負担になることもあります。親が「大きく変えたくない」と感じているなら、必要以上に変えないことも一つの選択です。

ただし、耐震性など建物の安全に関わる問題が指摘されている場合は、「壊れたところだけ直す」では十分ではありません。診断の結果を確認し、専門家に相談して、何を優先するかを整理する必要があります。小さく直すことと、問題を先送りすることは別です。

建て替える

老朽化が進み、修繕を重ねるより建て替えたほうが暮らしやすい場合には、建て替えも選択肢になります。耐震性、間取り、断熱性、設備など、複数の問題を一度に解決したいときです。

ただし、建て替えはリフォームより大きな決断です。費用だけでなく、工事中の住まい、長年暮らした家を取り壊すことを親がどう感じるか、名義や登記、税金の扱いも考える必要があります。補助金も、第6章で触れたとおり、新築向けの区分になり、条件が変わります。

私の実家でも、耐震診断で耐震性に問題があると言われ、補強をしたほうがいいと説明されました。そこから「補強でいいのか、この際、建て替えたほうがいいのか」という話も出てきて、まだ決まっていません。私は安全面を考えると、いろいろ直したほうがいいという気持ちになっていました。でも、親にとっては、長年暮らしてきた家を大きく変えること自体が、簡単な話ではありません。「建て替えたほうがいい家なのか」ではなく、「親はどんな暮らしを望んでいるのか」。建物の状態と親の気持ち、その両方を見ながら考えたいと思っています。

住み替える

今の実家で暮らし続けることが難しくなったら、別の家へ住み替える選択肢もあります。「階段が多くて暮らしにくい」「病院や買い物に行きにくい」「家の維持管理が大変になってきた」といった場合です。親が暮らしやすい場所や、子どもの近くへ移るほうが合うこともあります。

ただし、住み替えは家だけの問題ではありません。長年暮らした地域を離れ、近所の人との付き合いや行きつけの病院、買い物のしやすさも変わります。子どもが「駅の近くのマンションのほうが便利」「段差のない家のほうが安心」と思っても、親は「今の家にいたい」と考えているかもしれません。何より、親本人がどう感じているか。便利さだけでなく、親がこれからどこで、どんなふうに暮らしたいのかを聞くことから始まります。

売却・賃貸を考える

親が実家に住み続けないことが決まった場合は、売却や賃貸など、家を手放す・活用する方法もあります。たとえば、親が別の場所へ住み替えたあと、空き家になることが明らかな場合です。誰も住まない家を維持するには、固定資産税や修繕、庭の手入れなどの負担がかかります。売却するのか、賃貸にするのか、しばらく保有するのかで、その後の管理や手続きも変わります。

「親があと10年ここで暮らしたい」場合と、「数年後には誰も住まなくなる」場合では、数百万円をかけて大規模なリフォームをする意味も変わってきます。だから、リフォーム会社に相談する前に、この家を今後どう使うのかを、家族で考えておくことが大切です。

売却や賃貸の判断は、家の所有者である親の意思が前提になります。判断能力が低下すると、不動産の売却や契約が難しくなることもあるので、親が元気なうちに希望を聞いておく意味があります。税金や不動産、法律の専門的な確認も必要です。「リフォームしない=何もしない」ではなく、家をどうするかという、別の選択が始まります。

私自身は、実家のある場所を残したい気持ちがあります。ただ、それは子どもである私の希望で、親の希望とは別のものです。親自身も私たち子どもに対して「残してほしい」という気持ちを持っているのではないか、と漠然と考えていますが、最近になり、実際に話しあって確かめることが大事だと考えるようになりました。

リフォームせずに貸す「DIY型賃貸借」という方法もある

実家を賃貸に出す場合、貸し出す前に家全体をきれいにリフォームしなければならない、というわけではありません。選択肢の一つに、借主の希望に応じて改修できる「DIY型賃貸借」があります。

DIY型賃貸借とは、貸主と借主が合意したうえで、借主が自分の希望に合わせて住宅を改修できる賃貸借の形です。ここでいうDIY工事には、借主自身が作業する場合だけでなく、専門業者に依頼して行う工事も含まれます。

たとえば、借主が自分の好みに合わせて壁紙を張り替えたり、棚を設置したりするケースが考えられます。一般的な賃貸住宅では、貸主が入居前に必要な修繕を行うことがあります。一方、DIY型賃貸借では、貸主が大規模な改修を行わずに貸し出し、借主が費用を負担して希望する改修を行う形もあります。

そのため、実家を貸したいけれど、先に多額のリフォーム費用をかけるのは難しいという場合に、検討できる方法の一つです。ただし、DIY型賃貸借なら、どんな古い家でもそのまま貸せるというわけではありません。 建物の安全性や設備の状態を確認し、借主が安心して暮らせる状態かどうかを見極める必要があります。

また、貸主と借主の間で、どこまで改修できるのか、工事費用は誰が負担するのか、退去するときに元に戻す必要があるのかなどを、事前に取り決めておくことも重要です。

詳しくは、国土交通省の「DIY型賃貸借に関する契約書式例及びガイドブック」で確認できます。

何もしないという選択

実家の状態に大きな問題がなく、親も今の暮らしに困っていないなら、すぐにはリフォームしない選択もあります。家が古いことと、今すぐ工事が必要なことは同じではありません。親が不便を感じていない、安全上の大きな問題も確認されていない、費用をかけてまで変えたい場所もない。そうであれば、今は様子を見る判断もできます。

ただし繰り返しになりますが、耐震診断などで安全上の問題が指摘されている場合は、この選択は当てはまりません。また、「何もしない」と決めても、話を終わらせてよいものでもありません。半年後や1年後に、もう一度、家の状態や親の暮らしを確認します。

「最近、階段はどう?」
「お風呂は寒くない?」
「この家で、これからどんなふうに暮らしたい?」

そんなふうに、ときどき話すだけでもいいのです。

「どれが正解?」ではなく、3つを並べて考える

迷ったときは、「リフォームが正解か」を考えるより、親の希望・家の状態・費用の3つを並べると整理しやすくなります。親の希望は「この家でどう暮らしたいか」、家の状態は「耐震性、老朽化、寒さ、段差に問題はないか」、費用は「どこまでかけられるか」です。そのうえで、選択肢を並べます。

選択肢向いているケースの例
リフォーム親が住み続けたい、改善したい場所がある
最小限の修繕大きな変更は不要、必要な部分だけ直したい
建て替え建物の問題が大きく、全面的に見直したい
住み替え今の家より、別の住まいのほうが暮らしやすい
売却・賃貸親が住まなくなり、家を別の形で活用したい
何もしない今すぐ大きな対応が必要ではない(安全上の問題がない場合)

実際には、一つだけを選ぶとは限りません。「まずは最小限の修繕をして、数年後にもう一度考える」「浴室だけリフォームして、ほかの場所は様子を見る」という方法もあります。大切なのは、最初から一つの答えに決めつけないことです。

そして、ここまで考えると、「実家をリフォームする」という話が、実は「親のこれからの暮らしをどうするか」という話につながっていることに気づきます。

親が住まなくなったあとの実家まで考えるなら、実家じまいについても、早めに家族で話しておく意味があります。
→ 「実家をどうする?50代から始める親の終活|実家じまいだけじゃない家族の話し合い」

また、認知症などで、将来、親自身が財産や契約について判断することが難しくなったときに備えるなら、家族信託や成年後見制度についても、知っておくと安心です。
→ 「親の終活で家族信託は必要?50代の子が知っておきたいこと」
→ 「親の終活と成年後見制度 50代の子が知っておきたいこと」

ただし、これらは「今すぐ利用する」という話ではありません。家をどうするかを考える中で、将来必要になるかもしれない選択肢を知っておく。その程度から始めれば十分です。

この章のまとめ

実家が古くなってきたからといって、必ずリフォームしなければならないわけではありません。選択肢には、リフォームして住み続ける、必要なところだけ修繕する、建て替える、住み替える、売却・賃貸を考える、今は何もしない、があります。どれが正解かは、家によって違います。同じ家でも、親の年齢や健康状態、家族の事情が変われば、答えも変わります。

だからこそ、親の希望 × 家の状態 × 費用の3つを並べて考える。そして、「せっかくリフォームするなら、全部きれいにしたい」という子どもの気持ちだけで決めるのではなく、「親はこの家で、これからどう暮らしたいのか」を中心に置く。それが見えてくれば、リフォームするかどうかも、少しずつ見えてきます。

次の一歩

紙を一枚用意して、まず3つだけ書いてみてください。

① 親の希望:親は、この家で、これからどう暮らしたいと言っているか(まだ聞けていなければ、「聞く」と書いてかまいません)
② 家の状態:今、直さなければ困るところ、診断で指摘されたことはあるか
③ 費用:家に、どこまでお金をかけられるか

まだ答えが出なくても大丈夫です。3つを書き並べるだけで、「リフォームしなければ」という一つの方向から少し離れて、家族にとっての選択肢が見えてきます。

そして、親が「この家で暮らし続けたい」と望んでいるなら、次は「誰に相談し、どんな業者に頼むのか」を考える段階です。反対に、家を手放す可能性が出てきたなら、リフォームとは別に、「実家をどうするか」という話を家族で始めることになります。

実家のこれからは、家そのものだけで決まるものではありません。そこに住む親が、これからどんな人生を送りたいのか。その答えを探すことから始めていいのです。

第9章 進めるときの相談先と、業者の選び方

実家のリフォームを考え始めても、「まず、どこに相談すればいいのだろう」と迷うことがあります。リフォーム会社に連絡すればいいのか、先に建築士などの専門家に相談したほうがいいのか。

高齢の親が暮らす実家では、古くなった設備を新しくするだけでなく、耐震性や段差、寒さ、防犯など、気になることがいくつも出てきます。私の実家でも、耐震診断で耐震性に問題があると言われ、補強をしたほうがいいと説明されたとき、家の状態を専門家に確認してもらうことの大切さを実感しました。

一方で、家の状態を確認することと、どこまで工事をするかを決めることは別の問題です。実家のリフォームは、最初から業者を決める必要はありません。まずは、困っていることに合った相談先を選び、必要な情報を集めるところから始めましょう。

最初の相談先は、困っていることに合わせて選ぶ

相談先相談できること
地域包括支援センター高齢の親の生活、介護予防、介護サービスなどの相談。要支援の親の介護予防のケアプランも、ここが担当する
ケアマネジャー要介護認定を受けている親の生活上の課題や、住宅改修の相談
自治体の高齢者福祉窓口地域の高齢者向け支援制度や、相談窓口の案内
自治体の耐震相談窓口耐震診断や耐震改修の相談、支援制度の案内
建築士・耐震診断の専門家建物の安全性、耐震性、間取りや改修方法の相談
住まいるダイヤル一級建築士等の相談員による無料相談(通話料は有料)、リフォーム見積書の事前チェック
リフォーム事業者工事内容、見積もり、施工期間、保証などの相談
消費生活センター(消費者ホットライン188)契約でトラブルになったとき、不安なとき

地域包括支援センターは、市町村が設置主体となる高齢者の総合相談窓口です。さまざまな相談を受け止め、必要に応じて、適切な機関や制度、サービスにつないでくれます。運営を市町村から委託された法人が行っている場合もあります。親の生活に不便が出てきた、家の中で転びそうで心配、将来の介護も考えて住まいを整えたい、というときに、相談先の一つになります。

耐震性や建物の劣化が心配なら、リフォーム会社の見積もりだけで判断せず、建築士などの専門家に建物の状態を確認してもらうことも検討しましょう。診断結果に不安を感じたときは、自治体の耐震相談窓口に相談したり、別の専門家にも見てもらったりする方法があります。国土交通省は、耐震診断などを口実にした悪質な工事契約にも注意するよう呼びかけ、地方公共団体の窓口への相談を勧めています。

浴室を暖かくしたい、玄関の段差を解消したい、手すりを取り付けたいなど、工事したい場所がある程度決まっているなら、リフォーム事業者への相談が選択肢になります。ただ、最初の見積もりだけで決める必要はありません。まずは、親が困っていることと家の状態を伝えて、どのような工事が必要なのかを説明してもらいましょう。

見積もりは複数取り、価格以外も比較する

可能であれば、複数の事業者から見積もりを取り、工事内容を比較します。同じ場所を直す工事でも、提案される内容や費用、工期が異なることがあるからです。ただし、見積もりは金額だけを比べればよいわけではありません。確認したいのは、次の点です。

  • 工事内容:どこを、どのように直すのか
  • 必要性:なぜその工事が必要なのか
  • 費用:工事費に何が含まれているのか
  • 施工期間:何日かかり、その間の生活にどんな影響があるのか
  • 保証:工事後の不具合に、どう対応してもらえるのか
  • 補助金:利用できる制度はあるか、申請に対応しているか
  • 追加費用:工事中に問題が見つかった場合、どう対応するのか

たとえば浴室のリフォームで、A社は浴室の設備交換を提案し、B社は脱衣所の寒さの改善案も出してきたとします。この場合は、単純に安いほうを選ぶのではなく、親が困っていることを解決できる内容かどうかを比べます。希望していない工事まで含まれているなら、なぜ必要なのかを確認してもよいでしょう。

請負契約書と、内訳が明確な見積書を出してもらうことも大切です。耐震補強のような専門的な判断が必要な工事では、価格だけでなく、診断結果や工事の根拠、施工体制も確認しましょう。事業者を探す手がかりとして、国土交通省が創設した「住宅リフォーム事業者団体登録制度」もあります。ただし、登録されていることだけで、優良だとは言い切れません。

訪問販売・点検商法に注意する

突然訪問してきた業者から点検や工事を勧められても、その場で契約しないことが大切です。特に高齢の親が一人で暮らしていると、家の不具合を指摘されて不安になり、急いで対応しなければと感じることがあります。

「近くで工事をしていたら、お宅の屋根が気になりました」
「このままでは雨漏りします」
「今すぐ直さないと危険です」

こう言われたら、心配になるのも無理はありません。しかし、業者の説明だけで、工事が本当に必要だと判断するのは避けたいところです。消費者庁と国土交通省も、突然訪問して無料の診断を持ちかけ、不安をあおってその場の契約を勧める業者に注意するよう呼びかけています。

気になることを指摘されたときは、次のように対応しましょう。

  • その場で契約しない
  • 点検結果や、工事が必要な理由を書面で確認する
  • 家族や、信頼できる専門家に相談する
  • 必要に応じて、別の専門家にも確認してもらう

訪問販売で契約してしまった場合でも、契約書面を受け取った日から原則8日以内であれば、クーリング・オフができます。通知は、書面や電子メールなどで、日付がわかる方法(特定記録郵便や簡易書留など)で送り、控えと受取証を保管します。取引の形態や契約内容によって扱いが異なるため、早めに相談することが大切です。困ったときは、消費者ホットライン「188(いやや)」に電話すると、最寄りの消費生活センターなどにつながります。

親が「もう契約してしまった」と話してきても、責める必要はありません。まずは契約書などを確認し、相談窓口につなぐことを考えましょう。

契約前に「親が子に相談するルール」を決める

親が業者から工事を勧められたとき、契約する前に子どもへ相談する。そんなルールを、家族で決めておくと安心です。これは、親の判断を子どもがすべて管理するという意味ではありません。親が自分で決められることは、もちろん親自身が決めてよいのです。ただ、住宅の工事は費用が大きくなりやすく、専門的な説明も多いため、慣れていない人がその場で判断するのは簡単ではありません。

たとえば、こんなルールです。

「業者から工事を勧められても、その場では契約せず、一度家族に相談する」
「不安なことを言われたら、契約する前に家族や専門家に確認する」

大切なのは、親が自分で判断できないから相談するのではなく、大きな決断をするときに、安心して相談できる相手がいる状態をつくることです。「勝手に契約しないで」と言うと、責められているように感じるかもしれません。それよりも、「大きな工事の話があったら、一緒に考えたいから教えてね」という伝え方のほうが、相談しやすくなります。

電話のそばに、家族の連絡先と、消費者ホットライン188、住まいるダイヤルを書いたメモを置いておく方法もあります。もちろん、緊急性の高い不具合があるときは、放置せず専門家に対応を相談する必要があります。それでも、説明を聞き、必要性や対応方法を確認することはできます。

親の自由を奪うルールではなく、親が安心して判断するためのルール。そんな形で、家族の中に取り入れてみてはいかがでしょうか。

一括見積もりサービスを利用する場合

複数のリフォーム事業者を探す方法の一つに、一括見積もりサービスがあります。サービスによっては、希望する工事内容や住宅の情報を一度入力すると、複数の事業者に見積もりを依頼できます。一社ずつ問い合わせる手間を減らしたいときには、選択肢の一つになります。

ただし、サービスに登録されていることだけで、その事業者が優良だとは判断できません。サービスごとに、事業者の審査方法や紹介の仕組み、対応エリアなどが違います。利用する前に、次の点を確認しましょう。

  • どのような基準で事業者を紹介しているか
  • 対応エリアに実家が含まれているか
  • どのくらいの事業者から連絡が来るか
  • 個人情報がどのように取り扱われるか
  • 紹介後に断ることができるか
  • 相談や見積もりに費用がかかるか

見積もりを受け取ったあとも、工事内容や保証、追加費用などは、自分たちで比較する必要があります。特に実家の場合は、親本人が工事内容を理解し、納得できるかどうかも重要です。子どもが代わりに業者を探す場合でも、親の希望を確認しながら進めましょう。一括見積もりサービスは、業者探しを効率化するための手段です。利用すること自体を目的にせず、親に合った工事を見つけるために使います。

この章のまとめ

実家のリフォームは、いきなり業者に電話して工事を決める必要はありません。まずは、相談したい内容に合った窓口を選び、家の状態や親の希望を整理するところから始めましょう。業者を選ぶときは、価格だけでなく、工事内容や必要性、保証、工期、追加費用を比べます。そして、突然の訪問や勧誘で親が不安になったときにも、一人で判断しなくてよい仕組みをつくっておきましょう。

「大きな工事は、その場で契約せず、家族に相談してから決める」。そんな小さなルールが、親の安心につながります。

複数のリフォーム会社から見積もりを取りたいときは

実家のリフォームを具体的に進めることになったら、複数の会社から見積もりを取って、工事内容や費用を比較してみましょう。

一社だけでは、提示された工事が本当に必要なのか、費用が妥当なのか、判断しにくいこともあります。複数の提案を比べることで、親の希望に合った工事を考える材料が増えます。

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リフォーム比較プロは、複数のリフォーム会社への見積もり依頼をサポートするサービスです。利用する際は、実家の所在地が対応エリアに含まれているか、紹介の仕組みや利用条件を公式サイトで確認してください。

見積もりを取ることは、工事を決めることではありません。親の希望を大切にしながら、工事内容や費用を比較し、納得できる方法を考えていきましょう。

次の一歩

今日できることは、親と「リフォームの話が出たら、契約する前に一度相談しよう」と話しておくことです。まだ業者を探す段階でなくても構いません。実家のこれからを家族で考え、親が安心して判断できる環境を整えること。それも、リフォームを進めるうえでの大切な準備です。

第10章 「実家のリフォーム」を考えることも、親の終活の一つ

ここまで、実家のリフォームについて考えてきました。どこを直すのか。いくらかかるのか。誰が費用を負担するのか。きょうだいで、どう話し合うのか。さらに、建て替えや住み替え、売却、賃貸という選択肢も見てきました。

最初は「古くなった実家を、どうリフォームするか」という話だったはずなのに、いつの間にか、別のことを考えている自分に気づきます。

「親は、これからどこで、どんなふうに暮らしたいのだろう」

私が実家のことを考える中で行き着いたのは、そこでした。実家のリフォームは、単に家を新しくする話ではありません。親のこれからの暮らしを考えることでもあります。そして私は、それも親の終活の一つなのではないか、と考えるようになりました。

終活は財産や葬儀だけではない

終活というと、財産整理や相続、葬儀、お墓のことを思い浮かべる人が多いでしょう。もちろん、どれも大切なテーマです。一方で、「これからどこで暮らしたいのか」「今の家に住み続けたいのか」「どんな状態なら安心して暮らせるのか」も、親のこれからを考えるうえで大切なテーマです。

国土交通省の住生活基本計画(全国計画)でも、2050年に目指す住生活の姿として、住宅の所有者が、事業者や専門家、行政の支援を受けながら、自発的に、住宅の維持管理、リフォーム、売却・除却も含めた「住まいの終活」と適切な相続を行うことが挙げられています。

浴室が寒い。玄関の段差が気になる。階段を上るのが大変になってきた。家の中が暗い。こうしたことは、単なる「家の修理」の話ではなく、「その家で、これからも暮らしていけるのか」「親は、そこで暮らし続けたいのか」という問いにつながっています。ただし、耐震性のように安全に関わることは、暮らしの希望とは別に、確認が必要です。

「どこで、どう暮らしたいか」を考える

親の終活で大切なのは、「何を残すか」だけでなく、「これからどう暮らしたいか」を考えることです。

親が「できるだけ今の家で暮らしたい」と思っているなら、そのために必要なところを、少しずつ整えていく方法があります。一方で、「もう大きな家を維持するのは大変」「駅や病院の近くで暮らしたい」という希望なら、リフォームではなく、住み替えが合っているかもしれません。親が住まなくなったあとも、家を残したいのか、売却したいのか、賃貸などで活用したいのか。そこまで考えると、実家の問題は「家をどうするか」だけではなく、親がどんな人生をこれから送りたいのかという話になっていきます。

ここで、子どもの立場から気をつけたいことがあります。

「この家は古いから、直したほうがいい」
「将来、子どもが使えるようにしておこう」
「売らずに残してほしい」

どれも、子ども側の気持ちです。私自身、実家のある場所を残したいという気持ちがあります。でも、それはあくまで私自身の希望です。親も同じように「残してほしい」と思っているのではないか、と私はどこかで考えていました。けれど、実際に親に確認したわけではありません。

このことに気づいてから、「親もきっとこう思っている」と決めつけるのではなく、実際に話して確かめることが大切だと感じるようになりました。

家を整えることは、これからの暮らしを整えること

実家のことを考え始めたきっかけは、一つではありません。耐震診断で、耐震性に問題があると言われたこと。年末年始の帰省で、廊下の冷たさに驚いたこと。考えるうちに、親の間でも、きょうだいの間でも、そして私自身にも、家への思いや事情が違うことに気づきました。

子どもがそれぞれの立場から、「実家をどうするか」を決め始めたら、家族でもめるかもしれません。だからこそ、親が元気で、自分の希望を伝えられるうちに聞いておく。リフォームするかどうかを決める前に、その話をする。それが、実家のリフォームを考える中で見つけた、もう一つの意味でした。

本音を言えば、私は、親に決めておいてほしいと思っています。子ども同士で決めると、もめるかもしれないからです。でも、それは親に決めさせたいということではなく、親が自分の言葉で希望を残してくれることが、家族の安心になる、ということです。

そして、これは自分の家について考えたときも、同じでした。以前、自分の家のリフォームを考えたときも、きっかけは「家をきれいにしたい」ではありませんでした。

10年後も今住んでいる家で暮らしたいだろうか。

という問いから始まりました。親の家も、自分の家も、考える出発点は同じです。「これから、どう暮らしたいか」。そこから家のことを考えていく。

自分の家のリフォームへの思いは、こちらの記事に書いています。
→ 「50代のリフォームは何から? 終活で考える、長く住める家づくり」

この章のまとめ

実家のリフォームを考えることは、単に古くなった家を直すことではありません。その家で暮らす親が、「これからどこで、どう暮らしたいのか」を考えるきっかけにもなります。だから、終活を「財産や相続、葬儀の準備」だけに限る必要はありません。住まいも、これからの人生を支える大切なものです。

リフォームするのか、修繕にとどめるのか、建て替えるのか、住み替えるのか、売却や賃貸にするのか、今は何もしないのか。どの選択肢を選ぶにしても、まず確認したいのは、親自身の希望です。

そして、親の希望を聞くことは、子どもが親の人生を決めることではありません。むしろ、親が自分のこれからを自分で考えるための時間を、一緒につくることなのです。

次の一歩

住まいのことを家族で少しでも話せたら、次は、親のこれからについて、もう一つ話してみてください。たとえば、介護のこと、医療のこと、困ったときに相談できる人のことです。どれも、「何かあったときのため」というより、「親がこれからも安心して暮らすため」の話です。

→ 「親の終活の切り出し方|50代が親を傷つけずに話すコツ」
→ 「親の終活と介護|50代の子が今から考えたいこと」
→ 「親の終活、医療のことを聞けていますか?50代の子が今できること」

家を整えることは、人生を整えること。そんな視点で、もう一度、自分の家と実家を眺めてみてはいかがでしょうか。

Q&A|実家のリフォームでよくある疑問

実家のリフォームについて調べ始めると、費用や税金、親の意向、きょうだいとの話し合いなど、さまざまな疑問が出てきます。ここでは、よくある疑問に、一つずつ答えます。

Q1. 実家のリフォーム費用は、親と子のどちらが払う?

親が負担する場合も、子が負担する場合も、分担する場合もあります。決まった正解はないので、工事の前に、誰がいくら負担するのかを家族で整理しておくことが大切です。

親が住み続けるためのリフォームなら、親自身が負担するのが一つの考え方です。親の資金だけでは難しいときは、子が一部を負担することもあります。その場合は、親への援助なのか、将来の相続を見すえた負担なのか、家族の認識をそろえておきましょう。きょうだいで分担するなら、負担額や役割が違ってもかまいません。大切なのは、合意して、記録に残しておくことです。

親名義の家でも、子が費用を出して工事を依頼することは考えられます。その場合は、誰が契約するのか、誰が費用を払うのか、工事後の家は誰のものか、を事前に確認します。

→ 詳しくは、「お金と名義の話(第6章)」と「きょうだいで『実家をどうするか』を話す(第7章)」で解説しています。

Q2. 子どもが費用を払うと、贈与税がかかる?

必ずかかるとは限りませんが、工事の内容や家の所有関係によって扱いが変わるため、個別の確認が必要です。

国税庁は、親名義の建物に子どもが増築した場合、増築部分は建物の所有者である親の所有物となり、親が子どもに対価を支払わないときは、増築資金相当額の利益を受けたものとして贈与税が課税される、と説明しています。子どもが負担した資金に見合う持分を親から子どもへ移して共有にすれば、贈与税は課税されませんが、その持分の移転は譲渡にあたり、譲渡益があれば所得税(譲渡所得)の対象になる、ともしています。

ただし、これは「増築」についての説明です。通常の修繕や設備の交換も同じ扱いになるのかは、この説明からは分かりません。「親の家だから」「親子のお金だから」という理由だけで、課税される、されないと決めつけず、契約の前に税理士に相談しましょう。

参考:国税庁「親名義の建物に子供が増築したとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4557.htm

※税務上の判断は、個別の事情によって異なります。

Q3. 補助金は誰が申請する?いつまで使える?

国の「住宅省エネ2026キャンペーン」では、申請するのは、登録された住宅省エネ支援事業者(工事施工者)で、工事を発注した人が自分で申請することはできません。申請できるのは工事の完了・引渡し以降で、補助金は施工者に交付され、工事代金への充当か現金で還元されます。

期限は、交付申請の予約が遅くとも2026年11月16日まで、交付申請が遅くとも2026年12月31日までです。予算の上限に達した時点で終了するので、それより早く終わることもあります。工事が来年以降になる場合は、今年のキャンペーンは使えない見込みで、来年度以降の制度があるかは、今のところ分かりません。親名義の家を子どもが発注して費用を出す場合の扱いは、各事業の公式サイトで確認しましょう。

参考:住宅省エネ2026キャンペーン【公式】
https://jutaku-shoene2026.mlit.go.jp/about/reform.html

Q4. 親がまだ介護認定を受けていなくても、住宅改修はできる?

介護保険を使った住宅改修には、要支援・要介護の認定が必要です。ただ、介護保険を使わずに、自費でリフォームすることはできます。

介護保険の住宅改修は、手すりの取付け、段差の解消、滑りの防止などのための床材の変更、引き戸などへの扉の取替え、洋式便器などへの便器の取替えといった、対象の種類が決まっています。原則として、工事の前に市町村へ申請が必要です。支給限度基準額は、要支援・要介護の区分にかかわらず生涯20万円で、保険給付は原則9割、所得に応じて8割・7割です。

まだ認定を受けていない親でも、将来に備えてリフォームすることはできますが、その工事に介護保険が使えるかどうかは別の問題です。まずは、自治体の介護保険の窓口や、地域包括支援センターに相談しましょう。

参考:厚生労働省「介護保険における住宅改修」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001016043.pdf

Q5. 親が認知症になった後でも、実家をリフォームできる?

状況によっては、進められます。ただし、本人の判断能力や、契約・費用の管理について、確認が必要です。

厚生労働省の意思決定支援ガイドラインは、認知症の症状にかかわらず、本人には意思があり、意思決定能力を有することを前提に支援する、としています。意思決定能力は、説明を理解する力、自分のこととして認識する力、論理的に考える力、選択を表明できる力で構成され、「あるか、ないか」の二択ではなく、段階的に変化することもあるとされています。つまり、認知症と診断されたからといって、すべての契約や判断ができなくなるわけではありません。

一方、本人が契約の内容を理解して判断することが難しい場合は、誰が契約できるのか、本人の財産から費用を支払えるのかを、慎重に確認する必要があります。家族だからといって、親の財産を自由に使ったり、親に代わって契約したりできるとは限りません。成年後見制度などの手続きが必要になることもあるので、司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。

このガイドラインは、本人が自ら意思決定できる早期の段階で、意思を確認し、できる限り具体的に記録として残しておくことも考えられる、としています。親が自分の希望を伝えられるうちに、これからの暮らしや住まいについて話しておくことには、意味があります。

参考:厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001484891.pdf

関連記事:「親の終活と認知症」 「親の終活と成年後見制度」

Q6. 実家は、リフォームと建て替えのどちらがいい?

どちらがよいかは、家の状態、費用、親がこれから何年ほど住みたいと考えているかによって変わります。

家の傷みが一部に限られ、必要な工事で安全性や暮らしやすさを改善できるなら、リフォームが選択肢になります。一方、建物の状態によっては、耐震改修などの大規模な工事だけでなく、建て替えも含めて比べたほうがよい場合があります。

ここで大切なのは、工事費用だけで決めないことです。親が今の家に愛着を持ち、できるだけ長く住み続けたいと考えているなら、その希望を大切にしたいところです。広い家の管理が負担になっていたり、階段の上り下りがつらくなっていたりするなら、建て替えや住み替えも含めて考える価値があります。建物の状態を専門家に確認してもらい、複数の選択肢を比べながら、親の希望に合う方法を探しましょう。

→ 詳しくは、第8章「リフォームだけが答えではない」で解説しています。

Q7. 親が施設に入ったら、リフォームは無駄になる?将来、空き家になったら?

親が将来、施設に入る、別の家に移る、といった可能性がある場合は、大規模なリフォームの意味が変わってきます。数百万円をかけて工事をしても、数年後に誰も住まなくなるなら、費用に見合うかどうかを考える必要があります。

空き家になった家は、固定資産税や修繕、庭の手入れなど、維持の負担がかかります。売却するのか、賃貸にするのか、しばらく持ち続けるのかで、その後の管理や手続きも変わります。国土交通省の住生活基本計画(全国計画)も、住宅の所有者が自発的に、維持管理、リフォーム、売却・除却も含めた「住まいの終活」と適切な相続を行うことを、目指す姿の一つに挙げています。

売却や賃貸などの判断は、所有者である親の意思が前提になります。判断能力が低下すると難しくなることもあるので、親が元気なうちに、希望を聞いておく意味があります。

→ 「実家をどうする?50代から始める親の終活|実家じまいだけじゃない家族の話し合い」

Q8. 実家の名義が、亡くなった祖父母のままだったら?

名義が、亡くなった方のままの場合は、相続登記の期限に注意が必要です。法務省によると、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務になり、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に申請する必要があります。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。令和6年4月1日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は令和9年3月31日までです。

まずは、法務局で登記事項証明書を取り、名義を確認しましょう。手続きは複雑になることもあるので、必要に応じて司法書士に相談してください。

参考:法務省「相続登記の申請義務化について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/souzokutouki-gimuka/index.html

Q9. 親が訪問業者とリフォーム契約をしてしまったら?

契約してしまった場合でも、クーリング・オフなどを使える可能性があります。まずは契約書類を確認し、早めに消費生活センターなどに相談しましょう。

消費者庁は、いきなり「無料診断やってます」と訪問してきて、「異常がある」と不安をあおり、その場で契約を勧めてくる業者に注意するよう呼びかけています。訪問販売などで契約してしまった場合は、契約書面を受け取った日から原則8日間以内に、書面または電子メールなどで通告すれば、クーリング・オフができます。ただし、契約の種類や状況によって扱いが異なるため、対象になるかは確認が必要です。通知は、日付がわかる方法(特定記録郵便や簡易書留など)で送り、控えを保管します。

すでに契約していても、慌てて追加の支払いをしたり、業者の説明だけで判断したりせず、契約書や見積書、業者とのやり取りを手元にそろえて相談してください。最近は、省エネのリフォームを勧める訪問にも注意が呼びかけられています。相談先は、消費者ホットライン「188(いやや!)」(最寄りの消費生活センターなどにつながります)や、住まいるダイヤルです。

参考:消費者庁「悪質なリフォーム事業者にご注意ください!!」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_031

Q10. 親が「まだ大丈夫」と言って、リフォームを嫌がるときは?

すぐに勧めるのではなく、今の暮らしで困っていることがないかを、聞いてみましょう。子どもから見て、古い玄関や寒い廊下が気になっても、親にとっては長年暮らしてきた家です。慣れているからこそ、不便を不便だと感じていないこともあります。

「リフォームしたほうがいいよ」と伝える前に、「最近、家で不便なところない?」と聞いてみる。親が今すぐ望まないなら、その気持ちを受け止めながら、家の状態や安全面を確認できることから始めます。ただし、耐震診断で指摘があるなど、安全に関わることは、暮らしの希望とは分けて考えたいところです。

→ 聞き方は、第2章「親に『これからどう暮らしたい?』と聞いてみる」で解説しています。

関連記事:「親の終活の切り出し方|50代が親を傷つけずに話すコツ」

まとめ|今日、親と一緒に実家を歩いてみよう

実家のリフォームは、どこを直すかを決めることから始まるわけではありません。私が実家のこれからを考える中で、いちばん大切だと感じたのは、親がこの家でどんなふうに暮らしていきたいのかを聞くことでした。

この記事でお伝えしてきたことを、3つにまとめます。

  • まず、親の希望を聞く。工事の話をする前に、「この家で、これからも暮らしたい?」と聞いてみる
  • 全部を一度に直さなくていい。今困っていることから考える。ただし、耐震診断で指摘があるなど、安全に関わることは、別に確認する
  • リフォームだけが答えではない。お金、名義、きょうだいとの話し合いも整理しながら、建て替えや住み替えも含めて、親の希望に合う形を探す

今日の小さな一歩

さらに、やることは3つだけです。

① 親に聞く
「この家で、これからも暮らしたい?」
「どんなふうに暮らせたらいい?」
すぐに答えが出なくても大丈夫です。「まだ大丈夫」と言われたら、そのまま受け止めて、次の機会につなぎます。

② 一緒に歩く
「ここ、使っていてどう?」
玄関、廊下、階段、お風呂、トイレ。いつものように家の中を歩きながら、親が不便に感じているところを探します。親と一緒に歩いて確認する際のチェックリストです。
→ 〔実家版チェックリスト(PDF)をダウンロードできます〕

③ 一つだけメモする
「今、いちばん困っていることは何?」
たくさん見つけなくてもいいのです。まず一つあれば、実家のリフォームを考える最初の材料になります。

遠くに住んでいて、すぐに実家へ帰れない人もいるでしょう。その場合は、次の帰省で一緒に歩いてみる。あるいは、まず電話で、「家のことで、気になっていることはある?」と聞いてみる。

私自身も、まだ聞けていません

前の記事の最後に、「親にリフォームの話をしたら、『まだそんな年じゃない』と言われそう」と書きました。実際、聞くのは簡単ではありません。私自身も、この問いを、まだ親に聞けていません。

実家のことを考え始めたきっかけは、一つではありません。耐震診断で、耐震性に問題があると言われたこと。帰省して、廊下の冷たさに驚いたこと。けれど、考えるうちに気づきました。家をどうするかを決める前に、親がどう暮らしたいのかを知ることが大切なのだ、と。

「私は、10年後もこの家で暮らしたいだろうか。」

前の記事で、自分の家を見ながら、そう問いかけました。今度は、親の家を見ながら、考えてみます。

「親は、この家で、これからも暮らしたいだろうか。」

親のことを考えることは、自分のこれからを考えることでもあります。50代から、自分と家族のこれからを考える。それが、このブログで大切にしたいことです。

その答えを聞くことから、親の終活は始まるのかもしれません。

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