長崎と広島への原爆投下から80年が経とうとしている今、アメリカでその出来事に対する考え方が大きく変わってきていることをご存じでしょうか。先日発表された世論調査の結果や、それにまつわる被爆者の方々の活動、そしてインターネット上のさまざまな意見をまとめてみました。
アメリカの原爆に対する意識、大きく変化か
アメリカの調査機関が18歳以上のアメリカ市民約5000人を対象に行った最新の世論調査では、広島と長崎への原爆投下について、「正当化できる」と答えた人が35%だったと発表されています。一方で、「正当化できない」と答えた人は31%、残りの33%は「分からない」と回答しました。
この結果は、10年前の2015年の調査と比較すると、その変化が顕著に現れています。当時の調査では「正当化できる」と答えた人が56%、「正当化できない」が34%でした。今回の調査には「分からない」という選択肢が加わっているため単純な比較はできませんが、原爆投下を「正当化できる」と考える人の割合が大きく減っていることがわかります。
特に注目すべきは、世代による考え方の違いです。年齢が上がるほど「正当化できる」と考える人が多く、例えば65歳以上では48%に上っています。しかし、若い世代になるほどその割合は低くなり、18歳から29歳ではわずか27%しか「正当化できる」と考えていません。この若い世代では、逆に「正当化できない」と答えた人が44%と最も多く、原爆に対する否定的な見方が強く表れています。また、男性は「正当化できる」が51%と半数を超える一方、女性は20%にとどまるなど、性別による差も見られます。政治的な支持政党によっても意見に違いがあり、共和党支持者や共和党寄りの人では51%が「正当化できる」と答えているのに対し、民主党支持者や民主党寄りの人では23%でした。
アメリカではこれまで、「原爆投下によって第二次世界大戦が早く終わり、多くのアメリカ人や日本人の命が救われた」という考え方が根強くありました。しかし、昨年の日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)のノーベル平和賞受賞 や、映画『オッペンハイマー』の公開 など、原爆の被害や核兵器の危険性について知られる機会が増えたことも、こうした世論の変化に影響していると考えられています。
被爆者のメッセージがアメリカで初の公式展示へ
このような意識の変化が見られる中で、長崎原爆に遭った山口仙二さんの写真が、8月6日からアメリカの大学で初めて公式展示されることになりました。山口仙二さん(2013年に82歳で死去)は、14歳の時に爆心地から約1.1キロの兵器工場で被爆し、顔や上半身に大やけどを負いました。
彼はノーベル平和賞を受賞した日本被団協の結成に関わり、代表委員を務めていた1982年に、ニューヨークで開催された国連軍縮特別総会で、被爆者として初めて演説に立ちました。その演説で彼が掲げたのが、アマチュアカメラマンの村里栄さん(91)が撮影した自身の首筋に広がるケロイドの写真でした。この写真と共に発せられた「ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ、ノーモア・ウォー、ノーモア・ヒバクシャ(これ以上のヒロシマはごめん、これ以上のナガサキはごめん、これ以上の戦争はごめん、これ以上の被爆者はごめん)」という訴えは、被爆者から世界への普遍的なメッセージとして広く知られています。山口さんは写真を示し、「私の顔や手をよく見てください。核兵器による死と苦しみを、たとえ一人たりとも許してはならない」と世界に呼びかけました。
写真は、演説の12年前、1970年に村里さんが撮影したものです。村里さん自身も原爆投下後に長崎市内に入った「入市被爆者」であり、「写真で被爆者の実相を知らしめたい」という思いから、仲間と共に被爆者の撮影を行っていました。山口さんが国連で写真を使用したことを後に知った村里さんは、「全世界の人がこれを見てくれたんだという驚きと、言い知れぬ感動があった」と振り返っています。
この写真がアメリカのウィルミントン大学平和資料センターで展示されることになったのは、撮影から55年が経った今年の問い合わせがきっかけでした。村里さんの知人で、海外で被爆の実相を伝える活動に力を入れていた広瀬方人さん(2016年に85歳で死去)を通じて、米国の平和活動家に渡り、センターで保管されていたとみられています。
写真の撮影者である村里さんは、アメリカでの公式展示を快く承諾しました。彼が今回の展示に意義を感じているのは、今年6月にトランプ大統領がイランの核施設への攻撃を広島・長崎への原爆投下になぞらえて正当化したように、「原爆投下が戦争を終わらせ、米国の兵士を救った」という考え方が80年たってもアメリカで変わっていないと感じているからです。村里さんは、「一人でも二人でも『原爆はだめだ』と思ったり、原爆について考えたりしてほしい」と願っているのです。ちなみに、過去(7月)には長崎市役所19階展望室ギャラリーでも展示されました。
ネット上の「生の声」はどう見ている?
今回の調査結果と被爆者の活動に対して、インターネット上ではさまざまな意見が飛び交っています。
まず、アメリカの若者世代が原爆投下に否定的な傾向にあることについて、「ようやくはだしのゲン読み出したか」「若者のほうがまとも」といったコメントがあり、彼らの意識の変化を歓迎する声が多数見られました。また、「『火垂るの墓』をもっとアメリカ人に見せるべき」という提案も寄せられていました。
原爆投下の是非については、多くの意見が交わされています。「数十万人殺したんだから否定なんかしたら罪の意識で生きていられないだろ」と、投下した側の罪悪感を指摘する声がある一方で、「無差別大量破壊兵器を正当化してどうするのよ」と、正当化は許されないという強い意見も出ています。また、「ビビらせるのが目的だとしても、市街地に落とす必要はない」「人が大勢住む都市にいきなり落としたのがアメリカの失敗」といった、都市への投下そのものへの疑問も投げかけられていました。
一方で、原爆投下を巡る当時の状況に言及する声もあります。「原爆が無かったらどんな終わり方してたんだろ」「もしかしたら日本が無くなってたかも知れんな」「原爆投下してなかったら阿鼻叫喚の本土決戦だったけどな」といった意見は、原爆が戦争終結を早めたというアメリカ側の従来の主張を意識しているようにも見えます。しかし、これに対しては「実際に日本は降伏を認めており、宣言前にトルーマンは2種の原爆実験を敢行したという事実をアメリカ人が知れば、もっと否定的な人は増えるはず」と、歴史認識の深まりが重要だとする指摘もありました。
興味深いのは、日本人の核兵器に対する意識の変化を指摘する声です。「原爆を投下したアメリカ人は投下に否定的になりつつあり、唯一投下された日本人は核の所有を容認する声も上がりつつある」として、「80年という時の流れは、同じ過ちを再び起こさせるのに十分なのかもしれない」と警鐘を鳴らすコメントもありました。
さらに、国際情勢と結びつけて核兵器の議論をする意見も散見されます。「ロシアが戦争終わらせるためならウクライナに原爆落とすしかないって言ってるのと一緒」と、現代の紛争と重ね合わせる声や、「国連には戦争を止める力はない。悲しいが力のない正義はない」と、国際社会の現状への厳しい見方も述べられていました。
まとめと感想
今回の報道とネット上の声からは、原爆投下から80年という節目を迎え、アメリカ国内でも世代間で異なる認識が生まれつつある様子がうかがえました。特に若い世代で「正当化できない」という声が多数を占めるのは、被爆者の方々が長年伝え続けてきた「ノーモア」のメッセージが、確実に若い世代へと届いている証拠だと感じています。
山口仙二さんのケロイドの写真は、言葉以上に原爆の悲惨さを雄弁に物語ります。それがアメリカで初めて公式展示されることは、アメリカの人々が過去と向き合い、未来の平和を考える大きなきっかけとなることでしょう。村里栄さんの「一人でも二人でも『原爆はだめだ』と思ったり、原爆について考えたりしてほしい」という願いは、まさに今回の世論調査の結果と重なり、希望を感じさせてくれますね。
一方で、ネット上でのさまざまな意見は、原爆という出来事がいかに複雑で、多角的な視点から議論されるべきかを改めて教えてくれました。戦争終結、民間人の犠牲、そして核兵器の未来。これらをどう捉え、どう次世代に語り継いでいくのか、私たち一人ひとりが考え続ける必要があるでしょう。
今回は、原爆投下に関する報道と、それに関するネット上の声をまとめました。皆さんはどのように感じましたか。よかったらコメントをお願いします。